ツルゲーネフ はつ恋 ⑭

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(ちちは、なによりもまず、そしてなににもまして、せいかつすることをほっした。)

父は、何よりもまず、そして何にも増して、生活することを欲した。

(そしてじっさい、せいかつしたのだ。・・・ひょっとするとちちは、じぶんがじんせいの「みょうしゅ」)

そして実際、生活したのだ。・・・ひょっとすると父は、自分が人生の「妙趣」

(をあまりながくきょうらくできないことをよかんしていたのかもしれない。)

をあまり永く享楽できないことを予感していたのかもしれない。

(しじゅうにでしんだのである。)

四十二で死んだのである。

(わたしは、ざせーきんけをほうもんしたときのいちぶしじゅうを、くわしくちちにはなしてきかせた。)

私は、ザセーキン家を訪問した時の一部始終を、詳しく父に話して聞かせた。

(ちちはべんちにこしかけて、むちのさきですなになにやらかきながら、なかばはちゅういぶかく、)

父はベンチに腰掛けて、鞭の先で砂に何やら書きながら、半ばは注意深く、

(なかばはほうしんのていで、わたしのはなしをきいていた。)

半ばは放心のていで、わたしの話を聴いていた。

(ちちはときどきわらいごえをたてて、いっしゅこうはれやかな、おもしろそうなめつきでわたしのかおを)

父は時々笑い声を立てて、一種こう晴れやかな、面白そうな眼つきで私の顔を

(ちらりとみたり、ちょっとしたしつもんやまぜっかえしで、わたしをたきつけたりした。)

ちらりと見たり、ちょっとした質問やまぜっ返しで、私を焚きつけたりした。

(はじめのうちはわたしは、じないーだのなまえをさえくちにするゆうきがでなかったが、)

初めのうちは私は、ジナイーダの名前をさえ口にする勇気が出なかったが、

(やがてがまんがならなくなって、しきりにかのじょのことをほめちぎりだした。)

やがて我慢がならなくなって、しきりに彼女のことを褒めちぎりだした。

(ちちはあいかわらずわらいつづけていたが、そのうちふとかんがえこんだかとおもうと)

父は相変わらず笑い続けていたが、そのうちふと考え込んだかと思うと

(のびをして、たちあがった。)

伸びをして、立ち上がった。

(わたしは、ちちがいえからでしなに、うまのくらをおくようにめいじたのをおもいだした。)

わたしは、父が家から出しなに、馬の鞍を置くように命じたのを想い出した。

(ちちのばじゅつはなかなかたいしたもので、れーりしなどよりずっとはやくから、)

父の馬術はなかなか大したもので、レーリ氏などよりずっと早くから、

(どんなあらうまをもならすのにみょうをえていた。)

どんな荒馬をも馴らすのに妙を得ていた。

(「ぼくもいっしょにいっていい、ぱぱ?」と、わたしはちちにきいた。)

「僕も一緒に行っていい、パパ?」と、わたしは父に訊いた。

(「いいや」とちちはこたえた。)

「いいや」と父は答えた。

(そのかおには、れいのそっけないあいそのいいひょうじょうがうかんだ。)

その顔には、例の素っ気ない愛想のいい表情が浮かんだ。

(「のりたけりゃ、ひとりでおいき。)

「乗りたけりゃ、一人でお行き。

など

(そして、わたしはいかないからって、べっとうにそういっとくれ」)

そして、わたしは行かないからって、別当にそう言っとくれ」

(ちちはわたしにせをむけ、あしばやにたちさった。わたしがみおくっていると、)

父はわたしに背を向け、足早に立ち去った。私が見送っていると、

(ちちのすがたはもんのそとへきえた。かきねにそって、ぼうしのうごいていくのがみえる。)

父の姿は門の外へ消えた。垣根に沿って、帽子の動いて行くのが見える。

(ちちはざせーきんけへはいっていった。)

父はザセーキン家へ入って行った。

(ちちはいちじかんいじょうはそこにいなかったが、それからすぐさままちへでかけ、)

父は一時間以上はそこにいなかったが、それからすぐさま町へ出かけ、

(ゆうがたやっとかえってきた。)

夕方やっと帰って来た。

(ゆうしょくのあとで、こんどはわたしがざせーきんけへいった。)

夕食の後で、今度は私がザセーキン家へ行った。

(きゃくまにはいってみると、ろうこうしゃくふじんきりしかいなかった。わたしのすがたをみたふじんは、)

客間に入ってみると、老侯爵夫人きりしかいなかった。私の姿を見た夫人は、

(しつないぼうしをかぶったあたまを、あみばりのさきでかくと、いきなりわたしにむかって、)

室内帽子をかぶった頭を、編み針の先で掻くと、いきなり私に向って、

(せいがんしょをいっつうせいしょしてもらえまいかとといかけた。)

請願書を一通清書してもらえまいかと問いかけた。

(「おやすいごようですとも」と、わたしはこたえて、いすのはしにこしをおろした。)

「おやすい御用ですとも」と、私は答えて、椅子の端に腰を下ろした。

(「ただね、じをなるべくおおきくおねがいしますよ」とこうしゃくふじんは、)

「ただね、字をなるべく大きくお願いしますよ」と侯爵夫人は、

(べったりかきよごしたかみをいちまいわたしながらいった。)

べったり書き汚した髪を一枚わたしながら言った。

(「で、きょうじゅうにやってくださらなくて、ぼっちゃん?」)

「で、今日中にやって下さらなくて、坊ちゃん?」

(「やりますとも、きょうじゅうに」)

「やりますとも、今日中に」

(となりのへやのどあがほんのちょっぴりひらいて、)

隣の部屋のドアがほんのちょっぴり開いて、

(そのすきまに、じないーだのかおがあらわれた。)

その隙間に、ジナイーダの顔が現れた。

(あおざめた、ものおもわしげなかおつきをして、かみはむぞうさにうしろへはねかえしてある。)

蒼ざめた、物思わし気な顔つきをして、髪は無造作に後ろへはね返してある。

(おおきなひややかなりょうめで、わたしをじっとみると、またそっとどあをしめた。)

大きな冷ややかな両眼で、私をじっと見ると、またそっとドアを閉めた。

(「じーな、これじーなや!」と、ろうふじんがよんだ。)

「ジーナ、これジーナや!」と、老夫人が呼んだ。

(じないーだはへんじをしなかった。)

ジナイーダは返事をしなかった。

(わたしはろうふじんのせいがんしょをもってかえって、ひとばんじゅうそれにかかりきりだった。)

私は老夫人の請願書を持って帰って、一晩中それにかかりきりだった。

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