怪人二十面相34 江戸川乱歩

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少年探偵団シリーズ1作目

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問題文

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(つまり、ろうじんはびじゅつのおしろの、きみょうなじょうしゅというわけでした。)

つまり、老人は美術のお城の、奇妙な城主という訳でした。

(きょうもろうじんは、しらかべのどぞうのようなたてもののおくまったいっしつで、ここんのめいがに)

今日も老人は、白壁の土蔵のような建物の奥まった一室で、古今の名画に

(とりかこまれて、じっとゆめみるようにすわっていました。 こがいには)

取り囲まれて、じっと夢みるように座っていました。  戸外には

(あたたかいにっこうがうらうらとかがやいているのですが、ようじんのためにてつごうしをはめた)

暖かい日光がうらうらと輝いているのですが、用心の為に鉄格子を嵌めた

(ちいさいまどばかりのしつないは、まるでろうごくのようにつめたくて、うすぐらいのです。)

小さい窓ばかりの室内は、まるで牢獄のように冷たくて、薄暗いのです。

(「だんなさま、あけておくんなせえ。おてがみがまいりました」 へやのそとに)

「旦那様、開けておくんなせえ。お手紙が参りました」  部屋の外に

(としとったげなんのこえがしました。ひろいやしきにめしつかいといっては、このじいやと)

年取った下男の声がしました。広い屋敷に召使いといっては、この爺やと

(そのにょうぼうのふたりきりなのです。 「てがみ?めずらしいな。ここへもってきなさい」)

その女房の二人きりなのです。 「手紙?珍しいな。ここへ持って来なさい」

(ろうじんがへんじをしますと、おもいいたどががらがらとあいて、しゅじんとおなじように)

老人が返事をしますと、重い板戸がガラガラと開いて、主人と同じように

(しわくちゃのじいやが、1つうのてがみをてにしてはいってきました。 さもんろうじんは、)

皺くちゃの爺やが、一通の手紙を手にして入って来ました。  左門老人は、

(それをうけとってうらをみましたが、みょうなことにさしだしにんのなまえがありません。)

それを受けとって裏を見ましたが、妙な事に差出人の名前がありません。

(「だれからだろう。みなれぬてがみだが・・・・・・」 あてなはたしかにくさかべさもんさまと)

「誰からだろう。見慣れぬ手紙だが……」  宛名は確かに日下部左門様と

(なっているので、ともかくふうをきってよみくだしてみました。 「おや、だんなさま、)

なっているので、ともかく封を切って読み下してみました。 「おや、旦那様、

(どうしただね。なにかしんぱいなことがかいてありますだかね」 じいやがおもわず、)

どうしただね。何か心配な事が書いてありますだかね」  爺やが思わず、

(とんきょうなさけびごえをたてました。それほど、さもんろうじんのようすがかわったのです。)

頓狂な叫び声を立てました。それほど、左門老人の様子が変わったのです。

(ひげのないしわくちゃのかおがしなびたようにいろをうしなって、はのぬけたくちびるがぶるぶるふるえ)

髭のない皺くちゃの顔が萎びたように色を失って、歯の抜けた唇がブルブル震え

(ろうがんきょうのなかでちいさなめがふあんらしくひかっているのです 「いや、な、なんでもない)

老眼鏡の中で小さな目が不安らしく光っているのです 「いや、な、何でもない

(おまえにはわからんことだ。あっちへいっていなさい」 ふるえごえで)

お前には分からん事だ。あっちへ行っていなさい」  震え声で

(しかりつけるようにいってじいやをおいかえしましたが、なんでもないどころか、)

叱り付けるように言って爺やを追い返しましたが、何でもないどころか、

(ろうじんはきをうしなってたおれなかったのがふしぎなくらいです。 そのてがみには、)

老人は気を失って倒れなかったのが不思議なくらいです。  その手紙には、

など

(じつに、つぎのようなおそろしいことばがしたためてあったのですから。)

実に、次のような恐ろしい言葉がしたためてあったのですから。

(「しょうかいしゃもなく、とつぜんのもうしいれをおゆるしください。しかし、しょうかいしゃなどなくても)

『紹介者もなく、突然の申し入れをお許し下さい。しかし、紹介者など無くても

(しょうせいがなにものであるかは、しんぶんしじょうでよくごしょうちのこととおもいます。)

小生が何者であるかは、新聞紙上でよくご承知の事と思います。

(ようけんをかんたんにもうしますと、しょうせいはきかごひぞうのこがを、いっぷくものこさずちょうだいする)

用件を簡単に申しますと、小生は貴家ご秘蔵の古画を、一幅も残さず頂戴する

(けっしんをしたのです。きたる11がつ15にちよる、かならずさんじょういたします。 とつぜんすいさんして)

決心をしたのです。来る十一月十五日夜、必ず参上致します。  突然推参して

(ごろうたいをおどろかしてはおきのどくとぞんじ、あらかじめごつうちします。 にじゅうめんそう)

ご老体を驚かしてはお気の毒と存じ、予めご通知します。 二十面相

(くさかべさもんどの」 ああ、かいとうにじゅうめんそうは、とうとう、このいずのさんちゅうの)

日下部左門殿』  ああ、怪盗二十面相は、とうとう、この伊豆の山中の

(びじゅつしゅうしゅうきょうにめをつけたのでした。かれがけいかんにへんそうして、とやまがはらのかくれがを)

美術収集狂に目を付けたのでした。彼が警官に変装して、戸山ヶ原の隠れ家を

(とうぼうしてから、ほとんど1かげつになります。そのあいだ、かいとうがどこでなにをしていたか、)

逃亡してから、殆ど一ヵ月になります。その間、怪盗が何処で何をしていたか、

(だれもしるものはありません。おそらくあたらしいかくれがをつくり、てしたのものたちをあつめて、)

誰も知る者はありません。恐らく新しい隠れ家をつくり、手下の者達を集めて、

(だい2、だい3のおそろしいいんぼうをたくらんでいたのでしょう。そして、まずしらはのやを)

第二、第三の恐ろしい陰謀を企んでいたのでしょう。そして、まず白羽の矢を

(たてられたのが、いがいなやまおくのくさかべけのびじゅつじょうでした。 「11がつ15にちのよる)

立てられたのが、意外な山奥の日下部家の美術城でした。 「十一月十五日の夜

(といえば、こんやだ。ああ、わしはどうすればよいのじゃ。にじゅうめんそうに)

と言えば、今夜だ。ああ、儂はどうすれば良いのじゃ。二十面相に

(ねらわれたからには、もう、わしのたからものはなくなったもどうぜんだ。あいつは、けいしちょうの)

狙われたからには、もう、儂の宝物は無くなったも同然だ。あいつは、警視庁の

(ちからでも、どうすることもできなかったおそろしいとうぞくじゃないか。こんなかたいなかの)

力でも、どうする事も出来なかった恐ろしい盗賊じゃないか。こんな片田舎の

(けいさつのてにおえるものではない。 ああ、わしはもうはめつだ。このたからものを)

警察の手に負えるものではない。  ああ、儂はもう破滅だ。この宝物を

(とられてしまうくらいなら、いっそしんだほうがましじゃ」 さもんろうじんは、)

取られてしまう位なら、いっそ死んだ方がましじゃ」  左門老人は、

(いきなりたちあがって、じっとしていられぬように、へやのなかをぐるぐる)

いきなり立ち上がって、じっとしていられぬように、部屋の中をグルグル

(あるきはじめました。 「ああ、うんのつきじゃ。もうのがれるすべはない」)

歩き始めました。 「ああ、運の尽きじゃ。もう逃れる術はない」

(いつのまにか、ろうじんのあおざめたしわくちゃなかおが、なみだにぬれていました。)

いつの間にか、老人の青褪めた皺くちゃな顔が、涙に濡れていました。

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