怪人二十面相8 江戸川乱歩

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プレイ回数2975難易度(5.0) 2666打 長文
少年探偵団シリーズ1作目
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 もこもこ 4829 B 5.0 95.1% 523.9 2666 136 41 2024/12/08

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問題文

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(「するとおまえは、はこだけがあってなかみのだいやもんどがどうかしたとでも)

「するとお前は、箱だけがあって中身のダイヤモンドがどうかしたとでも

(いうのか」 「たしかめてみたいのです。たしかめるまではあんしんできません」)

言うのか」 「確かめてみたいのです。確かめるまでは安心できません」

(そうたろうしはおもわずたちあがって、しゃくどうのこばこを、りょうてでおさえつけました。)

壮太郎氏は思わず立ち上がって、赤銅の小箱を、両手で押さえつけました。

(そういちくんもたちあがりました。ふたりのめが、ほとんど1ふんのあいだ、なにかいように)

壮一君も立ち上がりました。二人の目が、殆ど一分の間、何か異様に

(にらみあったままうごきませんでした。 「じゃ、あけてみよう。そんなばかな)

睨み合ったまま動きませんでした。 「じゃ、開けてみよう。そんな莫迦な

(ことがあるはずはない」 ぱちんとこばこのふたがひらかれたのです。)

事がある筈はない」  パチンと小箱の蓋が開かれたのです。

(と、どうじにそうたろうしのくちから、 「あっ」というさけびごえが、ほとばしりました。)

と、同時に壮太郎氏の口から、 「アッ」という叫び声が、迸りました。

(ないのです。くろびろーどのだいざのうえはまったくからっぽなのです。ゆいしょぶかい200まんの)

ないのです。黒ビロードの台座の上は全く空っぽなのです。由緒深い二百万の

(だいやもんどは、まるでじょうはつでもしたようにきえうせていたのでした。)

ダイヤモンドは、まるで蒸発でもしたように消え失せていたのでした。

(まほうつかい しばらくのあいだ、ふたりともだまりこくって、あおざめたかおを)

【魔法使い】  暫くの間、二人とも黙りこくって、青褪めた顔を

(みあわせるばかりでしたが、やっとそうたろうしはさもいまいましそうに 「ふしぎだ」)

見合わせるばかりでしたが、やっと壮太郎氏はさも忌々しそうに 「不思議だ」

(と、つぶやきました。 「ふしぎですね」)

と、呟きました。 「不思議ですね」

(そういちくんも、おうむがえしにおなじことをつぶやきました。しかしみょうなことに、そういちくんは)

壮一君も、おうむ返しに同じ事を呟きました。しかし妙な事に、壮一君は

(いっこうにおどろいたり、しんぱいしたりしているようすがありません。くちびるのすみに、)

一向に驚いたり、心配したりしている様子がありません。唇の隅に、

(なんだかうすわらいのかげさえみえます。 「とじまりにいじょうはないし、それにだれかが)

何だか薄笑いの影さえ見えます。 「戸じまりに異状はないし、それに誰かが

(はいってくれば、このわしのめにうつらぬはずはない。まさか、ぞくはゆうれいのように)

入って来れば、この儂の目に映らぬ筈はない。まさか、賊は幽霊のように

(どあのかぎあなからでいりしたわけではなかろうからね」 「そうですとも、)

ドアの鍵穴から出入りした訳ではなかろうからね」 「そうですとも、

(いくらにじゅうめんそうでも、ゆうれいにばけることはできますまい」 「すると、)

いくら二十面相でも、幽霊に化けることは出来ますまい」 「すると、

(このへやにいて、だいやもんどにてをふれることができたものは、わしとおまえのほかには)

この部屋にいて、ダイヤモンドに手を触れる事が出来た者は、儂とお前の他には

(ないのだ」 そうたろうしはなにかうたがわしげなひょうじょうで、じっとわがこのかおを)

ないのだ」  壮太郎氏は何か疑わしげな表情で、じっと我が子の顔を

など

(みつめました。 「そうです。あなたかぼくのほかにはありません」)

見詰めました。 「そうです。あなたか僕の他にはありません」

(そういちくんのうすわらいがだんだんはっきりして、にこにことわらいはじめたのです。)

壮一君の薄笑いが段々はっきりして、にこにこと笑い始めたのです。

(「おい、そういち、おまえなにをわらっているのだ。なにがおかしいのだ」)

「おい、壮一、お前何を笑っているのだ。何がおかしいのだ」

(そうたろうしははっとしたように、かおいろをかえてどなりました。)

壮太郎氏はハッとしたように、顔色を変えて怒鳴りました。

(「ぼくはぞくのてなみにかんしんしているのですよ。かれはやっぱりえらいですなあ。)

「僕は賊の手並みに感心しているのですよ。彼はやっぱり偉いですなあ。

(ちゃんとやくそくをまもったじゃありませんか。とえはたえのけいかいを、もののみごとに)

ちゃんと約束を守ったじゃありませんか。十重二十重の警戒を、ものの見事に

(とっぱしたじゃありませんか」 「こら、よさんか。おまえはまたぞくを)

突破したじゃありませんか」 「こら、よさんか。お前はまた賊を

(ほめあげている。つまり、ぞくにだしぬかれたわしのかおがおかしいとでもいうのか」)

褒めあげている。つまり、賊に出し抜かれた儂の顔がおかしいとでも言うのか」

(「そうですよ。あなたがそうしてうろたえているようすがじつにゆかいなんですよ」)

「そうですよ。あなたがそうして狼狽えている様子が実に愉快なんですよ」

(ああ、これがこたるもののちちにたいすることばでしょうか。そうたろうしはおこるよりも、)

ああ、これが子たる者の父に対する言葉でしょうか。壮太郎氏は怒るよりも、

(あっけにとられてしまいました。そしていま、めのまえににやにやわらっているせいねんが、)

呆気に取られてしまいました。そして今、目の前にニヤニヤ笑っている青年が、

(じぶんのむすこではなく、なにかしら、えたいのしれないにんげんにみえてきました。)

自分の息子ではなく、何かしら、得体の知れない人間に見えてきました。

(「そういち、そこをうごくんじゃないぞ」 そうたろうしは、こわいかおをしてむすこを)

「壮一、そこを動くんじゃないぞ」  壮太郎氏は、恐い顔をして息子を

(にらみつけながら、よびりんをおすためにへやのいっぽうのかべにちかづこうと)

睨み付けながら、呼び鈴を押す為に部屋の一方の壁に近付こうと

(しました。 「はしばさん、あなたこそうごいてはいけませんね」)

しました。 「羽柴さん、あなたこそ動いてはいけませんね」

(おどろいたことには、こがちちをはしばさんとよびました。そして、ぽけっとから)

驚いた事には、子が父を羽柴さんと呼びました。そして、ポケットから

(こがたのぴすとるをとりだすと、そのてをひくくわきにあてて、じっとおとうさんに)

小型のピストルを取り出すと、その手を低く脇に当てて、じっとお父さんに

(ねらいをさだめたではありませんか。かおはやっぱりにやにやとわらっているのです。)

狙いを定めたではありませんか。顔はやっぱりニヤニヤと笑っているのです。

(そうたろうしは、ぴすとるをみると、たちすくんだまま、うごけなくなりました。)

壮太郎氏は、ピストルを見ると、立ち竦んだまま、動けなくなりました。

(「ひとをよんではいけません。こえをおたてになれば、ぼくは、かまわずひきがねを)

「人を呼んではいけません。声をお立てになれば、僕は、構わず引き金を

(ひきますよ」 「きさまはいったいなにものだ。もしや・・・・・・」)

引きますよ」 「貴様はいったい何者だ。もしや……」

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