怪人二十面相7 江戸川乱歩
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問題文
(そういちくんが、じゅうぶんかんしょうするのをまって、こばこのふたがとじられました。)
壮一君が、充分観賞するのを待って、小箱の蓋が閉じられました。
(「このはこは、ここへおくことにしよう。きんこなんかよりは、おまえとわしと、)
「この箱は、ここへ置くことにしよう。金庫なんかよりは、お前と儂と、
(4つのめでにらんでいるほうが、たしかだからね」 「ええ、そのほうがいいでしょう」)
四つの目で睨んでいる方が、確かだからね」 「ええ、その方がいいでしょう」
(ふたりはもうはなすこともなくなって、こばこをのせたてーぶるをなかに、じっと)
二人はもう話す事もなくなって、小箱を載せたテーブルを中に、じっと
(かおをみあわせていました。 ときどきおもいだしたように、かぜがまどのがらすどを)
顔を見合わせていました。 時々思い出したように、風が窓のガラス戸を
(ことこといわせてふきすぎます。どこかとおくのほうからはげしくなきたてるいぬのこえが)
コトコトいわせて吹き過ぎます。どこか遠くの方から激しく鳴きたてる犬の声が
(きこえてきます。 「なんじだね」)
聞こえてきます。 「何時だね」
(「11じ43ふんです。あと、17ふん・・・・・・」 そういちくんがうでどけいをみてこたえると)
「十一時四十三分です。あと、十七分……」 壮一君が腕時計を見て答えると
(それきりふたりはまただまりこんでしまいました。みると、さすがごうたんなそうたろうしの)
それきり二人はまた黙り込んでしまいました。見ると、さすが豪胆な壮太郎氏の
(かおも、いくらかあおざめてひたいにはうっすらあせがにじみだしています。そういちくんも、ひざのうえに)
顔も、いくらか青ざめて額には薄ら汗が滲み出しています。壮一君も、膝の上に
(にぎりこぶしをかためて、はをくいしばるようにしています。 ふたりのいきづかいや、)
握り拳を固めて、歯を食い縛るようにしています。 二人の息遣いや、
(うでどけいのびょうをきざむおとまでがきこえるほど、へやのなかはしずまりかえっていました。)
腕時計の秒を刻む音までが聞こえるほど、部屋の中は静まり返っていました。
(「もうなんふんだね」 「あと10ふんです」)
「もう何分だね」 「あと十分です」
(するとそのとき、なにかちいさなしろいものがじゅうたんのうえをことことはしっていくのが、)
するとその時、何か小さな白い物が絨毯の上をコトコト走っていくのが、
(ふたりのめのすみにうつりました。おやっ、はつかねずみかしら。 そうたろうしはおもわず)
二人の目の隅に映りました。おやっ、二十日鼠かしら。 壮太郎氏は思わず
(ぎょっとして、うしろのつくえのしたをのぞきました。しろいものは、どうやらつくえのしたへ)
ギョッとして、後ろの机の下を覗きました。白い物は、どうやら机の下へ
(かくれたらしくみえたからです。 「なあんだ、ぴんぽんのたまじゃないか。)
隠れたらしく見えたからです。 「なあんだ、ピンポンの玉じゃないか。
(だが、こんなものがどうしてころがってきたんだろう」 つくえのしたからそれを)
だが、こんな物がどうして転がってきたんだろう」 机の下からそれを
(ひろいとって、ふしぎそうにながめました。 「おかしいですね。そうじくんが、)
拾い取って、不思議そうに眺めました。 「おかしいですね。壮二君が、
(そのへんのたなのうえにおきわすれておいたのが、なにかのはずみでおちたのじゃ)
その辺の棚の上に置き忘れておいたのが、何かの弾みで落ちたのじゃ
(ありませんか」 「そうかもしれない・・・・・・。だがじかんは?」)
ありませんか」 「そうかもしれない……。だが時間は?」
(そうたろうしのじかんをたずねるかいすうが、だんだんひんぱんになってくるのです。)
壮太郎氏の時間を尋ねる回数が、段々頻繁になってくるのです。
(「あと4ふんです」 ふたりはめとめをみあわせました。びょうをきざむおとが)
「あと四分です」 二人は目と目を見合わせました。秒を刻む音が
(こわいようでした。 3ふん、2ふん、1ふん、じりじりと、そのときがせまってきます。)
恐いようでした。 三分、二分、一分、ジリジリと、その時が迫ってきます。
(にじゅうめんそうはもうへいをのりこえたかもしれません。いまごろはろうかをあるいて)
二十面相はもう塀を乗り越えたかもしれません。今頃は廊下を歩いて
(いるかもしれません・・・・・・。いや、もうどあのそとにきて、じっとみみをすまして)
いるかもしれません……。いや、もうドアの外に来て、じっと耳を澄まして
(いるかもしれません。 ああ、いまにも、いまにも、おそろしいおとをたてて、)
いるかもしれません。 ああ、今にも、今にも、恐ろしい音をたてて、
(どあがはかいされるのではないでしょうか。 「おとうさん、どうか)
ドアが破壊されるのではないでしょうか。 「お父さん、どうか
(なすったのですか」 「いや、いや、なんでもない。わしはにじゅうめんそうなんかに)
なすったのですか」 「いや、いや、なんでもない。儂は二十面相なんかに
(まけやしない」 そうはいうものの、そうたろうしは、もうまっさおになって、)
負けやしない」 そうは言うものの、壮太郎氏は、もう真っ青になって、
(りょうてでひたいをおさえているのです。 30びょう、20びょう、10びょうと、ふたりのしんぞうの)
両手で額を抑えているのです。 三十秒、二十秒、十秒と、二人の心臓の
(こどうをあわせて、いきづまるようなおそろしいびょうじが、すぎさっていきました。)
鼓動をあわせて、息詰まるような恐ろしい秒時が、過ぎ去っていきました。
(「おい、じかんは?」 そうたろうしの、うめくようなこえがたずねます。)
「おい、時間は?」 壮太郎氏の、呻くような声が尋ねます。
(「12じ1ふんすぎです」 「なに、1ふんすぎた?・・・・・・あははは・・・・・・、)
「十二時一分過ぎです」 「なに、一分過ぎた? ……アハハハ……、
(どうだそういち、にじゅうめんそうのよこくじょうも、あてにならんじゃないか。ほうせきはここに)
どうだ壮一、二十面相の予告状も、当てにならんじゃないか。宝石はここに
(ちゃんとあるぞ。なんのいじょうもないぞ」 そうたろうしは、かちほこったきもちで)
ちゃんとあるぞ。なんの異状もないぞ」 壮太郎氏は、勝ち誇った気持ちで
(おおごえにわらいました。しかしそういちくんはにっこりともしません。)
大声に笑いました。しかし壮一君はニッコリともしません。
(「ぼくはしんじられません。ほうせきには、はたしていじょうがないでしょうか。)
「ぼくは信じられません。宝石には、果たして異状がないでしょうか。
(にじゅうめんそうはいやくなんかするおとこでしょうか」 「なにをいっているんだ。)
二十面相は違約なんかする男でしょうか」 「何を言っているんだ。
(ほうせきはめのまえにあるじゃないか」 「でも、それははこです」)
宝石は目の前にあるじゃないか」 「でも、それは箱です」