失敗園2(完) 太宰治

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庭の草花は不満だらけ。

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問題文

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(だいこん。)

だいこん。

(「じばんがいけないのですね。いしころだらけで、わたしはこのしろいあしをのばすことが)

「地盤がいけないのですね。石ころだらけで、私はこの白い脚を伸ばす事が

(できませぬ。なんだか、けむくじゃらのあしになりました。ごぼうのふりをして)

出来ませぬ。なんだか、毛むくじゃらの脚になりました。ごぼうの振りをして

(いましょう。わたしは、すなおに、あきらめているの。」)

いましょう。私は、素直に、あきらめているの。」

(わたのなえ。)

棉の苗。

(「わたしは、いまは、こんなにちいさくても、やがていちまいのざぶとんになるんですって。)

「私は、今は、こんなに小さくても、やがて一枚の座蒲団になるんですって。

(ほんとうかしら。なんだかじちょうしたくてしようがないの。けいべつしないでね。」)

本当かしら。なんだか自嘲したくて仕様が無いの。軽蔑しないでね。」

(へちま。)

へちま。

(「ええと、こういって、こうからむのか。なんてぶさいくなたななんだ。からみつく)

「ええと、こう行って、こうからむのか。なんて不細工な棚なんだ。からみ附く

(のにだいほねおりさ。でも、このたなをつくるときに、ここのしゅじんとさいくんとはふうふげんかを)

のに大骨折りさ。でも、この棚を作る時に、ここの主人と細君とは夫婦喧嘩を

(したんだからね。さいくんにせがまれたらしく、ばかなしゅじんは、もっともらしいかおを)

したんだからね。細君にせがまれたらしく、ばかな主人は、もっともらしい顔を

(して、このたなをつくったのだが、いや、どうにもぶきようなので、さいくんがわらい)

して、この棚を作ったのだが、いや、どうにも不器用なので、細君が笑い

(だしたら、しゅじんのあせだくでおこっていわくさ、それではおまえがやりなさい、へちまの)

だしたら、主人の汗だくで怒って曰くさ、それではお前がやりなさい、へちまの

(たななんてぜいたくひんだ、せいかつのようしきをかくだいするのは、ぼくはいやなんだ、ぼくたちは)

棚なんて贅沢品だ、生活の様式を拡大するのは、僕はいやなんだ、僕たちは

(そんなみぶんじゃない、とみょうにきょうざめなことをいいだしたので、さいくんもたいどもあらため)

そんな身分じゃない、と妙に興覚めな事を言い出したので、細君も態度も改め

(それはしょうちしております、でも、へちまのたなくらいはあってもいいとおもいます、)

それは承知して居ります、でも、へちまの棚くらいは在ってもいいと思います、

(こんなびんぼうないえにでも、へちまのたなができるのだというのは、なんだかきせき)

こんな貧乏な家にでも、へちまの棚が出来るのだというのは、なんだか奇蹟

(みたいで、すばらしいことだとおもいます、わたしのいえにでも、へちまのたなができるなんて)

みたいで、素晴しい事だと思います、私の家にでも、へちまの棚が出来るなんて

(うそみたいで、わたしはうれしくてなりません、とあわれなことをしゅちょうしたので、しゅじんは)

嘘みたいで、私は嬉しくてなりません、と哀れな事を主張したので、主人は

(またしぶしぶこのたなのせいさくをけいぞくしやがった。どうも、ここのしゅじんは、すこしさいくんに)

また渋々この棚の製作を継続しやがった。どうも、ここの主人は、少し細君に

など

(あまいようだて。どれ、どれ、しんせつをむにするのもこころぐるしい、ええと、こういって)

甘いようだて。どれ、どれ、親切を無にするのも心苦しい、ええと、こう行って

(こうからみつけっていうわけか、ああ、じつにぶさいくなたなである。からみつかせ)

こうからみ附けっていうわけか、ああ、実に不細工な棚である。からみ附かせ

(ないようにできている。いみないよ。ぼくは、ふしあわせなへちまかもしれぬ。」)

ないように出来ている。意味ないよ。僕は、不仕合わせなへちまかも知れぬ。」

(ばらと、ねぎ。)

薔薇と、ねぎ。

(「ここのにわでは、やはりわたしがじょおうだわ。いまはこんなに、からだがよごれて、はの)

「ここの庭では、やはり私が女王だわ。いまはこんなに、からだが汚れて、葉の

(つやもなくなっちゃったけれど、これでもせんじつまでは、つぎつぎとつづけてじゅうりんいじょうも)

艶も無くなっちゃったけれど、これでも先日までは、次々と続けて十輪以上も

(はながさいたものだわ。ごきんじょのおばさんたちが、おおきれいといってほめると)

花が咲いたものだわ。ご近所の叔母さんたちが、おお綺麗と言ってほめると

(ここのしゅじんがかならずぬっとへやからでてきて、おばさんたちに、だらしなく)

ここの主人が必ずぬっと部屋から出て来て、叔母さんたちに、だらし無く

(ぺこぺこおじぎするので、わたしは、とてもはずかしかったわ。あたまがわるいんじゃ)

ぺこぺこお辞儀するので、私は、とても恥ずかしかったわ。あたまが悪いんじゃ

(ないかしら。しゅじんは、とてもわたしをだいじにしてくれるのだけれど、いつもまちがった)

ないかしら。主人は、とても私を大事にしてくれるのだけれど、いつも間違った

(ていればかりするのよ。わたしがのどがかわいてしおれかけたときには、ただ、うろうろして)

手入ればかりするのよ。私が喉が乾いて萎れかけた時には、ただ、うろうろして

(おくさんをひどくしかるばかりでなにもできないの。あげくのはてには、わたしのだいじな)

奥さんをひどく叱るばかりで何も出来ないの。あげくの果には、私の大事な

(しんめを、きがくるったみたいに、ちょんちょんつみきってしまって、うむ、これで)

新芽を、気が狂ったみたいに、ちょんちょん摘み切ってしまって、うむ、これで

(どうやら、なんてまがおでいってすましているのよ。わたしは、くしょうしたわ。あたまが)

どうやら、なんて真顔で言って澄ましているのよ。私は、苦笑したわ。あたまが

(わるいのだから、しかたがないのね。あのとき、しんめをあんなにきられなかったら)

悪いのだから、仕方がないのね。あの時、新芽をあんなに切られなかったら

(わたしは、たしかににじゅうはさけたのだわ。もう、だめ。あんまりいのちかぎりさいたもの)

私は、たしかに二十は咲けたのだわ。もう、駄目。あんまり命かぎり咲いたもの

(だから、はやくおいこんじゃった。わたしは、はやくしにたい。おや、あなたはだれ?」)

だから、早く老い込んじゃった。私は、早く死にたい。おや、あなたは誰?」

(「わがはいを、せめて、りゅうのひげとでも、よんでくれたまえ。」 「ねぎ、じゃないの」)

「我輩を、せめて、竜の鬚とでも、呼んでくれ給え。」 「ねぎ、じゃないの」

(「みやぶられたか。めんぼくない。」 「なにをいってるの。ずいぶんほそいねぎねえ。」)

「見破られたか。面目ない。」 「何を言ってるの。ずいぶん細いねぎねえ。」

(「ええめんぼくない。ちのりをえないのじゃ。よがよなら、いや、はいぐんのしょう、ぐちは)

「ええ面目ない。地の利を得ないのじゃ。世が世なら、いや、敗軍の将、愚痴は

(もうさぬ。わがはいはこうねるぞ。」)

申さぬ。我輩はこう寝るぞ。」

(はなのさかぬやぐるまそう。)

花の咲かぬ矢車草。

(「ぜしょうめっぽう。じょうしゃひっすい。いっそ、ばけてでようかしら。」)

「是生滅法。盛者必衰。いっそ、化けて出ようか知ら。」

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