坊ちゃん⑶

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夏目漱石の坊ちゃん⑶です。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 3723 D+ 3.8 95.9% 678.4 2638 112 50 2024/11/16

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問題文

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(そのときはもうしかたがないとかんねんしてせんぽうのいうとおりかんどうされるつもりでいたら、)

その時はもう仕方がないと観念して先方の云う通り勘当されるつもりでいたら、

(じゅうねんらいめしつかっているきよというげじょが、)

十年来召し使っている清という下女が、

(なきながらおやじにあやまって、ようやくおやじのいかりがとけた。)

泣きながらおやじに詫まって、ようやくおやじの怒りが解けた。

(それにもかかわらずあまりおやじをこわいとはおもわなかった。)

それにもかかわらずあまりおやじを怖いとは思わなかった。

(かえってこのきよというげじょにきのどくであった。)

かえってこの清と云う下女に気の毒であった。

(このげじょはもとゆいしょのあるものだったそうだが、がかいのときにれいらくして、)

この下女はもと由緒のあるものだったそうだが、瓦解のときに零落して、

(ついほうこうまでするようになったのだときいている。だからばあさんである。)

つい奉公までするようになったのだと聞いている。だから婆さんである。

(このばあさんがどういういんえんか、おれをひじょうにかわいがってくれた。)

この婆さんがどういう因縁か、おれを非常に可愛がってくれた。

(ふしぎなものである。ははもしぬみっかまえにあいそをつかした)

不思議なものである。母も死ぬ三日前に愛想をつかした

(ーーおやじもねんじゅうもてあましているーーちょうないではらんぼうもののあくたろうとつまはじきをするー)

――おやじも年中持て余している――町内では乱暴者の悪太郎と爪弾きをするー

(このおれをむやみにちんちょうしてくれた。)

このおれを無暗に珍重してくれた。

(おれはとうていひとにすかれるしょうでないとあきらめていたから、)

おれは到底人に好かれる性でないとあきらめていたから、

(たにんからきのはしのようにとりあつかわれるのはなにともおもわない、)

他人から木の端のように取り扱われるのは何とも思わない、

(かえってこのきよのようにちやほやしてくれるのをふしんにかんがえた。)

かえってこの清のようにちやほやしてくれるのを不審に考えた。

(きよはときどきだいどころでひとのいないときに)

清は時々台所で人の居ない時に

(「あなたはまっすぐでよいごきしょうだ」とほめることがときどきあった。)

「あなたは真っ直ぐでよいご気性だ」と賞める事が時々あった。

(しかしおれにはきよのいういみがわからなかった。)

しかしおれには清の云う意味が分からなかった。

(いいきしょうならきよいがいのものも、もうすこしよくしてくれるだろうとおもった。)

好い気性なら清以外のものも、もう少し善くしてくれるだろうと思った。

(きよがこんなことをいうたびにおれはおせじはきらいだとこたえるのがつねであった。)

清がこんな事を云う度におれはお世辞は嫌いだと答えるのが常であった。

(するとばあさんはそれだからよいごきしょうですといっては、)

すると婆さんはそれだから好いご気性ですと云っては、

など

(うれしそうにおれのかおをながめている。)

嬉しそうにおれの顔を眺めている。

(じぶんのちからでおれをせいぞうしてほこってるようにみえる。しょうしょうきみがわるかった。)

自分の力でおれを製造して誇ってるように見える。少々気味がわるかった。

(ははがしんでからきよはいよいよおれをかわいがった。)

母が死んでから清はいよいよおれを可愛がった。

(ときどきはこどもこころになぜあんなにかわいがるのかとふしんにおもった。)

時々は小供心になぜあんなに可愛がるのかと不審に思った。

(つまらない、よせばいいのにとおもった。きのどくだとおもった。)

つまらない、廃せばいいのにと思った。気の毒だと思った。

(それでもきよはかわいがる。おりおりはじぶんのこづかいできんつばやこうばいやきをかってくれる。)

それでも清は可愛がる。折々は自分の小遣いで金鍔や紅梅焼を買ってくれる。

(さむいよるなどはひそかにそばこをしいれておいて、)

寒い夜などはひそかに蕎麦粉を仕入れておいて、

(いつのまにかねているまくらもとへそばゆをもってきてくれる。)

いつの間にか寝ている枕元へ蕎麦湯を持って来てくれる。

(ときにはなべやきうどんさえかってくれた。ただくいものばかりではない。)

時には鍋焼饂飩さえ買ってくれた。ただ食い物ばかりではない。

(くつたびももらった。えんぴつももらった、ちょうめんももらった。)

靴足袋ももらった。鉛筆も貰った、帳面も貰った。

(これはずっとあとのことであるがかねをさんえんばかりかしてくれたことさえある。)

これはずっと後の事であるが金を三円ばかり貸してくれた事さえある。

(なにもかせといったわけではない。)

何も貸せと云った訳ではない。

(むこうでへやへもってきておこづかいがなくておこまりでしょう、)

向うで部屋へ持って来てお小遣いがなくてお困りでしょう、

(おつかいなさいといってくれたんだ。)

お使いなさいと云ってくれたんだ。

(おれはむろんいらないといったが、ぜひつかえというから、かりておいた。)

おれは無論入らないと云ったが、是非使えと云うから、借りておいた。

(じつはたいへんうれしかった。)

実は大変嬉しかった。

(そのさんえんをがまぐちへいれて、ふところへいれたなりべんじょへいったら、)

その三円を蝦蟇口へ入れて、懐へ入れたなり便所へ行ったら、

(すぽりとこうかのなかへおとしてしまった。)

すぽりと後架の中へ落してしまった。

(しかたがないから、のそのそでてきてじつはこれこれだときよにはなしたところが、)

仕方がないから、のそのそ出てきて実はこれこれだと清に話したところが、

(きよはさっそくたけのぼうをさがしてきて、とってあげますといった。)

清は早速竹の棒を捜して来て、取って上げますと云った。

(しばらくするといどばたでざあざあおとがするから、)

しばらくすると井戸端でざあざあ音がするから、

(でてみたらたけのさきへがまぐちのひもをひきかけたのをみずであらっていた。)

出てみたら竹の先へ蝦蟇口の紐を引き懸けたのを水で洗っていた。

(それからくちをあけていちえんさつをあらためたらちゃいろになってもようがきえかかっていた。)

それから口をあけて壱円札を改めたら茶色になって模様が消えかかっていた。

(きよはひばちでかわかして、これでいいでしょうとだした。)

清は火鉢で乾かして、これでいいでしょうと出した。

(ちょっとかいでみてくさいやといったら、)

ちょっとかいでみて臭いやと云ったら、

(それじゃおだしなさい、とりかえかえてきてあげますからと、)

それじゃお出しなさい、取り換かえて来て上げますからと、

(どこでどうごまかしたかさつのかわりにぎんかをさんえんもってきた。)

どこでどう胡魔化したか札の代りに銀貨を三円持って来た。

(このさんえんはなににつかったかわすれてしまった。)

この三円は何に使ったか忘れてしまった。

(いまにかえすよといったぎり、かえさない。)

今に返すよと云ったぎり、返さない。

(いまとなってはじゅうばいにしてかえしてやりたくてもかえせない。)

今となっては十倍にして返してやりたくても返せない。

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