ああ玉杯に花うけて 第九部 5

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プレイ回数344難易度(4.5) 2330打 長文
大正時代の少年向け小説!
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(じっさいてきのそうしゃがだいいちだいにるいにある、すこしもゆだんのならぬばあいである、かれは)

実際敵の走者が第一第二塁にある、少しもゆだんのならぬ場合である、かれは

(ほしゅのさいんをみた、こはらはすでにあおきをあなどっている、かれはだいいちに)

捕手のサインを見た、小原はすでに青木をあなどっている、かれは第一に

(うぇすとぼーるをさいんした、だいにもまた・・・・・・だいさんにはちょっきゅうである。)

ウェストボールをサインした、第二もまた……第三には直球である。

(それはあおきのよそうするところであった。かれはこういちのたまがさんぜんたるひかりをはなって)

それは青木の予想するところであった。かれは光一の球が燦然たる光を放って

(わがおもうつぼをまっすぐにきたとおもった、かれははちぶのちからをもってふった。)

わが思う壺をまっすぐにきたと思った、かれは八分の力をもってふった。

(わっというかんせいとともにせんぞうはたまがたしかにてづかにとられたとおもった、がたまは)

わっという喊声と共に千三は球がたしかに手塚に取られたと思った、が球は

(てづかのくつさきにばうんどした、てづかはだぶるぷれーをくらわしてかっさいをはくそうと)

手塚の靴先にバウンドした、手塚はダブルプレーを食わして喝采を博そうと

(あせったのですたーとをあやまったのである、かれはばうんどしたたまを)

あせったのでスタートをあやまったのである、かれはバウンドした球を

(つかもうとしてぐろーぶのうえではねかえした、ふたたびひろおうとしたときにるいしゅと)

つかもうとしてグローブの上ではね返した、ふたたび拾おうとしたとき二塁手と

(しょうとつしてたおれた。かれはおきあがったがあわてたためにたまがみえなかった、)

衝突して倒れた。かれは起きあがったがあわてたために球が見えなかった、

(たまはかれのくつのかかとのところにあったのである。「ぼーるがぼーるが」と)

球はかれの靴のかかとのところにあったのである。「ボールがボールが」と

(かれはひめいをあげた。ちゅうけんしゅがそれをひろうてほーむへなげた、がこのときは)

かれは悲鳴をあげた。中堅手がそれを拾うてホームへ投げた、がこのときは

(すでにおそかった、ごだいしゅうとくらもうはちょうくしてほーむへはいり、せんぞうは)

すでにおそかった、五大洲とクラモウは長駆してホームへ入り、千三は

(さんるいにすべりこんだ。「ばんざあい」てんちをゆるがすばかりにぐんしゅうはさけんだ、)

三塁にすべり込んだ。「バンザアイ」天地をゆるがすばかりに群集は叫んだ、

(このさけびがおわらぬうちにすぐにふしぎなかっさいがおこった。)

この叫びがおわらぬうちにすぐにふしぎな喝采が起こった。

(まつのえだにのっていたかくへいとぜんべえはばんざいをさけんだひょうしにりょうてをあげたので、)

松の枝に乗っていた覚平と善兵衛はバンザイを叫んだ拍子に両手をあげたので、

(まつのうえからころがりおちたのであった。おちたままかくへいはらっぱをふくことを)

松の上から転がり落ちたのであった。落ちたまま覚平はらっぱをふくことを

(やめなかった。「ぷうぷうぽうぽう」「ばんざあい」)

やめなかった。「ぷうぷうぽうぽう」「バンザアイ」

(こうなってくるともくもくたいはきゅうにかっきづいてきた。いちるいしゅのはたざおは)

こうなってくると黙々隊は急に活気づいてきた。一塁手の旗竿は

(にるいだをうってせんぞうがほんるいにはいった。もくもくはいってんをかちこした。)

二塁打を打って千三が本塁に入った。黙々は一点を勝ち越した。

など

(つぎのすずめはばうんどをうってはたざおをさんるいにすすめた。)

つぎのすずめはバウンドを打って旗竿を三塁に進めた。

(とつぎにはやすばのさくせんがきこうをそうし、すくいずぷれーでまたいってんをとった。)

とつぎには安場の作戦が奇功を奏し、スクイズプレーでまた一点を取った。

(うらちゅうはひっしになった、こはら、やなぎはしにものぐるいにたたかった、がせんぞうのかいぎは)

浦中は必死になった、小原、柳は死に物狂いに戦った、が千三の快技は

(あらゆるなんきゅうをくいとめた、かれはしっかりとはらをおちつけた、)

あらゆる難球を食いとめた、かれはしっかりと腹を落ちつけた、

(かれのあたまはとうめいできがほがらかであった。ななたいご)

かれの頭は透明で気がほがらかであった。七==五

(もくもくはかった、はとうのごときかっさいがおこった、ちゅうりつをひょうぼうしていた)

黙々は勝った、波濤のごとき喝采が起こった、中立を標榜していた

(しはんせいはことごとくもくもくのみかたとなった。やすばがせんとうになっていちどうは)

師範生はことごとく黙々の味方となった。安場が先頭になって一同は

(ちゅうがくのもんぜんでがいかをあげた、そうしてまちをねりあるいた。まちまちでは)

中学の門前で凱歌をあげた、そうして町を練り歩いた。町々では

(ておけにみずをくんでせったいしたのもあった。ぜんべえはじぶんのみせのみかんを)

手おけに水をくんで接待したのもあった。善兵衛は自分の店のみかんを

(のこらずかつぎこんでみかんをまきながらせんしゅのあとについていった。いちどうは)

残らずかつぎ込んでみかんをまきながら選手の後について行った。一同は

(よろこびいさんでじゅくへかえった。かれらはじゅくのまえでみんなしゃつをぬぎ、)

喜び勇んで塾へ帰った。かれらは塾の前でみんなシャツを脱ぎ、

(へそをだしてもんないへはいった。せんせいはいっちょうらのはおりとはかまをつけてでむかえた。)

へそをだして門内へはいった。先生は一帳羅の羽織とはかまをつけて出迎えた。

(「かちました」とやすばがいった。「それはさいしょからわかってる」と)

「勝ちました」と安場がいった。「それは最初からわかってる」と

(せんせいがいった、そうして「ぼーるをやるとおなじきもちでがくもんをすれば)

先生がいった、そうして「ボールをやると同じ気持ちで学問をすれば

(てんかのだいせんしゅになれる」とつけくわえた。)

天下の大選手になれる」とつけくわえた。

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