ああ玉杯に花うけて 第六部 4
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問題文
(「おなかがすいたろう。ごはんをたべない?」「ほしくありません」)
「おなかがすいたろう。ご飯を食べない?」「ほしくありません」
(「やけどがなおらないうちにそとへであるいてはいけないよ、おや、ひたいを)
「火傷がなおらないうちに外へ出歩いてはいけないよ、おや、ひたいを
(どうしたんです」「なんでもありません」「またけんかかえ」)
どうしたんです」「なんでもありません」「また喧嘩かえ」
(「あちらへいっててください」といわおはかみつくようにいった。)
「あちらへいっててください」と巌はかみつくようにいった。
(「なにをそんなにおこってるんです」はははきっとめをすえた。)
「なにをそんなにおこってるんです」母はきっと目をすえた。
(そのめにはふあんのいろがうかび、くちもとにはじあいがみちている。「なんでもいいです」)
その目には不安の色が浮かび、口元には慈愛が満ちている。「何でもいいです」
(「なにかきにさわることがあるならおいいなさい」「あちらへいって)
「なにか気にさわることがあるならおいいなさい」「あちらへいって
(くださいというに」はははしおしおとでていった。いわおはおきあがってははの)
くださいというに」母はしおしおとでていった。巌は起きあがって母の
(うしろすがたをみやった。なんともいいようのないかなしみがいっぱいになる。おかあさん)
後ろ姿を見やった。なんともいいようのない悲しみが一ぱいになる。お母さん
(にはあんならんぼうなことばをつかうんじゃなかったというこうかいがむらむらとでてくる。)
にはあんな乱暴な言葉を使うんじゃなかったという後悔がむらむらとでてくる。
(「どうしようか」じっさいかれはしんたいにまようた。いままでかみのごとくそんけいしていた)
「どうしようか」実際かれは進退にまようた。いままで神のごとく尊敬していた
(ちちはあくにんなのだ。このしつぼうはかれのたんじゅんなじそんしんをたにぞこへつきおとしてしまった。)
父は悪人なのだ。この失望は彼の単純な自尊心を谷底へ突き落としてしまった。
(かれにはまったくひかりがなくなった。しんでしまおうか。いや!たいらのしげもりはばかだ。)
かれにはまったく光がなくなった。死んでしまおうか。いや!平重盛はばかだ。
(ふたつのこころもちがわくらんしてのうのそこがおもたくだるくなった。かれはじっとつくえのうえを)
二つの心持ちが惑乱して脳の底が重たくだるくなった。かれはじっと机の上を
(みた。そこにともだちからかりたかんぶんのほんがひらいたままのっている。)
見た。そこに友達から借りた漢文の本がひらいたまま載っている。
(「しゅうしょさんがい」しなにしゅうしょというふりょうしょうねんがあった。けんかはする。ごうだつはする。)
「周処三害」支那に周処という不良少年があった。喧嘩はする。強奪はする。
(むらのものをいじめる、たはたをあらす、どうもこうもしようのないわるものであった。)
村の者をいじめる、田畑をあらす、どうもこうもしようのない悪者であった。
(あるときかれのははがたいへんふさぎこんでいるのをみてかれはこうきいた。)
あるときかれの母が大変ふさぎこんでいるのを見てかれはこうきいた。
(「おかあさんなにかごしんぱいがあるのですか」「ああ、わたしはもうしんぱいでしにそうだ」)
「お母さんなにかご心配があるのですか」「ああ、私はもう心配で死にそうだ」
(とははがいった。「なにがそんなにごしんぱいなのですか」「このむらにさんがいといって)
と母がいった。「なにがそんなにご心配なのですか」「この村に三害といって
(みっつのがいぶつがある。そのためにわたしもむらのひともまいにちまいにちしんぱいしている」)
三つの害物がある。そのために私も村の人も毎日毎日心配している」
(「さんがいとはなにですか」「なんざんにはくがくのとらがいでてむらのひとをくらう、)
「三害とは何ですか」「南山に白額のとらが出でて村の人を食らう、
(ちょうきょうのしたにせきりゅうがでてむらのひとをくらう、いまひとつは・・・・・・」)
長橋の下に赤竜がでて村の人をくらう、いま一つは……」
(こういってはははしゅうしょのかおをみやった。「いまひとつはなんですか」)
こういって母は周処の顔を見やった。「いま一つはなんですか」
(「おまえだ、おまえがわるいことをしてむらのがいをなす、とらとりゅうとおまえが)
「おまえだ、おまえがわるいことをして村の害をなす、とらとりゅうとおまえが
(このむらのさんがいだ」このはなしをきいたしゅうしょはがぜんとしてさとった。)
この村の三害だ」この話を聞いた周処は俄然としてさとった。
(「おかあさん、ごあんしんなさい、ぼくはさんがいをのぞきましょう」しゅうしょはなんざんへいって)
「お母さん、ご安心なさい、ぼくは三害をのぞきましょう」周処は南山へ行って
(びゃっこをころし、ちょうきょうへいってせきりゅうをころし、じぶんはひんこうをただしくしてむらのために)
白虎を殺し、長橋へいって赤竜を殺し、自分は品行を正しくして村のために
(ぜんじをつくした。ここにおいてこのむらはたいへいわらくになった。)
善事をつくした。ここにおいてこの村は太平和楽になった。
(いわおはよむともなしにそれをよんだ。とつぜんかれのあたまにとうめいなひかりがさしこんだ。)
巌は読むともなしにそれを読んだ。突然かれの頭に透明な光がさしこんだ。
(かれはいきもつかずにもういちどよんだ。「さんがいをのぞこう、おれはおとこだ」)
かれは呼吸もつかずにもう一度読んだ。「三害を除こう、おれは男だ」
(かれはこうさけんだ。「おれにわるいところがあるならおれがあらためればいい、)
かれはこう叫んだ。「おれに悪いところがあるならおれが改めればいい、
(おとうさまにわるいところがあるならおれがいさめてあらためさせればいい、ふたりが)
お父様に悪いところがあるならおれがいさめて改めさせればいい、ふたりが
(ぜんにんになればこのまちはよくなるのだ、なんざんにとらをうちにゆくひつようもなければ)
善人になればこの町はよくなるのだ、南山にとらをうちにゆく必要もなければ
(ちょうきょうにりゅうをほふりにゆくひつようもない、だいいちのがいはおれだ、)
長橋にりゅうをほふりにゆく必要もない、第一の害はおれだ、
(おれをあらためてちちをあらためる、それでいいのだ」かれはたってへやをいっしゅうした、)
おれを改めて父を改める、それでいいのだ」かれは立って室を一周した、
(えもいえぬゆうきはぜんしんにみなぎってかんきのこえをあげてたかくさけびたくなった。)
得もいえぬ勇気は全身にみなぎって歓喜の声をあげて高く叫びたくなった。
(かれはまどをひらいてそとをみやった、すずしいかぜがにわのわかばをふいて)
かれは窓を開いて外を見やった、すずしい風が庭の若葉をふいて
(すだれがさらさらとうごいた、きぎのみどりはめざめるようにあざやかである。)
すだれがさらさらと動いた、木々の緑はめざめるようにあざやかである。
(「とうふい・・・・・・」らっぱのおととこうたいにちびこうのこえがきこえる。)
「豆腐イ……」らっぱの音と交代にチビ公の声が聞こえる。
(「ちびこうだ」かれはのびあがってへいのそとをみやった。「とうふいー」)
「チビ公だ」かれは伸びあがってへいの外を見やった。「とうふい――」
(あついにっこうをものともせず、おおきなおけをにのうてゆくちびこうの)
暑い日光をものともせず、大きなおけをにのうてゆくチビ公の
(すげがさがわずかにみえる。「おれはあいつにあやまらなきゃならない」)
すげ笠がわずかに見える。「おれはあいつにあやまらなきゃならない」
(いわおはだっとのごとくはだしのままでそとへでた。そうしてとつぜん)
巌は脱兎のごとくはだしのままで外へでた。そうして突然
(ちびこうのまえにたちふさがった。「あおき!おい、かんにんしてくれ、)
チビ公の前に立ちふさがった。「青木! おい、堪忍してくれ、
(なあおいおれはわるかった、おれはきょうからさんがいをのぞくんだ」)
なあおいおれは悪かった、おれは今日から三害を除くんだ」