怪人二十面相23 江戸川乱歩

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プレイ回数3598難易度(5.0) 2892打 長文
少年探偵団シリーズ1作目

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問題文

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(ななつどうぐ こばやししょうねんはほとんど20ふんほどのあいだ、ちていのくらやみのなかで、)

【七つ道具】  小林少年は殆ど二十分程の間、地底の暗闇の中で、

(ついらくしたままのしせいでじっとしていました。ひどくこしをうったものですから、)

墜落したままの姿勢でじっとしていました。ひどく腰を打ったものですから、

(いたさにみうごきするきにもなれなかったのです。 そのまに、てんじょうでは)

痛さに身動きする気にもなれなかったのです。  そのまに、天井では

(にじゅうめんそうがさんざんあざけりのことばをなげかけておいて、おとしあなのふたをぴっしゃり)

二十面相が散々嘲りの言葉を投げ掛けておいて、落とし穴の蓋をピッシャリ

(しめてしまいました。もうたすかるみこみはありません。とわのとりこです。もしぞくが)

閉めてしまいました。もう助かる見込みはありません。永久の虜です。もし賊が

(このまましょくじをあたえてくれないとしたら、だれひとりしるものもないあばらやのちかしつで)

このまま食事を与えてくれないとしたら、誰一人知る者もない荒ら家の地下室で

(うえじにしてしまわねばなりません。 としはもいかぬしょうねんのみで、)

飢え死にしてしまわねばなりません。  年端もいかぬ少年の身で、

(このおそろしいきょうぐうをどうたえしのぶことができましょう。たいていのしょうねんならば、)

この恐ろしい境遇をどう耐え忍ぶ事が出来ましょう。大抵の少年ならば、

(さびしさとおそろしさに、ぜつぼうのあまりしくしくとなきだしたことでありましょう。)

寂しさと恐ろしさに、絶望のあまりシクシクと泣き出した事でありましょう。

(しかし、こばやししょうねんはなきもしなければ、ぜつぼうもしませんでした。かれはけなげにも)

しかし、小林少年は泣きもしなければ、絶望もしませんでした。彼は健気にも

(まだ、にじゅうめんそうにまけたとはおもっていなかったのです。 やっとこしのいたみが)

まだ、二十面相に負けたとは思っていなかったのです。  やっと腰の痛みが

(うすらぐと、しょうねんがまずさいしょにしたことは、へんそうのやぶれごろものしたにかくしてかたから)

薄らぐと、少年がまず最初にした事は、変装の破れ衣の下に隠して肩から

(さげていたちいさなずっくのかばんに、そっとさわってみることでした。)

下げていた小さなズックのカバンに、ソッと触ってみる事でした。

(「ぴっぽちゃん、きみはぶじだったかい」 みょうなことをいいながら、)

「ピッポちゃん、君は無事だったかい」  妙な事を言いながら、

(うえからなでるようにしますと、かばんのなかでなにかちいさなものがごそごそと)

上から撫でるようにしますと、カバンの中で何か小さなものがゴソゴソと

(うごきました。 「ああ、ぴっぽちゃんはどこもうたなかったんだね。おまえさえ)

動きました。 「ああ、ピッポちゃんはどこも打たなかったんだね。お前さえ

(いてくれれば、ぼく、ちっともさびしくないよ」 ぴっぽちゃんがべつじょうなく)

いてくれれば、僕、ちっとも寂しくないよ」  ピッポちゃんが別状なく

(いきていることをたしかめると、こばやししょうねんはやみのなかにすわって、そのしょうかばんを)

生きている事を確かめると、小林少年は闇の中に座って、その小カバンを

(かたからはずし、なかからまんねんひつがたのかいちゅうでんとうをとりだして、そのひかりでゆかに)

肩から外し、中から万年筆型の懐中電燈を取り出して、その光で床に

(ちらばっていた6つのだいやもんどとぴすとるをひろいあつめ、それをかばんに)

散らばっていた六つのダイヤモンドとピストルを拾い集め、それをカバンに

など

(おさめるついでに、そのなかのいろいろなしなものをふんしつしていないかどうかを、)

納めるついでに、その中の色々な品物を紛失していないかどうかを、

(ねんいりにてんけんするのでした。 そこには、しょうねんたんていのななつどうぐがちゃんと)

念入りに点検するのでした。  そこには、少年探偵の七つ道具がちゃんと

(そろっていました。むかし、むさしぼうべんけいというごうけつは、あらゆるいくさのどうぐを、)

揃っていました。昔、武蔵坊弁慶という豪傑は、あらゆる戦の道具を、

(すっかりせなかにせおってあるいたのだそうですが、それを「べんけいのななつどうぐ」)

すっかり背中に背負って歩いたのだそうですが、それを「弁慶の七つ道具」

(といって、いまにかたりつたえられています。こばやししょうねんの「たんていななつどうぐ」は、)

といって、今に語り伝えられています。小林少年の「探偵七つ道具」は、

(そんなおおきなぶきではなく、ひとまとめにしてりょうてににぎれるほどのちいさなものばかり)

そんな大きな武器ではなく、一纏めにして両手に握れるほどの小さな物ばかり

(でしたが、そのやくにたつことはけっしてべんけいのななつどうぐにもおとりはしなかったのです)

でしたが、その役に立つ事は決して弁慶の七つ道具にも劣りはしなかったのです

(まずまんねんひつがたかいちゅうでんとう。やかんのそうさじぎょうにはとうかがなによりもたいせつです。)

まず万年筆型懐中電燈。夜間の捜査事業には燈火が何よりも大切です。

(また、このかいちゅうでんとうは、ときにしんごうのやくめをはたすこともできます。)

また、この懐中電燈は、時に信号の役目を果たす事も出来ます。

(それから、こがたのばんのうないふ。これにはのこぎり、はさみ、きりなど、さまざまのはものるいが)

それから、小型の万能ナイフ。これには鋸、鋏、錐など、様々の刃物類が

(おりたたみになってついております。 それから、じょうぶなきぬひもでつくったなわばしご、)

折り畳みになって付いております。  それから、丈夫な絹紐で作った縄梯子、

(これはたためばてのひらにはいるほどちいさくなってしまうのです。そのほか、やっぱり)

これは畳めば掌に入る程小さくなってしまうのです。そのほか、やっぱり

(まんねんひつがたのぼうえんきょう、とけい、じしゃく、こがたのてちょうとえんぴつ、さいぜんぞくをおびやかした)

万年筆型の望遠鏡、時計、磁石、小型の手帳と鉛筆、最前賊を脅かした

(こがたぴすとるなどがおもなものでした。 いや、そのほかに、もうひとつ)

小型ピストル等が主な物でした。  いや、その外に、もう一つ

(ぴっぽちゃんのことをわすれてはなりません。かいちゅうでんとうにてらしだされたのを)

ピッポちゃんの事を忘れてはなりません。懐中電燈に照らし出されたのを

(みますと、それは1わのはとでした。かわいいはとがみをちぢめて、かばんの)

見ますと、それは一羽のハトでした。可愛いハトが身を縮めて、カバンの

(べつのくかくに、おとなしくじっとしていました。 「ぴっぽちゃん。きゅうくつだけれど、)

別の区画に、大人しくじっとしていました。 「ピッポちゃん。窮屈だけれど、

(もうすこしがまんするんだよ。こわいおじさんにみつかるとたいへんだからね」)

もう少し我慢するんだよ。怖いおじさんに見付かると大変だからね」

(こばやししょうねんはそんなことをいってあたまをなでてやりますと、はとのぴっぽちゃんは、)

小林少年はそんな事を言って頭を撫でてやりますと、ハトのピッポちゃんは、

(そのことばがわかりでもしたように、くーくーとないてへんじをしました。)

その言葉が分かりでもしたように、クークーと鳴いて返事をしました。

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