風船美人1 渡辺温

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毎日気球に通っている異人さんが探している地上の宝とは。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 てんぷり 5437 B++ 5.6 96.1% 541.2 3066 123 44 2024/10/24
2 saty 4307 C+ 4.6 93.3% 669.1 3104 222 44 2024/10/18

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問題文

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(1 うえののはくらんかいでけいききゅうがあげられた。けいききゅうはまるでこふうなどうはんがの)

1  上野の博覧会で軽気球が上げられた。軽気球はまるで古風な銅版画の

(けしきのごとく、あおあおとひかるはつなつのおおそらにうかんだ。 このけいききゅうはそもそも)

景色の如く、青々と光るはつ夏の大空に浮かんだ。  この軽気球はそもそも

(しょうてんのこうこくなぞではなく、1じかん1えんではくらんかいのおきゃくをのせるもくてきから)

商店の広告なぞではなく、一時間一円で博覧会のお客を乗せる目的から

(そなえつけられたものである。 わたしはひじょうにおさないころ、ちちにつれられて、)

備えつけられたものである。  私は非常に幼い頃、父に連れられて、

(なにかのはくらんかいをけんぶつしたが、そのときのかいじょうにはおおきなふぇありい・らんどが)

何かの博覧会を見物したが、その時の会場には大きなフェアリイ・ランドが

(あって、かんらんしゃやうぉたあ・しゅうとなぞのしんきなのりものとともに、やはりけいききゅう)

あって、観覧車やウォタア・シュウトなぞの新奇な乗物とともに、やはり軽気球

(がおきゃくをまんさいしてうえののもりのてっぺんにうかんでいた。(ふうせんなんてあぶないものは)

がお客を満載して上野の杜の天辺に浮かんでいた。(風船なんて危いものは

(もってのほかだーー)といって、としよりのちちはいくらわたしがせがんでも)

もっての外だ――)と云って、年寄の父はいくら私が強請(せが)んでも

(のらしてくれなかった。それいご「ふうせん」はわたしのもっともおおきながんぼうのひとつとなった)

乗らしてくれなかった。それ以後「風船」は私の最も大きな願望の一つとなった

(なにもないちゅうくうで、いっぺんのくものようにやすやすと、とまっていられるというどうりは、)

何もない中空で、一片の雲のように易々と、停っていられると云う道理は、

(じんせいのあけぼのにおいて、はじめてわたしがちょくめんしたきねんすべきなぞであった。)

人生の曙に於いて、はじめて私が直面した記念すべき謎であった。

(20ねんもすぎて、のりもののふうせんが、ふたたびあらわれた。 わたしはひさしいしゅくぼうを)

二十年も過ぎて、乗物の風船が、再び現われた。  私は久しい宿望を

(かなえられるよろこびのあまり、おてんきのひならばかならずはくらんかいのもんをくぐった。)

叶えられる喜びのあまり、お天気の日ならば必らず博覧会の門をくぐった。

(ふうせんは、しかしちっともにんきがなかった。 わたしのおさないこころとともにもはやじせいから)

風船は、併しちっとも人気がなかった。  私の幼い心と共に最早や時世から

(とりのこされてしまったものとみえる。ひとつきとたたないなかに、ひにたったすうにんの)

取残されてしまったものと見える。一月と経たない中に、日にたった数人の

(おきゃくしかよべないばあいがあった。 わたしはそれで、それをばさいわいに、ほとんどじぶんが)

お客しか呼べない場合があった。  私はそれで、それをば幸いに、殆ど自分が

(そのふうせんのあるじででもあるかのように、くつろいだきもちでそらのたのしい1じかんを)

その風船の主ででもあるかのように、寛いだ気持で空の楽しい一時間を

(ついやすことができた。 ちじょう500めーとるのたかさからみはらした)

費すことが出来た。  地上五百米突(メートル)の高さから見晴した

(ぶんめいとしのこうけいは、それこそいちばんすばらしいぱのらまのながめである。およそ)

文明都市の光景は、それこそ一番素晴らしいパノラマの眺めである。凡そ

(あらゆるそくりょくとものおととをうしなって、うららかなひざしをやどしたうすぼこりのかげろうの)

あらゆる速力と物音とを失って、麗らかな日ざしを宿したうす塵埃のかげろうの

など

(そこで、しずかにぜんどうするそのたあいもないすがたを、わたしはこのうえもなくあいした。)

底で、静かに蠕動するそのたあいもない姿を、私はこの上もなく愛した。

(2 わたしはとうじょうけんをうるむすめとかおなじみになった。)

2  私は搭乗券を売る娘と顔なじみになった。

(わたしたちはおたがいにあいさつをした。 ーーしょうじきなところ、なんだってそうまいにちまいにち)

私たちはお互に挨拶をした。  ――正直なところ、なんだってそう毎日々々

(こんなふうせんにのりにいらっしゃるのだか、あたしにはもうすっかりかんがえようが)

こんな風船に乗りにいらっしゃるのだか、あたしにはもうすっかり考えようが

(なくなってしまったわ。」 あるひ、そのむすめは、けいききゅうからおりて)

なくなってしまったわ。」  或る日、その娘は、軽気球から降りて

(かえりかけたわたしをとらえて、そういった。 ーーそれは、きみにあいたい)

帰りかけた私をとらえて、そう云った。  ――それは、君に会いたい

(ばかりにさ。」とわたしはこたえた。 ーーまあ!にくいことをおっしゃるのね。でも)

ばかりにさ。」と私は答えた。  ――まあ! 憎いことを仰有るのね。でも

(あたし、はじめはちょっとそんなきがしないでもなかったけれど。)

あたし、はじめは鳥渡(ちょっと)そんな気がしないでもなかったけれど。

(ふ、ふ、ふ、ふ・・・・・・。」 むすめははすっぱなこえでわらいかけたのをあわててのみこむと)

ふ、ふ、ふ、ふ……。」  娘は蓮葉な声で笑いかけたのを周章てて呑み込むと

(いずまいをなおしながら、こごえでわたしにちゅういした。 ーーおや、あなたの)

居住いを直しながら、低声(こごえ)で私に注意した。  ――おや、あなたの

(あいぼうがいらしたわよ。」 このじょうてんきにあまがさをたずさえたたけのたかいせいようじんがわたくしどもの)

相棒がいらしたわよ。」  この上天気に雨傘を携えた丈の高い西洋人が私共の

(ほうへちかづいてきた。せいようじんもまたけいききゅうにのりにきたのであった。 わたしはかれの)

方へ近づいて来た。西洋人もまた軽気球に乗りに来たのであった。  私は彼の

(あまがさとそれからはいいろのりっぱなあごひげとにみおぼえがあった。わたしはびっくりして)

雨傘とそれから灰色の立派な顎髯とに見憶えがあった。私はびっくりして

(むすめにたずねた。 ーーあのいじんさんも、ときどきくるのかね?」)

娘に訊ねた。  ――あの異人さんも、時々来るのかね?」

(ーーまいにちいらっしゃるわ。だから、あなたのあいぼうだって、そういうの。」)

――毎日いらっしゃるわ。だから、あなたの相棒だって、そう云うの。」

(ーーはてな?」 ーーことによると、やっぱりあたしをはってるのかも)

――はてな?」  ――ことによると、やっぱりあたしを張ってるのかも

(わからないわね。ふ、ふ、ふ、ふ・・・・・・。」 ーーぼくは、あしたから、)

わからないわね。ふ、ふ、ふ、ふ……。」  ――僕は、あしたから、

(あのいじんさんといっしょにのせてもらうよ。」とわたしはいった。 わたしはかえるみちみち、)

あの異人さんと一緒に乗せて貰うよ。」と私は云った。  私は帰る途々、

(せいようじんについてしさいにかんがえてみた。そういわれればなるほど、ちょうどこのくらいのじかんに)

西洋人について仔細に考えてみた。そう云われればなる程、恰度この位の時間に

(かえるおりなら、かいじょうのでぐちまでのあいだのどこかで、たいていそのひととであったように)

帰るおりなら、会場の出口迄の間の何処かで、大抵その人と出会ったように

(おもわれた。わたしはただ、はくらんかいのじむしょにでもかんけいのあるひとだろうくらいにかんがえて、)

思われた。私はただ、博覧会の事務所にでも関係のある人だろう位に考えて、

(べっしてふかくきをとめたこともなかったが。ーーどうも、せいようじんともあろうものが)

別して深く気をとめたこともなかったが。――どうも、西洋人ともあろうものが

(しかもあのねんぱいをしてふうせんなぞへのってたのしむなんて、なかなかしんじがたいはなしだ。)

しかもあの年輩をして風船なぞへ乗って楽しむなんて、なかなか信じ難い話だ

(なにかじゅうだいなるりゆうがなくてはかなわぬ。・・・・・・)

何か重大なる理由がなくては叶わぬ。……

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