ちくしょう谷 26

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隼人は罪人が暮らした流人村へ役で赴くことになる。
現在、流人村に罪人はおらず子孫だけが独特な風習で暮らす。
そこには兄の仇の西沢半四郎がいた。

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問題文

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(「まえからあぶないとおもっていたのですが」とあしがるはてぬぐいでかおを)

「まえから危ないと思っていたのですが」と足軽は手拭で顔を

(ふきながらいった、「それでもかげんしてわたればまだだいじょうぶだったでしょう、)

拭きながら云った、「それでもかげんして渡ればまだ大丈夫だったでしょう、

(やつらはにげるのにむちゅうで、ちからいっぱいふみこんだので、)

やつらは逃げるのに夢中で、力いっぱい踏みこんだので、

(くさっていたささえばしらがおれたものだとおもいます」)

腐っていた支え柱が折れたものだと思います」

(「きどのものでなくてよかった」はやとはそうつぶやいてから、そのあしがるにきいた、)

「木戸の者でなくてよかった」隼人はそう呟いてから、その足軽に訊いた、

(「ではみんなもどってくるのだな」「もうやがてつくじぶんです」)

「ではみんな戻って来るのだな」「もうやがて着くじぶんです」

(はやとはかんがえた。たにへおちたふたりは、せいしをたしかめるまでもないだろう。)

隼人は考えた。谷へ落ちた二人は、生死を慥かめるまでもないだろう。

(あのたかさではたすかるりつはまったくないから。だが「つきびん」はぜひもういちど)

あの高さでは助かる率はまったくないから。だが「月便」はぜひもういちど

(ださなければならない。とすれば、すぐにかけはしをなおすことだ。)

出さなければならない。とすれば、すぐにかけはしを直すことだ。

(こうおもってきいてみると、むらにいる「あたま」のごんぜというものが)

こう思って訊いてみると、村にいる「あたま」のごんぜという者が

(やるということで、はやとはむらへでかけていった。)

やるということで、隼人は村へでかけていった。

(まずしょうないろうじんをたずねてわけをはなすと、ごんぜはもうとしもろくじゅうだし、)

まず正内老人を訪ねてわけを話すと、ごんぜはもう年も六十だし、

(ふゆになるとようつうがでてうごけなくなる。おそらくやくにはたつまいといいながら、)

冬になると腰痛が出て動けなくなる。おそらく役には立つまいと云いながら、

(はやとをあんないしてくれた。ごんぜはろばたで、やぐにくるまってねていた。)

隼人を案内してくれた。ごんぜは炉端で、夜具にくるまって寝ていた。

(みっかのゆきからおきることもできない、としちじゅうあまりのろうばがそばからいった。)

三日の雪から起きることもできない、と七十あまりの老婆が側から云った。

(ごんぜのつませこじだという、かれきのようにやせたからだが、)

ごんぜの妻のせこじだという、枯木のように痩せた躯が、

(ふたつにおれるほどこしがまがっていた。しょうないろうじんはそこをでて、)

二つに折れるほど腰が曲っていた。正内老人はそこを出て、

(こなゆきのなかをごだんめまでおり、げんというおとこをたずねた。げんもろくじゅうくらいになろう、)

粉雪の中を五段めまでおり、源という男を訪ねた。源も六十くらいになろう、

(つまと、こさというはくちの、にじゅうごさいになるむすめのさんにんぐらしで、おとこのこが)

妻と、こさというはくちの、二十五歳になる娘の三人ぐらしで、男の子が

(ふたりあったが、ふたりともやまぬけをしたままかえらない、ということであった。)

二人あったが、二人とも山ぬけをしたまま帰らない、ということであった。

など

(「ごんぜのてつだいをしたから、やりかたぐらいはしってるが」)

「ごんぜの手伝いをしたから、やりかたぐらいは知ってるが」

(とげんはおやゆびのないみぎあしのゆびを、ぼりぼりかきながらいった、)

と源はおやゆびのない右足の指を、ぼりぼり掻きながら云った、

(「じぶんでやったこともないし、もうからだがきかねえからねえ」)

「自分でやったこともないし、もう躯がきかねえからねえ」

(「やりかたはしっているのか」とはやとがきいた。)

「やりかたは知っているのか」と隼人が訊いた。

(「つなでぶらさがるだ」げんはしょうないろうじんにむかっていった、)

「綱でぶら下るだ」源は正内老人に向って云った、

(「がけのうえのきへつなをかけてな、そのつなでぶらさがって、)

「崖の上の木へ綱を掛けてな、その綱でぶら下って、

(ああ、つなでからだをしばるだな、それでぶらさがって、ささえばしらをうちこむだ」)

ああ、綱で躯を縛るだな、それでぶら下って、支え柱を打込むだ」

(こんなふうにやるのだと、いくたびもいいなおしたり、おなじことを)

こんなふうにやるのだと、幾たびも云い直したり、同じことを

(くりかえしたりしながら、ながいじかんをかけて、げんはそのほうほうをかたった。)

繰り返したりしながら、長い時間をかけて、源はその方法を語った。

(はやとはねっしんにきいていた。もどかしいようなかおもしなかったし、)

隼人は熱心に聞いていた。もどかしいような顔もしなかったし、

(こまかいところはなっとくのゆくまでといただした。)

こまかいところは納得のゆくまで問いただした。

(げんのじゅうきょをでると、「きどでなさいますか」とろうじんがきいた。)

源の住居を出ると、「木戸でなさいますか」と老人が訊いた。

(そうするつもりだとはやとはこたえ、ろうじんにれいをのべてきどへかえった。)

そうするつもりだと隼人は答え、老人に礼を述べて木戸へ帰った。

(「つきびん」のものたちももどってい、おかむらしちろうべえが、しさいをはなそうとしたが、)

「月便」の者たちも戻ってい、岡村七郎兵衛が、仔細を話そうとしたが、

(はやとは「わかっている」とせいしして、そのままくらへいった。)

隼人は「わかっている」と制止して、そのまま倉へいった。

(おかむらはあとからついてきながら、かけはしをどうするかときいた。)

岡村はあとからついて来ながら、かけはしをどうするかと訊いた。

(もちろんすぐかけなおすんだ、とはやとはこたえた。「ごんぜはしょうちしましたか」)

もちろんすぐ架け直すんだ、と隼人は答えた。「ごんぜは承知しましたか」

(「いや」はやとはくらのとのかぎをあけながらくびをふった、)

「いや」隼人は倉の戸の鍵をあけながら首を振った、

(「おれたちのてでやるんだ」「それにしてはきせつがわるいですな」)

「おれたちの手でやるんだ」「それにしては季節が悪いですな」

(はやとはくらのなかへはいり、ふとつなをといてしらべてみた。)

隼人は倉の中へはいり、太綱を解いてしらべてみた。

(それはちょっけいにすんばかりのあさのつなで、ながさはひとまきがさんたけごしゃくで、)

それは直径二寸ばかりの麻の綱で、長さは一と巻きが三丈五尺で、

(さんまきあった。「ひゃくしゃくととちょっとか」はやとはつぶやいた、「まにあえばいいが」)

三巻きあった。「百尺とちょっとか」隼人は呟いた、「まにあえばいいが」

(かれはおかむらにてつだわせて、さんまきのつなをそとへはこびだした。)

彼は岡村に手伝わせて、三巻きの綱を外へ運び出した。

(ひとまきでもかつぐのにほねがおれるほどおもい、はやとはそれを)

一と巻きでも担ぐのに骨が折れるほど重い、隼人はそれを

(さくのところへもってゆくと、ひとまきずつといて、)

柵のところへ持ってゆくと、一と巻きずつ解いて、

(さくのくいにひっかけたが、ちょっとかんがえてから、だれでもいい、)

柵の杭にひっかけたが、ちょっと考えてから、誰でもいい、

(ちからのありそうなものをさんにんばかりよんできてくれ、とおかむらにいった。)

力のありそうな者を三人ばかり呼んで来てくれ、と岡村に云った。

(おかむらははしってゆき、おのだいくろうとまつききゅうのすけ、それにあしがるくみがしらの)

岡村は走ってゆき、小野大九郎と松木久之助、それに足軽組頭の

(いしおかげんないをつれてきた。はやとはつなのつよさをためすのだといい、)

石岡源内を伴れて来た。隼人は綱の強さをためすのだと云い、

(じぶんとおかむらとでいっぽうにつき、おのといしおかがいっぽうについた。)

自分と岡村とで一方につき、小野と石岡が一方についた。

(まつきはまいてあるつなをくりだすやくで、ひっかけたくいをちゅうしんに、)

松木は巻いてある綱を繰り出す役で、ひっ掛けた杭を中心に、

(ふたくみよにんのちからでひきあいながら、いっすんもあまさず、じゅんにすべらせてゆき、)

二た組四人の力で引きあいながら、一寸も余さず、順にすべらせてゆき、

(さんまきともだいじょうぶだということをたしかめた。)

三巻きとも大丈夫だということを慥かめた。

(よにんはゆきをかぶったまますっかりあせをかいていた。)

四人は雪をかぶったまますっかり汗をかいていた。

(「よし、これをやくどころへもってゆかせてくれ」とはやとはいしおかにめいじ、)

「よし、これを役所へ持ってゆかせてくれ」と隼人は石岡に命じ、

(おかむらたちともどりながらいった、「あしたはしたみにゆくから、)

岡村たちと戻りながら云った、「明日は下見にゆくから、

(このさんにんでいっしょにきてくれ」「はれたらでしょう」とおかむらがきいた。)

この三人でいっしょに来てくれ」「晴れたらでしょう」と岡村が訊いた。

(はやとはぶっきらぼうにこたえた、「ふぶきでもさ」)

隼人はぶっきらぼうに答えた、「吹雪でもさ」

(おかむらしちろうべえはおのとまつきに、くちをそらせながらかたをゆりあげてみせた。)

岡村七郎兵衛は小野と松木に、くちを反らせながら肩をゆりあげてみせた。

(あくるあさろくじ。あしがるたちはちにんにつなをかつがせて、はやとたちよにんはきどをでかけた。)

明くる朝六時。足軽たち八人に綱を担がせて、隼人たち四人は木戸をでかけた。

(やはんにかぜがふきだしたとき、ゆきはやんだらしいが、かぜがつよいために、)

夜半に風が吹きだしたとき、雪はやんだらしいが、風が強いために、

(つもったこなゆきがまいくるうので、しばしばしかいをさえぎられ、)

積った粉雪が舞い狂うので、しばしば視界を遮られ、

(なかなかみちがはかどらなかった。げんにおしえられたとおり、)

なかなか道がはかどらなかった。源に教えられたとおり、

(ひとつめのかけはしをわたると、ひだりにはざまがあった。こうばいのきゅうな)

一つめのかけはしを渡ると、左にはざまがあった。勾配の急な

(せまいはざまで、ささをつかみながらまっすぐにのぼり、のぼりつめたところで)

狭いはざまで、笹を掴みながらまっすぐに登り、登り詰めたところで

(みぎへまがった。むろんみちなどはない、はのおちたからまつやすぎなどがはやしをなしてい、)

右へ曲った。むろん道などはない、葉の落ちたから松や杉などが林をなしてい、

(じめんはささでおおわれている。さんまきのつながおもにで、はざまをのぼるのに)

地面は笹で掩われている。三巻きの綱が重荷で、はざまを登るのに

(はんこくちかくかかったろう。はやしのなかをゆくのにも、したえだをおったりくぐったり、)

半刻ちかくかかったろう。林の中をゆくのにも、下枝を折ったりくぐったり、

(またあとへもどったりしたので、もくてきのにほんすぎをみつけたときは、)

またあとへ戻ったりしたので、目的の二本杉をみつけたときは、

(もうじゅうじをすぎたころのようであった。げんのいったにほんすぎの、)

もう十時を過ぎたころのようであった。源の云った二本杉の、

(いっぽんはかれていた。どちらもじゅれいはにひゃくねんくらいとみえ、)

一本は枯れていた。どちらも樹齢は二百年くらいとみえ、

(そこからさんじゅっぽほどひがしへゆくと、がけになっていた。ちけいはほぼさんかくけいで、)

そこから三十歩ほど東へゆくと、崖になっていた。地形はほぼ三角形で、

(とったんにあたるがけのしたが、おちたかけはしのいちになるはずであった。)

突端に当る崖の下が、落ちたかけはしの位置になる筈であった。

(「たしかにここですか」とおかむらがきいた。はやとはがけのはしへはらばいになり、)

「慥かに此処ですか」と岡村が訊いた。隼人は崖の端へ腹這いになり、

(かれらにあしをおさえさせて、したをのぞいてみた。)

かれらに足を押えさせて、下を覗いて見た。

(しかしがけのとちゅうにいわがはりでていて、そのしたをみることはできなかった。)

しかし崖の中途に岩が張り出ていて、その下を見ることはできなかった。

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