ああ玉杯に花うけて 第二部 1

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佐藤紅緑の「ああ玉杯に花」うけてです。
長文です。
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1 Par100 3676 D+ 3.7 97.3% 1157.5 4375 120 87 2024/04/08

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問題文

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(しょうばいをはやくしまってちびこうはやくそくどおりやなぎこういちのたんじょうびにいくことにした。)

商売を早くしまってチビ公はやくそくどおり柳光一の誕生日にいくことにした。

(とうふやのはんてんをぬぎすててかすりのきものにはかまをはいたとき)

豆腐屋のはんてんをぬぎすててかすりの着物にはかまをはいたとき

(ちびこうはたまらなくうれしかった。)

チビ公はたまらなくうれしかった。

(いちねんまえまではこうしてがっこうへいったものだとおもうと)

一年前まではこうして学校へいったものだと思うと

(かれはじぶんながらかいきゅうのじょうがたかまってくるようにおもわれた。)

かれは自分ながら懐旧の情がたかまってくるように思われた。

(はははてぬぐいとかみをだしてくれた。)

母はてぬぐいと紙をだしてくれた。

(「やなぎさんのいえはかねもちだからね、ぎょうぎをよくして)

「柳さんの家は金持ちだからね、ぎょうぎをよくして

(ひとにわらわれないようにおしよ」)

人にわらわれないようにおしよ」

(こうくりかえしくりかえしいった、それからごはんのときのこころえや、)

こうくりかえしくりかえしいった、それからご飯のときの心得や、

(あいさつのしかたまでおしえた。そういうことははははじゅうぶんにくわしくしっていた。)

挨拶の仕方までおしえた。そういうことは母は十分にくわしく知っていた。

(「かまわねえ、とうふやのこだからとうふやらしくしろよ、)

「かまわねえ、豆腐屋の子だから豆腐屋らしくしろよ、

(なにもかねもちだからっておせじをいうにゃあたらねえ」とおじのかくへいがいった。)

なにも金持ちだからっておせじをいうにゃあたらねえ」と伯父の覚平がいった。

(かくへいはがんらいかねもちとやくにんはきらいであった、)

覚平は元来金持ちと役人はきらいであった、

(かれはあさからばんまではたらいて、ただたのしむところはばんしゃくのいちごうであった。)

かれは朝から晩まで働いて、ただ楽しむところは晩酌の一合であった。

(だがかれはいちごうだけですまなかった。)

だがかれは一合だけですまなかった。

(にごうになりさんごうになり、あいてがあるといっしょうのさけをのむ。)

二合になり三合になり、相手があると一升の酒を飲む。

(それだけでやまずにおりおりそとへでてけんかをする、)

それだけでやまずにおりおり外へでて喧嘩をする、

(かれはようとかならずけんかをするのであった。)

かれは酔うとかならず喧嘩をするのであった。

(そのくせのまないときにはほとんどべつじんのごとく)

そのくせ飲まないときにはほとんど別人のごとく

(おんわでやさしくてにこにこしている。)

温和でやさしくてにこにこしている。

など

(「じゃいってまいります」「いっておいで」)

「じゃいってまいります」「いっておいで」

(ちびこうはあたらしいてぬぐいをはかまのひもにぶらさげ、)

チビ公はあたらしいてぬぐいをはかまのひもにぶらさげ、

(あたらしいげたをはいていえをでた。)

あたらしいげたをはいて家をでた。

(こういちのいえへゆくとすでにご、ろくにんのともだちがきていた、)

光一の家へゆくとすでに五、六人の友達がきていた、

(そのなかにはいしゃのこのてづかもいた、)

その中には医者の子の手塚もいた、

(こういちのいえはざっかてんであるがこういちのしょさいははなれのろくじょうであった。)

光一の家は雑貨店であるが光一の書斎ははなれの六畳であった。

(となりのろくじょうしつのふすまをはずしてそこにざぶとんがたくさんしいてあった。)

となりの六畳室のふすまをはずしてそこに座蒲団がたくさんしいてあった。

(せんきゃくはすでにちくおんきをかけてきいていた。)

先客はすでに蓄音器をかけてきいていた。

(「よくきてくれたね、あおきくん」とこういちはうれしそうにいった。)

「よくきてくれたね、青木君」と光一はうれしそうにいった。

(「こんちはおめでとう」とちびこうはていねいにおじぎをした。)

「今日はおめでとう」とチビ公はていねいにおじぎをした。

(あまりにれいぎただしいのでともだちはみなわらった。)

あまりに礼儀正しいので友達はみなわらった。

(「やああおきくん」「やあ」)

「やあ青木君」「やあ」

(いちねんまえのどうきゅうせいのこととてかれらはむかしのごとくちびこうをなかまにいれた。)

一年前の同級生のこととてかれらは昔のごとくチビ公を仲間に入れた。

(しだいしだいにきゃくのかずがふえてもはやじゅうに、さんにんになった、)

次第次第に客の数がふえてもはや十二、三人になった、

(かれらはざぶとんをしかずにえんがわにすわったり、)

かれらは座蒲団を敷かずに縁側にすわったり、

(にわへでたりしたがおかしやくだものがでたのできゅうにしつないにあつまった。)

庭へでたりしたがお菓子やくだものがでたので急に室内に集まった。

(てづかはこういうかいごうにはなくてならないおとこであった。)

手塚はこういう会合にはなくてならない男であった。

(かれはちくおんきがかりとしていちまいいちまいにせつめいをくわえた。)

かれは蓄音機係として一枚一枚に説明を加えた。

(「ぼくはね、かるめんよりとらびやたのほうがすきだよ」とかれがいった。)

「ぼくはね、カルメンよりトラビヤタの方がすきだよ」とかれがいった。

(「ぼくはおうりょっこうぶしがいい」とだれかがいった。)

「ぼくは鴨緑江節がいい」とだれかがいった。

(「ていきゅうしゅみをはっきするなよ」とてづかはいった。)

「低級趣味を発揮するなよ」と手塚はいった。

(そうしてとらびやたをかけてひとりでなにもかもしっているような)

そうしてトラビヤタをかけてひとりでなにもかも知っているような

(かおをしてくびをふったりかんしんしたひょうじょうをしたりした。)

顔をして首をふったり感心した表情をしたりした。

(かたすみではこういちをとりまいたし、ごにんがきかがくによって)

片隅では光一をとりまいた四、五人が幾何学によって

(ざぶとんにまいをたいひしてろんじていた。)

座蒲団二枚を対比して論じていた。

(「そら、かくどがおなじければへんがおなじだろう」とひとりがいう。)

「そら、角度が同じければ辺が同じだろう」とひとりがいう。

(「とうへんさんかくけいはかくどもあいひとしだ」とこういちがいった。)

「等辺三角形は角度も相等しだ」と光一がいった。

(ちびこうにちかいところにたむろしたいちだんはぶったいとかげのかんけいについてろんじていた、)

チビ公に近いところにたむろした一団は物体と影の関係について論じていた、

(ようがしきでいうとぶったいにはかならずひかりのはんしゃがある、)

洋画式でいうと物体にはかならず光の反射がある、

(どんなにかげになっているてんでもかすかなはんしゃがある、)

どんなに影になっている点でもかすかな反射がある、

(このはんしゃとかげとはひじょうにまぎらわしいのでこまるとひとりがいった。)

この反射と影とは非常にまぎらわしいので困るとひとりがいった。

(するとひとりはかげそのものにもはんしゃがあるといいだした。)

するとひとりは影そのものにも反射があるといいだした。

(ちびこうはびっくりしてものがいえなかった、)

チビ公はびっくりしてものがいえなかった、

(かれはたったいちねんのあいだにともだちのがくもんがひじょうにしんぽし、)

かれはたった一年のあいだに友達の学問が非常に進歩し、

(いまではとてもおよびもつかぬほどじぶんがおくれたことをしった。)

いまではとてもおよびもつかぬほど自分がおくれたことを知った。

(きかやぶつりやえいご、それだけでもいまではいこくじんのようにさいができた、)

幾何や物理や英語、それだけでもいまでは異国人のように差異ができた、

(こうしてじぶんがとうふやになりだんだんこのひとたちと)

こうして自分が豆腐屋になりだんだんこの人達と

(ちがったせかいへついらくしてゆくのだとおもった。)

ちがった世界へ墜落してゆくのだと思った。

(「ねえきみ、ぼくらにはなんのはなしだかわからないね」)

「ねえきみ、ぼくらにはなんの話だかわからないね」

(かれはりんせきのとよまつというしょうねんにこうささやいた。)

かれは隣席の豊松という少年にこうささやいた。

(とよまつはやおやのこでしょうがっこうをそつぎょうするまでににどほどらくだいした、)

豊松は八百屋の子で小学校を卒業するまでに二度ほど落第した、

(ちびこうよりはふたつもとしうえだが、そのかわりにからだがおおきくちからがつよい、)

チビ公よりは二つも年上だが、そのかわりに身体が大きく力が強い、

(そのわりあいにけんかがよわく、よくせいばんになぐられては)

そのわりあいに喧嘩が弱く、よく生蕃になぐられては

(めのまんなかからおおつぶのなみだをぽろりとひとつぶこぼしたものだ、)

目のまん中から大粒の涙をぽろりと一粒こぼしたものだ、

(きょうあつまったひとびとのなかでちゅうがっこうへもいかずに)

今日集まった人々の中で中学校へもいかずに

(かぎょうにおいつかわれているものはとよこうとちびこうのふたりだけであった、)

家業においつかわれているものは豊公とチビ公の二人だけであった、

(かれはがくもんやなにかのはなしよりもむかしのともだちがみなせいふくをきてるのに)

かれは学問やなにかの話よりも昔の友達がみな制服を着てるのに

(じぶんだけがわふくでいるのがはずかしかった。)

自分だけが和服でいるのがはずかしかった。

(「あのひとたちはがくしゃになるんだよ、おれたちとはちがうんだ」とかれはいった。)

「あの人達は学者になるんだよ、おれ達とはちがうんだ」とかれはいった。

(「そうだね、おれたちはなんになろうたってできやしない」とちびこうがいった。)

「そうだね、おれ達はなんになろうたって出来やしない」とチビ公がいった。

(「かねもちはいいなあ」ととよこうはさたんした。)

「金持ちはいいなあ」と豊公は嗟嘆した。

(「いいきものをきておいしいものをたべてがっこうへあそびにゆく、)

「いい着物を着ておいしいものを食べて学校へ遊びにゆく、

(びんぼうにんはあさからばんまではたらいていきもつけねえ、)

貧乏人は朝から晩まで働いて息もつけねえ、

(ほんをよみかけるとひるのつかれでねむってしまうしな」)

本を読みかけると昼のつかれで眠ってしまうしな」

(「きみ、おとうさんがあるの?」とちびこうがきいた。)

「きみ、お父さんがあるの?」とチビ公がきいた。

(「ないよ、きみは?」「ぼくもない」)

「ないよ、きみは?」「ぼくもない」

(「おやがないのはおかねがないよりもかなしいことだね」)

「親がないのはお金がないよりも悲しいことだね」

(「それにぼくはちからがない、きみはちからがあるからいいさ」)

「それにぼくは力がない、きみは力があるからいいさ」

(「ちからがあってもだめだ」ととよこうはきゅうにはらだたしく、)

「力があってもだめだ」と豊公は急に腹だたしく、

(「おれはまいあさせいばんになぐられるんだ、そしていもだのまめだの)

「おれは毎朝生蕃になぐられるんだ、そしていもだの豆だの

(なしだのかきだのぶんどられるんだ、)

なしだのかきだのぶんどられるんだ、

(それでもおれはだまってなきゃならない」)

それでもおれはだまってなきゃならない」

(「ぼくもまいあさとうふをくわれるよ、きみなぞは)

「ぼくも毎朝豆腐を食われるよ、きみなぞは

(ちからがあるからなぐりかえしてやるといいんだ」)

力があるからなぐりかえしてやるといいんだ」

(「だめだよ」ととよこうはあやうくこぼれようとするなみだをこらえていった。)

「だめだよ」と豊公はあやうくこぼれようとする涙をこらえていった。

(「あいつのおとうさんはやくばのやくにんだろう」)

「あいつのお父さんは役場の役人だろう」

(ちびこうはだまってためいきをついた。)

チビ公はだまって溜息をついた。

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