怪人二十面相13 江戸川乱歩
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問題文
(いってみますと、こえのぬしははしばしのひしょのひとりでした。かれはもりのような)
行ってみますと、声の主は羽柴氏の秘書の一人でした。彼は森のような
(こだちのなかの、1ほんのおおきなしいのきのしたにたって、しきりとうえのほうを)
木立ちの中の、一本の大きなシイの木の下に立って、しきりと上の方を
(ゆびさしているのです。 「あれです。あすこにいるのは、たしかにぞくです。)
指差しているのです。 「あれです。あすこにいるのは、確かに賊です。
(ようふくにみおぼえがあります」 しいのきは、ねもとから3めーとるほどのところで、)
洋服に見覚えがあります」 シイの木は、根元から三メートル程のところで、
(ふたまたにわかれているのですが、そのまたになったところに、しげったえだにかくれて)
二股に分かれているのですが、その股になった所に、茂った枝に隠れて
(ひとりのにんげんが、みょうなかっこうをしてよこたわっていました。 こんなにさわいでも、)
一人の人間が、妙な格好をして横たわっていました。 こんなに騒いでも、
(にげだそうともせぬところをみると、ぞくはいきたえているのでしょうか。)
逃げ出そうともせぬ所をみると、賊は息絶えているのでしょうか。
(それとも、きをうしなっているのでしょうか。まさか、きのうえでいねむりを)
それとも、気を失っているのでしょうか。まさか、木の上で居眠りを
(しているのではありますまい。 「だれか、あいつをひきおろしてくれたまえ」)
しているのではありますまい。 「誰か、あいつを引き下ろしてくれたまえ」
(かかりちょうのめいれいに、さっそくはしごがはこばれて、それにあがるもの、)
係長の命令に、さっそく梯子が運ばれて、それに上る者、
(したからうけとめるもの、3、4にんのちからでぞくはちじょうにおろされました。)
下から受け止める者、三、四人の力で賊は地上に下ろされました。
(「おや、しばられているじゃないか」 いかにも、ほそいきぬひものようなもので、)
「おや、縛られているじゃないか」 いかにも、細い絹紐のようなもので、
(ぐるぐるまきにしばられています。そのうえさるぐつわです。 おおきなはんかちを)
ぐるぐる巻きに縛られています。その上猿轡です。 大きなハンカチを
(くちのなかへおしこんで、べつのはんかちでかたくくくってあります。それからみょうなことに、)
口の中へ押し込んで、別のハンカチで固く括ってあります。それから妙な事に、
(ようふくがあめにでもあったように、ぐっしょりぬれているのです。)
洋服が雨にでもあったように、グッショリ濡れているのです。
(さるぐつわをとってやるとおとこはやっとげんきづいたように、 「ちくしょうめ、ちくしょうめ」)
猿轡を取ってやると男はやっと元気づいたように、 「畜生め、畜生め」
(と、うなりました。 「あっ、きみはまつのくんじゃないか」)
と、唸りました。 「アッ、きみは松野君じゃないか」
(ひしょがびっくりしてさけびました。 それはにじゅうめんそうではなかったのです。)
秘書がびっくりして叫びました。 それは二十面相ではなかったのです。
(にじゅうめんそうのふくをきていましたけれど、かおはまったくちがうのです。おかかえうんてんしゅの)
二十面相の服を着ていましたけれど、顔は全く違うのです。お抱え運転手の
(まつのにちがいありません。さいぜん、さなえさんとそうじくんをがっこうへおくるために、)
松野に違いありません。最前、早苗さんと壮二君を学校へ送る為に、
(でかけたばかりではありませんか。そのまつのがどうしてここにいるのでしょう。)
出掛けたばかりではありませんか。その松野がどうしてここにいるのでしょう。
(「きみは、いったいどうしたんだ」 かかりちょうがたずねますと、まつのは、)
「君は、一体どうしたんだ」 係長が尋ねますと、松野は、
(「ちくしょうめ、やられたんです。あいつにやられたんです」)
「畜生め、やられたんです。あいつにやられたんです」
(と、くやしそうにさけぶのでした。)
と、悔しそうに叫ぶのでした。
(そうじくんのゆくえ まつののかたったところによりますと、けっきょく、ぞくは、)
【壮二君のゆくえ】 松野の語ったところによりますと、結局、賊は、
(つぎのようなとっぴなしゅだんによって、まんまとおってのめをくらまし、)
次のような突飛な手段によって、まんまと追っ手の目を眩まし、
(おおぜいのみているなかをやすやすとにげさったことがわかりました。)
大勢の見ている中を易々と逃げ去った事が分かりました。
(ひとびとにおいまわされているあいだに、ぞくはにわのいけにとびこんで、みずのなかにもぐって)
人々に追い回わされている間に、賊は庭の池に飛び込んで、水の中に潜って
(しまったのです。でも、ただもぐっていたのではこきゅうができませんが、ちょうど)
しまったのです。でも、ただ潜っていたのでは呼吸が出来ませんが、ちょうど
(そのへんにそうじくんがおもちゃにして、すてておいたふしのないたけぎれがおちていた)
その辺に壮二君が玩具にして、捨てておいた節のない竹ぎれが落ちていた
(ものですから、それをもっていけのなかへはいり、たけのつつをくちにあて、いっぽうのはしを)
ものですから、それを持って池の中へ入り、竹の筒を口にあて、一方の端を
(すいめんにだし、しずかにこきゅうをして、おってのたちさるのをまっていたのでした。)
水面に出し、静かに呼吸をして、追っ手の立ち去るのを待っていたのでした。
(ところが、ひとびとのあとにのこってひとりでそのへんをみまわしていたまつのうんてんしゅが、)
ところが、人々の後に残って一人でその辺を見回していた松野運転手が、
(そのたけぎれをはっけんし、ぞくのたくらみをかんづいたのです。おもいきってたけぎれを)
その竹ぎれを発見し、賊の企みを感付いたのです。思いきって竹ぎれを
(ひっぱってみますとはたして、いけのなかからどろまみれのにんげんがあらわれてきました。)
引っ張ってみますと果たして、池の中から泥塗れの人間が現れて来ました。
(そこでやみのなかのかくとうがはじまったのですが、きのどくなまつのはすくいをもとめる)
そこで闇の中の格闘が始まったのですが、気の毒な松野は救いを求める
(ひまもなく、たちまち、ぞくのためにくみふせられ、ぞくがちゃんとぽけっとに)
暇もなく、たちまち、賊の為に組み伏せられ、賊がちゃんとポケットに
(よういしていたきぬひもでしばりあげられ、さるぐつわをされてしまったのです。)
用意していた絹紐で縛り上げられ、猿轡をされてしまったのです。
(そしてふくをとりかえられたうえ、たかいきのまたへかつぎあげられたというしだいでした。)
そして服を取り換えられた上、高い木の股へ担ぎ上げられたという次第でした。