坊ちゃん⑴

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プレイ回数3687難易度(4.2) 2168打 長文 かな
夏目漱石の「坊ちゃん」1です。

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問題文

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(おやゆずりのむてっぽうでこどものときからそんばかりしている。)

親譲の無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。

(しょうがっこうにいるじぶんがっこうのにかいからとびおりて)

小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて

(いっしゅうかんほどこしをぬかしたことがある。)

一週間ほど腰を抜かした事がある。

(なぜそんなむやみをしたときくひとがあるかもしれぬ。)

なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。

(べつだんふかいりゆうでもない。)

別段深い理由でもない。

(しんちくのにかいからくびをだしていたら、どうきゅうせいのひとりがじょうだんに、)

新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、

(いくらいばっても、そこからとびおりることはできまい。)

いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。

(よわむしやーい。とはやしたからである。)

弱虫やーい。と囃したからである。

(こづかいにおぶさってかえってきたとき、おやじがおおきなめをして)

小使に負ぶさって帰って来た時、おやじが大きな眼をして

(にかいぐらいからとびおりてこしをぬかすやつがあるかといったから、)

二階ぐらいから飛び降りて腰を抜かす奴やつがあるかと云ったから、

(このつぎはぬかさずにとんでみせますとこたえた。)

この次は抜かさずに飛んで見せますと答えた。

(しんるいのものからせいようせいのないふをもらってきれいなはをひにかざして、)

親類のものから西洋製のナイフを貰って奇麗な刃を日に翳して、

(ともだちにみせていたら、ひとりがひかることはひかるがきれそうもないといった。)

友達に見せていたら、一人が光る事は光るが切れそうもないと云った。

(きれぬことがあるか、なんでもきってみせるとうけあった。)

切れぬ事があるか、何でも切ってみせると受け合った。

(そんならきみのゆびをきってみろとちゅうもんしたから、)

そんなら君の指を切ってみろと注文したから、

(なんだゆびぐらいこのとおりだとみぎのてのおやゆびのこうをはすにきりこんだ。)

何だ指ぐらいこの通りだと右の手の親指の甲をはすに切り込んだ。

(さいわいないふがちいさいのと、おやゆびのほねがかたかったので、)

幸いナイフが小さいのと、親指の骨が堅かったので、

(いまだにおやゆびはてについている。)

今だに親指は手に付いている。

(しかしきずあとはしぬまできえぬ。)

しかし創痕は死ぬまで消えぬ。

(にわをひがしへにじゅっぽにいきつくすと、みなみあがりにいささかばかりのさいえんがあって、)

庭を東へ二十歩に行き尽つくすと、南上がりにいささかばかりの菜園があって、

など

(まんなかにくりのきがいっぽんたっている。これはいのちよりだいじなくりだ。)

真中に栗の木が一本立っている。これは命より大事な栗だ。

(みのじゅくするじぶんはおきぬけにせどをでておちたやつをひろってきて、がっこうでくう。)

実の熟する時分は起き抜けに背戸を出て落ちた奴を拾ってきて、学校で食う。

(さいえんのにしがわがやましろやというしちやのにわつづきで、)

菜園の西側が山城屋という質屋の庭続きで、

(このしちやにかんたろうというじゅうさんしのせがれがいた。)

この質屋に勘太郎という十三四の倅が居た。

(かんたろうはむろんよわむしである。)

勘太郎は無論弱虫である。

(よわむしのくせによつめがきをのりこえて、くりをぬすみにくる。)

弱虫の癖に四つ目垣を乗りこえて、栗を盗みにくる。

(あるひのゆうがたおりどのかげにかくれて、とうとうかんたろうをつかまえてやった。)

ある日の夕方折戸の蔭に隠れて、とうとう勘太郎を捕まえてやった。

(そのときかんたろうはにげみちをうしなって、いっしょうけんめいにとびかかってきた。)

その時勘太郎は逃路を失って、一生懸命に飛びかかってきた。

(むこうはふたつばかりとしうえである。よわむしだがちからはつよい。)

向うは二つばかり年上である。弱虫だが力は強い。

(はちのひらいたあたまを、こっちのむねへあててぐいぐいおしたひょうしに、)

鉢の開いた頭を、こっちの胸へ宛ててぐいぐい押した拍子に、

(かんたろうのあたまがすべって、おれのあわせのそでのなかにはいった。)

勘太郎の頭がすべって、おれの袷の袖の中にはいった。

(じゃまになっててがつかえぬから、むやみにてをふったら、)

邪魔になって手が使えぬから、無暗に手を振ったら、

(そでのなかにあるかんたろうのあたまが、みぎひだりへぐらぐらなびいた。)

袖の中にある勘太郎の頭が、右左へぐらぐら靡いた。

(しまいにくるしがってそでのなかから、おれのにのうでへくいついた。)

しまいに苦しがって袖の中から、おれの二の腕へ食い付いた。

(いたかったからかんたろうをかきねへおしつけておいて、)

痛かったから勘太郎を垣根へ押しつけておいて、

(あしがらをかけてむこうへたおしてやった。)

足搦をかけて向うへ倒してやった。

(やましろやのじめんはさいえんよりろくしゃくがたひくい。)

山城屋の地面は菜園より六尺がた低い。

(かんたろうはよつめがきをはんぶんくずして、)

勘太郎は四つ目垣を半分崩して、

(じぶんのりょうぶんへまっさかさまにおちて、ぐうといった。)

自分の領分へ真逆様に落ちて、ぐうと云った。

(かんたろうがおちるときに、おれのあわせのかたそでがもげて、きゅうにてがじゆうになった。)

勘太郎が落ちるときに、おれの袷の片袖がもげて、急に手が自由になった。

(そのばんははがやましろやにわびにいったついでにあわせのかたそでもとりかえしてきた。)

その晩母が山城屋に詫びに行ったついでに袷の片袖も取り返して来た。

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