時計のない村1 小川未明

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時計のない村に時計を持ち込んだ者がいた。
日本のアンデルセンといわれる小川未明の童話。

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問題文

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(まちからとおくはなれたいなかのことであります。そのむらには、あまりとんだものが)

町から遠く離れた田舎のことであります。その村には、あまり富んだものが

(ありませんでした。むらじゅうで、とけいが、たったふたつぎりしかなかったのです。)

ありませんでした。村じゅうで、時計が、たった二つぎりしかなかったのです。

(ながいあいだ、このむらのひとびとは、とけいがなくてすんできました。たいようののぼりぐあいを)

長い間、この村の人々は、時計がなくてすんできました。太陽の上りぐあいを

(みて、およそのじこくをはかりました。けれど、このぶんめいのよのなかに、とけいを)

見て、およその時刻をはかりました。けれど、この文明の世の中に、時計を

(もちいなくてははなしにならぬというので、むらのなかでのかねもちのひとりが、まちに)

用いなくては話にならぬというので、村の中での金持ちの一人が、町に

(でたときに、そのまちのとけいやから、ひとつのとけいをもとめたのであります。)

出たときに、その町の時計屋から、一つの時計を求めたのであります。

(そのかねもちは、いま、じぶんはたくさんのかねをはらって、とけいをもとめることを)

その金持ちは、いま、自分はたくさんの金を払って、時計を求めることを

(こころのなかでほこりとしました。きょうから、むらのものたちは、ばんじのあつまりや、)

心の中で誇りとしました。今日から、村のものたちは、万事の集まりや、

(やくそくのじかんを、このとけいによってしなければならぬとおもったからであります。)

約束の時間を、この時計によってしなければならぬと思ったからであります。

(「このとけいは、くるうようなことはないだろうな。」 と、かねもちは、とけいやの)

「この時計は、狂うようなことはないだろうな。」 と、金持ちは、時計屋の

(ばんとうにたずねました。 「けっして、くるうようなことはありません。)

番頭にたずねました。 「けっして、狂うようなことはありません。

(そんなおしなではございません。」 と、ばんとうはこたえました。)

そんなお品ではございません。」 と、番頭は答えました。

(「それなら、あんしんだが。」 と、かねもちは、ほほえみました。)

「それなら、安心だが。」 と、金持ちは、ほほえみました。

(「このみせのじかんは、まちがいがないだろうな。」 と、かねもちは、)

「この店の時間は、まちがいがないだろうな。」 と、金持ちは、

(またききました。 「けっして、まちがってはいません。)

またききました。 「けっして、まちがってはいません。

(ひょうじゅんじにあわせてございます。」 と、ばんとうはこたえました。)

標準時に合わせてございます。」 と、番頭は答えました。

(「それなら、あんしんだ。」 と、かねもちはおもったのであります。)

「それなら、安心だ。」 と、金持ちは思ったのであります。

(かねもちは、かったとけいをだいじにして、じぶんのむらへもってかえりました。)

金持ちは、買った時計を大事にして、自分の村へ持って帰りました。

(これまで、とけいというものをみなれなかったむらのひとびとは、まいにちのように、)

これまで、時計というものを見なれなかった村の人々は、毎日のように、

(そのかねもちのいえへおしかけてきました。そして、ひとりでにうごくはりをみて、)

その金持ちの家へ押しかけてきました。そして、独りでに動く針を見て、

など

(ふしぎにおもいました。また、かねもちからじかんのみかたをおそわって、かれらは、)

不思議に思いました。また、金持ちから時間の見方を教わって、彼らは、

(はたけにいっても、やまにいっても、よるととけいのはなしをしたのであります。)

圃にいっても、山にいっても、寄ると時計の話をしたのであります。

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