怪人二十面相1 江戸川乱歩

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少年探偵団シリーズ1作目

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問題文

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(はしがき そのころ、とうきょうじゅうのまちというまち、いえといういえでは、)

【はしがき】  その頃、東京中の町という町、家という家では、

(ふたりいじょうのひとがかおをあわせさえすれば、まるでおてんきのあいさつでも)

二人以上の人が顔を合わせさえすれば、まるでお天気の挨拶でも

(するように、かいじん「にじゅうめんそう」のうわさをしていました。)

するように、怪人「二十面相」の噂をしていました。

(「にじゅうめんそう」というのは、まいにちまいにちしんぶんきじをにぎわしている、ふしぎなとうぞくの)

「二十面相」というのは、毎日毎日新聞記事を賑わしている、不思議な盗賊の

(あだなです。そのぞくは20のまったくちがったかおをもっていると)

渾名です。その賊は二十の全く違った顔を持っていると

(いわれていました。つまり、へんそうがとびきりじょうずなのです。)

言われていました。つまり、変装がとびきり上手なのです。

(どんなにあかるいばしょで、どんなにちかよってながめても、すこしもへんそうとは)

どんなに明るい場所で、どんなに近寄って眺めても、少しも変装とは

(わからない、まるでちがったひとにみえるのだそうです。ろうじんにもわかものにも、)

分からない、まるで違った人に見えるのだそうです。老人にも若者にも、

(ふごうにもこじきにも、がくしゃにもぶらいかんにも、いや、おんなにさえも、まったくそのひとに)

富豪にも乞食にも、学者にも無頼漢にも、いや、女にさえも、まったくその人に

(なりきってしまうことができるといいます。 では、そのぞくのほんとうのとしは)

なりきってしまう事が出来るといいます。  では、その賊の本当の年は

(いくつで、どんなかおをしているのかというと、それは、だれひとりみたことが)

幾つで、どんな顔をしているのかというと、それは、誰一人見た事が

(ありません。20しゅものかおをもっているけれど、そのうちの、どれがほんとうの)

ありません。二十種もの顔を持っているけれど、その内の、どれが本当の

(かおなのだか、だれもしらない。いや、ぞくじしんでも、ほんとうのかおをわすれて)

顔なのだか、誰も知らない。いや、賊自身でも、本当の顔を忘れて

(しまっているのかもしれません。それほど、たえずちがったかお、ちがったすがたで)

しまっているのかもしれません。それほど、絶えず違った顔、違った姿で

(ひとのまえにあらわれるのです。 そういうへんそうのてんさいみたいなぞくだものですから)

人の前に現れるのです。  そういう変装の天才みたいな賊だものですから

(けいさつでもこまってしまいました。いったい、どのかおをめあてにそうさくしたら)

警察でも困ってしまいました。一体、どの顔を目当てに捜索したら

(いいのか、まるでけんとうがつかないからです。 ただ、せめてものしあわせは、)

いいのか、まるで見当がつかないからです。  ただ、せめてもの幸せは、

(このとうぞくは、ほうせきだとか、びじゅつひんだとか、うつくしくてめずらしくて、ひじょうに)

この盗賊は、宝石だとか、美術品だとか、美しくて珍しくて、非常に

(こうかなしなものをぬすむばかりで、げんきんにはあまりきょうみをもたないようですし、)

高価な品物を盗むばかりで、現金にはあまり興味を持たないようですし、

(それに、ひとをきずつけたりころしたりする、ざんこくなふるまいは、いちども)

それに、人を傷つけたり殺したりする、残酷な振る舞いは、一度も

など

(したことがありません。ちがきらいなのです。 しかし、いくらちが)

した事がありません。血が嫌いなのです。  しかし、いくら血が

(きらいだからといって、わるいことをするやつのことですから、じぶんのみが)

嫌いだからといって、悪い事をする奴の事ですから、自分の身が

(あぶないとなれば、それをのがれるためには、なにをするかわかったものでは)

危ないとなれば、それを逃れる為には、何をするか分かったものでは

(ありません。とうきょうじゅうのひとが「にじゅうめんそう」のうわさばかりしているというのも、)

ありません。東京中の人が「二十面相」の噂ばかりしているというのも、

(じつは、こわくてしかたがないからです。 ことに、にほんにいくつという)

実は、恐くて仕方がないからです。  殊に、日本に幾つという

(きちょうなしなものをもっているふごうなどは、ふるえあがってこわがっていました。)

貴重な品物を持っている富豪などは、震えあがって恐がっていました。

(いままでのようすでみますと、いくらけいさつへたのんでも、ふせぎようのない、)

今までの様子で見ますと、いくら警察へ頼んでも、防ぎようのない、

(おそろしいぞくなのですから。 この「にじゅうめんそう」には、ひとつのみょうなくせが)

恐ろしい賊なのですから。  この「二十面相」には、一つの妙な癖が

(ありました。なにかこれというきちょうなしなものをねらいますと、かならずまえもって、)

ありました。何かこれという貴重な品物を狙いますと、必ず前もって、

(いついくにちにはそれをちょうだいにさんじょうするという、よこくじょうをおくることです。)

いついく日にはそれを頂戴に参上するという、予告状を送る事です。

(ぞくながらも、ふこうへいなたたかいはしたくないとこころがけているのかもしれません。)

賊ながらも、不公平な戦いはしたくないと心掛けているのかもしれません。

(それともまた、いくらようじんしても、ちゃんととってみせるぞ、おれのうでまえは、)

それともまた、いくら用心しても、ちゃんと取ってみせるぞ、俺の腕前は、

(こんなものだと、ほこりたいのかもしれません。いずれにしても、だいたんふてき、)

こんなものだと、誇りたいのかもしれません。いずれにしても、大胆不敵、

(ぼうじゃくぶじんのかいとうといわねばなりません。 このおはなしは、そういうしゅつぼつじざい、)

傍若無人の怪盗と言わねばなりません。  このお話は、そういう出没自在、

(しんぺんふかしぎのかいぞくと、にほんいちのめいたんていあけちこごろうとの、ちからとちから、ちえとちえ、)

神変不可思議の怪賊と、日本一の名探偵明智小五郎との、力と力、知恵と知恵、

(ひばなをちらす、いっきうちのだいとうそうのものがたりです。 だいたんていあけちこごろうには、)

火花を散らす、一騎打ちの大闘争の物語です。  大探偵明智小五郎には、

(こばやしよしおというしょうねんじょしゅがあります。このかわいらしいしょうたんていの、りすのように)

小林芳雄という少年助手があります。この可愛らしい小探偵の、リスのように

(びんしょうなかつどうも、なかなかのみものでありましょう。 さて、まえおきは)

敏捷な活動も、なかなかの見ものでありましょう。  さて、前おきは

(このくらいにして、いよいよものがたりにうつることにします。)

このくらいにして、いよいよ物語に移る事にします。

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