ああ玉杯に花うけて 3
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問題文
(だがあいにくよわそうなやつばかりであいてとするにたらぬ、)
だがあいにく弱そうなやつばかりで相手とするにたらぬ、
(そこでかれはきのしたにたっていちどうをみおろしていた、)
そこでかれは木の下に立って一同を見おろしていた、
(かれのむねはいつもげんきがみちみちている、)
かれの胸はいつも元気がみちみちている、
(かれはまいあさめがさめるとうれしさをかんずる、)
かれは毎朝眼がさめるとうれしさを感ずる、
(がっこうへいっておおくのがくせいをなぐったりけとばしたり、)
学校へいって多くの学生をなぐったりけとばしたり、
(じゆうにしえきしたりするのがさらにうれしい。)
自由に使役したりするのがさらにうれしい。
(かれはいろいろなぼうけんだんをよんだり、えいゆうのれきしをよんだりした、)
かれはいろいろな冒険談を読んだり、英雄の歴史を読んだりした、
(そうしてろびんそんやくらいぶやなぽれおんやひでよしはじぶんににているとおもった。)
そうしてロビンソンやクライブやナポレオンや秀吉は自分ににていると思った。
(「くらいぶはふりょうしょうねんでおやももてあました、それでいんどへおいやられて)
「クライブは不良少年で親ももてあました、それでインドへ追いやられて
(かいしゃのこしべんになってるうちにじぶんのしゅわんをふるってついに)
会社の腰弁になってるうちに自分の手腕をふるってついに
(いんどをえいこくのものにしてしまった、おれもどこかへおいだされたら、)
インドを英国のものにしてしまった、おれもどこかへ追いだされたら、
(ひとつのくにをせんりょうしてにほんのりょうどをかくちょうしよう」)
一つの国を占領して日本の領土を拡張しよう」
(こういうかんがえはまいにちのようにおこった、かれはじっさいけんかに)
こういう考えは毎日のようにおこった、かれは実際喧嘩に
(つよいところをもってみると、くらいぶになりうるしかくがあるとじしんしている。)
強いところをもって見ると、クライブになりうる資格があると自信している。
(「おれはえいゆうだ」)
「おれは英雄だ」
(かれはなぽれおんになろうとおもったときにはむねのところに)
かれはナポレオンになろうと思ったときには胸のところに
(ざぶとんをいれてそりみになってあるいた。ひでよしになろうとおもったときには)
座蒲団を入れて反身になって歩いた。秀吉になろうと思った時には
(おそろしくめをむきだしてさるのごとくにはをだしてあるく。)
おそろしく目をむきだしてさるのごとくに歯を出して歩く。
(かれのこぶんのしゃもじはくにさだちゅうじやしみずのじろちょうがすきであった、)
かれの子分のしゃもじは国定忠治や清水の次郎長がすきであった、
(かれはまきじたでものをいうのがじょうずで、ばくとのあいさつをあんきしていた。)
かれはまき舌でものをいうのがじょうずで、博徒の挨拶を暗記していた。
(「おれはおまえのようなげびたやつはきらいだ」といわおがしゃもじにいった。)
「おれはおまえのような下卑たやつはきらいだ」と巌がしゃもじにいった。
(「なにがげびてる?」)
「何が下卑てる?」
(「くにさだちゅうじだのじろちょうだの、ばくとじゃないか、)
「国定忠治だの次郎長だの、博徒じゃないか、
(しりをまくってそとをあるくようなげびたやつはおれのなかまにゃされない」)
尻をまくって外を歩くような下卑たやつはおれの仲間にゃされない」
(「じゃどうすればいいんだ」)
「じゃどうすればいいんだ」
(「おれはひでよしだからおまえはかとうかこにしになれよ」)
「おれは秀吉だからお前は加藤か小西になれよ」
(かれはとうとうしゃもじをかとうきよまさにしてしまった。)
かれはとうとうしゃもじを加藤清正にしてしまった。
(だがこのきよまさはいたってよわむしでいつもどうきゅうせいになぐられている。)
だがこの清正はいたって弱虫でいつも同級生になぐられている。
(たいていのけんかはかとうしゃもじのかみからはっせいする、しゃもじがなぐられて)
大抵の喧嘩は加藤しゃもじの守から発生する、しゃもじがなぐられて
(いわおにほうこくするといわおはふくしゅうしてくれるのである。)
巌に報告すると巌は復讐してくれるのである。
(いずれのちゅうがっこうでもいちばんなまいきでおうぼうなのはさんねんせいである、)
いずれの中学校でも一番生意気で横暴なのは三年生である、
(よねんごねんはふんべつがさだまり、じちょうしんもしょうずるとともにねんしょうしゃをあわれむこころも)
四年五年は分別が定まり、自重心も生ずるとともに年少者をあわれむ心も
(できるが、さんねんはちょうどしんぺいがにねんへいになったように、)
できるが、三年はちょうど新兵が二年兵になったように、
(ねんしょうしゃにたいしてごうまんであるとともにねんちょうしゃにたいしてもごうまんである。)
年少者に対して傲慢であるとともに年長者に対しても傲慢である。
(うらわちゅうがくのさんねんせいとにねんせいはいつもなかがわるかった、)
浦和中学の三年生と二年生はいつも仲が悪かった、
(ねんしょうのかなしさはたたかいのあるたびににねんがまけた、)
年少の悲しさは戦いのあるたびに二年が負けた、
(いわおはいつもそれをふんがいしたがやはりかなわなかった。)
巌はいつもそれを憤慨したがやはりかなわなかった。
(「にねんのめいよにかかわるぞ」)
「二年の名誉にかかわるぞ」
(かれはこういいいいした、かれはいまきのしたにたって)
かれはこういいいいした、かれはいま木の下に立って
(ぐんどうをみおろしているうちに、なにしろごにんぶんのべんとうをくったはらかげんは)
群童を見おろしているうちに、なにしろ五人分の弁当を食った腹加減は
(ばかにおもく、せなかをはるひにてらされてとろとろとねむくなった。)
ばかに重く、背中を春日に照らされてとろとろと眠くなった。
(でかれはきのねにこしをおろしてねむった。)
でかれは木の根に腰をおろして眠った。
(「やあせいばんがねむってらあ」)
「やあ生蕃が眠ってらあ」
(がくせいどもはこういいあった。せいばんとはいわおのあだなである、)
学生どもはこういいあった。生蕃とは巌のあだ名である、
(かれはいろくろくめおおきくあたまのけがちぢれていた、)
かれは色黒く目大きく頭の毛がちぢれていた、
(それからかれはおどろくべきあつみのあるくちびるをもっていた。)
それからかれはおどろくべき厚みのあるくちびるをもっていた。
(うとうととなったかとおもうといわおはいぬのほえるこえをきいた。)
うとうととなったかと思うと巌は犬のほえる声を聞いた。
(はじめはふつうのこえで、それはがくせいらのこんざつしたはなしごえやあしおととともに)
はじめは普通の声で、それは学生等の混雑した話し声や足音とともに
(ゆめのようなはーもにーをなしていたが、とつぜんいぬのこえはふんぬとへんじた。)
夢のような調節をなしていたが、突然犬の声は憤怒と変じた。
(いわおははっとめをひらいた。もうすべてのがくせいがいぬのしゅういにあつまっていた。)
巌ははっと目を開いた。もうすべての学生が犬の周囲に集まっていた。
(にねんせいのてづかといういしゃのこがかげのぽいんたーをしっかりとおさえていた。)
二年生の手塚という医者の子が鹿毛のポインターをしっかりとおさえていた。
(するとそれとむきあってさんねんのほそいというがくせいはおおきなあかげの)
するとそれと向きあって三年の細井という学生は大きな赤毛の
(ぶるどっぐのくびわをつかんでいた。)
ブルドッグの首環をつかんでいた。
(「そっちへつれていってくれ」とてづかがとうわくらしくいった。)
「そっちへつれていってくれ」と手塚が当惑らしくいった。
(「おまえのほうからさきににげろ」とさんねんのほそいがいった。)
「おまえの方から先に逃げろ」と三年の細井がいった。
(「やらせろ、やらせろ、おもしろいぞ」としゃもじがちゅうかんにはいっていった。)
「やらせろ、やらせろ、おもしろいぞ」としゃもじが中間にはいっていった。
(いぬといぬとがかおをみあったときまたほえあった。)
犬と犬とが顔を見あったときまたほえあった。
(「やれやれやれ」といちねんがさけびだした。)
「やれやれやれ」と一年が叫びだした。
(「やるならやろう」とさんねんがいった。「よせよ」)
「やるならやろう」と三年がいった。「よせよ」
(ひとびとをおしわけてこういちがすすみでた、かれはてにだいすうのひっきちょうをもっていた。)
人々を押しわけて光一が進みでた、かれは手に代数の筆記帳を持っていた。
(「やらせろ」とそうほうがさけんだ。)
「やらせろ」と双方が叫んだ。
(「つまらないじゃないか、いぬといぬとをけんかさせたところでおもしろくも)
「つまらないじゃないか、犬と犬とを喧嘩させたところでおもしろくも
(なんともないよ、みたまえいぬがかわいそうじゃないか、)
なんともないよ、見たまえ犬がかわいそうじゃないか、
(いぬにはけんかのいしがないのだよ」)
犬には喧嘩の意志がないのだよ」
(「こうさんするならゆるしてやろう」とさんねんがいった。)
「降参するならゆるしてやろう」と三年がいった。
(「こうさんとかなんとか、そんなことをいうからけんかになるんだ」とこういちはいった。)
「降参とかなんとか、そんなことをいうから喧嘩になるんだ」と光一はいった。
(「だっておまえのほうで、かなわないからやめてくれといったじゃないか」)
「だっておまえの方で、かなわないからやめてくれといったじゃないか」
(「かなうのかなわないのというもんだいじゃないよ、ただね、)
「かなうのかなわないのという問題じゃないよ、ただね、
(ただね、つまらないことは・・・・・・」「なにを?」)
ただね、つまらないことは……」「なにを?」
(さんねんのむれかららいおんとあだなされたきまたというがくせいがおどりだした、)
三年の群れからライオンとあだ名された木俣という学生がおどりだした、
(きまたといえばぜんこうをつうじてせんりつせぬものがない、かれはじゅうどうがすでにさんだんで)
木俣といえば全校を通じて戦慄せぬものがない、かれは柔道がすでに三段で
(こずもうのようにふとってわんりょくはばつぐんである、かれはてつぼうにりょうてを)
小相撲のように肥って腕力は抜群である、かれは鉄棒に両手を
(くっつけてぶらさがり、そのままはんどうもつけずにひじをたててぬっくと)
くっつけてぶらさがり、そのまま反動もつけずにひじを立ててぬっくと
(ひざまでせりあげるのでゆうめいである。じゅうどうのじまんばかりでなくけんどうもじまんで)
ひざまでせりあげるので有名である。柔道のじまんばかりでなく剣道もじまんで
(どうかするとたんとうをふところにしのばせたり、)
どうかすると短刀をふところにしのばせたり、
(こがたなをぽけっとにかくしたりしている。)
小刀をポケットにかくしたりしている。
(きまたがおどりだしたのでひとびとはちんもくした。)
木俣がおどりだしたので人々は沈黙した。
(「おじぎをしたらゆるしてやるよ、なあおい」)
「おじぎをしたらゆるしてやるよ、なあおい」
(とかれはどうきゅうせいをふりかえっていった。)
とかれは同級生をふりかえっていった。
(「さんべんまわっておじぎしろ」)
「三遍まわっておじぎしろ」
(こういちはもうこのひとたちにかかりあうことのぐをしったのでひきさがろうとした。)
光一はもうこの人達にかかりあうことの愚を知ったのでひきさがろうとした。