異妖編「新牡丹燈記」2 岡本綺堂

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プレイ回数840難易度(5.0) 3105打 長文 長文モード可
江戸時代の怪異談
「K君はこの座中で第一の年長者であるだけに、江戸時代の怪異談をたくさんに知っていて、それからそれへと立て続けに五、六題の講話があった。そのなかで特殊のもの三題を選んで左に紹介する。」
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 saty 4675 C++ 4.9 94.0% 620.7 3097 195 44 2024/10/25

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問題文

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(こんやはうらぼんのくさいちで、よるももうふけている。しかもいままでしんぼとけのまえに)

今夜は盂蘭盆の草市で、夜ももう更けている。しかも今まで新ぼとけの前に

(つやをしてきたかえりみちであるから、にょうぼうはなおさらうすきみわるくおもった。)

通夜をして来た帰り路であるから、女房はなおさら薄気味わるく思った。

(りょうがわのてんやはどこもおおとをおろしているので、いざというばあいにも)

両側の店屋(てんや)はどこも大戸をおろしているので、いざという場合にも

(かけこむところがない。かれはそこにたちすくんでしまった。 「ひとだまかしら。」)

駈け込むところがない。かれはそこに立竦んでしまった。 「人魂かしら。」

(と、かれはまたささやいた。 「そうですねえ。」と、くまきちもかんがえていた。)

と、かれはまたささやいた。 「そうですねえ。」と、熊吉も考えていた。

(「いっそひっかえそうかねえ。」 「あとへもどるんですか。」)

「いっそ引っ返そうかねえ。」 「あとへ戻るんですか。」

(「だって、おまえ。きみがわるくっていかれないじゃあないか。」 そんなおしもんどうを)

「だって、お前。気味が悪くって行かれないじゃあないか。」 そんな押問答を

(しているうちに、とうろうのあかりはきえたようにくらくなった。とおもうと、5、6けんさき)

しているうちに、燈籠の灯は消えたように暗くなった。と思うと、五、六間さき

(のほうへゆらゆらととんでいった。 「きっときつねかたぬきですよ。ちくしょう!」と、くまきちは)

の方へゆらゆらと飛んで行った。 「きっと狐か狸ですよ。畜生!」と、熊吉は

(ののしるようにいった。 くまきちはことし15のまえがみであるが、としのわりにはがらも)

罵るように言った。  熊吉はことし十五の前髪であるが、年のわりには柄も

(おおきくちからもある。にょうぼうもそれをみこんでこんやのともにつれてきたくらいであるから)

大きく力もある。女房もそれを見込んで今夜の供につれて来たくらいであるから

(さいしょこそはとうろうのふしぎをあやしんでいたが、だんだんにどきょうがすわってきて、)

最初こそは燈籠の不思議を怪しんでいたが、だんだんに度胸がすわって来て、

(かれはこのふしぎをきつねかたぬきのいたずらときめてしまった。かれはちょうちんのひかりで)

かれはこの不思議を狐か狸のいたずらと決めてしまった。かれは提灯のひかりで

(そこらをてらしてみて、みちばたにころがっているてごろのいしをふたつみっつひろってきた。)

そこらを照らしてみて、路ばたに転がっている手頃の石を二つ三つ拾って来た。

(「あれ、およしよ。」 あやぶんでせいするにょうぼうにちょうちんをあずけて、くまきちは)

「あれ、およしよ。」  あやぶんで制する女房に提灯をあずけて、熊吉は

(りょうてにそのいしをもって、とうろうのゆくえをにらんでいると、それがまたうすあかるく)

両手にその石を持って、燈籠のゆくえを睨んでいると、それがまたうす明るく

(なった。そうして、むきをかえてこっちへまいもどってきたかとおもうと、)

なった。そうして、向きを変えてこっちへ舞いもどって来たかと思うと、

(あたかもひとりむしがひにむかってくるように、にょうぼうのもっているちょうちんをめがけて)

あたかも火取り虫が火にむかってくるように、女房の持っている提灯を目がけて

(いっちょくせんにとんできたので、にょうぼうはきゃっといってちょうちんをなげだしてにげた。)

一直線に飛んで来たので、女房はきゃっといって提灯を投げ出して逃げた。

(「ちくしょう!」 くまきちはそのとうろうにいしをたたきつけた。あわてたので、だいいちのいしは)

「畜生!」  熊吉はその燈籠に石をたたきつけた。慌てたので、第一の石は

など

(くうをうったが、つづいてなげつけただいにのつぶてはとうろうのまっただなかにあたって、)

空を打ったが、つづいて投げつけた第二の礫は燈籠の真っ唯中にあたって、

(たしかにてごたえがしたようにおもうと、とうろうのかげはふきけしたようにやみのなかに)

確かに手ごたえがしたように思うと、燈籠の影は吹き消したように闇のなかに

(かくれてしまった。そのあいだに、にょうぼうはみぎがわのてんやのおおとをいっしょうけんめいにたたいた。)

隠れてしまった。そのあいだに、女房は右側の店屋の大戸を一生懸命に叩いた。

(かれはもうこわくてたまらないので、どこでもかまわずにたたきおこして、とうざの)

かれはもう怖くてたまらないので、どこでも構わずにたたき起して、当座の

(すくいをもとめようとしたのであった。いったんきえたとうろうはふたたびどこからかあらわれて、)

救いを求めようとしたのであった。一旦消えた燈籠は再びどこからか現れて、

(あたかもにょうぼうがたたいているみせのなかへきえていくようにみえたので、かれはまた)

あたかも女房が叩いている店のなかへ消えていくように見えたので、かれはまた

(きゃっとさけんでたおれた。 たたかれたいえではよういにおきてこなかったが、)

きゃっと叫んで倒れた。  叩かれた家では容易に起きて来なかったが、

(そのおとにおどろかされてとなりのいえから40ぜんごのおとこがはんらたいのようなねまきすがたで)

その音におどろかされて隣りの家から四十前後の男が半裸体のような寝巻姿で

(でてきた。かれはくまきちといっしょになって、たおれているにょうぼうをかいほうしながら)

出て来た。かれは熊吉と一緒になって、倒れている女房を介抱しながら

(じぶんのいえへつれこんだ。そのみせはちいさいたばこやであった。きぜつこそしないが、)

自分の家へ連れ込んだ。その店は小さい煙草屋であった。気絶こそしないが、

(にょうぼうはもうまっさおになってどうきのするむねをくるしそうにかかえているので、)

女房はもう真っ蒼になって動悸のする胸を苦しそうに抱えているので、

(ていしゅのおとこはかないのものをよびおこして、にょうぼうにみずをのませたりした。ようやくしょうきに)

亭主の男は家内の物を呼び起して、女房に水を飲ませたりした。ようやく正気に

(かえったにょうぼうとこぞうからこんやのできごとをきかされて、たばこやのていしゅもまゆをよせた)

かえった女房と小僧から今夜の出来事をきかされて、煙草屋の亭主も眉をよせた

(「そのとうろうはまったくとなりのいえへはいりましたかえ。」 たしかにはいったと)

「その燈籠はまったく隣りの家へはいりましたかえ。」  たしかにはいったと

(ふたりがいうと、ていしゅはいよいよかおをしかめた。そのむすめらしい178のわかいおんなも)

二人が言うと、亭主はいよいよ顔をしかめた。その娘らしい十七八の若い女も

(かおのいろをかえた。 「なるほど、そうかもしれません。」と、ていしゅはやがて)

顔の色を変えた。 「なるほど、そうかも知れません。」と、亭主はやがて

(いいだした。「それはきっととなりのむすめですよ。」 にょうぼうはまたおどろかされた。)

言い出した。「それはきっと隣りの娘ですよ。」  女房はまた驚かされた。

(かれはみをかたくしてあいてのかおをみつめていると、ていしゅはこごえでかたった。)

かれは身を固くして相手の顔を見つめていると、亭主は小声で語った。

(「となりのいえはこまものやで、しゅじんは6ねんほどまえにしにまして、いまではごけの)

「隣りの家は小間物屋で、主人は六年ほど前に死にまして、今では後家の

(おんなあるじで、こぞうひとりとじょちゅうひとり、こていにくらしてはいますけれど、ほかに)

女あるじで、小僧ひとりと女中一人、小体に暮らしてはいますけれど、ほかに

(かさくなどももっていて、なかなかないふくだということです。ところが、おさださんと)

家作なども持っていて、なかなか内福だということです。ところが、お貞さんと

(いうひとりむすめ・・・・・・ことし18で、わたしのいえのむすめともこどものときからの)

いうひとり娘……ことし十八で、わたしの家の娘とも子供のときからの

(あそびともだちで、ようぼうもわるくなし、ひとがらもわるくないむすめなのですが、はんとしほどまえにも)

遊び友達で、容貌も悪くなし、人柄も悪くない娘なのですが、半年ほど前にも

(こんなことがありました。)

こんなことがありました。

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