江戸川乱歩 赤い部屋⑨
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問題文
(このほうほうをはっけんしてまもなくのことでしたが、こんなこともありました。)
この方法を発見して間もなくのことでしたが、こんなこともありました。
(わたしのきんじょにひとりのあんまがいまして、それがふぐなどによくある)
私の近所に一人の按摩がいまして、それが不具などによくある
(ひどいごうじょうものでした。たにんがしんせつからいろいろちゅういなどしてやりますと、)
ひどい強情者でした。他人が親切から色々注意などしてやりますと、
(かえってそれをぎゃくにとって、めがみえないとおもってひとをばかにするな)
かえってそれを逆にとって、目が見えないと思って人を馬鹿にするな
(それくらいのことはちゃんとおれにだってわかっているわいというちょうしで、)
それ位のことはちゃんと俺にだって分っているわいという調子で、
(かならずあいてのことばにさからったことをやるのです。)
必ず相手の言葉にさからったことをやるのです。
(どうしてなみなみのごうじょうさではないのです。)
どうして並み並みの強情さではないのです。
(あるひのことでした。わたしがあるおおどおりをあるいていますと、)
ある日のことでした。私がある大通りを歩いていますと、
(むこうからそのごうじょうもののあんまがやってくるのにであいました。)
向こうからその強情者の按摩がやって来るのに出逢いました。
(かれはなまいきにも、つえをかたにかついではなうたをうたいながら)
彼は生意気にも、杖を肩に担いで鼻唄を歌いながら
(ひょっこりひょっこりとあるいています。ちょうどそのまちにはきのうから)
ヒョッコリヒョッコリと歩いています。丁度その町には昨日から
(げすいのこうじがはじまっていて、おうらいのかたがわにはふかいあながほってありましたが、)
下水の工事が始まっていて、往来の片側には深い穴が掘ってありましたが、
(かれはもうじんのことでかたがわおうらいどめのたてふだなどみえませんから、)
彼は盲人のことで片側往来止めの立札など見えませんから、
(なんのきもつかず、そのあなのすぐそばをのんきそうにあるいているのです。)
何の気もつかず、その穴のすぐ側を呑気そうに歩いているのです。
(それをみますと、わたしはふとひとつのみょうあんをおもいつきました。)
それを見ますと、私はふと一つの妙案を思いつきました。
(そこで、「やあnくん」とあんまのなをよびかけ、)
そこで、「やあN君」と按摩の名を呼びかけ、
((よくちりょうをたのんでおたがいにしりあっていたのです))
(よく治療を頼んでお互いに知り合っていたのです)
(「そらあぶないぞ、ひだりへよった、ひだりへよった」とどなりました。)
「ソラ危ないぞ、左へ寄った、左へ寄った」と怒鳴りました。
(それをわざとすこしじょうだんらしいちょうしでやったのです。というのは、)
それをわざと少し冗談らしい調子でやったのです。というのは、
(こういえば、かれはひごろのせいしつから、きっとからかわれたのだとじゃすいして、)
こういえば、彼は日頃の性質から、きっとからかわれたのだと邪推して、
(ひだりへはよらないでわざとみぎへよるにそういないとかんがえたからです。)
左へは寄らないでわざと右へ寄るに相違ないと考えたからです。
(あんのじょうかれは、「えへへへ・・・。ごじょうだんばっかり」などと)
案の定彼は、「エヘヘヘ・・・。御冗談ばっかり」などと
(こわいろめいたくちへんとうをしながら、やにわにはんたいのみぎのほうへ)
声色めいた口返答をしながら、矢庭に反対の右の方へ
(にそくさんそくよったものですから、たちまちげすいこうじのあなのなかへ)
二足三足寄ったものですから、たちまち下水工事の穴の中へ
(かたあしをふみこんで、あっというまにいちじょうもあるそのそこへと)
片足を踏み込んで、アッという間に一丈もあるその底へと
(おちこんでしまいました。わたしはさもおどろいたふうをよそおうてあなのふちへかけより、)
落ち込んでしまいました。私はさも驚いた風を装うて穴の縁へ駈け寄り、
(「うまくいったかしら」とのぞいてみましたが)
「うまく行ったかしら」と覗いて見ましたが
(かれはうちどころでもわるかったのか、あなのそこにぐったりとよこたわって、)
彼は打ち所でも悪かったのか、穴の底にぐったりと横たわって、
(あなのまわりにつきでているするどいいしでついたのでしょう。)
穴のまわりに突き出ている鋭い石でついたのでしょう。
(いちぶがりのあたまに、あかぐろいちがたらたらとながれているのです。)
一分刈りの頭に、赤黒い血がタラタラと流れているのです。
(それから、したでもかみきったとみえて、くちやはなからも)
それから、舌でも噛み切ったと見えて、口や鼻からも
(おなじようにしゅっけつしています。かおいろはもうそうはくで、)
同じ様に出血しています。顔色はもう蒼白で、
(うなりごえをだすげんきさえありません。)
唸り声を出す元気さえありません。