怪人二十面相30 江戸川乱歩

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プレイ回数2487難易度(5.0) 2772打 長文
少年探偵団シリーズ1作目

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問題文

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(しかし、ここにひとつ、ぞくがたいほされたうれしさのあまり、しょうねんたんていが)

しかし、ここに一つ、賊が逮捕された嬉しさのあまり、少年探偵が

(すっかりわすれていたことがらがあります。それはにじゅうめんそうのやとっていた)

すっかり忘れていた事柄があります。それは二十面相の雇っていた

(こっくのゆくえです。かれは、いったいどこへくもがくれしてしまったのでしょう。)

コックの行方です。彼は、一体何処へ雲隠れしてしまったのでしょう。

(あれほどのやさがしにまったくすがたをみせなかったというのは、じつにふしぎでは)

あれ程の家捜しに全く姿を見せなかったというのは、実に不思議では

(ありませんか。 にげるひまがあったとはおもわれません。もしこっくに)

ありませんか。  逃げる暇があったとは思われません。もしコックに

(にげるよゆうがあれば、にじゅうめんそうもにげているはずです。では、かれはまだおくないの)

逃げる余裕があれば、二十面相も逃げている筈です。では、彼はまだ屋内の

(どこかにみをひそめているのでしょうか。それはまったくふかのうなことです。)

何処かに身を潜めているのでしょうか。それは全く不可能なことです。

(おおぜいのけいかんたいのげんじゅうなそうさくにそんなてぬかりがあったとはかんがえられないからです)

大勢の警官隊の厳重な捜索にそんな手抜かりがあったとは考えられないからです

(どくしゃしょくん、ひとつほんをおいて、かんがえてみてください。このこっくのいような)

読者諸君、ひとつ本を置いて、考えてみて下さい。このコックの異様な

(ゆくえふめいには、そもそもどんないみがかくされているのかを。)

行方不明には、そもそもどんな意味が隠されているのかを。

(おそろしきちょうせんじょう とやまがはらのはいおくのとりものがあってから2じかんほどのち、)

【恐ろしき挑戦状】  戸山ヶ原の廃屋の捕り物があってから二時間ほど後、

(けいしちょうのいんきなしらべしつで、かいとうにじゅうめんそうのとりしらべがおこなわれました。)

警視庁の陰気な調べ室で、怪盗二十面相の取り調べが行われました。

(なんのかざりもない、うすぐらいへやにつくえが1きゃく、そこになかむらそうさかかりちょうとろうじんにへんそう)

何の飾りもない、薄暗い部屋に机が一脚、そこに中村捜査係長と老人に変装

(したままのかいとうとふたりきりのさしむかいです。 ぞくはうしろでにいましめられたまま)

したままの怪盗と二人きりの差し向かいです。  賊は後ろ手に縛められたまま

(ぼうじゃくぶじんにたちはだかっています。さいぜんから、おしのようにだまりこくって、)

傍若無人に立ちはだかっています。最前から、唖のように黙りこくって、

(ひとことも、ものをいわないのです。 「ひとつ、きみのすがおをみせてもらおうか」)

一言も、ものを言わないのです。 「ひとつ、きみの素顔を見せて貰おうか」

(かかりちょうはぞくのそばへよると、いきなりしらがのかつらにてをかけて、すっぽりと)

係長は賊の傍へ寄ると、いきなり白髪のカツラに手をかけて、スッポリと

(ひきぬきました。すると、そのしたからくろぐろとしたあたまがあらわれました。つぎには)

引き抜きました。すると、その下から黒々とした頭が現れました。次には

(かおいっぱいの、しらがのつけひげを、むしりとりました。そして、いよいよぞくの)

顔いっぱいの、白髪のつけ髭を、毟り取りました。そして、いよいよ賊の

(すがおがむきだしになったのです。 「おやおや、きみはあんがい、ぶおとこだね」)

素顔が剥き出しになったのです。 「おやおや、君は案外、醜男だね」

など

(かかりちょうがそういって、みょうなかおをしたのももっともでした。ぞくは、せまいひたい、)

係長がそう言って、妙な顔をしたのも尤もでした。賊は、狭い額、

(くしゃくしゃとふぞろいなみじかいまゆ、そのしたにぎょろっとひかっているどんぐりまなこ、)

クシャクシャと不揃いな短い眉、その下にギョロッと光っているどんぐり眼、

(ひしゃげたはな、しまりのないあつぼったいくちびる、まったくりこうそうなところのかんじられない、)

拉げた鼻、しまりのない厚ぼったい唇、全く利口そうなところの感じられない、

(やばんじんのような、いようなそうこうでした。 さきにもいうとおり、このぞくは)

野蛮人のような、異様な相好でした。  先にも言うとおり、この賊は

(いくつとなくちがったかおをもっていて、ときにおうじてろうじんにも、せいねんにも、おんなにさえも)

幾つとなく違った顔を持っていて、時に応じて老人にも、青年にも、女にさえも

(ばけるというかいぶつですから、せけんいっぱんにはもちろん、けいさつのかかりかんたちにも、)

化けるという怪物ですから、世間一般には勿論、警察の係官たちにも、

(そのほんとうのようぼうはすこしもわかっていなかったのです。 それにしても、)

その本当の容貌は少しも分かっていなかったのです。  それにしても、

(これはまあ、なんてみにくいかおをしているのだろう。もしかしたら、このやばんじん)

これはまあ、なんて醜い顔をしているのだろう。もしかしたら、この野蛮人

(みたいなかおが、やっぱりへんそうなのかもしれない。 なかむらかかりちょうは、なんとも)

みたいな顔が、やっぱり変装なのかもしれない。  中村係長は、何とも

(たとえられないぶきみなものをかんじました。かかりちょうは、じっとぞくのかおをにらみつけて、)

例えられない不気味なものを感じました。係長は、じっと賊の顔を睨み付けて、

(おもわず、こえをおおきくしないではいられませんでした。 「おい、これがおまえの)

思わず、声を大きくしないではいられませんでした。 「おい、これがお前の

(ほんとうのかおなのか」 じつにへんてこなしつもんです。しかし、そういうばかばかしい)

本当の顔なのか」  実にヘンテコな質問です。しかし、そういう馬鹿馬鹿しい

(しつもんをしないではいられぬきもちでした。 するとかいとうは、どこまでも)

質問をしないではいられぬ気持でした。  すると怪盗は、どこまでも

(おしだまったまま、しまりのないくちびるを、いっそうしまりなくして、にやにやと)

押し黙ったまま、締まりのない唇を、いっそう締まりなくして、ニヤニヤと

(わらいだしたのです。 それをみると、なかむらかかりちょうは、なぜかぞっとしました。)

笑いだしたのです。  それを見ると、中村係長は、なぜかゾッとしました。

(めのまえに、なにかそうぞうもおよばないきかいなことがおこりはじめているような)

目の前に、何か想像も及ばない奇怪な事が起こり始めているような

(きがしたのです。 かかりちょうは、そのきょうふをかくすように、いっそうあいてにちかづくと、)

気がしたのです。  係長は、その恐怖を隠すように、一層相手に近づくと、

(いきなりりょうてをあげて、ぞくのかおをいじりはじめました。まゆげをひっぱってみたり、)

いきなり両手を上げて、賊の顔を弄り始めました。眉毛を引っぱってみたり、

(はなをおさえてみたり、ほおをつねってみたり、あめざいくでもおもちゃにしているようです。)

鼻を押さえてみたり、頬を抓ってみたり、飴細工でも玩具にしているようです。

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