幽霊船の秘密4 海野十三

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SOS信号受けて貨物船が向かった先には船がなく…

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問題文

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(「あっ、いまのはなんだ」 せんいんがかおをみあわせたそのしゅんかん、せんていからごうぜんたる)

「あっ、今のは何だ」  船員が顔を見合わせたその瞬間、船底から轟然たる

(おんきょうがきこえた。そしてわじままるは、おおじしんにあったようにぐらぐらとゆれた。)

音響がきこえた。そして和島丸は、大地震にあったようにぐらぐらと揺れた。

(「ああっ、やられた。ばくやくらしい」 せんちょうはそのしんどうでよろよろとよろめいたが)

「ああっ、やられた。爆薬らしい」 船長はその震動でよろよろとよろめいたが

(つくえにとびついて、やっとたちなおった。そこへひとりのせんいんが、むねのあたりを)

机にとびついて、やっと立ちなおった。そこへ一人の船員が、胸のあたりを

(まっかにそめて、とびこんできた。 「あっせんちょう。たいへんです。)

まっ赤にそめて、とびこんできた。 「あっ船長。たいへんです。

(せんていにぎょらいらしいものがめいちゅうしました。おおあながあきました。ぼうすいちゅうですが、)

船底に魚雷らしいものが命中しました。大穴があきました。防水中ですが、

(うまくゆくかどうか。あと23ふんで、ほんせんはちんぼついたします」)

うまくゆくかどうか。あと二三分で、本船は沈没いたします」

(たいへんなほうこくであった。 とうかかんせいが、もう5ふんもはやかったら、)

たいへんな報告であった。  灯火管制が、もう五分も早かったら、

(こんなことにならなかったかもしれないのだ。 さえきせんちょうは、くびをあげて、)

こんなことにならなかったかもしれないのだ。  佐伯船長は、首をあげて、

(ぐっとうなずいた。 「ぼーと、おろせ!」ひそうなめいれいがくだった。)

ぐっとうなずいた。 「ボート、おろせ!」悲壮な命令が下った。

(あおじろいかいせん そういううちにも、わじままるのやぶられたせんていからは、)

【青白い怪船】  そういううちにも、和島丸の破られた船底からは、

(おびただしいかいすいがたきのようにながれこんで、せんたいはみるみるかいめんかに)

おびただしい海水が滝のようにながれこんで、船体は見る見る海面下に

(ひきこまれてゆく。 「やあ、ひどくかたむいたぞ。そっちのぼーとをはやくおろせ」)

ひきこまれてゆく。 「やあ、ひどく傾いたぞ。そっちのボートを早くおろせ」

(やみのなかから、どなるこえがきこえる。 せんじょうにはふたたびたんしょうとうがついた。)

暗の中から、どなるこえがきこえる。  船上にはふたたび探照灯がついた。

(だれかわからないが、もうふねがしずもうというのに、そのたんしょうとうをくるくるまわして、)

誰か分らないが、もう船が沈もうというのに、その探照灯をくるくるまわして、

(かいめんをさがしているものがあった。 このようなさわぎをへて、あわれわじままるは、)

海面をさがしている者があった。  このような騒ぎを経て、あわれ和島丸は、

(わずか4ふんのちにはなみにのまれてしずんでしまった。 かいじょうは、まっくらで、)

わずか四分のちには波にのまれて沈んでしまった。  海上は、まっ暗で、

(なにがなんだかわからない。きゅうめいぼーとが4せき、しずかにうかんでいる。)

なにがなんだかわからない。救命ボートが四隻、しずかにうかんでいる。

(ごぼごぼどーんと、うしろではげしいおとがしたが、これがわじままるのさいごの)

ごぼごぼどーんと、うしろではげしい音がしたが、これが和島丸の最後の

(こえのようなものだった。きかんのなかにかいすいがながれこんでそのばくはつとなったもの)

こえのようなものだった。機関の中に海水がながれこんでその爆発となったもの

など

(であろう。すいちゅうがよめにもぼーっとうすあかるくたって、ぼーとじょうのせんいんたちの)

であろう。水柱が夜目にもぼーっとうすあかるく立って、ボート上の船員たちの

(むねをかきみだした。 なにゆえのむけいこくのげきちんであろう。)

胸をかきみだした。  なにゆえの無警告の撃沈であろう。

(くらさはくらし、なにもののしわざだかいっこうにわからない。さえきせんちょうはだい1ごうの)

暗さは暗し、なに者の仕業だか一向にわからない。佐伯船長は第一号の

(ぼーとにのってじっとくちびるをかんでいた。 「せんちょう、ぼーとはぜんぶぶじです。)

ボートにのってじっと唇をかんでいた。 「船長、ボートは全部無事です。

(だい1、だい2、だい3、だい4のじゅんじょにずっとならびました」 じむちょうが、くらがりの)

第一、第二、第三、第四の順序にずっとならびました」  事務長が、暗がりの

(なかからほうこくした。さっきからぼーとのうえでてさげしんごうとうがうちふられていたが)

なかから報告した。さっきからボートのうえで手提信号灯がうちふられていたが

(ぜんぶのぼーとがぶじせいぞろいをしたことをつたえたものであろう。 「そうか。)

全部のボートが無事勢ぞろいをしたことを伝えたものであろう。 「そうか。

(ではぜんしん。しんろはまひがしだ」 えいえいのかけごえもいさましく、4そうのぼーとは)

では前進。針路は真東だ」 えいえいのかけごえもいさましく、四艘のボートは

(くらいかいじょうをこぎだした。 「おいふるやきょくちょう」)

暗い海上をこぎだした。 「おい古谷局長」

(せんちょうが、むせんきょくちょうをよんだ。 「はあ、ここにおります」)

船長が、無線局長をよんだ。 「はあ、ここに居ります」

(ふるやきょくちょうも、いまはいっぽんのおーるをにぎって、いっしょうけんめいにこいでいる。)

古谷局長も、いまは一本のオールを握って、一生けんめいに漕いでいる。

(「ほんせんのきゅうなんしんごうは、むでんでだしたろうね」 「はあ、さいごまでしょうみ3ふんかんは)

「本船の救難信号は、無電で出したろうね」 「はあ、最後まで正味三分間は

(ありましたろう。そのあいだ、がんばってだでんしました」 「どこからかおうとうは)

ありましたろう。その間、頑張って打電しました」 「どこからか応答は

(なかったかね」 「それがざんねんにも、ひとつもないのでーー」)

なかったかね」 「それが残念にも、一つもないので――」

(「こっちのむでんは、たしかにでんぱをだしているのだろうね」 「それはしんぱい)

「こっちの無電は、たしかに電波を出しているのだろうね」 「それは心配

(ありません。なにしろだでんしているじかんがみじかいものですからそれでへんじが)

ありません。なにしろ打電している時間が短いものですからそれで返事が

(えられなかったものとおもわれます」 「ふーむ」)

得られなかったものと思われます」 「ふーむ」

(このうえは、きゅうなんしんごうをききつけたどこかのきせんが、いっこくもはやくこのちてんに)

このうえは、救難信号をききつけたどこかの汽船が、一刻もはやくこの地点に

(たすけにきてくれるのをまつよりほかはない。さっきまでは、こっちがそうなんせんを)

助けに来てくれるのをまつより外はない。さっきまでは、こっちが遭難船を

(たすけにいそいだのに、いまはそのぎゃくになって、こっちがたすけをよぶみとなった。)

助けに急いだのに、今はその逆になって、こっちが助けを呼ぶ身となった。

(なんというぎゃくてんだろう。 「おいふるやきょくちょう」しばらくして、)

なんという逆転だろう。 「おい古谷局長」しばらくして、

(せんちょうはふたたびきょくちょうをよんだ。 「はあ、ここにおります」)

船長はふたたび局長をよんだ。 「はあ、ここに居ります」

(「さっきほんせんからむでんしたとき、ほんせんがぎょらいにみまわれたことをだでんしたかね」)

「さっき本船から無電したとき、本船が魚雷に見舞われたことを打電したかね」

(「はあ、それはほんしゃあてのでんぽうに、とりあえずほうこくしておきました。)

「はあ、それは本社宛の電報に、とりあえず報告しておきました。

(ちょうしきょくをへて、ほんしゃへとどくことでしょう」 「そうか。それはよかった」)

銚子局を経て、本社へ届くことでしょう」 「そうか。それはよかった」

(せんちょうのこえが、くらやみのなかにきえた。ようじょうは、すこしかぜがでてきた。)

船長の声が、暗闇の中に消えた。洋上は、すこし風が出てきた。

(ふなばたから、なみがしきりにぱしゃんぱしゃんと、しぶきを)

舷(ふなばた)から、波がしきりにぱしゃんぱしゃんと、しぶきを

(あげてとびこむ。 「さあ、げんきをだしてこぐんだ。あと2じかんもすれば、)

あげてとびこむ。 「さあ、元気を出して漕ぐんだ。あと二時間もすれば、

(よるがしらむだろう」 じむちょうは、おおきなこえで、いちどうにげんきをつけた。)

夜が白むだろう」  事務長は、大きなこえで、一同に元気をつけた。

(そのときであった。 「あっ、ふねが!おおきなふねがとおる」)

そのときであった。 「あっ、船が! 大きな船が通る」

(「えっ、おおきなふねがとおるって、それはどこだ?」 「あそこだ。あそこと)

「えっ、大きな船が通るって、それはどこだ?」 「あそこだ。あそこと

(いってもみえないかもしれないが、さげんぜんぽうだ」 「えっ、さげんぜんぽうか」)

いっても見えないかもしれないが、左舷前方だ」 「えっ、左舷前方か」

(いちどうは、そのほうをふりかえった。なるほどくらいかいじょうを、せんたいをあおじろくひからせた)

一同は、その方をふりかえった。なるほど暗い海上を、船体を青白く光らせた

(ふねのかたちのようなものが、すーうととおりすぎようとしている。 「あっ、あれか。)

船の形のようなものが、すーうと通りすぎようとしている。 「あっ、あれか。

(かなりおおきなふねじゃないか。よぼうや」 「まて。うっかりしたことはするな。)

かなり大きな船じゃないか。呼ぼうや」 「待て。うっかりしたことはするな。

(だいいちあのふねをみろ。むとうでとおっているじゃないか。あれじゃないかなあ。)

第一あの船を見ろ。無灯で通っているじゃないか。あれじゃないかなあ。

(わじままるへぎょらいをぶっぱなしたのは」 「ふん、そうかもしれない。)

和島丸へ魚雷をぶっぱなしたのは」 「ふん、そうかもしれない。

(すると、うっかりよべないや」)

すると、うっかり呼べないや」

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