怪人二十面相42 江戸川乱歩
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問題文
(「ところがおおまちがいがあったのですよ。なぜって、あけちこごろうは、まだ、)
「ところが大間違があったのですよ。何故って、明智小五郎は、まだ、
(がいこくからかえりゃしないのですからね」 「しんぶんがうそをかくはずはない」)
外国から帰りゃしないのですからね」 「新聞が嘘を書く筈はない」
(「ところが、うそをかいたのですよ。しゃかいぶのひとりのきしゃが、こちらのけいりゃくに)
「ところが、嘘を書いたのですよ。社会部の一人の記者が、こちらの計略に
(かかってね、へんしゅうちょうにうそのげんこうをわたしたってわけですよ」 「ふん、)
かかってね、編集長に嘘の原稿を渡したって訳ですよ」 「フン、
(それじゃけいじはどうしたんじゃ。まさかけいさつがにせのあけちたんていにごまかされる)
それじゃ刑事はどうしたんじゃ。まさか警察が偽の明智探偵に誤魔化される
(はずはあるまい」 ろうじんは、めのまえにたちはだかっているおとこを、)
筈はあるまい」 老人は、目の前に立ちはだかっている男を、
(あのおそろしいにじゅうめんそうだとは、しんじたくなかったのです。むりにもあけちこごろうに)
あの恐ろしい二十面相だとは、信じたくなかったのです。無理にも明智小五郎に
(しておきたかったのです。 「ははは・・・・・・、ごろうじん、まだそんなことを)
しておきたかったのです。 「ハハハ……、ご老人、まだそんな事を
(かんがえているのですか。ちのめぐりがわるいじゃありませんか。けいじですって?)
考えているのですか。血の巡りが悪いじゃありませんか。刑事ですって?
(あ、このおとこですか、それからおもてもんうらもんのばんをしたふたりですか、ははは・・・・・・、)
あ、この男ですか、それから表門裏門の番をした二人ですか、ハハハ……、
(なにね、ぼくのこぶんがちょいとけいじのまねをしただけですよ」 ろうじんは、)
なにね、僕の子分がちょいと刑事の真似をしただけですよ」 老人は、
(もうしんじまいとしてもしんじないわけにはいきませんでした。あけちこごろうとばかり)
もう信じまいとしても信じない訳にはいきませんでした。明智小五郎とばかり
(おもいこんでいたおとこが、めいたんていどころか、だいとうぞくだったのです。おそれにおそれていた)
思い込んでいた男が、名探偵どころか、大盗賊だったのです。恐れに恐れていた
(かいとうにじゅうめんそう、そのひとだったのです。 ああ、なんというとびきりの)
怪盗二十面相、その人だったのです。 ああ、何というとびきりの
(おもいつきでしょう、たんていが、すなわちとうぞくだったなんて。くさかべろうじんは、)
思い付きでしょう、探偵が、即ち盗賊だったなんて。日下部老人は、
(ひともあろうににじゅうめんそうにたからもののばんにんをたのんだわけでした。 「ごろうじん、ゆうべの)
人もあろうに二十面相に宝物の番人を頼んだ訳でした。 「ご老人、昨夜の
(えじぷとたばこのあじはいかがでした。ははは・・・・・・、おもいだしましたか。あのなかに)
エジプト煙草の味は如何でした。ハハハ……、思い出しましたか。あの中に
(ちょっとしたくすりがしかけてあったのですよ。ふたりのけいじがへやへはいって、にもつを)
ちょっとした薬が仕掛けてあったのですよ。二人の刑事が部屋へ入って、荷物を
(はこびだし、じどうしゃへつみこむあいだ、ごろうじんにひとねむりしてほしかったものですからね)
運びだし、自動車へ積み込む間、ご老人に一眠りして欲しかったものですからね
(あのへやへどうしてはいったかとおっしゃるのですか。ははは・・・・・・、わけはありませんよ。)
あの部屋へどうして入ったかと仰るのですか。ハハハ……、訳はありませんよ。
(あなたのふところから、ちょっとかぎをはいしゃくすればよかったのですからね」)
貴方の懐から、ちょっと鍵を拝借すれば良かったのですからね」
(にじゅうめんそうは、まるでせけんばなしでもしているように、おだやかなことばをつかいました。)
二十面相は、まるで世間話でもしているように、穏やかな言葉を使いました。
(しかし、ろうじんにしてみれば、いやにていねいすぎるそのことばづかいが、いっそう)
しかし、老人にしてみれば、いやに丁寧過ぎるその言葉遣いが、一層
(はらだたしかったにちがいありません。 「では、ぼくたちはいそぎますから、)
腹立たしかったに違いありません。 「では、僕達は急ぎますから、
(これでしつれいします。びじゅつひんはじゅうぶんちゅういして、たいせつにほかんするつもりですから、)
これで失礼します。美術品は十分注意して、大切に保管するつもりですから、
(どうかごあんしんください。では、さようなら」 にじゅうめんそうは、ていねいにいちれいして、)
どうかご安心ください。では、さようなら」 二十面相は、丁寧に一礼して、
(けいじにばけたぶかをしたがえ、ゆうぜんとそのばをたちさりました。 かわいそうなろうじんは)
刑事に化けた部下を従え、悠然とその場を立ち去りました。 可哀想な老人は
(なにかわけのわからぬことをわめきながら、ぞくのあとをおおうとしましたが、からだじゅうを)
何か訳の分からぬ事を喚きながら、賊の後を追おうとしましたが、体中を
(ぐるぐるまきにしたなわのはしが、そこのはしらにしばりつけてあるので、よろよろと)
ぐるぐる巻きにした縄の端が、そこの柱に縛り付けてあるので、ヨロヨロと
(たちあがってはみたものの、すぐばったりとたおれてしまいました。そして、)
立ち上がってはみたものの、すぐバッタリと倒れてしまいました。そして、
(たおれたまま、くやしさとかなしさに、はぎしりをかみ、なみださえながして、)
倒れたまま、悔しさと悲しさに、歯軋りを噛み、涙さえ流して、
(みもだえするのでありました。)
身悶えするのでありました。
(きょじんとかいじん びじゅつじょうのじけんがあってからはんつきほどたった、あるひのごご、)
【巨人と怪人】 美術城の事件があってから半月ほど経った、ある日の午後、
(とうきょうえきのぷらっとほーむのひとごみのなかに、ひとりのかわいらしいしょうねんのすがたが)
東京駅のプラットホームの人混みの中に、一人の可愛らしい少年の姿が
(みえました。ほかならぬこばやしよしおくんです。どくしゃしょくんにはおなじみのあけちたんていの)
見えました。外ならぬ小林芳雄君です。読者諸君にはお馴染みの明智探偵の
(しょうねんじょしゅです。 こばやしくんは、じゃんぱーすがたで、よくにあうとりうちぼうをかぶって、)
少年助手です。 小林君は、ジャンパー姿で、よく似合う鳥打ち帽を被って、
(ぴかぴかひかるくつをこつこついわせながら、ぷらっとほーむをいったりきたり)
ピカピカ光る靴をコツコツいわせながら、プラットホームを行ったり来たり
(しています。てには、いちまいのしんぶんがみをぼうのようにまるめてにぎっています。)
しています。手には、一枚の新聞紙を棒のように丸めて握っています。
(どくしゃしょくん、じつはこのしんぶんにはにじゅうめんそうにかんする、あるおどろくべききじが)
読者諸君、実はこの新聞には二十面相に関する、ある驚くべき記事が
(のっているのですが、しかし、それについては、もうすこしあとでおはなししましょう。)
載っているのですが、しかし、それについては、もう少し後でお話しましょう。