怪人二十面相36 江戸川乱歩

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プレイ回数2107難易度(4.5) 2622打 長文
少年探偵団シリーズ1作目

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問題文

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(「せんせい、あの、このおかたが、せんせいにおめにかかりたいといって、わざわざえんぽうから)

「先生、あの、このお方が、先生にお目にかかりたいと言って、態々遠方から

(おいでなさいましたのですが」 そのこえに、どてらのおとこはうるさそうに)

おいでなさいましたのですが」 その声に、褞袍の男は煩そうに

(こちらをふりむいて、 「おおきなこえをしちゃいけない。さかながにげて)

こちらを振り向いて、 「大きな声をしちゃいけない。魚が逃げて

(しまうじゃないか」 としかりつけました。)

しまうじゃないか」 と叱り付けました。

(もじゃもじゃにみだれたとうはつ、するどいめ、どちらかといえばあおじろいひきしまったかお)

モジャモジャに乱れた頭髪、鋭い目、どちらかといえば青白い引き締まった顔

(たかいはな、ひげはなくて、きっとちからのこもったくちびる、しゃしんでみおぼえのあるあけちめいたんていに)

高い鼻、髭はなくて、キッと力のこもった唇、写真で見覚えのある明智名探偵に

(ちがいありません。 「あたしはこういうものですが」)

違いありません。 「あたしはこういうものですが」

(さもんろうじんはめいしをさしだしながら、 「せんせいにおりいっておねがいがあって)

左門老人は名刺を差し出しながら、 「先生に折り入ってお願いがあって

(おたずねしたのですが」 と、こごしをかがめました。)

お訪ねしたのですが」 と、小腰を屈めました。

(するとあけちたんていは、めいしをうけとることはうけとりましたが、よくみもしないで)

すると明智探偵は、名刺を受け取る事は受け取りましたが、よく見もしないで

(さもめんどうくさそうに、 「ああ、そうですか。で、どんなごようですか」)

さも面倒臭そうに、 「ああ、そうですか。で、どんなご用ですか」

(といいながら、またつりざおのさきへきをとられています。 ろうじんはじょちゅうにさきへ)

と言いながら、また釣り竿の先へ気を取られています。  老人は女中に先へ

(かえるようにいいつけて、そのうしろすがたをみおくってから、 「せんせい、じつはきょう、)

帰るように言いつけて、その後ろ姿を見送ってから、 「先生、実は今日、

(こんなてがみをうけとったのです」 と、ふところかられいの、にじゅうめんそうのよこくじょうを)

こんな手紙を受け取ったのです」 と、懐から例の、二十面相の予告状を

(とりだして、つりざおばかりみているたんていのかおのまえへ、つきだしました。)

取り出して、釣り竿ばかり見ている探偵の顔の前へ、突き出しました。

(「ああ、またにげられてしまった・・・・・・。こまりますねえ、そんなにつりのじゃまを)

「ああ、また逃げられてしまった……。困りますねえ、そんなに釣りの邪魔を

(なすっちゃ。てがみですって?いったいそのてがみが、ぼくにどんなかんけいがあると)

なすっちゃ。手紙ですって? 一体その手紙が、僕にどんな関係があると

(おっしゃるのです」 あけちはあくまでぶあいそうです。)

仰るのです」  明智はあくまで無愛想です。

(「せんせいはにじゅうめんそうとよばれているぞくをごぞんじないのですかな」 さもんろうじんは、)

「先生は二十面相と呼ばれている賊をご存知ないのですかな」  左門老人は、

(しょうしょうむかっぱらをたてて、するどくいいはなちました。 「ほう、にじゅうめんそうですか。)

少々むかっ腹を立てて、鋭く言い放ちました。 「ホウ、二十面相ですか。

など

(にじゅうめんそうがてがみをよこしたとおっしゃるのですか」 めいたんていはいっこうおどろくようすもなく、)

二十面相が手紙を寄越したと仰るのですか」  名探偵は一向驚く様子もなく、

(あいかわらずつりざおのさきをみつめているのです。 そこで、ろうじんはしかたなく、)

相変わらず釣り竿の先を見詰めているのです。  そこで、老人は仕方なく、

(かいとうのよこくじょうをじぶんでよみあげ、くさかべけの「おしろ」にどのようなたからものが)

怪盗の予告状を自分で読みあげ、日下部家の「お城」にどのような宝物が

(ひぞうされているかを、くわしくものがたりました。 「ああ、あなたがあのきみょうなおしろの)

秘蔵されているかを、詳しく物語りました。 「ああ、貴方があの奇妙なお城の

(ごしゅじんでしたか」 あけちはやっときょうみをひかれたらしく、ろうじんのほうへ)

ご主人でしたか」  明智はやっと興味を惹かれたらしく、老人の方へ

(むきなおりました。 「はい、そうです。あのこめいがるいはわしのいのちにもかえがたい)

向き直りました。 「はい、そうです。あの古名画類は儂の命にも代え難い

(たからものです。あけちせんせい、どうかこのろうじんをたすけてください。おねがいです」)

宝物です。明智先生、どうかこの老人を助けて下さい。お願いです」

(「で、ぼくにどうしろとおっしゃるのですか」 「すぐにわたしのたくまで)

「で、僕にどうしろと仰るのですか」 「すぐに私の宅まで

(おこしねがいたいのです。そして、わしのたからものをまもっていただきたいのです」)

お越し願いたいのです。そして、儂の宝物を守って頂きたいのです」

(「けいさつへおとどけになりましたか。ぼくなんかにおはなしになるよりも、まず、けいさつの)

「警察へお届けになりましたか。僕なんかにお話になるよりも、まず、警察の

(ほごをねがうのがじゅんじょだとおもいますが」 「いや、それがですて、こうもうしちゃ)

保護を願うのが順序だと思いますが」 「いや、それがですて、こう申しちゃ

(なんだが、わしはけいさつよりもせんせいをたよりにしておるのです。にじゅうめんそうをむこうに)

何だが、儂は警察よりも先生を頼りにしておるのです。二十面相を向こうに

(まわしてひけをとらぬたんていさんは、せんせいのほかにないということを、わしはしんじて)

回して引けを取らぬ探偵さんは、先生の外にないという事を、儂は信じて

(おるのです。 それに、ここにはちいさいけいさつぶんしょしかありませんから、)

おるのです。  それに、ここには小さい警察分署しかありませんから、

(うでききのけいじをよぶにしたって、じかんがかかるのです。なにしろにじゅうめんそうは、こんや)

腕利きの刑事を呼ぶにしたって、時間がかかるのです。何しろ二十面相は、今夜

(わしのところをおそうというのですからね。ゆっくりはしておられません。)

儂の所を襲うと言うのですからね。ゆっくりはしておられません。

(ちょうどそのひに、せんせいがこのおんせんにきておられるなんて、まったくかみさまの)

ちょうどその日に、先生がこの温泉に来ておられるなんて、まったく神さまの

(おひきあわせともうすものです。せんせい、ろうじんがいっしょうのおねがいです。)

お引き合わせと申すものです。先生、老人が一生のお願いです。

(どうかわしをたすけてください」 さもんろうじんは、てをあわさんばかりにして、)

どうか儂を助けて下さい」  左門老人は、手を合わさんばかりにして、

(かきくどくのです。)

掻き口説くのです。

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