魯迅 狂人日記②

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1 りく 5829 A+ 6.0 95.9% 449.6 2737 116 50 2024/11/01

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問題文

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(さん ひとばんじゅうねむれない。なにごともけんきゅうしてみるとだんだんわかってくる。)

三 一晩中睡れない。何事も研究してみるとだんだん解って来る。

(かれらはちけんにむちうたれたことがある。しんしからはりてをくらったことがある。)

彼等は○○知県に鞭打たれたことがある。紳士から張手を食らったことがある。

(こやくにんからかかあをとられたことがある。)

小役人から嬶を取られたことがある。

(またかれらのおやたちがかねかしからとっちめられてむりじにをされたことがある。)

また彼等の親達が金貸しからとっちめられて無理死にをされたことがある。

(そのときのかおいろでもきのうのようなすごいことはない。)

その時の顔色でもきのうのような凄いことはない。

(もっともきかいにかんじるのは、きのうおうらいであったあのおんなだ。)

最も奇怪に感じるのは、きのう往来で逢ったあの女だ。

(かのじょはこどもをたたいてじっとわたしをみつめている。)

彼女は子供をたたいてじっとわたしを見詰めている。

(「おじさん、わたしゃおまえにふたつみっつかみついてやらなければきがすまない」)

「叔父さん、わたしゃおまえに二つ三つ咬みついてやらなければ気が済まない」

(これにはわたしもまったくおどかされてしまったが、あのきばむきだしのあおっつら)

これにはわたしも全くおどかされてしまったが、あの牙むき出しの青ッ面

(がなんだかしらんがみなわらいだした。するとちんろうごがつかつかすすんできて、)

が何だかしらんが皆笑い出した。すると陳老五がつかつか進んで来て、

(わたしをふんずかまえていえへつれていった。)

わたしをふんずかまえて家へ連れて行った。

(いえのものはわたしをみてもしらんぷりしてしょさいにはいるとかぎをかけ、)

家の者はわたしを見ても知らん振りして書斎に入ると鍵をかけ、

(まるでとりかものようにあつかわれているが、)

まるで鶏鴨のように扱われているが、

(このことはどうしてもわたしのふにおちない。)

このことはどうしてもわたしの腑に落ちない。

(しごにちまえにおおかみむらのこさくにんがふきょうをつげにきた。)

四五日前に狼村の小作人が不況を告げに来た。

(かれはわたしのおおあにきとはなしをしていた。)

彼はわたしの大兄貴と話をしていた。

(むらにひとりだいあくにんがあってよってたかってうちころしてしまったが、)

村に一人大悪人があって寄ってたかって打殺してしまったが、

(なかにはかれのしんぞうをえぐりだし、あぶらいりにしてたべたものがある。)

中には彼の心臓をえぐり出し、油煎りにして食べた者がある。

(そうするときもがふとくなるというはなしだ。)

そうすると肝が太くなるという話だ。

(わたしはひとことさしでぐちをすると、こさくにんとおおあにきはじろりとわたしをみた。)

わたしは一言差出口をすると、小作人と大兄貴はじろりとわたしを見た。

など

(そのめつきがきのうあったひとたちのめつきにすんぶんちがいのないことをいましった。)

その目付きがきのう逢った人達の目付に寸分違いのないことを今知った。

(おもいだしてもぞっとする。かれらはにんげんをくいなれているのだから)

想い出してもぞっとする。彼等は人間を食い馴れているのだから

(わたしをくわないともかぎらない。)

わたしを食わないとも限らない。

(みたまえ。・・・あのおんながおまえにかみついてやるといったのも、)

見たまえ。・・・・あの女がお前に咬みついてやると言ったのも、

(おおぜいのきばむきだしのあおつらのわらいも、せんじつのこさくにんのはなしも、どれもこれもみなあんごうだ。)

大勢の牙むき出しの青面の笑も、先日の小作人の話も、どれもこれも皆暗号だ。

(わたしはかれらのはなしのなかから、そっくりそのままのかたなをみいだす、)

わたしは彼等の話の中から、そっくりそのままの刀を見出す、

(かれらのきばはなまじろくひかって、これこそほんとうにひとくいのどうぐだ。)

彼等の牙は生白く光って、これこそ本当に人食いの道具だ。

(どうかんがえてもおれはあくにんではないが、こきゅうせんせいのふるちょうめんにけつまずいてから)

どう考えても乃公は悪人ではないが、古久先生の古帳面に蹴躓いてから

(とてもむつかしくなってきた。)

とても六ツかしくなって来た。

(かれらはなにかいけんをもっているようだが、わたしはまったくすいそくができない。)

彼等は何か意見を持っているようだが、わたしは全く推測が出来ない。

(ましてかれらがかおをそむけておれをあくにんといいふらすんだから)

まして彼等が顔をそむけて乃公を悪人と言い布らすんだから

(さっぱりわからない。)

サッパリわからない。

(それでおもいだしたが、おおあにきがおれにろんぶんをかかせてみたことがある。)

それで想い出したが、大兄貴が乃公に論文を書かせてみたことがある。

(じんぶつひょうろんでいかなるこうじんぶつでもちょっとくさしたくがあると、)

人物評論でいかなる好人物でもちょっとくさした句があると、

(かれはすぐにけんてんをつける。)

彼はすぐに圏点をつける。

(ひとのあっこうをかくのがいいとおもっているので、そういうくがあると)

人の悪口を書くのがいいと思っているので、そういう句があると

(「ほんてんみょうしゅ、しゅうとおなじからず」とほめたてる。)

「翻天妙手、衆と同じからず」と誉め立てる。

(だからおれにはかれらのこころがわかるはずがない。)

だから乃公には彼等の心が解るはずがない。

(ましてかれらがひとをくおうとおもうときなんかは。)

まして彼等が人を食おうと思う時なんかは。

(なににかぎらずけんきゅうすればだんだんわかってくるもので、)

何に限らず研究すればだんだんわかって来るもので、

(むかしからひとはひとをしょっちゅうたべている。)

昔から人は人をしょっちゅう食べている。

(わたしもそれをしらないのじゃないがはっきりおぼえていないので)

わたしもそれを知らないのじゃないがハッキリ覚えていないので

(れきしをあけてみると、そのれきしにはねんだいがなくまがりゆがんで、)

歴史を開けてみると、その歴史には年代がなく曲がり歪んで、

(どのかみのうえにも「じんどうぎとく」というようなもじがかいてあった。)

どの紙の上にも「仁道義徳」というような文字が書いてあった。

(ずっとねむらずによなかまでみつめていると、)

ずっと睡らずに夜中まで見詰めていると、

(もじのあいだからようやくもじがみえだしてきた。)

文字の間からようやく文字が見えだして来た。

(ほんいっぱいにかきつめてあるのが「しょくじん」のにじ。)

本一ぱいに書き詰めてあるのが「食人」の二字。

(このたくさんのもじはこさくにんがかたったよもやまのはなしだ。)

このたくさんの文字は小作人が語った四方山の話だ。

(それがみなげらげらわらいだし、きみのわるいめつきでわたしをみる。)

それが皆ゲラゲラ笑い出し、気味の悪い目付でわたしを見る。

(わたしもやっぱりにんげんだ。かれらはわたしをくいたいとおもっている。)

わたしもやっぱり人間だ。彼等はわたしを食いたいと思っている。

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