竹柏記 山本周五郎 ⑪

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プレイ回数1096難易度(4.3) 2480打 長文
不信な男に恋をしている娘に、強引な結婚を申し込むが・・・
不信な男に恋をしている友人の妹を守りたい一心で、心通わずとも求婚をする勘定奉行の主人公。

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問題文

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(こうのすけのこころは、かなりふかくきずついた。)

孝之助の心は、かなり深く傷ついた。

(すぎののきもちをあまくみていたわけではないが、)

杉乃の気持をあまくみていたわけではないが、

(そこまではっきり、いいきられようとは、)

そこまではっきり、云いきられようとは、

(おもいもよらなかった。)

おもいもよらなかった。

(よろこばれるとはかんがえなかったけれども、)

喜ばれるとは考えなかったけれども、

(そんなにつよく、ほとんどにくしみにちかいひょうげんで、)

そんなに強く、殆んど憎みに近い表現で、

(すこしのかしゃくもなく、「あいすることはできない」)

少しの仮借もなく、「愛することはできない」

(といわれようとはまったくよそうもしないことであった。)

と云われようとはまったく予想もしないことであった。

(それからにさんにち、かれは、どうようするじぶんのきもちに、なやまされた。)

それから二三日、彼は、動揺する自分の気持に、悩まされた。

(いっそみんなはなしてしまおうか、)

いっそみんな話してしまおうか、

(おかむらやつかがどんなにんげんであるか、やくめをりようしたしょうにんとのふせい、)

岡村八束がどんな人間であるか、役目を利用した商人との不正、

(ならずものをつかってきょうはくし、かねをきょうようしたこと、そしていま、)

ならず者を使って脅迫し、金を強要したこと、そしていま、

(けっとうをもうしこんできていることなど。)

決闘を申し込んで来ていることなど。

(すべてをはなして(まだふうふとはなばかりのうちに))

すべてを話して(まだ夫婦とは名ばかりのうちに)

(あらためてかのじょのいしどおりに、させてみようか。いくたびもこうかんがえた。)

改めて彼女の意志どおりに、させてみようか。幾たびもこう考えた。

(ときにはくちまででかかったが、けっきょくそうはできなかった。)

ときには口まで出かかったが、結局そうはできなかった。

(それはすぎのをにじゅうにはずかしめることになる、おそらくかのじょは)

それは杉乃を二重に辱しめることになる、おそらく彼女は

(じっかへもどるだろう、いや、もっとわるいことになるかもしれない。)

実家へ戻るだろう、いや、もっと悪いことになるかもしれない。

(もっとわるいこと。つまりじさつということがそうぞうされた。)

もっと悪いこと。つまり自殺ということが想像された。

(たかやすへのこしいれをしょうちしただけでも、じぶんのきもちを)

高安への輿入れを承知しただけでも、自分の気持を

など

(そうとうころしてきたにちがいない、このうえやつかのことではずかしめられたら、)

相当ころしてきたに違いない、このうえ八束のことで辱しめられたら、

((あれだけはっきりいしひょうじのできるきしょうでは))

(あれだけはっきり意志表示のできる気性では)

(ただじっかへもどるだけではすまさないだろう。)

ただ実家へ戻るだけでは済まさないだろう。

(じさつするか、あまになるか、ともかくそのいっしょうをほうきするしゅだんにでる、)

自殺するか、尼になるか、ともかくその一生を放棄する手段にでる、

(というきぐがじゅうぶんにあった。じぶんがのぞんでこうしたのだ、)

という危惧が十分にあった。自分が望んでこうしたのだ、

(あせるのはおかしい、しんぼうづよくまつことにしよう。)

あせるのはおかしい、辛抱づよく待つことにしよう。

(やがてこうのすけはそうじぶんをいいなだめた。)

やがて孝之助はそう自分を云いなだめた。

(すぎののいっしょうを、こうふくにすることがもくてきだった。)

杉乃の一生を、幸福にすることが目的だった。

(ちいさなじそんしんなどは、はじめからすてていたのではないか、)

小さな自尊心などは、初めから捨てていたのではないか、

(こちらからはなにももとめてはいけない、)

こちらからはなにも求めてはいけない、

(いつか、もしかして・・・そういうときがくるまでは。)

いつか、もしかして・・・そういうときがくるまでは。

(おかむらやつかは、ずっとやくどころをやすんでいた。)

岡村八束は、ずっと役所を休んでいた。

(こうのすけはかくべつきにもとめなかったが、かさいのてつまは、)

孝之助はかくべつ気にもとめなかったが、笠井の鉄馬は、

(なんとかわかいさせようと、ずいぶんやつかをさがしたらしい。)

なんとか和解させようと、ずいぶん八束を捜したらしい。

(やつかもそれをさっしたものか、いえはいつもるすだし、)

八束もそれを察したものか、家はいつも留守だし、

(いどころをしっているものもなかった。)

居どころを知っている者もなかった。

(やくそくのぜんじつ、てつまがやくどころへきて、そのむねをつげた。こうのすけはぎけいに)

約束の前日、鉄馬が役所へ来て、その旨を告げた。孝之助は義兄に

(れいをのべてから、「かれはわかいなど、けっしてしないよ」としずかにいった。)

礼を述べてから、「彼は和解など、決してしないよ」と静かに云った。

(「たぶんそうだろう、おれもほんとうならそんなこうしょうはしたくない、)

「たぶんそうだろう、おれも本当ならそんな交渉はしたくない、

(もしできるなら、おれがかわってもしまつをつけたいところだ、)

もしできるなら、おれが代っても始末をつけたいところだ、

(さがしたのははらのむしをおさえてのことだったんだが」)

捜したのは肚の虫を抑えてのことだったんだが」

(「もういいよ、そのばになったら、なんとかきりぬけるようにするよ」)

「もういいよ、その場になったら、なんとかきりぬけるようにするよ」

(「なにかしあんがあるのか」)

「なにか思案があるのか」

(「なにもないけれど、できるだけことをちいさくすませるように、)

「なにもないけれど、できるだけ事を小さく済ませるように、

(したいとおもう、それには、ひとりでゆきたいんだ」)

したいと思う、それには、独りでゆきたいんだ」

(「ばかなことを」てつまはくびをふった、「はたしあいにかいぞえを)

「ばかなことを」鉄馬は首を振った、「はたし合に介添を

(つけないほうはない、それにあいてがおかむらやつかではないか」)

付けない法はない、それに相手が岡村八束ではないか」

(「しかしちょっとかんがえることがあるんだ」)

「しかしちょっと考えることがあるんだ」

(りゆうはいえないが、とことわって、かれはてつまのかいぞえを、つよくこじした。)

理由は云えないが、と断わって、彼は鉄馬の介添を、つよく固辞した。

(「わかった、ではかいぞえはやめよう、だがはらのところまではついてゆくよ」)

「わかった、では介添はやめよう、だが原のところまでは付いてゆくよ」

(てつまはこういってさった。)

鉄馬はこう云って去った。

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