ああ玉杯に花うけて 第十部 2

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プレイ回数356難易度(4.5) 4776打 長文
大正時代の少年向け小説!
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順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 りっつ 5306 B++ 5.4 97.3% 864.4 4714 127 69 2024/04/21
2 Par100 4145 C 4.2 97.6% 1110.4 4715 112 69 2024/04/23

関連タイピング

問題文

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(「ばかっ、きさまはいしゃのこからわいろをもらってるからそんなことを)

「ばかッ、きさまは医者の子からわいろをもらってるからそんなことを

(いうんだろう、だれがなんといってもおれはなぐる、あいつはいったいこりこうで)

いうんだろう、だれがなんといってもおれはなぐる、あいつは一体小利口で

(いんけんだぞ」「そうだそうだ」とみながさんせいした。「いつかせいばんかんにんぐじけんの)

陰険だぞ」「そうだそうだ」とみなが賛成した。「いつか生蕃カンニング事件の

(ときにもせいばんはてづかのぎせいにされたんだぞ」こういうものもあった。)

ときにも生蕃は手塚の犠牲にされたんだぞ」こういうものもあった。

(「まってくれ」とこういちはいった。「いったいてづかのなにがわるいんだ、もんだいのようてんが)

「待ってくれ」と光一はいった。「一体手塚のなにが悪いんだ、問題の要点が

(ぼくにわからないからせつめいしてくれたまえ」「いんしょくてんへでいりするがわるいよ」)

ぼくにわからないから説明してくれたまえ」「飲食店へ出入りするが悪いよ」

(としょうぎたいがいった。「それはね、がくせいとしていいことではないが、)

と彰義隊がいった。「それはね、学生としていいことではないが、

(ぼくらだってそばがくいたかったり、しるこやへはいることもあるからてづか)

ぼくらだってそばが食いたかったり、しるこ屋へはいることもあるから手塚

(ばかりはせめられないよ」とこういちはいった。「かつどうをみにゆくのはけしからん」)

ばかりは責められないよ」と光一はいった。「活動を見にゆくのはけしからん」

(「しかし、しょくんのなかにかつどうをみないひとがあるかね、どうだ」こういちはよにんを)

「しかし、諸君の中に活動を見ない人があるかね、どうだ」光一は四人を

(みまわした、いちどうはだまった。「おんなとがっそうしたり、てがみをやりとりするのは)

見まわした、一同はだまった。「女と合奏したり、手紙をやりとりするのは

(どうだ」「それはぼくもよくないとおもう、しかしそんなことはちゅうこくで)

どうだ」「それはぼくもよくないと思う、しかしそんなことは忠告で

(すむことだ、いちどちゅうこくしてきかなかったらそのときにだいにのほうほうをかんがえよう)

すむことだ、一度忠告してきかなかったらそのときに第二の方法を考えよう

(じゃないか、ぼくはせいばんのことでこりた、せいばんはけっしてわるいやつじゃなかった、)

じゃないか、ぼくは生蕃のことでこりた、生蕃は決して悪いやつじゃなかった、

(だがあのときしょくんがぼくにどうじょうしてせいばんをこんていからにくんだ、そのためにかれは)

だがあのとき諸君がぼくに同情して生蕃を根底からにくんだ、そのために彼は

(ふたたびがっこうへくることができなくなった、ぼくはいつもそれをおもうと、)

ふたたび学校へくることができなくなった、ぼくはいつもそれを思うと、

(われわれはかんじょうにげきしたためにひとりのゆういのせいねんをしゃかいからほうむることに)

われわれは感情に激したためにひとりの有為の青年を社会から葬ることに

(なったことがじつにざんねんでたまらん、ひとをばっするにはしんちょうにかんがえなければならん、)

なったことが実に残念でたまらん、人を罰するには慎重に考えなければならん、

(そうじゃないか」こういちのしんけんなたいどはいちどうのこころをうごかした。)

そうじゃないか」光一の真剣な態度は一同の心を動かした。

(「そういえばそうだ」としょうぎたいはかいぜんといった。「それじゃだれが)

「そういえばそうだ」と彰義隊は快然といった。「それじゃだれが

など

(てづかにちゅうこくするか」「ぼくでよければぼくがいおう」とこういちはいった。)

手塚に忠告するか」「ぼくでよければぼくがいおう」と光一はいった。

(「よし、それできまった、だがもしそれでもはんせいしなかったらそのときには)

「よし、それできまった、だがもしそれでも反省しなかったらそのときには

(だれがなんといってもぼくはあいつをなぐりころすぞ」「よしっ、ぼくは)

だれがなんといってもぼくはあいつをなぐり殺すぞ」「よしッ、ぼくは

(かならずはんせいさしてみせる」かいぎはおわった、こういちはみなとわかれてひとり)

かならず反省さしてみせる」会議はおわった、光一はみなとわかれてひとり

(まちをあるいた。かなしいじょうちょがむねにあふれた。かれはたにんのけってんをいうことは)

町を歩いた。悲しい情緒が胸にあふれた。かれは他人の欠点をいうことは

(なによりきらいであった、ましてそのひとにむかってそのひとをぶじょくするのはしのび)

なにより嫌いであった、ましてその人に向かってその人を侮辱するのは忍び

(えざることである。だがいわねばならぬ、いわねばてづかはなぐられる、)

得ざることである。だがいわねばならぬ、いわねば手塚はなぐられる、

(なぐられるのはかまわないとしたところで、てづかはじぶんのあくじをあくじとおもわずに)

なぐられるのはかまわないとしたところで、手塚は自分の悪事を悪事と思わずに

(ますますだらくするだろう、かれにはびてんがある、だがけってんがおおい、かれはびてんを)

ますます堕落するだろう、かれには美点がある、だが欠点が多い、かれは美点を

(やしなわずにけってんをのみぞうちょうさせている、かくてかれはしゅうせいすくうべからざるふちに)

養わずに欠点をのみ増長させている、かくてかれは終生救うべからざる淵に

(しずむだろう。こうかれはけっしんした。かれはすぐてづかのいえをたずねた。)

しずむだろう。こうかれは決心した。かれはすぐ手塚の家をたずねた。

(ちょうどかってぐちにてづかのははがたっていた、こういちはてづかのははがおりおりしゃみせんを)

ちょうど勝手口に手塚の母が立っていた、光一は手塚の母がおりおり三味線を

(ひいているのをみたことがあるので、いつもなんとなくふつうのひとでないような)

弾いているのを見たことがあるので、いつもなんとなく普通の人でないような

(きがするのであった。「てづかくんは?」「まだがっこうからかえりません」とははが)

気がするのであった。「手塚君は?」「まだ学校から帰りません」と母が

(いった。「いいえおかえりになりました」とじょちゅうがよこあいからこえをだした。)

いった。「いいえお帰りになりました」と女中が横合いから声をだした。

(「そうかえ」「おきかえになってすぐおでましになりました」)

「そうかえ」「お着かえになってすぐおでましになりました」

(「どこへいったんですか」とこういちがきく。)

「どこへいったんですか」と光一がきく。

(「さあどこですか、なんだかたいへんにおいそぎでいらっしゃいました」)

「さあどこですか、なんだか大変にお急ぎでいらっしゃいました」

(「かつどうじゃないかえ」とははがいった。「そうかもしれません」)

「活動じゃないかえ」と母がいった。「そうかも知れません」

(こういちはいちれいしてそとへでた。「かつどうだ、それにちがいない」こういちはてづかのははが)

光一は一礼して外へ出た。「活動だ、それにちがいない」光一は手塚の母が

(へいきで、「かつどうじゃないかえ」といったことばをおもいだした。)

平気で、「活動じゃないかえ」といった言葉をおもいだした。

(あのいえではかつどうをみることをこうぜんゆるしているとみえる、おかあさんがしょうちのうえ)

あの家では活動を見ることを公然ゆるしていると見える、お母さんが承知の上

(なのだ、それにたいしてがっこうがいくらかつどうをきんじてもなんのやくにもたたないはなしだ。)

なのだ、それに対して学校がいくら活動を禁じてもなんの役にもたたない話だ。

(いったいあのいえではてづかががっこうからかえったかどうかもよくしらずにいる、それでは)

一体あの家では手塚が学校から帰ったかどうかもよく知らずにいる、それでは

(てづかがそとでなにをしてるかをしらないのもむりがない。「てづかはふこうなおとこだ」)

手塚が外でなにをしてるかを知らないのも無理がない。「手塚は不幸な男だ」

(こういちはふとこうかんがえるとめがあつくなった、かていにたのしみがないから、)

光一はふとこう考えると目が熱くなった、家庭に楽しみがないから、

(そとにたのしみをもとめるのだ、かつどう、いんしょくてん、ふりょうしょうじょ、あそびのともだち!かくてかれは)

外に楽しみを求めるのだ、活動、飲食店、不良少女、遊びの友達!かくてかれは

(なぐられねばならなくなる。いろいろなかんがいがむねにあふれた、かれはそのまま)

なぐられねばならなくなる。いろいろな感慨が胸に溢れた、かれはそのまま

(あしをかつどうごやにむけた。こういちとてもぜったいにかつどうしゃしんをみないではなかった、)

足を活動小屋に向けた。光一とても絶対に活動写真を見ないではなかった、

(かれはしんぶんやざっしやせけんのうわさにたかいものをいつつむっつはみにいった、だが)

かれは新聞や雑誌や世間のうわさに高いものを五つ六つは見にいった、だが

(かれはいつもたえきれないようなしゅうあくをかんじてかえるのであった。)

かれはいつもたえきれないような醜悪を感じて帰るのであった。

(かつどうかんのまえにごしきのはたがたってしゅんぷうにふかれている、そこからいかにもむちな)

活動館の前に五色の旗が立って春風にふかれている、そこからいかにも無知な

(こもりやじょこうなどがよろこびそうながくたいのおとがもれてきこえる、こやのまえののきのしたに)

子守りや女工などが喜びそうな楽隊の音がもれて聞こえる、小屋の前の軒の下に

(しゃしんがいくつもいくつもかかげられてそのしたにおおぜいのこども、こめやのこぞう、)

写真がいくつもいくつも掲げられてその下に大勢の子供、米屋の小僧、

(こりょうりやのでまえもち、こをせおうじょちゅうなどがむれていた。こういちがだいいちにふゆかい)

小料理屋の出前持ち、子を背負う女中などが群れていた。光一が第一に不愉快

(なのはきっぷのうりばにおおきなあぐらをかいてしりまであらわしているほてい)

なのは切符の売り場に大きなあぐらをかいてしりまであらわしているほてい

(のようなおとこがおうへいなかおをしておきゃくをしためにみおろしていることである、)

のような男が横柄な顔をしてお客を下目に見おろしていることである、

(それとむかいあってえいようふりょうのようなこむすめがあさぎのじむふくをきてきわめて)

それと向かいあって栄養不良のような小娘が浅黄の事務服を着てきわめて

(ひややかにきっぷをうけとる。こういちはそれをがまんしなければならなかった。)

ひややかに切符を受けとる。光一はそれをがまんしなければならなかった。

(くらいまくをくぐってなかにはいるとしょうめんのすくりーんにせいようじんのおんなのかおがあらわれた、)

暗い幕をくぐって中にはいると正面のスクリーンに西洋人の女の顔が現われた、

(うすあかりにけんぶつにんのあたまがみえる、どようびのこととておきゃくはいっぱいである。)

うす明かりに見物人の頭が見える、土曜日のこととてお客は一ぱいである。

(こういちはようやくなかほどへすすんでようやくこしかけのはしにこしをおろした、)

光一はようやく中ほどへ進んでようやくこしかけの端に腰をおろした、

(てづかがきていやしまいかとあたりをみまわしたがくらがりでみえない。じょうないには)

手塚がきていやしまいかとあたりを見まわしたが暗がりで見えない。場内には

(たばこのけむりがもうもうとたちこもってふけつなあくしゅうがのうをあまくするほどにおそうて)

たばこの煙がもうもうと立ちこもって不潔な悪臭が脳を甘くするほどに襲うて

(くる、こしかけといってもそれはきわめてはばのせまいいたをくいにうちつけたもので)

くる、こしかけといってもそれはきわめて幅のせまい板を杭にうちつけたもので

(どうかするとしりがはずれてちにすべりこみそうになる、それをささえているのは)

どうかすると尻がはずれて地にすべりこみそうになる、それを支えているのは

(なかなかよういなことではない、なぜこんなふしんせつなせつびをするかというに、)

なかなか容易なことではない、なぜこんな不親切な設備をするかというに、

(さんとうせきをふじゆうにしておくとおきゃくはすぐつかれてにとうせきにうつるからである。)

三等席を不自由にしておくとお客はすぐ疲れて二等席に移るからである。

(おきゃくをくるしめてかねもうけをしようというこうぎょうしのさくりゃくだからたまらない。)

お客を苦しめて金もうけをしようという興行師の策略だからたまらない。

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