怪人二十面相20 江戸川乱歩
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問題文
(ろうじんはだまったままさきにたって、ぐんぐんおくのほうへはいっていきます。)
老人は黙ったまま先に立って、ぐんぐん奥の方へ入って行きます。
(ろうかのつきあたりに、むかしはさぞりっぱであったろうとおもわれる、ひろいへやがあって)
廊下の突き当たりに、昔はさぞ立派であったろうと思われる、広い部屋があって
(そのへやのまんなかに、ぬのをまきつけたままのぶつぞうのがらすばこが、でんとうもない、)
その部屋の真ん中に、布を巻き付けたままの仏像のガラス箱が、電燈もない、
(はだかろうそくのあかちゃけたひかりに、てらしだされています。 「よしよし。おまえたち)
裸蝋燭の赤茶けた光に、照らし出されています。 「よしよし。お前達
(うまくやってくれた。これはほうびだ。どっかへいってあそんでくるがいい」)
上手くやってくれた。これは褒美だ。どっかへ行って遊んで来るがいい」
(3にんのものにすうまいのせんえんさつをあたえてそのへやをたちさらせると、ろうじんは、)
三人の者に数枚の千円札を与えてその部屋を立ち去らせると、老人は、
(がらすばこのぬのをゆっくりとりさって、そこにあったはだかろうそくをかたてに、)
ガラス箱の布をゆっくり取り去って、そこにあった裸蝋燭を片手に、
(ぶつぞうのしょうめんにたち、ひらきどになっているがらすのとびらをひらきました。)
仏像の正面に立ち、開き戸になっているガラスの扉を開きました。
(「かんのんさま、にじゅうめんそうのうでまえはどんなもんですね。きのうは2ひゃくまんえんの)
「観音さま、二十面相の腕前はどんなもんですね。昨日は二百万円の
(だいやもんど、きょうはこくほうきゅうのびじゅつひんです。このちょうしだと、ぼくのけいかくしている)
ダイヤモンド、今日は国宝級の美術品です。この調子だと、僕の計画している
(だいびじゅつかんも、まもなくかんせいしようというものですよ。ははは・・・・・・、かんのんさま。)
大美術館も、まもなく完成しようというものですよ。ハハハ……、観音さま。
(あなたはじつによくできていますぜ。まるでいきているようだ」)
あなたは実に良く出来ていますぜ。まるで生きているようだ」
(ところがどくしゃしょくん、そのときでした。にじゅうめんそうのひとりごとがおわるか)
ところが読者諸君、その時でした。二十面相の独り言が終わるか
(おわらぬかに、かれのことばどおりに、じつにおそろしいきせきがおこったのです。)
終わらぬかに、彼の言葉通りに、実に恐ろしい奇跡が起こったのです。
(もくぞうのかんのんさまのみぎてが、ぐーっとまえにのびてきたではありませんか。)
木造の観音さまの右手が、グーッと前に伸びて来たではありませんか。
(しかもそのゆびには、おきまりのはすのくきではなくて1ちょうのぴすとるが、)
しかもその指には、お決まりのハスの茎ではなくて一丁のピストルが、
(ぴったりとぞくのむねにねらいをさだめて、にぎられていたではありませんか。 )
ピッタリと賊の胸に狙いを定めて、握られていたではありませんか。
(ぶつぞうがひとりでうごくはずはありません。 では、このかんのんさまには、)
仏像が一人で動く筈はありません。 では、この観音さまには、
(じんぞうにんげんのようなきかいじかけがほどこされていたのでしょうか。しかしかまくらじだいの)
人造人間のような機械仕掛けが施されていたのでしょうか。しかし鎌倉時代の
(ちょうぞうに、そんなしかけがあるわけはないのです。すると、いったいこのきせきはどうして)
彫像に、そんな仕掛けがある訳はないのです。すると、一体この奇跡はどうして
(おこったのでしょう。 だが、ぴすとるをつきつけられたにじゅうめんそうは、)
起こったのでしょう。 だが、ピストルをつきつけられた二十面相は、
(そんなことをかんがえているひまもありませんでした。かれは「あっ」とさけんで、)
そんなことを考えている暇もありませんでした。彼は「アッ」と叫んで、
(たじたじとあとじさりをしながら、てむかいしないといわぬばかりに、)
たじたじと後退りをしながら、手向かいしないと言わぬばかりに、
(おもわずりょうてをかたのところまであげてしまいました。)
思わず両手を肩のところまで上げてしまいました。
(おとしあな さすがのかいとうも、これにはきもをつぶしました。あいてが)
【おとしあな】 さすがの怪盗も、これには胆をつぶしました。相手が
(にんげんならばいくらぴすとるをむけられてもおどろくようなぞくではありませんが、)
人間ならばいくらピストルを向けられても驚くような賊ではありませんが、
(ふるいふるいかまくらじだいのかんのんさまがいきなりうごきだしたのですから、びっくり)
古い古い鎌倉時代の観音さまがいきなり動き出したのですから、びっくり
(しないではいられません。 びっくりしたというよりも、ぞーっとこころのそこから)
しないではいられません。 びっくりしたというよりも、ゾーッと心の底から
(おそろしさがこみあげてきたのです。こわいゆめをみているような、あるいは)
恐ろしさが込み上げてきたのです。怖い夢をみているような、或いは
(おばけにでもでくわしたような、なんともえたいのしれぬきょうふです。)
お化けにでも出くわしたような、何とも得体の知れぬ恐怖です。
(だいたんふてきのにじゅうめんそうが、かわいそうにまっさおになって、たじたじとあとじさりをして、)
大胆不敵の二十面相が、可哀想に真っ青になって、たじたじと後退りをして、
(ごめんなさいというように、ろうそくをゆかにおいてりょうてをたかくあげてしまいました。)
ごめんなさいと言うように、蝋燭を床に置いて両手を高く上げてしまいました。
(すると、またしてもじつにおそろしいことがおこったのです。かんのんさまが、)
すると、またしても実に恐ろしい事が起こったのです。観音さまが、
(れんげのだいざからおりて、ゆかのうえに、ぬっとたちあがったではありませんか。)
蓮華の台座から降りて、床の上に、ヌッと立ち上がったではありませんか。
(そして、じっとぴすとるのねらいをさだめながら、1ぽ、2ほ、3ほ、ぞくのほうへ)
そして、じっとピストルの狙いを定めながら、一歩、二歩、三歩、賊の方へ
(ちかづいてくるのです。 「き、きさま、いったい、な、なにものだっ」)
近付いて来るのです。 「き、きさま、いったい、な、何者だっ」
(にじゅうめんそうは、おいつめられたけもののような、うめきごえをたてました。)
二十面相は、追いつめられた獣のような、呻き声を立てました。
(「わしか、わしははしばけのだいやもんどをとりかえしにきたのだ。たったいま)
「儂か、儂は羽柴家のダイヤモンドを取り返しに来たのだ。たった今
(あれをわたせばいちめいをたすけてやる」 おどろいたことには、ぶつぞうがものをいったのです)
あれを渡せば一命を助けてやる」 驚いた事には、仏像がものを言ったのです
(おもおもしいこえでめいれいしたのです。 「ははあ、きさま、はしばけのまわしものだな。)
重々しい声で命令したのです。 「ハハア、きさま、羽柴家の回し者だな。
(ぶつぞうにへんそうして、おれのかくれがをつきとめにきたんだな」)
仏像に変装して、俺の隠れ家を突き止めに来たんだな」