ちくしょう谷 ⑦

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プレイ回数1372難易度(4.5) 4137打 長文
隼人は罪人が暮らした流人村へ役で赴くことになる。
現在、流人村に罪人はおらず子孫だけが独特な風習で暮らす。
そこには兄の仇の西沢半四郎がいた。

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問題文

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(いわをけずったきゅうなふみだんをおりると、すぐむこうにるにんむらのむらがみえた。)

岩を削った急な踏段をおりると、すぐ向うに流人村の村が見えた。

(だんがいきりぎしとだんがいとにさんぽうをかこまれ、ひがしのほうへだんさがりにひくくなるはしが、)

断崖きりぎしと断崖とに三方を囲まれ、東のほうへ段さがりに低くなる端が、

(そのまままただんがいにつづいていた。ひとくちにいうと、)

そのまままた断崖に続いていた。ひとくちに云うと、

(びょうぶでさんぽうをかこまれたひなだんのようなちけいで、)

屏風で三方を囲まれた雛段のような地形で、

(いしをくみあげただいちがしゃめんにだんをなしており、わかぎのひのきやすぎの)

石を組みあげた台地が斜面に段をなしており、若木の檜や杉の

(そりんのあいだに、じゅうみんたちのいえがちらばってみえた。)

疎林のあいだに、住民たちの家がちらばって見えた。

(きのうはそこからひきかえしたのであるが、はやとはしばらくながめていたのち、)

昨日はそこから引返したのであるが、隼人は暫く眺めていたのち、

(いわのごつごつした、せまい、ふきそくなでんこうけいになっているみちを、)

岩のごつごつした、狭い、不規則な電光形になっている道を、

(ゆっくりとおりていった。うしろからおかむらしちろうべえが、)

ゆっくりとおりていった。うしろから岡村七郎兵衛が、

(むらまでゆくのかときいた。そのつもりだ、とはやとはこたえた。)

村までゆくのかと訊いた。そのつもりだ、と隼人は答えた。

(「ちょっとまってください、それはかんがえものですよ」「ひとまわりするだけだ」)

「ちょっと待って下さい、それは考えものですよ」「ひと廻りするだけだ」

(「あなたはまだごぞんじないでしょうが、むらのなかにはけたはずれなにんげんがいます」)

「貴方はまだ御存じないでしょうが、村の中には桁外れな人間がいます」

(とおかむらがいった、「いくたさんががけからおちたのもあやまちではなく、)

と岡村が云った、「生田さんが崖から落ちたのもあやまちではなく、

(ごんぱちにつきおとされたのだ、などというはなしさえあるくらいです」)

権八に突き落されたのだ、などという話さえあるくらいです」

(「こんきょのあるはなしか」「おそらくあやまっておちたのでしょう、)

「根拠のある話か」「おそらくあやまって落ちたのでしょう、

(ともをごにんつれていましたが、ごにんともいくたさんがあしをふみすべらせておちるのを)

供を五人伴れていましたが、五人とも生田さんが足を踏み滑らせて落ちるのを

(みたということです、もっとも、そこはななまがりといって、)

見たということです、もっとも、そこは七曲りといって、

(だんがいのちゅうふくをけずったせまいみちがいくまがりもしているし、)

断崖の中腹を削った狭い道が幾曲りもしているし、

(いくたさんととものものたちとはなれていたようすなので、)

生田さんと供の者たちとははなれていたようすなので、

(おちるのを、ほんとうにみたかどうかはわからないんですが」)

落ちるのを、本当に見たかどうかはわからないんですが」

など

(といっておかむらはかたをゆりあげた、「したいをあげにいったとき、)

と云って岡村は肩をゆりあげた、「死躰をあげにいったとき、

(がけのうえからのぞきこんでいたものがあり、それがごんぱちだったということで、)

崖の上から覗きこんでいた者があり、それが権八だったということで、

(そういううわさがでたのだろうとおもいます」)

そういう噂が出たのだろうと思います」

(はやとはたちどまっておかむらをみた、「ごんぱちにそんなことをするりゆうでもあるのか」)

隼人は立停って岡村を見た、「権八にそんなことをする理由でもあるのか」

(「とくにこれというりゆうはないでしょうが、ごんぱちにかぎらず、)

「特にこれという理由はないでしょうが、権八に限らず、

(むらのにんげんはみなきどのものをにくんでいますからね」)

村の人間はみな木戸の者を憎んでいますからね」

(「どうして」「どうしてですって」おかむらはどもり、またかたをゆりあげた、)

「どうして」「どうしてですって」岡村はどもり、また肩をゆりあげた、

(「だってその、しゅうじんがろうもりをにくむのはとうぜんじゃありませんか」)

「だってその、囚人が牢守を憎むのは当然じゃありませんか」

(はやとはなにかいいかけたが、くちをつぐんでまたあるきだした。)

隼人はなにか云いかけたが、口をつぐんでまた歩きだした。

(みちをくだりきったところに、たいらないしをつんだみちしるべのようなものと、)

道をくだりきったところに、平らな石を積んだ道標のようなものと、

(すっかりくちてしまったくいのようなものがあった。)

すっかり朽ちてしまった杭のようなものがあった。

(おかむらしちろうべえはそれをゆびさして、むかしはそこにるにんむらという)

岡村七郎兵衛はそれを指さして、昔はそこに流人村という

(しるしのいしがたててあり、さくがまわしてあったのだ、とせつめいした。)

しるしの石が立ててあり、柵がまわしてあったのだ、と説明した。

(「どうしてもなかへはいるんですか」「そのためにきたんだ」)

「どうしても中へはいるんですか」「そのために来たんだ」

(「よろしい、ではしょうないろうじんのところへよりましょう、)

「よろしい、では正内老人のところへ寄りましょう、

(ろうじんがいっしょならまずあんぜんです」)

老人がいっしょならまず安全です」

(それはどういうにんげんか、はやとはそうきこうとしたが、くちにはださなかった。)

それはどういう人間か、隼人はそう訊こうとしたが、口には出さなかった。

(しるしのいしのあるところは、むらのさいじょうぶであった。)

しるしの石のあるところは、村の最上部であった。

(いしでくみあげただいちはごだんになってい、いちだんにごむねからしちむねのいえがあった。)

石で組みあげた台地は五段になってい、一段に五棟から七棟の家があった。

(ちょうどそのとき、むらをこしたむこうのだんがいのじょうぶを、あさのにっこうが)

ちょうどそのとき、村を越した向うの断崖の上部を、朝の日光が

(あかくそめだし、そのあかいいろのしだいにひろがってゆくのがながめられた。)

赤く染めだし、その赤い色のしだいにひろがってゆくのが眺められた。

(むらのあたりはまだうすぐらく、あおじろいたかしぎのけむりが、)

村のあたりはまだうす暗く、青白い炊かしぎの煙が、

(うえからなにかでおさえられでもするように、ごだんのすじをなしてよこにたなびき、)

上からなにかで押えられでもするように、五段のすじをなして横にたなびき、

(たなびいたままうごかずにいた。)

たなびいたまま動かずにいた。

(きゅうなふみだんをまがりながらおりてゆくと、どこかでするどいおんなのひめいがきこえた。)

急な踏段を曲りながらおりてゆくと、どこかでするどい女の悲鳴が聞えた。

(はやとがたちどまり、おかむらもあしをとめた。ひめいはまをおいてきこえてきた。)

隼人が立停り、岡村も足を停めた。悲鳴はまをおいて聞えて来た。

(つんざくような、するどい、けものめいたさけびごえで、)

つんざくような、するどい、けものめいた叫び声で、

(はやとは「なまがわをはぐ」というむかしのけいばつをおもいだした。)

隼人は「生皮を剥ぐ」という昔の刑罰を思いだした。

(「いや、よしましょう」とおかむらがいった、「かれらにはかれらだけの)

「いや、よしましょう」と岡村が云った、「かれらにはかれらだけの

(しゅうかんがあります、きどのおきてもかれらのしゅうかんまでしはいはできません」)

習慣があります、木戸の掟もかれらの習慣まで支配はできません」

(「おまえにこいとはいわない」はやとはそういってあるきだした。)

「おまえに来いとは云わない」隼人はそう云って歩きだした。

(「わたしはしょうないろうじんをよんでゆきます」とおかむらがいった、)

「私は正内老人を呼んでゆきます」と岡村が云った、

(「かるはずみなことはしないでください」)

「軽はずみなことはしないで下さい」

(おかむらはひだりのほうへはしっていった。はやとはこえのするほうへいそいだ。)

岡村は左のほうへ走っていった。隼人は声のするほうへいそいだ。

(たけのひくいひのきのそりんがあり、そのかげにひとむねのいえがあった。)

丈の低い檜の疎林があり、その蔭に一棟の家があった。

(むねがひくく、かやぶきのくちかかったようなやねにてがとどくくらいであった。)

棟が低く、萱葺の朽ちかかったような屋根に手が届くくらいであった。

(こういういえをさんむねまでみ、やがてじゅうじのつじにでた。)

こういう家を三棟まで見、やがて十字の辻に出た。

(だいちのちゅうおうをたてにつうじているらしい、そこでおんなのひめいがまぢかにきこえた。)

台地の中央を縦に通じているらしい、そこで女の悲鳴がまぢかに聞えた。

(はやとはみぎへまがり、ふみだんをかけあがった。)

隼人は右へ曲り、踏段を駆けあがった。

(のぼりきったところは、ひゃくつぼばかりのなにもないあきちで、)

登りきったところは、百坪ばかりのなにもない空地で、

(すみのほうにかれたすぎのきがあり、そのえだにはだかのおんながつるされていた。)

隅のほうに枯れた杉の木があり、その枝に裸の女が吊るされていた。

(すぎのかれきのこちらに、おとこやおんながしちはちにんたちならび、ひとりのたくましいおとこが)

杉の枯木のこちらに、男や女が七八人立ち並び、一人の逞ましい男が

(もろはだぬぎになって、かわむちのようなものではだかのおんなをうっていた。)

諸肌ぬぎになって、革鞭のような物で裸の女を打っていた。

(まばゆいほどしろく、きめのこまかなおんなのはだに、むちのあとが)

まばゆいほど白く、きめのこまかな女の肌に、鞭の痕が

(あかくいくすじとなくしるされ、なかにはひふがさけて、ちのにじんでいるのがみえた。)

赤く幾筋となく印され、中には皮膚が裂けて、血の滲んでいるのが見えた。

(てくびをしばってつるされているおんなは、うたれるたびにひめいをあげ、)

手首を縛って吊されている女は、打たれるたびに悲鳴をあげ、

(からだをさゆうへふったり、つるされたなわをちゅうしんにぐらっとまわったりした。)

躯を左右へ振ったり、吊された繩を中心にぐらっと廻ったりした。

(ゆたかなむねや、まろやかにはりきったふくぶが)

豊かな胸や、まろやかに張りきった腹部が

(はげしくなみをうってゆれ、とけたかみのけがいきもののように、)

激しく波を打って揺れ、解けた髪の毛が生き物のように、

(おんなのかおをつつんだり、ばらばらにふりみだされたりした。)

女の顔を包んだり、ばらばらに振り乱されたりした。

(「よせ」とはやとはしずかによびかけた、「むほうなことをするな」)

「よせ」と隼人は静かに呼びかけた、「無法なことをするな」

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