怪人二十面相31 江戸川乱歩
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問題文
(ところが、そうしていくらしらべてみても、ぞくはへんそうしているようすはありません)
ところが、そうしていくら調べてみても、賊は変装している様子はありません
(かつてあのびせいねんのはしばそういちくんになりすましたぞくが、そのじつこんなばけものみたいな)
嘗てあの美青年の羽柴壮一君に成りすました賊が、その実こんな化け物みたいな
(みにくいかおをしていたとは、じつにいがいというほかはありません。 「えへへへ・・・・・・)
醜い顔をしていたとは、実に意外という外はありません。 「エヘヘヘ……
(くすぐってえや、よしてくんな、くすぐってえや」 ぞくがやっとこえを)
くすぐってえや、よしてくんな、くすぐってえや」 賊がやっと声を
(たてました。しかし、なんというだらしのないことばでしょう。かれはくちのききかたまで)
立てました。しかし、何というだらしのない言葉でしょう。彼は口のきき方まで
(いつわって、あくまでけいさつをばかにしようというのでしょうか。それとも、)
偽って、あくまで警察を馬鹿にしようというのでしょうか。それとも、
(もしかしたら・・・・・・。 かかりちょうはぎょっとして、もういちどぞくをにらみつけました。)
もしかしたら……。 係長はギョッとして、もう一度賊を睨み付けました。
(あたまのなかに、ある、とほうもないかんがえがひらめいたのです。ああ、そんなことが)
頭の中に、ある、途方もない考えが閃いたのです。ああ、そんな事が
(ありうるでしょうか。あまりにばかばかしいくうそうです。まったくふかのうなことです。)
有り得るでしょうか。あまりに馬鹿馬鹿しい空想です。全く不可能な事です。
(でも、かかりちょうは、それをたしかめてみないではいられませんでした。 「きみはだれだ。)
でも、係長は、それを確かめてみないではいられませんでした。 「君は誰だ。
(きみは、いったいぜんたいなにものなんだ」 またしても、へんてこなしつもんです。)
君は、一体全体何者なんだ」 またしても、ヘンテコな質問です。
(すると、ぞくはそのこえにおうじて、まちかまえていたようにこたえました。)
すると、賊はその声に応じて、待ち構えていたように答えました。
(「あたしは、きのしたとらきちっていうもんです。しょくぎょうはこっくです」 「だまれ!)
「あたしは、木下虎吉っていうもんです。職業はコックです」 「黙れ!
(そんなばかみたいなくちをきいて、ごまかそうとしたってだめだぞ。)
そんな馬鹿みたいな口をきいて、誤魔化そうとしたって駄目だぞ。
(ほんとうのことをいえ。にじゅうめんそうといえばせけんにきこえただいとうぞくじゃないか。)
本当の事を言え。二十面相といえば世間に聞こえた大盗賊じゃないか。
(ひきょうなまねをするなっ」 どなりつけられて、ひるむかとおもいのほか、)
卑怯な真似をするなっ」 怒鳴り付られて、怯むかと思いの外、
(いったいどうしたというのでしょう。ぞくは、いきなりげらげらとわらいだしたでは)
一体どうしたというのでしょう。賊は、いきなりゲラゲラと笑い出したでは
(ありませんか。 「へえー、にじゅうめんそうですって、このあたしがですかい。)
ありませんか。 「ヘエー、二十面相ですって、このあたしがですかい。
(ははは・・・・・・、とんだことになるものですね。にじゅうめんそうがこんなきたねえおとこだと)
ハハハ……、とんだ事になるものですね。二十面相がこんなきたねえ男だと
(おもっているんですかい。けいぶさんもめがないねえ。いいかげんにわかりそうな)
思っているんですかい。警部さんも目がないねえ。いい加減に分かりそうな
(もんじゃありませんか」 なかむらかかりちょうは、それをきくと、はっとかおいろを)
もんじゃありませんか」 中村係長は、それを聞くと、ハッと顔色を
(かえないでいられませんでした。 「だまれっ、でたらめもいいかげんにしろ。)
変えないでいられませんでした。 「黙れッ、出鱈目もいい加減にしろ。
(そんなばかなことがあるものか。きさまがにじゅうめんそうだということは、)
そんな馬鹿な事があるものか。貴様が二十面相だという事は、
(こばやししょうねんがちゃんとしょうめいしているじゃないか」 「わははは・・・・・・、それが)
小林少年がちゃんと証明しているじゃないか」 「ワハハハ……、それが
(まちがっているんだから、おわらいぐさでさあ。あたしはね、べつになんにもわるいことを)
間違っているんだから、お笑い草でさあ。あたしはね、別に何にも悪い事を
(したおぼえはねえ、ただのこっくですよ。にじゅうめんそうだかなんだかしらないが、)
した覚えはねえ、ただのコックですよ。二十面相だか何だか知らないが、
(とおかばかりまえ、あのいえへやとわれたこっくのとらきちってもんですよ。なんなら、)
十日ばかり前、あの家へ雇われたコックの虎吉ってもんですよ。何なら、
(こっくのおやかたのほうをしらべてくださりゃ、すぐわかることです」 「その、なんでもない)
コックの親方の方を調べて下さりゃ、すぐ分かる事です」 「その、何でもない
(こっくが、どうしてこんなろうじんのへんそうをしているんだ」 「それがね、)
コックが、どうしてこんな老人の変装をしているんだ」 「それがね、
(いきなりおさえつけられて、きものをきがえさせられ、かつらをかぶせられて)
いきなり押さえ付けられて、着物を着替えさせられ、鬘を被せられて
(しまったんでさあ。あたしも、じつはよくわけがわからないんだが、おまわりさんが、)
しまったんでさあ。あたしも、実はよく訳が分からないんだが、お巡りさんが、
(ふみこんできなすったときに、しゅじんがあたしのてをとって、やねうらべやへ)
踏み込んで来なすった時に、主人があたしの手を取って、屋根裏部屋へ
(かけあがったのですよ。 あのへやにはかくしとだながあってね、そこにいろんな)
駆け上がったのですよ。 あの部屋には隠し戸棚があってね、そこに色んな
(へんそうのいしょうがいれてあるんです。しゅじんはそのなかから、おまわりさんのようふくや、)
変装の衣装が入れてあるんです。主人はその中から、お巡りさんの洋服や、
(ぼうしなどをとりだしててばやくみにつけると、いままできていたおじいさんのきものを)
帽子などを取り出して手早く身に付けると、今まで着ていたお爺さんの着物を
(あたしにきせて、いきなり、「ぞくをつかまえた」とどなりながら、みうごきも)
あたしに着せて、いきなり、『賊を捕まえた』と怒鳴りながら、身動きも
(できないようにおさえつけてしまったんです。いまからかんがえてみると、)
出来ないように押さえ付けてしまったんです。今から考えてみると、
(つまりけいぶさんのぶかのおまわりさんがにじゅうめんそうをみつけだして、いきなり)
つまり警部さんの部下のお巡りさんが二十面相を見付けだして、いきなり
(とびかかったという、おしばいをやってみせたわけですね。やねうらべやは)
飛び掛かったという、お芝居をやって見せた訳ですね。屋根裏部屋は
(うすぐらいですからね。あのさわぎのさいちゅう、かおなんかわかりっこありませんや。)
薄暗いですからね。あの騒ぎの最中、顔なんか分かりっこありませんや。
(あたしは、どうすることもできなかったんですよ。なにしろ、しゅじんときたら)
あたしは、どうする事も出来なかったんですよ。何しろ、主人ときたら
(えらいちからですからねえ」)
えらい力ですからねえ」