怪人二十面相19 江戸川乱歩
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問題文
(ふたりは、いそいでげんかんのひとかげのそばへひきかえしました。 「おや、こいつらは、)
二人は、急いで玄関の人影の傍へ引き返しました。 「おや、こいつらは、
(さっきからもんのところにいたおやこのこじきじゃないか。さてはいっぱいくわされたかな」)
先刻から門の所にいた親子の乞食じゃないか。さてはいっぱい食わされたかな」
(いかにもそれはおやことみえるふたりのこじきでした。りょうにんとも、ぼろぼろの)
いかにもそれは親子と見える二人の乞食でした。両人とも、ぼろぼろの
(うすよごれたきものをきて、にしめたようなてぬぐいでほおかむりをしています。)
薄汚れた着物を着て、煮しめたような手拭いで頬かむりをしています。
(「おまえたちはなんだ。こんなところへはいってきてはこまるじゃないか」)
「お前達は何だ。こんな所へ入って来ては困るじゃないか」
(こんどうろうじんがしかりつけますと、おやのこじきがみょうなこえでわらいだしました。)
近藤老人が叱りつけますと、親の乞食が妙な声で笑い出しました。
(「えへへへへ、おやくそくでございますよ」 わけのわからぬことをいったかとおもうと)
「エヘヘヘヘ、お約束でございますよ」 訳の分からぬ事を言ったかと思うと
(かれはやにわにはしりだしました。まるでかぜのように、くらやみのなかをもんのそとへ)
彼は矢庭に走り出しました。まるで風の様に、暗闇の中を門の外へ
(とびさってしまいました。 「おとうさま、ぼくですよ」)
飛び去ってしまいました。 「お父様、僕ですよ」
(こんどはこどものこじきが、へんなことをいいだすではありませんか。)
今度は子どもの乞食が、変な事を言い出すではありませんか。
(そして、いきなりほおかむりをとり、ぼろぼろのきものをぬぎすてたのをみると、)
そして、いきなり頬かむりを取り、ぼろぼろの着物を脱ぎ捨てたのを見ると、
(そのしたからあらわれたのは、みおぼえのあるがくせいふく、しろいかお。こどもこじきこそ、)
その下から現れたのは、見覚えのある学生服、白い顔。子ども乞食こそ、
(ほかならぬそうじくんでした。 「どうしたのだ、こんなきたないなりをして」)
他ならぬ壮二君でした。 「どうしたのだ、こんな汚いなりをして」
(はしばしが、なつかしいそうじくんのてをにぎりながらたずねました。)
羽柴氏が、懐かしい壮二君の手を握りながら尋ねました。
(「なにかわけがあるのでしょう。にじゅうめんそうのやつが、こんなきものをきせたんです。)
「何か訳があるのでしょう。二十面相の奴が、こんな着物を着せたんです。
(でも、いままでさるぐつわをはめられていて、ものがいえなかったのです」)
でも、今まで猿轡を嵌められていて、物が言えなかったのです」
(ああ、ではいまのおやこじきこそ、にじゅうめんそうそのひとだったのです。かれはこじきにへんそうを)
ああ、では今の親乞食こそ、二十面相その人だったのです。彼は乞食に変装を
(して、それとなくぶつぞうがはこびだされたのをみきわめたうえ、やくそくどおりそうじくんをかえして)
して、それとなく仏像が運び出されたのを見極めた上、約束通り壮二君を返して
(にげさったのにちがいありません。それにしてもこじきとは、なんというおもいきった)
逃げ去ったのに違いありません。それにしても乞食とは、何という思い切った
(へんそうでしょう。こじきならばひとのもんぜんにうろついていても、さしてあやしまれない)
変装でしょう。乞食ならば人の門前にうろついていても、さして怪しまれない
(という、にじゅうめんそうらしいおもいつきです。 そうじくんはぶじにかえりました。)
という、二十面相らしい思い付きです。 壮二君は無事に帰りました。
(きけば、せんぽうではちかしつにとじこめられてはいたけれど、べつにぎゃくたいされるような)
聞けば、先方では地下室に閉じ込められてはいたけれど、別に虐待されるような
(こともなく、しょくじもじゅうぶんあてがわれていたということです。)
事もなく、食事も十分あてがわれていたという事です。
(これではしばけのおおきなしんぱいはとりのぞかれました。おとうさまおかあさまのよろこびが)
これで羽柴家の大きな心配は取り除かれました。お父様お母様の喜びが
(どんなであったかは、どくしゃしょくんのごそうぞうにおまかせします。 さていっぽう、)
どんなであったかは、読者諸君のご想像にお任せします。 さて一方、
(こじきにばけたにじゅうめんそうはかぜのようにはしばけのもんをとびだし、こぐらいよこちょうにかくれて)
乞食に化けた二十面相は風のように羽柴家の門を飛び出し、小暗い横町に隠れて
(すばやくこじきのきものをぬぎすてますと、そのしたにはちゃいろのじっとくすがたのおじいさんの)
素早く乞食の着物を脱ぎ捨てますと、その下には茶色の十徳姿のお爺さんの
(へんそうがよういしてありました。あたまはしらが、かおもしわだらけの、どうみても60を)
変装が用意してありました。頭は白髪、顔も皺だらけの、どう見ても六十を
(こしたごいんきょさまです。 かれはすがたをととのえると、かくしもっていたたけのつえをつき、)
越したご隠居さまです。 彼は姿を整えると、隠し持っていた竹の杖をつき、
(せなかをまるめて、よちよちと、あるきだしました。たとえはしばしがやくそくをむしして)
背中を丸めて、よちよちと、歩き出しました。たとえ羽柴氏が約束を無視して
(おってをさしむけたとしても、これではみやぶられるきづかいはありません。)
追っ手を差し向けたとしても、これでは見破られる気遣いはありません。
(じつにこころにくいばかりのよういしゅうとうなやりくちです。 ろうじんはおおどおりにでると、)
実に心憎いばかりの用意周到な遣り口です。 老人は大通りに出ると、
(1だいのたくしーをよびとめてのりこみましたが、20ふんもでたらめのほうこうに)
一台のタクシーを呼び止めて乗り込みましたが、二十分も出鱈目の方向に
(はしらせておいてべつのくるまにのりかえ、こんどはほんとうのかくれがへいそがせました。)
走らせておいて別の車に乗り換え、今度は本当の隠れ家へ急がせました。
(くるまのとまったところは、とやまがはらのいりぐちでした。ろうじんはそこでくるまをおりて、)
車の停まった所は、戸山ヶ原の入り口でした。老人はそこで車を降りて、
(まっくらなはらっぱをよぼよぼとあるいていきます。さては、ぞくのそうくつは)
真暗な原っぱをよぼよぼと歩いて行きます。さては、賊の巣窟は
(とやまがはらにあったのです。 はらっぱのいっぽうのはずれ、こんもりとしたすぎばやしのなかに)
戸山ヶ原にあったのです。 原っぱの一方の外れ、こんもりとした杉林の中に
(ぽっつりと、いっけんのふるいようかんがたっています。あれはててすみてもないような)
ポッツリと、一軒の古い洋館が建っています。荒れ果てて住み手もないような
(たてものです。ろうじんはそのようかんのとぐちをとんとんとんとみっつたたいて、すこしあいだをおいて)
建物です。老人はその洋館の戸口をトントントンと三つ叩いて、少し間をおいて
(とんとんとふたつたたきました。 すると、これがなかまのあいずとみえて、)
トントンと二つ叩きました。 すると、これが仲間の合図とみえて、
(なかからどあがひらかれ、さいぜんぶつぞうをぬすみだしたてしたのひとりが、にゅっと)
中からドアが開かれ、最前仏像を盗み出した手下の一人が、ニュッと
(かおをだしました。)
顔を出しました。