怪人二十面相10 江戸川乱歩

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少年探偵団シリーズ1作目

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問題文

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(いけのなか ぞくがぴすとるをなげして、そとへとびおりたのをみると、)

【池の中】  賊がピストルを投げして、外へ飛び降りたのを見ると、

(そうたろうしはすぐさままどのところへかけつけ、くらいにわをみおろしました。)

壮太郎氏はすぐさま窓のところへ駆けつけ、暗い庭を見下ろしました。

(くらいといっても、にわにはところどころにこうえんのじょうやとうのようなでんとうがついているので、)

暗いといっても、庭には所々に公園の常夜燈のような電燈が点ているので、

(ひとのすがたがみえぬほどではありません。 ぞくはとびおりたひょうしに、)

人の姿が見えぬ程ではありません。  賊は飛び降りた拍子に、

(いちどたおれたようすですがすぐむくむくとおきあがって、ひじょうないきおいで)

一度倒れた様子ですがすぐムクムクと起き上がって、非常な勢いで

(かけだしました。ところがあんのじょう、かれはれいのかだんへとびこんだのです。)

駆け出しました。ところが案の定、彼は例の花壇へ飛び込んだのです。

(そして2、3ほかだんのなかをはしったかとおもうと、たちまちがちゃんという)

そして二、三歩花壇の中を走ったかと思うと、たちまちガチャンという

(はげしいきんぞくのおとがして、ぞくのくろいかげはもんどりうってたおれました。)

激しい金属の音がして、賊の黒い影はもんどり打って倒れました。

(「だれかいないか。ぞくだ。ぞくだ。にわへまわれ」 そうたろうしがおおごえにどなりました。)

「誰かいないか。賊だ。賊だ。庭へ回れ」 壮太郎氏が大声に怒鳴りました。

(もしわながなかったら、すばやいぞくはとっくににげさっていたことでしょう。)

もし罠がなかったら、素早い賊はとっくに逃げ去っていた事でしょう。

(そうじくんのこどもらしいおもいつきが、ぐうぜんこうをそうしたのです。ぞくがわなを)

壮二君の子どもらしい思い付きが、偶然功を奏したのです。賊が罠を

(はずそうともがいているあいだに、しほうからひとびとがかけつけました。せびろふくの)

外そうともがいている間に、四方から人々が駆け付けました。背広服の

(おまわりさんたち、ひしょたち、それからうんてんしゅ、そうぜい7にんです。)

お巡りさん達、秘書達、それから運転手、総勢七人です。

(そうたろうしもいそいでかいだんをおり、こんどうろうじんとともにかいかのまどからでんとうをにわにむけて)

壮太郎氏も急いで階段を降り、近藤老人と共に階下の窓から電燈を庭に向けて

(とりもののてだすけをしました。 ただみょうにおもわれたのは、せっかくかいいれた)

捕り物の手助けをしました。  ただ妙に思われたのは、せっかく買い入れた

(もうけんのじょんが、このさわぎにすがたをあらわさないことでした。もし、じょんがかせいして)

猛犬のジョンが、この騒ぎに姿を現さないことでした。もし、ジョンが加勢して

(くれたら、まんいちにもぞくをとりにがすようなことはなかったでしょうに。)

くれたら、万一にも賊を取り逃がすような事はなかったでしょうに。

(にじゅうめんそうがやっとわなをはずしておきあがったときには、てにてにかいちゅうでんとうを)

二十面相がやっと罠を外して起き上がった時には、手に手に懐中電燈を

(もったおってのひとたちが、もう10めーとるのまぢかにせまっていました。)

持った追っ手の人達が、もう十メートルの間近に迫っていました。

(それもいっぽうからではなくて、みぎからも、ひだりからも、しょうめんからもです。)

それも一方からではなくて、右からも、左からも、正面からもです。

など

(ぞくはくろいかぜのようにはしりました。いや、だんがんのようにといったほうが)

賊は黒い風のように走りました。いや、弾丸のようにと言った方が

(よいかもしれません。おってのえんじんのいっぽうをとっぱしてにわのおくへとはしりこみました)

良いかもしれません。追っ手の円陣の一方を突破して庭の奥へと走り込みました

(にわはこうえんのようにひろいのです。つきやまがあり、いけがあり、もりのような)

庭は公園のように広いのです。築山があり、池があり、森のような

(こだちがあります。くらさはくらし、7にんのおってでもけっしてじゅうぶんとはいえません。)

木立ちがあります。暗さは暗し、七人の追っ手でも決して十分とは言えません。

(ああ、こんなときじょんさえいてくれたら・・・・・・。 しかしおってはひっしでした。)

ああ、こんな時ジョンさえいてくれたら……。  しかし追っ手は必死でした。

(ことに3にんのおまわりさんは、とりものにかけてはうでにおぼえのひとびとです。)

殊に三人のお巡りさんは、捕り物にかけては腕に覚えの人々です。

(ぞくがつきやまのうえのしげみのなかへかけあがったとみると、へいちをはしって)

賊が築山の上の茂みの中へ駆け上がったと見ると、平地を走って

(つきやまのむこうがわへさきまわりをしました。あとからのおってとはさみうちに)

築山の向こう側へ先回りをしました。後からの追っ手と挟み撃ちに

(しようというわけです。 こうしておけば、ぞくはへいのそとへにげだすわけには)

しようという訳です。  こうしておけば、賊は塀の外へ逃げ出す訳には

(いきません。それににわをとりまいたこんくりーとべいは、たかさ4めーとるもあって)

いきません。それに庭を取り巻いたコンクリート塀は、高さ四メートルもあって

(はしごでももちださないかぎり、のりこえるすべはないのです。 「あっ、ここだっ、)

梯子でも持ち出さない限り、乗り越える術はないのです。 「アッ、ここだっ、

(ぞくはここにいるぞ」 ひしょのひとりが、つきやまのうえのしげみのなかでさけびました。)

賊はここにいるぞ」  秘書の一人が、築山の上の茂みの中で叫びました。

(かいちゅうでんとうのまるいひかりがしほうからそこへしゅうちゅうされます。しげみはひるのように)

懐中電燈の丸い光が四方からそこへ集中されます。茂みは昼のように

(あかるくなりました。そのひかりのなかを、ぞくはせなかをまるくしてつきやまのみぎてのもりのような)

明るくなりました。その光の中を、賊は背中を丸くして築山の右手の森のような

(こだちへと、まりのようにかけおります。 「にがすなっ、やまをおりたぞ」)

木立ちへと、鞠のように駆け下ります。 「逃がすなっ、山を下りたぞ」

(そして、たいぼくのこだちのなかを、かいちゅうでんとうがちろちろと、うつくしくはしるのです。)

そして、大木の木立ちの中を、懐中電燈がチロチロと、美しく走るのです。

(にわがひじょうにひろくじゅもくやがんせきがおおいのと、ぞくのとうそうがたくみなために、あいてのせなかを)

庭が非常に広く樹木や岩石が多いのと、賊の逃走が巧みな為に、相手の背中を

(めのまえにみながら、どうしてもとらえることができません。 そうしているうちに)

目の前に見ながら、どうしても捕らえる事が出来ません。 そうしているうちに

(でんわのきゅうほうによって、ちかくのけいさつしょからすうめいのけいかんがかけつけ、ただちにへいのそとを)

電話の急報によって、近くの警察署から数名の警官が駆け付け、直ちに塀の外を

(かためました。ぞくはいよいよふくろのねずみです。 ていないではそれからまたしばらくのあいだ)

堅めました。賊はいよいよ袋のネズミです。  邸内ではそれからまた暫くの間

(おそろしいおにごっこがつづきましたが、そのうちにおってたちは、ふとぞくのすがたを)

恐ろしい鬼ごっこが続きましたが、その内に追っ手たちは、ふと賊の姿を

(みうしなってしまいました。)

見失ってしまいました。

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