怪人二十面相29 江戸川乱歩
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問題文
(かかりちょうはおもてとうらのようしょようしょにみはりのけいかんをたたせておいて、のこるぜんいんをさしずして)
係長は表と裏の要所要所に見張りの警官を立たせておいて、残る全員を指図して
(へやというへやをかたっぱしからそうさくさせました。 「あっ、ここだ。)
部屋という部屋を片っ端から捜索させました。 「あっ、ここだ。
(ここがちかしつだ」 ひとりのけいかんがれいのおとしどのうえでどなりました。)
ここが地下室だ」 一人の警官が例の落とし戸の上で怒鳴りました。
(たちまちかけよるひとびと、そこにしゃがんで、うすぐらいちかしつをのぞいていたひとりが)
たちまち駆け寄る人々、そこにしゃがんで、薄暗い地下室を覗いていた一人が
(こばやししょうねんのすがたをみとめて、 「いる、いる。きみがこばやしくんか」)
小林少年の姿を認めて、 「いる、いる。君が小林君か」
(とよびかけますと、まちかまえていたしょうねんは、 「そうです。はやくはしごを)
と呼び掛けますと、待ち構えていた少年は、 「そうです。早く梯子を
(おろしてください」 とさけぶのでした。)
降ろしてください」 と叫ぶのでした。
(いっぽう、かいかのへやべやはくまなくそうさくされましたが、ぞくのすがたはどこにも)
一方、階下の部屋部屋は隈なく捜索されましたが、賊の姿は何処にも
(みえません。 「こばやしくん、にじゅうめんそうはどこへいったか、きみはしらないか」)
見えません。 「小林君、二十面相は何処へ行ったか、君は知らないか」
(やっとちかしつからはいあがった、いようなころもすがたのしょうねんをとらえて、なかむらかかりちょうが)
やっと地下室から這い上がった、異様な衣姿の少年を捕らえて、中村係長が
(あわただしくたずねました。 「ついいましがたまで、このおとしどのところにいたんです)
慌ただしく尋ねました。 「つい今しがたまで、この落とし戸の所にいたんです
(そとへにげたはずはありません。2かいじゃありませんか」 こばやししょうねんのことばが)
外へ逃げた筈はありません。二階じゃありませんか」 小林少年の言葉が
(おわるかおわらぬかに、その2かいからただならぬさけびごえがひびいてきました。)
終わるか終わらぬかに、その二階から徒ならぬ叫び声が響いてきました。
(「はやくきてくれ、ぞくだ、ぞくをつかまえたぞ!」 それっというので、ひとびとは)
「早く来てくれ、賊だ、賊を捕まえたぞ!」 それっというので、人々は
(なだれをうって、ろうかのおくのかいだんへさっとうしました。どかどかというはげしいくつおと、)
雪崩をうって、廊下の奥の階段へ殺到しました。ドカドカという激しい靴音、
(かいだんをあがるとそこはやねうらべやで、ちいさなまどがたったひとつ、まるでゆうがたの)
階段を上がるとそこは屋根裏部屋で、小さな窓がたった一つ、まるで夕方の
(ようにうすぐらいのです。 「ここだ、ここだ。はやくかせいしてくれ」)
ように薄暗いのです。 「ここだ、ここだ。早く加勢してくれ」
(そのうすぐらいなかで、ひとりのけいかんがはくはつはくぜんのろうじんをくみしいてどなっています)
そのうす暗い中で、一人の警官が白髪白髯の老人を組み敷いて怒鳴っています
(ろうじんはなかなかてごわいらしく、ともすればはねかえしそうで、くみしいているのが)
老人はなかなか手強いらしく、ともすれば跳ね返しそうで、組み敷いているのが
(やっとのようすです。 さきにたった2、3にんが、たちまちろうじんに)
やっとの様子です。 先にたった二、三人が、たちまち老人に
(くみついていきました。それをおって、4にん、5にん、6にん、ことごとくのけいかんが)
組み付いていきました。それを追って、四人、五人、六人、尽くの警官が
(おりかさなって、ぞくのうえにおそいかかりました。 もうこうなっては、)
折り重なって、賊の上に襲い掛かりました。 もうこうなっては、
(いかなきょうぞくもていこうのしようがありません。みるみるうちにたかてこてに)
如何な凶賊も抵抗のしようがありません。みるみる内に高手小手に
(いましめられてしまいました。 しらがのろうじんがぐったりとしてへやのすみにうずくまったとき)
縛められてしまいました。 白髪の老人がグッタリとして部屋の隅に蹲った時
(なかむらかかりちょうがこばやししょうねんをつれてあがってきました。くびじっけんのためです。)
中村係長が小林少年を連れて上がって来ました。首実検の為です。
(「にじゅうめんそうは、こいつにちがいないだろうね」 かかりちょうがたずねますと、しょうねんは)
「二十面相は、こいつに違いないだろうね」 係長が尋ねますと、少年は
(そくざにうなずいて、 「そうです。こいつです。にじゅうめんそうがこんなろうじんに)
即座に頷いて、 「そうです。こいつです。二十面相がこんな老人に
(へんそうしているのです」 とこたえました。)
変装しているのです」 と答えました。
(「きみたち、そいつをじどうしゃへのせてくれたまえ。ぬかりのないように」)
「君達、そいつを自動車へ乗せてくれたまえ。ぬかりのないように」
(かかりちょうがめいじますと、けいかんたちはしほうからろうじんをひったてて、かいだんを)
係長が命じますと、警官たちは四方から老人を引ったてて、階段を
(おりていきました。 「こばやしくん、おおてがらだったねえ。がいこくからあけちさんが)
降りていきました。 「小林君、大手柄だったねえ。外国から明智さんが
(かえったら、さぞびっくりすることだろう。あいてがにじゅうめんそうというおおものだからねえ。)
帰ったら、さぞ吃驚する事だろう。相手が二十面相という大物だからねえ。
(あしたになったらきみのなはにほんじゅうにひびきわたるんだぜ」 なかむらかかりちょうは)
明日になったら君の名は日本中に響き渡るんだぜ」 中村係長は
(しょうねんめいたんていのてをとって、かんしゃにたえぬもののようににぎりしめるのでした。)
少年名探偵の手を取って、感謝に堪えぬもののように握り締めるのでした。
(かくして、たたかいはこばやししょうねんのしょうりにおわりました。ぶつぞうはさいしょからわたさなくて)
かくして、戦いは小林少年の勝利に終わりました。仏像は最初から渡さなくて
(すんだのですし、だいやもんどは6こともちゃんとかばんのなかにおさまっています)
済んだのですし、ダイヤモンドは六個ともちゃんとカバンの中に納まっています
(しょうりもしょうり、まったくもうしぶんのないしょうりでした。ぞくはあれほどのくしんにもかかわらず、)
勝利も勝利、全く申し分のない勝利でした。賊はあれほどの苦心にも関わらず、
(いちぶつをもうることができなかったばかりか、せっかくかんきんしたこばやししょうねんは)
一物をも得ることが出来なかったばかりか、せっかく監禁した小林少年は
(すくいだされ、かれじしんは、とうとう、とらわれのみとなってしまったのですから。)
救い出され、彼自身は、とうとう、囚われの身となってしまったのですから。
(「ぼく、なんだかうそみたいなきがします。にじゅうめんそうにかったなんて」)
「ぼく、なんだか嘘みたいな気がします。二十面相に勝ったなんて」
(こばやしくんは、こうふんにあおざめたかおで、なにかしんじがたいことのようにいうのでした。)
小林君は、興奮に青褪めた顔で、何か信じ難い事のように言うのでした。