怪人二十面相40 江戸川乱歩

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プレイ回数2285難易度(4.5) 2734打 長文
少年探偵団シリーズ1作目

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問題文

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(けいじは、やっとからだをおこしましたが、まだゆめうつつのありさまです。)

刑事は、やっと身体を起こしましたが、まだ夢うつつの有り様です。

(「う、う、なにをぬすまれたんですって?ああ、すっかりねむってしまった・・・・・・。)

「ウ、ウ、何を盗まれたんですって? ああ、すっかり眠ってしまった……。

(おや、ここはどこだろう」 ねぼけたかおで、きょろきょろへやのなかを)

おや、ここは何処だろう」  寝惚けた顔で、キョロキョロ部屋の中を

(みまわすしまつです。 「しっかりしたまえ。ああ、わかった。きみはますいざいで)

見回す始末です。 「しっかりしたまえ。ああ、分かった。きみは麻酔剤で

(やられたんじゃないか。おもいだしてみたまえ、ゆうべどんなことがあったか」)

やられたんじゃないか。思い出してみたまえ、昨夜どんなことがあったか」

(あけちはけいじのかたをつかんで、らんぼうにゆさぶるのでした。 「こうっと、)

明智は刑事の肩を掴んで、乱暴に揺さ振るのでした。 「こうっと、

(おや、ああ、あんたあけちさんですね。ああ、ここはくさかべのびじゅつじょうだった。)

おや、ああ、あんた明智さんですね。ああ、ここは日下部の美術城だった。

(しまった。ぼくはやられたんですよ。そうです、ますいざいです。ゆうべまよなかに、)

しまった。僕はやられたんですよ。そうです、麻酔剤です。昨夜真夜中に、

(くろいかげのようなものが、ぼくのうしろへしのびよったのです。そして、そして、)

黒い影のようなものが、僕の後ろへ忍び寄ったのです。そして、そして、

(なにかやわらかいいやなにおいのするもので、ぼくのはなとくちをふさいでしまったのです。)

何か柔らかい嫌な匂いのするもので、僕の鼻と口を塞いでしまったのです。

(それっきり、それっきり、ぼくはなにもわからなくなってしまったんです」)

それっきり、それっきり、僕は何も分からなくなってしまったんです」

(けいじはやっとめのさめたようすで、さももうしわけなさそうに、からっぽのかいがを)

刑事はやっと目の覚めた様子で、さも申し訳なさそうに、空っぽの絵画を

(みまわすのでした。 「やっぱりそうだった。じゃあ、おもてもんとうらもんをまもっていた)

見回すのでした。 「やっぱりそうだった。じゃあ、表門と裏門を守っていた

(けいじしょくんも、おなじめにあっているかもしれない」 あけちはひとりごとをいいながら)

刑事諸君も、同じ目に合っているかもしれない」  明智は独り言を言いながら

(へやをかけだしていきましたが、しばらくするとだいどころのほうでおおごえによぶのが)

部屋を駈け出して行きましたが、暫くすると台所の方で大声に呼ぶのが

(きこえてきました。 「くさかべさん。ちょっときてください」)

聞こえてきました。 「日下部さん。ちょっと来てください」

(なにごとかとろうじんとけいじとが、こえのするほうへいってみますと、あけちはげなんべやの)

何事かと老人と刑事とが、声のする方へ行ってみますと、明智は下男部屋の

(いりぐちにたってそのなかをゆびさしています。 「おもてもんにもうらもんにも、けいじくんたちの)

入り口に立ってその中を指さしています。 「表門にも裏門にも、刑事君達の

(かげもみえません。そればかりじゃない。ごらんなさい、かわいそうにこのしまつです。)

影も見えません。そればかりじゃない。ご覧なさい、可哀想にこの始末です。

(みるとげなんべやのすみっこに、さくぞうじいやとそのおかみさんとがたかてこてにしばられ)

見ると下男部屋の隅っこに、作蔵爺やとそのおかみさんとが高手小手に縛られ

など

(さるぐつわまでかまされて、ころがっているではありませんか。むろんぞくのしわざです。)

猿轡まで噛まされて、転がっているではありませんか。むろん賊の仕業です。

(じゃまだてをしないように、ふたりのめしつかいをしばりつけておいたのです。)

邪魔立てをしないように、二人の召使いを縛り付けておいたのです。

(「ああ、なんということじゃ。あけちさん、これはなんということです」)

「ああ、何という事じゃ。明智さん、これは何という事です」

(くさかべろうじんは、もうはんきょうらんのていであけちにつめよりました。いのちよりもたいせつに)

日下部老人は、もう半狂乱の体で明智に詰め寄りました。命よりも大切に

(おもっていたたからものがゆめのようにいちやのうちにきえうせてしまったのですから、)

思っていた宝物が夢のように一夜の内に消え失せてしまったのですから、

(むりもないことです。 「いや、なんとももうしあげようもありません。にじゅうめんそうが)

無理もない事です。 「いや、何とも申し上げようもありません。二十面相が

(これほどのうでまえとはしりませんでした。あいてをみくびっていたのがしっさくでした」)

これ程の腕前とは知りませんでした。相手を見くびっていたのが失策でした」

(「しっさく?あけちさん、あんたはしっさくですむじゃろうが、このわしは、いったいどうすれば)

「失策?明智さん、あんたは失策で済むじゃろうが、この儂は、一体どうすれば

(よいのです。・・・・・・めいたんてい、めいたんていとひょうばんばかりで、なんだこのざまは・・・・・・」)

よいのです。……名探偵、名探偵と評判ばかりで、何だこの様は……」

(ろうじんはまっさおになって、ちばしっためであけちをにらみつけていまにも)

老人は真っ青になって、血走った目で明智を睨み付けて今にも

(とびかからんばかりのけんまくです。 あけちはさもきょうしゅくしたように、)

飛び掛からんばかりの剣幕です。  明智はさも恐縮したように、

(さしうつむいていましたが、やがて、ひょいとあげたかおをみますと、これはどうした)

さし俯いていましたが、やがて、ヒョイと上げた顔を見ますと、これはどうした

(というのでしょう。めいたんていはわらっているではありませんか。そのわらいがかおいちめんに)

というのでしょう。名探偵は笑っているではありませんか。その笑いが顔一面に

(ひろがっていって、しまいにはもうおかしくておかしくてたまらぬというように、)

広がっていって、終いにはもう可笑しくて可笑しくて堪らぬというように、

(おおきなこえをたてて、わらいだしたではありませんか。 くさかべろうじんは、あっけに)

大きな声を立てて、笑い出したではありませんか。  日下部老人は、呆気に

(とられてしまいました。あけちはぞくにだしぬかれたくやしさに、きでも)

取られてしまいました。明智は賊に出し抜かれた悔しさに、気でも

(ちがったのでしょうか。 「あけちさん、あんたなにがおかしいのじゃ。これ、)

違ったのでしょうか。 「明智さん、あんた何が可笑しいのじゃ。これ、

(なにがおかしいのじゃというに」 「わははは・・・・・・、おかしいですよ。)

何が可笑しいのじゃというに」 「ワハハハ……、可笑しいですよ。

(めいたんていあけちこごろう、ざまはないですね。まるであかごのてをねじるように、)

名探偵明智小五郎、様はないですね。まるで赤子の手を捻じるように、

(やすやすとやられてしまったじゃありませんか。にじゅうめんそうというやつは)

易々とやられてしまったじゃありませんか。二十面相という奴は

(えらいですねえ。ぼくはあいつをそんけいしますよ」 あけちのようすはいよいよへんです。)

偉いですねえ。僕はあいつを尊敬しますよ」  明智の様子はいよいよ変です。

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