古事記上巻・伊邪那美伊邪那岐３

(つぎにうめるかみのなは、とりのいはくすぶねのかみ、またのなはあめのとりふねといふ。)

次に生める神の名は、鳥之石楠船神、亦の名は天鳥船と謂ふ。

(つぎにおほげつひめのかみをうみき。つぎにひのやぎはやをのかみをうみき。)

次に大宜都比売神を生みき。次に火之夜芸速男神を生みき。

(またのなは、ひのかがびこのかみといひ、またのなはひのかぐつちのかみといふ。)

亦の名は、火之炫毘古神と謂ひ、亦の名は火之迦具土神と謂ふ。

(このこをうみしによりて、みほとやかえてやみにこやせり。)

この子を生みしによりて、みほと炙かえて病み臥せり。

(たぐりになれるかみのなは、かなやまびこのかみ、つぎにかなやまびめのかみ。)

たぐりに生れる神の名は、金山毘古神、次に金山毘売神。

(つぎにくそになれるかみのなは、はにやすびこのかみ、つぎにはにやすびめのかみ。)

次に屎に成れる神の名は、波邇夜須毘古神、次に波邇夜須毘売神。

(つぎにゆまりになれるかみのなは、みつはのめのかみ、つぎにわくむすひのかみ。)

次に尿に成れる神の名は、弥都波能売神、次に和久産巣日神。

(このかみのこは、とようけびめのかみといふ。)

この神の子は、豊宇気毘売神と謂ふ。

(かれ、いざなみのかみは、ひのかみをうみしによりて、ついひにかむさりましき。)

故、伊邪那美神は、火の神を生みしによりて、遂に神避りましき。

(あめのとりふねよりとようけびめのかみまで、あはせてはちはしらのかみ。)

天鳥船より豊宇気毘売神まで、幷せて八はしらの神。

(すべていざなぎ、いざなみのふたはしらのかみ、)

凡べて伊邪那岐、伊邪那美の二はしらの神、

(ともにうめるしま、とをちあまりよつのしま、かみ、みつはしらあまりいつはしらのかみ。)

共に生める島、一十四島、神、三十五神。

(これいざなみのかみ、いまだかむさらざりしいぜんにうめり。)

これ伊邪那美神、未だ神避らざりし以前に生めり。

(ただ、おのころしまは、うめるにあらず。)

唯、意能碁呂島は、生めるにあらず。

(また、ひることあはしまは、このれいにいれず。)

亦、蛭子と淡島は、子の例に入れず。

(かれここにいざなぎのみことのたまりたまひしく、)

故ここに伊邪那岐命詔りたまひしく、

(うつくしきあがなにものみことを、このひとつけにかへるつかもと)

愛しき我が汝妹の命を、子の一つ木に易へつるかもと

(いひて、すなはちみまくらへにはらばひ、みあとへにはらばいひてなきしとき、)

謂ひて、すなはち御枕方に匍匐ひ、御足方に匍匐ひて哭きし時、

(みなみだになれるかみは、かぐやまのうねをのこのもとにまして、なきさはめのかみとなづく。)

御涙に成れる神は、香山の畝尾の木の本にまして、泣沢女神と名づく。

(かれ、そのかむさりしいざなみのかみはいずものくにとははきのくにとのさかいのひばのやまにはふりき。)

故、その神避り伊邪那美神は出雲国と伯伎国との堺の比婆の山に葬りき。