幽霊船の秘密2 海野十三

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SOS信号受けて貨物船が向かった先には船がなく…
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1 kkk 6319 S 6.7 93.9% 601.8 4067 264 62 2024/09/24

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問題文

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(きゅうなんしんごう 「あっ、sosだ」)

【救難信号】   「あっ、SOSだ」

(きょくちょうは、そうさけんだかとおもうと、すぐにもうきかいのところへきていた。)

局長は、そう叫んだかとおもうと、すぐにもう器械のところへ来ていた。

(「おい、まるお。ろくおんはうまくでているか、ちょっとしらべてみたまえ」)

「おい、丸尾。録音はうまく出ているか、ちょっと調べてみたまえ」

(きょくちょうのめいれいは、きびきびときゅうしょをおさえる。まるおは、はっときがついて、)

局長の命令は、きびきびと急所をおさえる。丸尾は、はっと気がついて、

(さっそくろくおんばんのまわっているところをのぞいた。 「きょくちょう、だめです。ばんは)

さっそく録音盤の廻っているところをのぞいた。 「局長、だめです。盤は

(まわっていますが、ろくおんのみぞは、ほんのかすかについているだけで、これじゃおとが)

まわっていますが、録音の溝は、ほんの微かについているだけで、これじゃ音が

(でそうもありません」 「そうか」きょくちょうはめをちらりとうごかすと、)

出そうもありません」 「そうか」局長は眼をちらりとうごかすと、

(すぐてをのばしてじゅわきをとった。そしてそれをみみにあてた。 「うむ、きこえる)

すぐ手をのばして受話機をとった。そしてそれを耳にあてた。 「うむ、聞える

(ことはきこえているが、これはまたばかによわいね」 そういってきょくちょうは、)

ことは聞えているが、これはまたばかに弱いね」  そういって局長は、

(じゅわきをとると、なれたてつきで、そのうえにえんぴつをはしらせた。これがいねむりから)

受話機をとると、慣れた手つきで、そのうえに鉛筆を走らせた。これが居睡から

(さめたばかりのひとであろうかとぎもんがおこるほど、きょくちょうはきわめてびんしょうに、)

覚めたばかりの人であろうかと疑問がおこるほど、局長は極めて敏捷に、

(ことをはこんだ。 「おい、まるお、すぐほうこうをはかりたまえ」)

事をはこんだ。 「おい、丸尾、すぐ方向を測りたまえ」

(「はあ、ほうこうをはかります」 ぼんやりたっていたまるおは、ここでやっと)

「はあ、方向を測ります」  ぼんやり立っていた丸尾は、ここでやっと

(しょうきにかえって、めいぜられたほうこうたんちきにとりついた。 かんぱんのうえに)

正気にかえって、命ぜられた方向探知器にとりついた。  甲板のうえに

(でているわくがたくうちゅうせんのしちゅうをはんどるによってすこしずつまわしていると、でんぱが)

出ている枠型空中線の支柱をハンドルによってすこしずつ廻していると、電波が

(どっちのほうこうからきているかわかるしかけになっていた。これはがっこうじだいからまるおの)

どっちの方向から来ているか分る仕掛になっていた。これは学校時代から丸尾の

(とくいなそくていだったので、じしんをもってやった。あいにくはいっているしんごうは、)

得意な測定だったので、自信をもってやった。生憎入っている信号は、

(いきもたえだえといいたいほどびじゃくであったが、かれはけんめいにそれをとらえた。)

息もたえだえといいたいほど微弱であったが、彼は懸命にそれを捉えた。

(そのびじゃくなしんごうに、しにちょくめんしたおびただしいせいめいがたくされているのだ。)

その微弱な信号に、死に直面した夥しい生命が托されているのだ。

(「どうだい、ほうこうはとれたか」 「はい、とれました。ほぼなんなんとうびとうです」)

「どうだい、方向はとれたか」 「はい、とれました。ほぼ南南東微東です」

など

(「なに、なんなんとうびとうか」 きょくちょうはじゅわきをしたにおいて、きゅうなくちょうでいった。)

「なに、南南東微東か」  局長は受話機を下において、急な口調でいった。

(「さあ、すぐせんちょうにほうこくだ。でんわをしたまえ」 まるおはこうかんだいのせつぞくをおわると)

「さあ、すぐ船長に報告だ。電話をしたまえ」  丸尾は交換台の接続を終ると

(よびだししんごうをならしつづけた。しかしせんちょうしつのじゅわきがとりあげられるまでには、)

呼出信号を鳴らしつづけた。しかし船長室の受話機が取りあげられるまでには、

(かなりのじかんがかかった。 「せんちょうがでました」)

かなりの時間がかかった。 「船長が出ました」

(「おうそうか」 きょくちょうはしへんをてにとって、まいくにちかづき、)

「おうそうか」  局長は紙片を手にとって、マイクに近づき、

(「せんちょう、ただいまsosをじゅしんいたしました。いかんながらでんぶんのまえのほうは)

「船長、ただ今SOSを受信いたしました。遺憾ながら電文の前の方は

(ききもらしましたのでとちゅうからでありますが、こんなことをうってきました。)

聞きもらしましたので途中からでありますが、こんなことを打ってきました。

(「ーーせんていがたいはし、しんすいはなはだし。ちんぼつまであとすうじゅっぷんのよゆうしかなし。)

『――船底ガ大破シ、浸水ハナハダシ。沈没マデ後数十分ノ余裕シカナシ。

(しきゅうきゅうじょをこう」というのです」 「どこのきせんかね。そしてせんめいは)

至急救助ヲ乞ウ』というのです」 「どこの汽船かね。そして船名は

(なんというのかね」 せんちょうが、ききかえした。)

なんというのかね」  船長が、聞きかえした。

(「それがどうもよくわかりません。「せんめいはーー」とまでは、うってきましたが)

「それがどうもよくわかりません。『船名ハ――』とまでは、打ってきましたが

(そのあとはくうぶんなんです。ふごうがないのです。どうもへんですね。なぜせんめいを)

そのあとは空文なんです。符号がないのです。どうも変ですね。なぜ船名を

(いわないのでしょうか」 「ふーむ」とせんちょうはうなっていたが、)

いわないのでしょうか」 「ふーむ」と船長は呻っていたが、

(「ひょっとすると、どこかのぐんかんかもしれない。さもなければかいぞくせんか。)

「ひょっとすると、どこかの軍艦かもしれない。さもなければ海賊船か。

(ーーで、そのそうなんのいちは、いったいどこなのか」 「そのいちはふめいです。)

――で、その遭難の位置は、一体どこなのか」 「その位置は不明です。

(もっともsosのでんぶんのはじめにうったのかもしれませんが、ききのがしました)

もっともSOSの電文のはじめに打ったのかもしれませんが、聞きのがしました

(なにしろでんげんがよわっているらしく、でんしんはたいへんびじゃくで、とうとうとちゅうで)

なにしろ電源がよわっているらしく、電信はたいへん微弱で、とうとう途中で

(きこえなくなってしまったのです」 「いちがわからんでは、すくいに)

聞えなくなってしまったのです」 「位置が分らんでは、救いに

(いけないじゃないか」 「はあ、そうです。そこでさっき、まるおにsosを)

いけないじゃないか」 「はあ、そうです。そこでさっき、丸尾にSOSを

(はっしんしているふねのほうこうをはからせました」 「ほう、それはいい。でほうこうは)

発信している船の方向を測らせました」 「ほう、それはいい。で方向は

(でたかね」 「なんなんとうびとうとでました」とこたえると、)

出たかね」 「南南東微東と出ました」と答えると、

(せんちょうは、ちょっとことばをとめてかんがえこんでいたが、 「よろしい。では、)

船長は、ちょっと言葉をとめて考えこんでいたが、 「よろしい。では、

(これからしんろをそのなんなんとうびとうにむけ、ぜんそくりょくではしってみることにしよう。)

これから針路をその南南東微東に向け、全速力で走ってみることにしよう。

(なおこんごのしんごうにちゅういしたまえ」 そこでせんちょうのでんわはきれた。)

なお今後の信号に注意したまえ」  そこで船長の電話は切れた。

(まもなくふねがぐっとへさきをまげたのがかんじられた。えんじんはきゅうにうなりをまして)

間もなく船がぐっと舳をまげたのが感じられた。エンジンは急に呻りをまして

(いまやぜんそくりょくで、なぞのそうなんちてんさしてすすんでゆくのであった。)

今や全速力で、謎の遭難地点さして進んでゆくのであった。

(げんばふきん いいきもちで、ねむっていたせんいんやかふたちは、ひとりのこらずたたき)

【現場附近】  いい気持で、睡っていた船員や火夫達は、一人のこらず叩き

(おこされ、きゅうじょたいがへんせいせられえいせいざいりょうがあるだけぜんぶせんちょうしつにならべられた。)

起され、救助隊が編成せられ衛生材料があるだけ全部船長室に並べられた。

(わじままるはいちをしらせるためどのまどもあかるくてんとうせられ、ほばしらには)

和島丸は位置を知らせるためどの窓も明るく点灯せられ、檣(ほばしら)には

(こがたではあるが、たんしょうとうがてんじられ、ふねぜんぽうのかいめんをあかるくてらしつけた。)

小型ではあるが、探照灯が点じられ、船前方の海面を明るく照らしつけた。

(そうなんせんのすがたは、なかなかはいらなかった。もうかれこれ1じかんになるが、)

遭難船の姿は、なかなか入らなかった。もうかれこれ一時間になるが、

(どこまですすんでもくらいうみばかりだ。 せんちょうさえきこうへいは、それでもなおぜんそくりょくで)

どこまで進んでも暗い海ばかりだ。  船長佐伯公平は、それでもなお全速力で

(ふねをはしらせるようにめいじた。 それからしばらくたって、むでんしつからせんちょうに)

船を走らせるように命じた。  それから暫くたって、無電室から船長に

(でんわがかかってきた。 「どうした。なにかはいったかね」)

電話がかかってきた。 「どうした。なにか入ったかね」

(「はい、いままた、きれぎれのしんごうがはいりました。しかしこんどはそうなんちてんを)

「はい、今また、きれぎれの信号がはいりました。しかし今度は遭難地点を

(ついにききとることができました。「ほんせんのいちは、ほぼほくい165ど、)

ついに聞きとることができました。『本船ノ位置ハ、略北緯百六十五度、

(とうけい32どのふきんとおもわれる」とありました」 「なに、ほくい165ど、)

東経三十二度ノ附近卜思ワレル』とありました」 「なに、北緯百六十五度、

(とうけい32どのふきんだというのか?それじゃこのへんじゃないか」)

東経三十二度の附近だというのか? それじゃこの辺じゃないか」

(とせんちょうは、おもわずおどろきのこえをあげた。 わじままるは、そのでんぶんがしんじつなら)

と船長は、おもわず愕きのこえをあげた。  和島丸は、その電文が真実なら

(もうすでにそうなんちてんにたっしているのである。するとそうなんせんのすがたをはっけんしなければ)

もう既に遭難地点に達しているのである。すると遭難船の姿を発見しなければ

(ならぬことになるが、さてたんしょうとうをうごかしてからみわたしたところ、)

ならぬことになるが、さて探照灯を動かしてから見渡したところ、

(ぼーといっせきうかんでいないではないか。)

ボート一隻浮んでいないではないか。

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