怪人二十面相11 江戸川乱歩

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少年探偵団シリーズ1作目

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問題文

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(ぞくはすぐまえをはしっていたのです。おおきなきのみきをぬうようにして、ちらちらと)

賊はすぐ前を走っていたのです。大きな木の幹を縫うようにして、チラチラと

(みえたりかくれたりしていたのです。それがとつぜん、きえうせてしまったのです。)

見えたり隠れたりしていたのです。それが突然、消え失せてしまったのです。

(こだちを1ほん1ほん、えだのうえまでてらしてみましたけれど、どこにもぞくのすがたは)

木立ちを一本一本、枝の上まで照らして見ましたけれど、何処にも賊の姿は

(ないのです。 へいがいにはけいかんのみはりがあります。たてもののほうは、ようかんはもちろん)

ないのです。  塀外には警官の見張りがあります。建物のほうは、洋館は勿論

(にほんざしきもあまどがひらかれ、いえじゅうのでんとうがあかあかとにわをてらしているうえに、)

日本座敷も雨戸が開かれ、家中の電燈が明々と庭を照らしている上に、

(そうたろうし、こんどうろうじん、そうじくんをはじめ、おてつだいさんたちまでが、えんがわにでて)

壮太郎氏、近藤老人、壮二君をはじめ、お手伝いさん達までが、縁側に出て

(にわのとりものをながめているのですから、そちらへにげるわけにもいきません。)

庭の捕り物を眺めているのですから、そちらへ逃げる訳にもいきません。

(ぞくはていえんのどこかに、みをひそめているにちがいないのです。それでいて、)

賊は庭園の何処かに、身を潜めているに違いないのです。それでいて、

(7にんのものがいくらさがしても、そのすがたをはっけんすることができないのです。)

七人の者がいくら探しても、その姿を発見することが出来ないのです。

(にじゅうめんそうはまたしても、にんじゅつをつかったのではないでしょうか。)

二十面相はまたしても、忍術を使ったのではないでしょうか。

(けっきょく、よるのあけるのをまってさがしなおすほかはないといっけつしました。)

結局、夜の明けるのを待って探し直す外はないと一決しました。

(おもてもんとうらもんとへいがいのみはりさえげんじゅうにしておけば、ぞくはふくろのねずみですから、)

表門と裏門と塀外の見張りさえ厳重にしておけば、賊は袋のネズミですから、

(あさまでまってもだいじょうぶだというのです。 そこでおってのひとびとは、)

朝まで待っても大丈夫だと言うのです。  そこで追っ手の人々は、

(ていがいのけいかんたいをたすけるためににわをひきあげたのですが、ただひとり、まつのという)

邸外の警官隊を助ける為に庭を引き上げたのですが、ただ一人、松野という

(じどうしゃのうんてんしゅだけが、まだにわのおくにのこっていました。 もりのようなこだちに)

自動車の運転手だけが、まだ庭の奥に残っていました。  森のような木立ちに

(かこまれておおきないけがあります。まつのうんてんしゅはひとびとにおくれて、そのいけのきしを)

囲まれて大きな池があります。松野運転手は人々に遅れて、その池の岸を

(あるいていたとき、ふとみょうなものにきづいたのです。 かいちゅうでんとうにてらしだされた)

歩いていた時、ふと妙なものに気付いたのです。  懐中電燈に照らし出された

(いけのみずぎわにはおちばがいっぱいういていましたが、そのおちばのあいだから)

池の水際には落ち葉がいっぱい浮いていましたが、その落ち葉の間から

(1ほんのたけぎれが、すこしばかりくびをだして、ゆらゆらとうごいているのです。)

一本の竹ぎれが、少しばかり首を出して、ユラユラと動いているのです。

(かぜのせいではありません。なみもないのにたけぎれだけがみょうにどうようしているのです。)

風のせいではありません。波もないのに竹ぎれだけが妙に動揺しているのです。

など

(まつののあたまに、あるひじょうにとっぴなかんがえがうかびました。みんなを)

松野の頭に、ある非常に突飛な考えが浮かびました。みんなを

(よびかえそうかしらとおもったほどです。しかし、それほどのかくしんはありません。)

呼び返そうかしらと思った程です。しかし、それほどの確信はありません。

(あんまりしんじがたいことなのです。 かれはでんとうをてらしたまま、)

あんまり信じ難いことなのです。  彼は電燈を照らしたまま、

(いけのきしにしゃがみました。そしておそろしいうたがいをはらすために、)

池の岸にしゃがみました。そして恐ろしい疑いを晴らすために、

(みょうなことをはじめたのです。 ぽけっとをさぐってはながみをとりだすと、)

妙なことを始めたのです。  ポケットを探って鼻紙を取り出すと、

(それをほそくさいて、そっといけのなかのたけぎれのうえにもっていきました。)

それを細く裂いて、ソッと池の中の竹ぎれの上に持っていきました。

(すると、ふしぎなことがおこったのです。うすいかみきれが、たけのつつのさきで、)

すると、不思議な事が起こったのです。薄い紙きれが、竹の筒の先で、

(ふわふわとじょうげにうごきはじめたではありませんか。かみがそんなふうにうごくからには、)

ふわふわと上下に動き始めたではありませんか。紙がそんな風に動くからには、

(たけのつつから、くうきがでたりはいったりしているにちがいありません。 )

竹の筒から、空気が出たり入ったりしているに違いありません。

(まさかそんなことがと、まつのはじぶんのそうぞうをしんじるきになれないのです。)

まさかそんな事がと、松野は自分の想像を信じる気になれないのです。

(でも、このたしかなしょうこをどうしましょう。いのちのないたけぎれが、こきゅうをする)

でも、この確かな証拠をどうしましょう。命のない竹ぎれが、呼吸をする

(はずはないではありませんか。 ふゆならば、ちょっとかんがえられないことです。)

筈はないではありませんか。  冬ならば、ちょっと考えられない事です。

(しかしそれはまえにももうしましたとおり、あきの10がつ、それほどさむいきこうでは)

しかしそれは前にも申しました通り、秋の十月、それほど寒い気候では

(ありません。ことににじゅうめんそうのかいぶつは、みずからまじゅつしとしょうしているほど、とっぴなぼうけんが)

ありません。殊に二十面相の怪物は、自ら魔術師と称している程、突飛な冒険が

(すきなのです。 まつのはそのとき、みんなをよべばよかったのです。)

好きなのです。  松野はその時、皆を呼べば良かったのです。

(でも、かれはてがらをひとりじめにしたかったのでしょう。たにんのちからをかりないで)

でも、彼は手柄を独り占めにしたかったのでしょう。他人の力を借りないで

(そのうたがいをはらしてみようとおもいました。 かれはでんとうをじめんにおくと、)

その疑いを晴らしてみようと思いました。  彼は電燈を地面に置くと、

(いきなりりょうてをのばして、たけぎれをつかみ、ぐいぐいとひきあげました。)

いきなり両手を伸ばして、竹ぎれを掴み、ぐいぐいと引き上げました。

(たけぎれは30せんちほどのながさでした。たぶんそうじくんがにわであそんでいて、)

竹ぎれは三十センチ程の長さでした。たぶん壮二君が庭で遊んでいて、

(そのへんにすてておいたものでしょう。ひっぱると、たけはなんなくずるずると)

その辺に捨てておいた物でしょう。引っぱると、竹は難なくズルズルと

(のびてきました。しかし、たけばかりではなかったのです。たけのさきにはいけのどろで)

伸びてきました。しかし、竹ばかりではなかったのです。竹の先には池の泥で

(まっくろになったにんげんのてが、しがみついていたではありませんか。)

真っ黒になった人間の手が、しがみ付いていたではありませんか。

(いや、てばかりではありません。てのつぎには、びしょぬれになったうみぼうずの)

いや、手ばかりではありません。手の次には、びしょ濡れになった海坊主の

(ひとのすがたが、にゅーっとあらわれたではありませんか。)

人の姿が、ニューッと現れたではありませんか。

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