幽霊船の秘密9 海野十三

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SOS信号受けて貨物船が向かった先には船がなく…

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問題文

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(「うむ、やっぱりそうだった」 きょくちょうのめがひかった。かれはさえきせんちょうのほうを)

「うむ、やっぱりそうだった」  局長の眼が光った。彼は佐伯船長の方を

(むいてさけんだ。 「せんちょう、これをみてください。このてくびは、なにかてがみらしい)

むいて叫んだ。 「船長、これを見てください。この手首は、なにか手紙らしい

(ものをしっかとにぎっています」 「おおそうか。こっちへよこせ」)

ものをしっかと握っています」 「おおそうか。こっちへよこせ」

(せんちょうは、きょくちょうとふたりがかりで、そのてくびがつかんでいるてがみのようなものを)

船長は、局長と二人がかりで、その手首がつかんでいる手紙のようなものを

(ひきはなした。それはたしかにてがみだった。てちょうをやぶってそのうえにはしりがきに)

ひき離した。それはたしかに手紙だった。手帳を破ってそのうえに走り書に

(したためたものであった。てくびがとんでも、なおしっかりにぎりしめていた)

したためたものであった。手首がとんでも、なおしっかり握りしめていた

(そのてがみというのには、いったいなにがかいてあったろうか。 「おお、これはまるおが)

その手紙というのには、一体何が書いてあったろうか。 「おお、これは丸尾が

(かいたものだ」 せんちょうが、びっくりしたようにいった。)

書いたものだ」  船長が、びっくりしたようにいった。

(「うむ、これはたいへんなことがかいてある。ーー「ゆうれいせん」にちかよるな。)

「うむ、これはたいへんなことが書いてある。――『幽霊船』ニチカヨルナ。

(われらは」ちえっざんねん!そのあとがやぶれていてわからない。つぎのぎょうになって)

ワレラハ」ちえっ残念! そのあとが破れていて分らない。次の行になって

(「は、にんげんよりもおそろしい」で、またあとがきれている」 ゆうれいせんに)

『ハ、人間ヨリモ恐ロシイ』で、またあとが切れている」  幽霊船に

(ちかよるな、われらは・・・・・・?にんげんよりもおそろしい・・・・・・?ーーこれが、まるおぎしの)

近よるな、吾等は……?人間よりもおそろしい……?ーーこれが、丸尾技士の

(いしょだった。 「さあ、どういういみだかよくわからないが、ーー」)

遺書だった。 「さあ、どういう意味だかよくわからないが、――」

(とせんちょうはいって、 「とにかく、ゆうれいせんにちかよるな、にんげんよりもおそろしいやつが)

と船長はいって、 「とにかく、幽霊船に近よるな、人間よりも恐ろしい奴が

(いるぞ、ちゅういしろーーと、こういうわけなんだろう。まるおは、われわれを)

いるぞ、注意しろ――と、こういうわけなんだろう。丸尾は、われわれを

(たすけようがためにこんなからだになるまでがんばったんだ。なんていさましいおとこだろう」)

助けようがためにこんな身体になるまで頑張ったんだ。なんて勇しい男だろう」

(せんちょうは、おもわずかんたんのこえをはなったが、それはほかの23めいののりくみいん)

船長は、おもわず感嘆のこえを放ったが、それは他の二十三名の乗組員

(だれものおもいでもあった。 それはそれでいいとして、そのつぎに、)

だれもの想いでもあった。  それはそれでいいとして、その次に、

(この24にんのいきのこりのせんいんたちをひどくおどかすものがのこっていた。)

この二十四人の生残りの船員たちをひどく脅かすものが残っていた。

(「にんげんよりもおそろしい!」というもんくが、いったいなにをさしていっているか)

『人間よりも恐ろしい!』という文句が、一体なにをさしていっているか

など

(ということであった。 ゆうれいせんだから、にんげんよりおそろしいやつというのは、)

ということであった。  幽霊船だから、人間より恐ろしい奴というのは、

(ゆうれいのことなのであろうか。いやいや、ゆうれいなどというものはこのよにないと)

幽霊のことなのであろうか。いやいや、幽霊などというものはこの世にないと

(きいている。だいいちゆうれいがむでんなどをうつであろうか。だがこのきかいきわまる)

聞いている。第一幽霊が無電などをうつであろうか。だがこの奇怪きわまる

(こうけいをながめていると、おしまいにはこれをちょうじんてきなゆうれいのしわざとでも)

光景をながめていると、おしまいにはこれを超人的な幽霊の仕業とでも

(しなければ、せつめいがつかなかった。)

しなければ、説明がつかなかった。

(ゆうれいせんあらわる むでんぎしまるおのいしょは、あまりにかんたんであったため、)

【幽霊船現わる】  無電技士丸尾の遺書は、あまりに簡単であったため、

(2ごうていにのりくんでいた20なんめいかのせんいんのさいごをかたりつくしていたとは)

二号艇に乗組んでいた二十何名かの船員の最期を語りつくしていたとは

(いえなかった。 だが、まったくいしょがないばあいよりも、はるかによかった。)

いえなかった。  だが、まったく遺書がない場合よりも、はるかによかった。

(すなわち「ゆうれいせん」にしてやられたらしいこと、そこには「にんげんより)

すなわち「幽霊船」にしてやられたらしいこと、そこには「人間より

(おそろしい」なにものかがいるらしいことが、おぼろげながらわかったからである。)

おそろしい」何者かがいるらしいことが、おぼろげながら分ったからである。

(まるおのいしょがしれわたると、1ごうていのひとたちは、やぶれかかった2ごうていのなかを、)

丸尾の遺書が知れわたると、一号艇の人たちは、破れかかった二号艇の中を、

(あらためてみなおした。それはさんじょうのうちにもなにかもっとかれらにやくだつことが)

あらためて見なおした。それは惨状のうちにもなにかもっと彼等に役立つことが

(ありはしないかとおもったからであった。 「おれは、だんぜんこのあだうちを)

ありはしないかとおもったからであった。 「おれは、だんぜんこの仇うちを

(しなければはらがいえないんだ。ゆうれいせんをみつけしだい、おれはそのうえに)

しなければ腸が癒えないんだ。幽霊船をみつけ次第、おれはそのうえに

(とびのってやる。そしてゆうれいどもを、これでぶったぎってやるんだ」)

飛びのってやる。そして幽霊どもを、これでぶった斬ってやるんだ」

(そういって、こしのじゃっくないふをにぎりしめるせんいんもあった。 「おいおい)

そういって、腰のジャック・ナイフを握りしめる船員もあった。 「おいおい

(あれをみろ。あのとおり、うでをひきさきやがった。いちどきりつけただけでは)

あれを見ろ。あのとおり、腕をひき裂きやがった。一度斬りつけただけでは

(たりないで、みすじもよすじもきりつけてある」 「うん、まるでふぉーくを)

足りないで、三筋も四筋も斬りつけてある」 「うん、まるでフォークを

(つきこんで、ひきさいたようだなあ」 「ああ、もうじゅうのつめにひきさかれた)

つきこんで、ひき裂いたようだなあ」 「ああ、猛獣の爪にひき裂かれた

(ようではないか」 せんちょうは、かれらのかいわをきいて、ともになみだをのんだ。)

ようではないか」  船長は、彼等の会話をきいて、ともに涙をのんだ。

(2ごうていにはかいがなかったが、1ごうていにはぎっしりひとがのっていたので、)

二号艇には櫂がなかったが、一号艇にはぎっしり人がのっていたので、

(そのいちぶが2ごうていにのりうつることにした。 ふるやきょくちょうと、かいたにというしゃげきの)

その一部が二号艇にのりうつることにした。  古谷局長と、貝谷という射撃の

(うまいせんいんと、そのほか6めいのせんいんがのりこんだ。こうしてふたてにわかれて、)

うまい船員と、そのほか六名の船員がのりこんだ。こうして二手にわかれて、

(またうみをただようことにした。 2ごうていへのりこんだふるやきょくちょうは、いちどうを)

また海を漂うことにした。  二号艇へのりこんだ古谷局長は、一同を

(さしずして、ていないのちをあらったり、りょうゆうのいがいのいちぶぶんをかたづけたりした。)

さしずして、艇内の血を洗ったり、僚友の遺骸の一部分を片づけたりした。

(そのうちにたいようはだんだんにしのすいへいせんにかたむき、おおぞらいっぱいに、ごうかいなる)

そのうちに太陽はだんだん西の水平線に傾き、大空一杯に、豪快なる

(ゆうやけがひろがった。 「どうも、あのくもがきになるね」)

夕焼がひろがった。 「どうも、あの雲が気になるね」

(などといっているうちに、にゅうどうぐもがくずれだした。それはとくべつにはいいろがかった)

などといっているうちに、入道雲がくずれだした。それは特別に灰色がかった

(おおきいやつで、したのほうがけむりのようなもののなかにかくれていた。 「おい、ひとあめ)

大きい奴で、下の方が煙のようなものの中に隠れていた。 「おい、一雨

(やってくるぜ。いまぴかりとひかったよ」 「おう、にゅうどうぐものなかでひかったね。)

やってくるぜ。いまぴかりと光ったよ」 「おう、入道雲の中で光ったね。

(うむ、かぜがでてきたぞ。これはまたやられるか」 なにしろたすけをよぶにも、)

うむ、風が出てきたぞ。これはまたやられるか」  なにしろ助けを呼ぶにも、

(どこにも1せきのせんえいさえみえないのである。かいをにぎるにもあてはなし、ふうろうの)

どこにも一隻の船影さえ見えないのである。櫂を握るにもあてはなし、風浪の

(まにまにただよってゆくよりほかにしかたがないみのうえであった。そこへいちじてきの)

まにまに漂ってゆくより外に仕方がない身の上であった。そこへ一時的の

(らいうにしろ、きかつとひろうとによわっているところをたたかれるみはつらい)

雷雨にしろ、飢渇と疲労とに弱っているところを叩かれる身はつらい

(ことであった。 そうこうしているうちに、うみはしろいなみがしらをみせてあれてきた)

ことであった。  そうこうしているうちに、海は白い波頭を見せて荒れてきた

(ぽつり、ぽつりとおちてくるおおつぶのあめ! やがてあたりはまっくらになり、)

ぽつり、ぽつりとおちてくる大粒の雨!  やがてあたりは真暗になり、

(ぼんをひっくりかえしたようなごううとなった。それにまじって、どろんどろんと)

盆をひっくりかえしたような豪雨となった。それに交って、どろんどろんと

(ちじくもさけんばかりにらいめいはとどろく。 「おいはなれるな」)

地軸もさけんばかりに雷鳴はとどろく。 「おい離れるな」

(「おう、かじをとられるな」 2そうのぼーとはたがいにひっしのこえでさけびあう。)

「おう、舵をとられるな」  二艘のボートはたがいに必死のこえで叫びあう。

(どこがうみだかそらだかわからない。そのときだった。 「あっ、ゆうれいせんがとおる!」)

どこが海だか空だか分らない。そのときだった。 「あっ、幽霊船が通る!」

(えっ、ゆうれいせん!」 はいいろのかべのようなあまあしのなかに、1せきのきょせんがおともなく)

えっ、幽霊船!」  灰色の壁のような雨脚の中に、一隻の巨船が音もなく

(すべってゆく。2300めーとるのちかくであった。まさしくゆうれいせんだ!)

滑ってゆく。二三百メートルの近くであった。まさしく幽霊船だ!

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