怪人二十面相3 江戸川乱歩
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問題文
(はしばけのきんじょは、おまわりさんのいっかがすんでおりましたが、こんどうしはいにんは、)
羽柴家の近所は、お巡りさんの一家が住んでおりましたが、近藤支配人は、
(そのおまわりさんにたのんでひばんのともだちをこうたいによんでもらい、いつもていないには)
そのお巡りさんに頼んで非番の友達を交代に呼んでもらい、いつも邸内には
(2、3にんのおまわりさんが、がんばっていてくれるようにはからいました。 )
二、三人のお巡りさんが、頑張っていてくれるように計らいました。
(そのうえ、そうたろうしのひしょが3にんおります。おまわりさんと、ひしょと、もうけんと、)
その上、壮太郎氏の秘書が三人おります。お巡りさんと、秘書と、猛犬と、
(このげんじゅうなぼうびのなかへ、いくら「にじゅうめんそう」のかいぞくにもせよ、しのびこむなんて、)
この厳重な防備の中へ、いくら「二十面相」の怪賊にもせよ、忍び込むなんて、
(おもいもよらぬことでしょう。 それにしてもまたれるのは、ちょうなんそういちくんの)
思いも寄らぬ事でしょう。 それにしても待たれるのは、長男壮一君の
(きたくでした。としゅくうけん、なんようのしまへおしわたって、こんにちのせいこうをおさめたほどの)
帰宅でした。徒手空拳、南洋の島へ押し渡って、今日の成功を収めたほどの
(かいだんじですから、このひとさえかえってくれたらかないのものはどんなにこころじょうぶだか)
快男児ですから、この人さえ帰ってくれたら家内の者はどんなに心丈夫だか
(しれません。 さて、そのそういちくんがはねだくうこうへつくというひのそうちょうのことです)
知れません。 さて、その壮一君が羽田空港へ着くという日の早朝の事です
(あかあかとあきのあさひがさしているはしばけのどぞうのなかから、ひとりのしょうねんがすがたを)
赤々と秋の朝日が射している羽柴家の土蔵の中から、一人の少年が姿を
(あらわしました。しょうがくせいのそうじくんです。 まだちょうしょくのよういもできないそうちょうですから)
現しました。小学生の壮二君です。 まだ朝食の用意もできない早朝ですから
(ていないはひっそりとしずまりかえっていました。はやおきのすずめだけが、いせいよく)
邸内はひっそりと静まり返っていました。早起きのスズメだけが、威勢よく
(にわきのえだや、どぞうのやねでさえずっています。 そのそうちょう、そうじくんがたおるの)
庭木の枝や、土蔵の屋根で囀っています。 その早朝、壮二君がタオルの
(ねまきすがたで、しかもりょうてにはなにかおそろしげなてっせいのきかいのようなものをだいて、)
寝巻姿で、しかも両手には何か恐ろしげな鉄製の器械のような物を抱いて、
(どぞうのいしだんをにわへおりてきたのです。いったいどうしたというのでしょう。)
土蔵の石段を庭へ降りて来たのです。一体どうしたというのでしょう。
(おどろいたのはすずめばかりではありません。 そうじくんはゆうべ、おそろしいゆめを)
驚いたのはスズメばかりではありません。 壮二君は夕べ、恐ろしい夢を
(みました。「にじゅうめんそう」のぞくが、どこからかようかんの2かいのしょさいへ)
みました。「二十面相」の賊が、何処からか洋館の二階の書斎へ
(しのびいり、たからものをうばいさったゆめです。 ぞくは、おとうさまのいまにかけてある)
忍び入り、宝物を奪い去った夢です。 賊は、お父様の居間に掛けてある
(おのうのめんのようにぶきみにあおざめた、むひょうじょうなかおをしていました。)
お能の面のように不気味に青褪めた、無表情な顔をしていました。
(そいつがたからものをぬすむといきなり2かいのまどをひらいて、まっくらなにわへとびおりたのです)
そいつが宝物を盗むといきなり二階の窓を開いて、真暗な庭へ飛び降りたのです
(「わっ」といってめがさめると、それはさいわいにもゆめでした。しかし、なんだか)
「ワッ」と言って目が覚めると、それは幸いにも夢でした。しかし、何だか
(ゆめとおなじことがおこりそうなきがしてしかたがありません。 「にじゅうめんそうのやつは、)
夢と同じ事が起こりそうな気がして仕方がありません。 「二十面相の奴は、
(きっとあのまどからとびおりるにちがいない。そして、にわをよこぎって)
きっとあの窓から飛び降りるに違いない。そして、庭を横切って
(にげるにちがいない」 そうじくんは、そんなふうにしんじこんでしまいました。)
逃げるに違いない」 壮二君は、そんな風に信じ込んでしまいました。
(「あのまどのしたにはかだんがある。かだんがふみあらされるだろうなあ」)
「あの窓の下には花壇がある。花壇が踏み荒らされるだろうなあ」
(そこまでくうそうしたとき、そうじくんのあたまにひょいときみょうなかんがえがうかびました。)
そこまで空想した時、壮二君の頭にヒョイと奇妙な考えが浮かびました。
(「うん、そうだ。こいつはめいあんだ。あのかだんのなかへわなをしかけておいてやろう。)
「ウン、そうだ。こいつは名案だ。あの花壇の中へ罠を仕掛けておいてやろう。
(もし、ぼくのおもっているとおりのことがおこるとしたら、ぞくはあのかだんを)
もし、僕の思っている通りの事が起こるとしたら、賊はあの花壇を
(よこぎるにちがいない。そこにわなをしかけておけば、ぞくのやつ)
横切るに違いない。そこに罠を仕掛けておけば、賊の奴
(うまくかかるかもしれないぞ」 そうじくんがおもいついたわなというのは、)
上手く掛かるかもしれないぞ」 壮二君が思い付いた罠というのは、
(きょねんでしたか、おとうさまのおともだちでさんりんをけいえいしているひとが、)
去年でしたか、お父様のお友達で山林を経営している人が、
(てつのわなをつくらせたいといって、あめりかせいのみほんをもってきたことがあって、)
鉄の罠を作らせたいといって、アメリカ製の見本を持って来た事があって、
(それがそのままどぞうにしまってあるのを、よくおぼえていたからです。)
それがそのまま土蔵に仕舞ってあるのを、よく覚えていたからです。
(そうじくんはそのおもいつきにむちゅうになってしまいました。ひろいにわのなかに、)
壮二君はその思い付きに夢中になってしまいました。広い庭の中に、
(ひとつぐらいわなをしかけておいたところで、はたしてぞくがそれにかかるかどうか、)
一つぐらい罠を仕掛けておいたところで、果たして賊がそれに掛かるかどうか、
(うたがわしいはなしですが、そんなことをかんがえるよゆうはありません。ただもう、むしょうにわなを)
疑わしい話ですが、そんな事を考える余裕はありません。ただもう、無性に罠を
(しかけてみたくなったのです。そこで、いつにないはやおきをして、そっとどぞうに)
仕掛けてみたくなったのです。そこで、いつにない早起きをして、ソッと土蔵に
(しのびこんで、おおきなてつのどうぐをえっちらおっちらもちだしたというわけなのです。)
忍び込んで、大きな鉄の道具をエッチラオッチラ持ち出したという訳なのです。
(そうじくんはいつかいちどけいけんした、ねずみとりをかけたときのなんだかわくわく)
壮二君はいつか一度経験した、ネズミ取りを掛けた時の何だかワクワク
(するような、ゆかいなきもちをおもいだしました。しかし、こんどはあいてが)
するような、愉快な気持を思い出しました。しかし、今度は相手が
(ねずみではなくてにんげんなのです。しかも「にじゅうめんそう」というきたいのかいぞくなのです)
ネズミではなくて人間なのです。しかも「二十面相」という希代の怪賊なのです
(わくわくするきもちは、ねずみのばあいの、10ばいも20ばいもおおきいものでした。)
ワクワクする気持は、ネズミのばあいの、十倍も二十倍も大きいものでした。