幽霊船の秘密5 海野十三

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SOS信号受けて貨物船が向かった先には船がなく…

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問題文

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(ひばなするせんぷく さえきせんちょうも、おどろくめでそのあおじろくひかるかいせんを)

【火花する船腹】  佐伯船長も、おどろく眼でその青白く光る怪船を

(じっとみつめていた。 ふしぎなふねもあるものだ。まるでゆうれいせんが)

じっと見つめていた。  ふしぎな船もあるものだ。まるで幽霊船が

(とおっているとしかみえない。 「せんちょう、こころみにあのふねをうってみては)

通っているとしか見えない。 「船長、試みにあの船を撃ってみては

(どうでしょうか。ここに1ちょうしょうじゅうをもってきています」 しょうじゅうでゆうれいせんを)

どうでしょうか。ここに一挺小銃を持ってきています」  小銃で幽霊船を

(うってみるか。それもいいだろう。しかしまんいちあれがほんとうのゆうれいせんでなく、)

撃ってみるか。それもいいだろう。しかし万一あれが本当の幽霊船でなく、

(どこかのぐんかんででもあったとしたら、そのときはこっちはとんだめに)

どこかの軍艦ででもあったとしたら、そのときはこっちはとんだ目に

(あわなければならない。 「まあまて。けっしてうつな」)

あわなければならない。 「まあ待て。決して撃つな」

(せんちょうは、はやるせんいんをおさえた。そのときだい2ごうのぼーとがせんちょうののっている)

船長は、はやる船員をおさえた。そのとき第二号のボートが船長ののっている

(だい1ごうていにちかづいて、しきりにしんごうとうをふっている。 「せんちょう、だい2ごうていから)

第一号艇にちかづいて、しきりに信号灯をふっている。 「船長、第二号艇から

(しんごうです」 「おお、なんだ」)

信号です」 「おお、なんだ」

(「むでんぎしのまるおからのほうこくです。さっきかれはますとのうえからたんしょうとうで)

「無電技士の丸尾からの報告です。さっき彼は檣(マスト)のうえから探照灯で

(ようじょうをさがしたところ、ふきんかいじょうに1そうのかもつせんらしいむとうのふねをはっけんした。)

洋上をさがしたところ、附近海上に一艘の貨物船らしい無灯の船を発見した。

(そのふねがいまさげんむこうをとおるというのです」 「そうか。わかったと)

その船が今左舷向こうを通るというのです」 「そうか。分かったと

(へんじをしろ」 せんちょうはおおきくうなずいた。あやしいふねだ。せんちょうは、なおもじっと、)

返事をしろ」  船長は大きく肯いた。怪しい船だ。船長は、なおもじっと、

(とおりすぎようとするあおじろいかいせんのぼんやりしたかたちをみまもっていたが、)

通りすぎようとする青白い怪船のぼんやりした形を見守っていたが、

(なにおもったか、 「おい、しょうじゅうをもっているのはかいたにだったな」)

なに思ったか、 「おい、小銃を持っているのは貝谷だったな」

(「はい、かいたにです」 「よしかいたに。かまうことはないからあのふねへいっぱつだけ)

「はい、貝谷です」 「よし貝谷。かまうことはないからあの船へ一発だけ

(しょうじゅうをうってみろ。きっすいよりすこしうえのせんぷくをねらうんだ」)

小銃をうってみろ。吃水よりすこし上の船腹を狙うんだ」

(「はい、こころえました」 しばらくすると、どーんとじゅうせいいっぱつしおかぜふく)

「はい、心得ました」  しばらくすると、どーんと銃声一発汐風ふく

(くらいようじょうのくうきをゆりうごかした。しゃていはわずかに100めーとるぐらいだから、)

暗い洋上の空気をゆりうごかした。射程はわずかに百メートルぐらいだから、

など

(みごとにめいちゅうである。 せんちょうはじっとかいせんのほうをみつめていたが、)

見事に命中である。  船長はじっと怪船の方をみつめていたが、

(だんがんがかいせんのせんぷくにめいちゅうしてぱっとひばながちったのをみとめた。 「ははあ、)

弾丸が怪船の船腹に命中してぱっと火花が散ったのを認めた。 「ははあ、

(そうか。ゆうれいせんだとおもったが、だんがんがあたってひばながでるようでは、)

そうか。幽霊船だと思ったが、弾丸があたって火花が出るようでは、

(やはりほんもののてっぱんをはったふねなんだ。じゃあ、いまにあのふねは、さわぎだすだろう。)

やはり本物の鉄板を張った船なんだ。じゃあ、今にあの船は、騒ぎだすだろう。

(おいみんな、ゆだんするな」 せんちょうはこえをはげましていった。だが、ぼーとから)

おいみんな、油断するな」  船長は声をはげましていった。だが、ボートから

(うたれたかいせんは、しーんとしずまりかえって、いまやぜんぽうをすーっと)

撃たれた怪船は、しーんとしずまりかえって、今や前方をすーっと

(とおりすぎてゆく。 「これはへんだな」と、せんちょうはこくびをかしげた。)

通りすぎてゆく。 「これはへんだな」と、船長は小首をかしげた。

(せんちょうのかんがえでは、しょうじゅうでうたれたのだからいくらねぼうでもかんぱんへ)

船長の考えでは、小銃でうたれたのだからいくら寝坊でも甲板へ

(とびあがってきて、こっちへむいてさわぐだろうとおもったのに、それがすっかり)

とびあがってきて、こっちへむいて騒ぐだろうと思ったのに、それがすっかり

(あてはずれになった。かれはおもいきって、つぎのけっしんをしなければならなかった。)

あてはずれになった。彼は思いきって、次の決心をしなければならなかった。

(「おい、かいたにいるか」 「はい、おりますよ。もっとうちますか」)

「おい、貝谷居るか」 「はい、居りますよ。もっと撃ちますか」

(「うん、うて。わたしがごうれいをかけるごとにいっぱつずつうってみろ。ねらいどころは、)

「うん、撃て。私が号令をかけるごとに一発ずつ撃って見ろ。狙いどころは、

(さっきとおなじところだ」 「よし。ではいいか。いっぱつうて!」)

さっきとおなじところだ」 「よし。ではいいか。一発撃て!」

(どーんと、はげしいじゅうせいだ。だんがんはかーんとせんぷくにあたってまたちかっと)

どーんと、はげしい銃声だ。弾丸はかーんと船腹にあたってまたちかっと

(ひばながでた。だがあおじろいかいせんは、やはりはやしのようにしずかであった。)

火花がでた。だが青白い怪船は、やはり林のようにしずかであった。

(「もういっぱつだ。うて!」 そうして3はつのだんがんをむなしくつかいはたして、)

「もう一発だ。撃て!」  そうして三発の弾丸を空しくつかいはたして、

(なんのてごたえもなかった。 ゆうれいせんか、そうでないか。ーーたしかにてっぱんの)

なんの手応えもなかった。  幽霊船か、そうでないか。――たしかに鉄板の

(はってあるふねらしいが、だれもでてこないとはどうしたわけだ。 そのうちに、)

張ってある船らしいが、誰も出てこないとはどうしたわけだ。  そのうちに、

(かいせんはふなあしをはやめて、ぼーとたいからまったくみえなくなってしまった。)

怪船は船足をはやめて、ボート隊から全く見えなくなってしまった。

(なんだかきつねにはなをつままれたようだ。 せんちょうはむごんでかんがえにふける。)

なんだか狐に鼻をつままれたようだ。  船長は無言で考えにふける。

(ようじょうにかぜはだんだんふきつける。 4そうのぼーとのうんめいはどうなるのであろうか)

洋上に風はだんだん吹きつける。 四艘のボートの運命はどうなるのであろうか

(ふうろうあらし せんぷくがあおじろくひかるむとうのかいきせんは、やみにまぎれてどこかへ)

【風浪あらし】  船腹が青白く光る無灯の怪汽船は、闇にまぎれてどこかへ

(いってしまった。あとには、4せきのそうなんぼーとが、たがいにはなれまいとして、)

いってしまった。あとには、四隻の遭難ボートが、たがいに離れまいとして、

(やみのなかにしんごうとうをふりながらようじょうをただよってゆく。かぜがしだいにふきつのってくる。)

闇の中に信号灯をふりながら洋上を漂ってゆく。風が次第に吹きつのってくる。

(ぼーとのゆれはだんだんとおおきくなる。 だい1ごうていには、さえきせんちょうが)

ボートの揺れはだんだんと大きくなる。  第一号艇には、佐伯船長が

(じっとかんがえこんでいた。 (いったいどうしたというのであろう。なんぱせんが)

じっと考えこんでいた。 (一体どうしたというのであろう。難破船が

(あるというむでんによって、じんめいをすくうためげんばまでいってみれば、それらしい)

あるという無電によって、人命をすくうため現場までいってみれば、それらしい

(せんえいはなくて、あのふきつなくろりぼんのはなわがただよっていた。とたんにぎょらいのこうげきを)

船影はなくて、あの不吉な黒リボンの花輪が漂っていた。とたんに魚雷の攻撃を

(うけて、くやしくもほんせんはたくさんのかもつとともにかいていふかくしずんでしまった。)

うけて、口惜しくも本船はたくさんの貨物とともに海底ふかく沈んでしまった。

(それからぼーとにのってようじょうをただよっていると、そこへあのおそろしいむとうのきせんだ。)

それからボートにのって洋上を漂っていると、そこへあの恐しい無灯の汽船だ。

(なぜほんせんをしずめなければならなかったか。そしてほんせんのてきは、)

なぜ本船を沈めなければならなかったか。そして本船の敵は、

(いったいなにものだろうか) どうかんがえてみても、そのわけがわからない。)

一体なに者だろうか)  どう考えてみても、そのわけが分らない。

(それはようじょうであったさいなんで、わじままるであろうとほかのふねであろうとどれでも)

それは洋上で会った災難で、和島丸であろうと他の船であろうとどれでも

(よかったのだとすれば、なんというふうんなできごとだろう。)

よかったのだとすれば、なんという不運な出来ごとだろう。

(せんちょうが、とつおいつ、ふくめんのてきにたいしてこののちどうしようかとしあんに)

船長が、とつおいつ、覆面の敵に対してこののちどうしようかと思案に

(くれていたとき、そばにいたふるやきょくちょうが、くらやみのなかからこえをかけた。 「せんちょう、)

くれていたとき、そばにいた古谷局長が、暗闇の中から声をかけた。 「船長、

(ふうろうがはげしくなってきて、ほかのぼーとがだんだんはなれてゆくようです。)

風浪がはげしくなってきて、他のボートがだんだん離れてゆくようです。

(このままでは、ばらばらになるかもしれません」 「おおそうか」)

このままでは、ばらばらになるかもしれません」 「おおそうか」

(せんちょうは、はっとかおをあげて、ようじょうをみまわした。なるほど、ほかのぼーとに)

船長は、はっと顔をあげて、洋上を見まわした。なるほど、他のボートに

(ついているしんごうとうが、たいへんちいさくなったようだ。そしてそのとうかがじょうげへ)

ついている信号灯が、たいへん小さくなったようだ。そしてその灯火が上下へ

(はげしくゆれている。 )

はげしく揺れている。

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