幽霊船の秘密8 海野十三

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SOS信号受けて貨物船が向かった先には船がなく…

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問題文

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(「せんちょう、ぼーとのなかになにがみえます?」 「うむ」)

「船長、ボートの中になにが見えます?」 「うむ」

(さえきせんちょうは、ぼうえんきょうをめからひきはなすようにおろして、ほっとためいきをついた。)

佐伯船長は、望遠鏡を眼からひき離すように下ろして、ほっと溜息をついた。

(それはまるであくむからさめたひとのようであった。せんちょうは、なにかしらないが、)

それはまるで悪夢からさめた人のようであった。船長は、なにかしらないが、

(ぼーとのなかにおもいがけないものをはっけんしたらしいのである。)

ボートの中に思いがけないものを発見したらしいのである。

(「せんちょう、なにがみえましたか」 きょくちょうにさいそくされて、せんちょうは、いまはもう)

「船長、なにが見えましたか」  局長にさいそくされて、船長は、いまはもう

(しかたがないとあきらめたように、 「おう、みなよくきけ。わしはぼうえんきょうをとって)

仕方がないとあきらめたように、 「おう、皆よく聞け。わしは望遠鏡をとって

(あそこにひょうりゅうする2ごうていぼーとをしさいにみたのだ。ところが、まえにわしは)

あそこに漂流する二号艇ボートを仔細に見たのだ。ところが、前にわしは

(ぼーとのうえにかいもなければ、ひとかげもないといったが、いまよくみてみると、)

ボートのうえに櫂もなければ、人影もないといったが、いまよく見てみると、

(ぼーとのなかは、ぜんぜんからっぽではなかった」 せんちょうは、わざとまわりくどい)

ボートの中は、全然空っぽではなかった」  船長は、わざとまわりくどい

(いいかたをしているようであった。 「で、なにが2ごうていないにみえるのですか。)

いい方をしているようであった。 「で、なにが二号艇内に見えるのですか。

(せんちょう、はやくいってください」 「ちだ、ちだ!2ごうていのなかは、)

船長、はやくいってください」 「血だ、血だ! 二号艇のなかは、

(ちだらけなんだ」 「えっ!」)

血だらけなんだ」 「えっ!」

(せんいんたちはおどろきのあまり、おもわずかいのてをゆるめた。ぼーとは、ぐぐっと)

船員たちはおどろきのあまり、思わず櫂の手をゆるめた。ボートは、ぐぐっと

(かたむき、いまにもひっくりかえりそうになった。 「おう、しっかりこげ、にほんの)

傾き、いまにもひっくりかえりそうになった。 「おう、しっかり漕げ、日本の

(ふなのりが、こんなことぐらいでこしをぬかしてどうするのか。さあ、はやく2ごうていへ)

船乗が、こんなことぐらいで腰をぬかしてどうするのか。さあ、はやく二号艇へ

(こぎよせろ」 せんちょうは、ふなばたをぴしゃぴしゃたたいて、せんいんたちをしかりつけた。)

漕ぎよせろ」  船長は、舷をぴしゃぴしゃ叩いて、船員たちを叱りつけた。

(1ごうていは、またやのようにかいめんをはしりだした。こぎてたちは、おどろきを)

一号艇は、また矢のように海面を走りだした。漕ぎ手たちは、おどろきを

(おさえて、ひたむきにこいだ。 「かいやすめ」ーーせんちょうのごうれいがかかった。)

おさえて、ひたむきに漕いだ。 「櫂やすめ」――船長の号令がかかった。

(こぎてたちは、はじめてさゆうをふりかえった。2ごうていは、もうてをのばせば)

漕ぎ手たちは、はじめて左右をふりかえった。二号艇は、もう手をのばせば

(ふれんばかりのちかくにあった。かれらのめは、でんこうのようにはやく、2ごうていの)

触れんばかりの近くにあった。彼等の眼は、電光のように早く、二号艇の

など

(うえにおちた。 「あっ。ひでえことになっていらあ」)

うえにおちた。 「あっ。ひでえことになっていらあ」

(「おお、これはいったいどうしたというわけだろう?」 「あ、あんなところに)

「おお、これは一体どうしたというわけだろう?」 「あ、あんなところに

(ちぎれたうでが」 2ごうていのなかのことを、どのようにかきつづれば)

千切れた腕が」  二号艇のなかのことを、どのように書きつづれば

(いいであろうか。あまりのさんじょうに、かきあらわすもじをしらない。)

いいであろうか。あまりの惨状に、書きあらわす文字を知らない。

(とにかくていないは、ちしぶきでかおをそむけたいほどのさんじょうをていしていた。)

とにかく艇内は、血しぶきで顔をそむけたいほどの惨状を呈していた。

(まんぞくなからだをもったにんげんは、ただのひとりもていないにはっけんされなかったけれど、)

満足な身体をもった人間は、ただの一人も艇内に発見されなかったけれど、

(ちぎれたうでやあしや、そのほかたしかにじんこつとおもわれるものがちにまみれて、)

千切れた腕や脚や、そのほかたしかに人骨と思われるものが血にまみれて、

(ていないにおびただしくちらばっていた 「なんということだろう、このこうけいは?」)

艇内におびただしくちらばっていた 「なんということだろう、この光景は?」

(おちつきせんちょうとしてゆうめいなさえきも、このおもいがけないりょうていのさんじょうに、)

おちつき船長として有名な佐伯も、この思いがけない僚艇の惨状に、

(かおのいろをうしなった。)

顔の色をうしなった。

(なぞのさききず 「これは、そうなんしてひょうりゅうちゅう、なかまどうしでけんかしたのじゃ)

【謎の裂き傷】 「これは、遭難して漂流中、仲間同志で喧嘩したのじゃ

(ありませんか。そこで、じゃっくないふでたがいにわたりあって、こんなことに)

ありませんか。そこで、ジャック・ナイフでたがいに渡りあって、こんなことに

(なった!」 せんいんのひとりが、このひどいこうけいにせつめいをこころみた。)

なった!」  船員の一人が、このひどい光景に説明をこころみた。

(もっともなかんがえかたであった。 だがせんちょうは、すぐそれにはんたいした。)

もっともな考え方であった。  だが船長は、すぐそれに反対した。

(「いや、ちがう。それはちがうだろう」 「でもそうとしかかんがえられませんね」)

「いや、ちがう。それはちがうだろう」 「でもそうとしか考えられませんね」

(「たしかにそれはちがう。だいいち、われわれのなかまがこんなひどいさつじんがっせんを)

「たしかにそれはちがう。第一、われわれの仲間がこんなひどい殺人合戦を

(やるとはかんがえられない。だいにに、もしそんなことがあったとしても、)

やるとは考えられない。第二に、もしそんなことがあったとしても、

(じんこつばかりにするというようなひどいころしかたをやるものが、われわれなかまにあろう)

人骨ばかりにするというようなひどい殺し方をやる者が、われわれ仲間にあろう

(とはしんじられない。しかもきのうのきょうのことだからね」 せんちょうは、さすがに)

とは信じられない。しかも昨日の今日のことだからね」  船長は、さすがに

(めのつけどころがちがっていた。 どんなけんかのたねがあったにしろ、)

眼のつけどころがちがっていた。  どんな喧嘩のたねがあったにしろ、

(わずかいちやのうちに20めいいじょうもあったにごうていののりくみいんがひとりもみえなくなり)

わずか一夜のうちに、二十名以上もあった二号艇の乗組員が一人も見えなくなり

(じんこつとちぎれたてあしだけをのこすばかりとなったとはかんがえられない。)

人骨と千切れた手足だけをのこすばかりとなったとは考えられない。

(せんちょうは、じぶんのむねのうちをつめたいはものがさしつらぬいてゆくように)

船長は、自分の胸のうちを冷たい刃物がさしつらぬいてゆくように

(かんじたのだった。 せんいんたちは、きゅうにだまりこんでしまった。みればみるほど)

感じたのだった。  船員たちは、急にだまりこんでしまった。見れば見るほど

(めをそむけたいようなさんじょうである。あのしたしかったなかまのだれかれは、)

眼をそむけたいような惨状である。あの親しかった仲間の誰かれは、

(いったいどうなったのであろうか。なにごとかはわからないが、この2ごうていの)

一体どうなったのであろうか。なにごとかはわからないが、この二号艇の

(のりくみいんたちをみなごろしにしたふきつなしのかげは、いつまた1ごうていのうえに)

乗組員たちをみな殺しにした不吉な死の影は、いつまた一号艇のうえに

(おちてくるかわからないのだ。 ふるやきょくちょうは、さっきからだまりこくって、)

おちてくるか分らないのだ。  古谷局長は、さっきからだまりこくって、

(2ごうていのむざんなこうけいにむかっていた。かれは、あの2ごうていにのりこんでいたぶかの)

二号艇の無慚な光景にむかっていた。彼は、あの二号艇にのりこんでいた部下の

(まるおぎしのあんぴについて、いろいろとかんがえていたのだ。あのこうせいねんも、)

丸尾技士の安否について、いろいろと考えていたのだ。あの好青年も、

(ついにおなじのがれられないうんめいのもとにしんでいったのであろう。)

ついにおなじ脱れられない運命のもとに死んでいったのであろう。

(ひょっとすると、あそこにちらばっているちぎれたてくびが、でんけんをにぎっては)

ひょっとすると、あそこに散らばっている千切れた手首が、電鍵を握っては

(かなうもののない、あのまるおぎしのてくびであるかもしれないのだ。そんなふうな、)

かなうもののない、あの丸尾技士の手首であるかもしれないのだ。そんな風な、

(なさけないおもいにむねをいためていたふるやきょくちょうのめにさっきからやきついて)

なさけない想いに胸をいためていた古谷局長の眼にさっきから灼きついて

(はなれない2ごうていのそこにころがっているひとつのてくびがあった。そのてくびは、なにか)

離れない二号艇の底にころがっている一つの手首があった。その手首は、なにか

(くちでもあるかのように、きょくちょうによびかけているようであった。 「はてーー」)

口でもあるかのように、局長によびかけているようであった。 「はて――」

(きょくちょうは、かいをかりて、2ごうていのちのうみのなかから、きになるそのてくびをそっと)

局長は、櫂を借りて、二号艇の血の海のなかから、気になるその手首をそっと

(すくいあげた。そしてそのままてもとへひきよせたのである。)

すくいあげた。そしてそのまま手もとへひきよせたのである。

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