怪人二十面相4 江戸川乱歩

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プレイ回数3326難易度(4.5) 2865打 長文
少年探偵団シリーズ1作目

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問題文

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(てつわなをかだんのまんなかまではこぶと、おおきなのこぎりめのついたふたつのわくを、)

鉄罠を花壇の真ん中まで運ぶと、大きな鋸目の付いた二つの枠を、

(ちからいっぱいぐっとひらいてうまくすえつけたうえ、わなとみえないようにそのへんのかれくさを)

力一杯グッと開いて上手く据え付けた上、罠と見えないようにその辺の枯れ草を

(あつめて、おおいかくしました。 もしぞくがこのなかへあしをふみいれたら、)

集めて、覆い隠しました。  もし賊がこの中へ足を踏み入れたら、

(ねずみとりとおなじぐあいに、たちまちぱちんとりょうほうののこぎりめがあわさって、)

ネズミ捕りと同じ具合に、たちまちパチンと両方の鋸目が合わさって、

(まるでまっくろなでっかいもうじゅうのはのように、ぞくのあしくびにくいいってしまうのです。)

まるで真っ黒なでっかい猛獣の歯のように、賊の足首に食入ってしまうのです。

(いえのひとがわなにかかってはたいへんですが、かだんのまんなかですから、ぞくでもなければ、)

家の人が罠に掛かっては大変ですが、花壇の真ん中ですから、賊でもなければ、

(めったにそんなところへふみこむものはありません。 「これでよしと。)

滅多にそんな所へ踏み込む者はありません。 「これでよしと。

(でも、うまくいくかしら。まんいちぞくがこいつにあしくびをはさまれてうごけなくなったら)

でも、上手くいくかしら。万一賊がこいつに足首を挟まれて動けなくなったら

(さぞゆかいだろうなあ。どうかうまくいってくれますように」)

さぞ愉快だろうなあ。どうか上手くいってくれますように」

(そうじくんはかみさまにおいのりするようなかっこうをして、それからにやにやわらいながら)

壮二君は神様にお祈りするような格好をして、それからニヤニヤ笑いながら

(いえのなかへはいっていきました。じつにこどもらしいおもいつきでした。しかししょうねんの)

家の中へ入って行きました。実に子どもらしい思い付きでした。しかし少年の

(ちょっかんというものはけっしてばかにできません。そうじくんのしかけたわながあとにいたって)

直感というものは決して莫迦に出来ません。壮二君の仕掛けた罠が後に至って

(どんなじゅうだいなやくめをはたすことになるか、どくしゃしょくんはこのわなのことを、)

どんな重大な役目を果たす事になるか、読者諸君はこの罠の事を、

(よくきおくしておいていただきたいのです。)

よく記憶しておいて頂きたいのです。

(ひとかまか そのごごにははしばいっかそうどういんをして、きちょうのそういちくんを)

【人か魔か】  その午後には羽柴一家総動員をして、帰朝の壮一君を

(はねだくうこうにでむかえました。 ひこうきからおりたったそういちくんは、)

羽田空港に出迎えました。  飛行機から降り立った壮一君は、

(よきにたがわず、じつにさっそうたるすがたでした。こげちゃいろのうすがいとうをこわきにして、)

予期に違わず、実に颯爽たる姿でした。焦げ茶色の薄外套を小脇にして、

(おなじいろのだぶるぼたんのせびろをきちんときこなし、おりめのただしいずぼんが、)

同じ色のダブル・ボタンの背広をキチンと着こなし、折り目の正しいズボンが、

(すーっとながくみえて、えいがのなかのせいようじんみたいなかんじがしました。)

スーッと長く見えて、映画の中の西洋人みたいな感じがしました。

(おなじこげちゃいろのそふとぼうのしたに、ぼうしのいろとあまりちがわない、ひにやけた)

同じ焦げ茶色のソフト帽の下に、帽子の色とあまり違わない、日に焼けた

など

(しゃくどういろの、でもうつくしいかおがにこにこわらっていました。こいいちもんじのまゆ、)

赤銅色の、でも美しい顔がにこにこ笑っていました。濃い一文字の眉、

(よくひかるおおきなめ、わらうたびにみえるよくそろったまっしろなは、それから、)

よく光る大きな目、笑う度に見えるよく揃った真っ白な歯、それから、

(うわくちびるのほそくかりこんだくちひげがなんともいえぬなつかしさでした。しゃしんとそっくりです)

上唇の細く刈り込んだ口髭が何とも言えぬ懐かしさでした。写真とそっくりです

(いや、しゃしんよりいちだんとりっぱでした。 みんなとあくしゅをかわすとそういちくんは、)

いや、写真より一段と立派でした。  皆と握手を交わすと壮一君は、

(おとうさま、おかあさまにはさまれてじどうしゃにのりました。そうじくんはおねえさまやこんどうろうじんと)

お父様、お母様に挟まれて自動車に乗りました。壮二君はお姉様や近藤老人と

(いっしょにあとのじどうしゃでしたが、くるまがはしるあいだもうしろのまどからすいてみえる)

一緒に後の自動車でしたが、車が走る間も後ろの窓からすいて見える

(おにいさまのすがたをじっとみつめていますと、なんだか、うれしさがこみあげて)

お兄様の姿をジッと見詰めていますと、何だか、嬉しさが込み上げて

(くるようでした。 きたくして、いちどうがそういちくんをとりかこんで、なにかとはなして)

くるようでした。  帰宅して、一同が壮一君を取り囲んで、何かと話して

(いるうちに、もうゆうがたでした。しょくどうには、おかあさまのこころづくしのばんさんが)

いるうちに、もう夕方でした。食堂には、お母様の心尽くしの晩餐が

(よういされました。 あたらしいてーぶるくろすでおおったおおきなしょくたくのうえには、)

用意されました。  新しいテーブル・クロスで覆った大きな食卓の上には、

(うつくしいあきのもりばながかざられ、めいめいのせきには、ぎんのないふやふぉーくが、)

美しい秋の盛り花が飾られ、めいめいの席には、銀のナイフやフォークが、

(きらきらとひかっていました。きょうはいつもとちがってて、ちゃんとせいしきに)

キラキラと光っていました。今日はいつもと違ってて、チャンと正式に

(おりたたんだなぷきんがでていました。 しょくじちゅうは、むろんそういちくんが)

折り畳んだナプキンが出ていました。  食事中は、無論壮一君が

(だんわのちゅうしんでした。めずらしいなんようのはなしがつぎからつぎとかたられました。そのあいだには、)

談話の中心でした。珍しい南洋の話が次から次と語られました。その間には、

(いえでいぜんのしょうねんじだいのおもいでばなしも、さかんにとびだしました。 「そうじくん、きみは)

家出以前の少年時代の思い出話も、盛んに飛び出しました。 「壮二君、君は

(そのじぶん、まだあんよができるようになったばかりでね、ぼくのべんきょうべやへ)

その時分、まだあんよが出来るようになったばかりでね、僕の勉強部屋へ

(しんにゅうして、つくえのうえをひっかきまわしたりしたものだよ。いつかはいんきつぼを)

侵入して、机の上を引っ掻きまわしたりしたものだよ。いつかはインキ壺を

(ひっくりかえしてそのてでかおをすったもんだから、くろんぼうみたいになってね、)

ひっくり返してその手で顔を擦ったもんだから、くろんぼうみたいになってね、

(おおさわぎをしたことがあるよ。ねえ、おかあさま」 おかあさまは、そんなことが)

大騒ぎをした事があるよ。ねえ、お母様」  お母様は、そんな事が

(あったかしらと、よくおもいだせませんでしたけれど、ただうれしさに、めになみだを)

あったかしらと、よく思い出せませんでしたけれど、ただ嬉しさに、目に涙を

(うかべて、にこにことうなずいていらっしゃいました。)

浮かべて、にこにこと頷いていらっしゃいました。

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