怪人二十面相43 江戸川乱歩

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少年探偵団シリーズ1作目

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問題文

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(こばやししょうねんがとうきょうえきにやってきたのは、せんせいのあけちこごろうをでむかえるためでした。)

小林少年が東京駅にやって来たのは、先生の明智小五郎を出迎える為でした。

(めいたんていは、こんどこそ、ほんとうにがいこくからかえってくるのです。 あけちはぼうこくからの)

名探偵は、今度こそ、本当に外国から帰って来るのです。  明智は某国からの

(まねきにおうじあるじゅうだいなじけんにかんけいし、みごとにせいこうをおさめてかえってくるのですから)

招きに応じある重大な事件に関係し、見事に成功を収めて帰って来るのですから

(いわばがいせんしょうぐんです。ほんらいならば、がいむしょうとかみんかんだんたいからおおぜいのでむかえが)

言わば凱旋将軍です。本来ならば、外務省とか民間団体から大勢の出迎えが

(あるはずですが、あけちはそういうぎょうぎょうしいことがだいきらいでしたし、たんていという)

ある筈ですが、明智はそういう仰々しいことが大嫌いでしたし、探偵という

(しょくぎょうじょう、できるだけひとめにつかぬこころがけをしなければなりませんので、)

職業上、出来るだけ人目に付かぬ心掛けをしなければなりませんので、

(おおやけのほうめんにはわざとつうちをしないで、ただじたくだけにとうきょうえきちゃくのじかんをしらせて)

公の方面には態と通知をしないで、ただ自宅だけに東京駅着の時間を報せて

(おいたのでした。それも、いつもあけちふじんはでむかえをえんりょして、こばやししょうねんが)

おいたのでした。それも、いつも明智夫人は出迎えを遠慮して、小林少年が

(でかけるならわしになっていました。 こばやしくんは、しきりとうでどけいをながめています)

出掛ける習わしになっていました。  小林君は、頻りと腕時計を眺めています

(もう5ふんたつと、まちかねたあけちせんせいのきしゃがとうちゃくするのです。ほとんどみつきぶりで)

もう五分経つと、待ちかねた明智先生の汽車が到着するのです。殆ど三月振りで

(おあいするのです。なつかしさに、なんだかむねがわくわくするようでした。)

お会いするのです。懐かしさに、何だか胸がワクワクするようでした。

(ふときがつくと、ひとりのりっぱなしんしが、にこにこえがおをつくりながら、)

ふと気がつくと、一人の立派な紳士が、にこにこ笑顔をつくりながら、

(こばやししょうねんに、ちかづいてきました。 ねずみいろのあたたかそうなおーばーこーと、)

小林少年に、近付いて来ました。  ネズミ色の暖かそうなオーバー・コート、

(とうのすてっき、はんぱくのとうはつ、はんぱくのくちひげ、でっぷりふとったかおに、べっこうぶちのめがねが)

籐のステッキ、半白の頭髪、半白の口髭、デップリ太った顔に、鼈甲縁の眼鏡が

(ひかっています。せんぽうでは、にこにこわらいかけていますけれど、こばやしくんは)

光っています。先方では、にこにこ笑いかけていますけれど、小林君は

(まったくみしらぬひとでした。 「もしやきみは、あけちさんのところのかたじゃありませんか」)

全く見知らぬ人でした。 「もしや君は、明智さんの処の方じゃありませんか」

(しんしは、ふといやさしいこえでたずねました。 「ええ、そうですが・・・・・・」)

紳士は、太い優しい声で尋ねました。 「ええ、そうですが……」

(けげんがおのしょうねんのかおをみて、しんしはうなずきながら、 「わたしは、がいむしょうの)

怪訝顔の少年の顔を見て、紳士は頷きながら、 「私は、外務省の

(つじのというものだが、このれっしゃであけちさんがかえられることがわかったものだから、)

辻野という者だが、この列車で明智さんが帰られる事が分かったものだから、

(ひこうしきにおでむかえにきたのですよ。すこしないみつのようけんもあるのでね」)

非公式にお出迎えに来たのですよ。少し内密の用件もあるのでね」

など

(とせつめいしました 「ああ、そうですか。ぼく、せんせいのじょしゅのこばやしっていうんです」)

と説明しました 「ああ、そうですか。僕、先生の助手の小林っていうんです」

(ぼうしをとって、おじぎをしますと、つじのしはいっそうにこやかなかおになって、)

帽子をとって、お辞儀をしますと、辻野氏は一層にこやかな顔になって、

(「ああ、きみのなはきいていますよ。じつは、いつかしんぶんにでたしゃしんで)

「ああ、君の名は聞いていますよ。実は、いつか新聞に出た写真で

(きみのかおをみおぼえていたものだから、こうしてこえをかけたのですよ。)

君の顔を見覚えていたものだから、こうして声を掛けたのですよ。

(にじゅうめんそうとのいっきうちはみごとでしたねえ。きみのにんきはたいしたものですよ。)

二十面相との一騎打ちは見事でしたねえ。君の人気は大したものですよ。

(わたしのうちのこどもたちもだいのこばやしふぁんです。ははは・・・・・・」 と、しきりに)

私のうちの子ども達も大の小林ファンです。ハハハ……」 と、頻りに

(ほめたてるのです。 こばやしくんはすこしはずかしくなって、ぱっとかおをあかく)

褒めたてるのです。  小林君は少し恥ずかしくなって、パッと顔を赤く

(しないではいられませんでした。 「にじゅうめんそうといえば、しゅぜんじではあけちさんの)

しないではいられませんでした。 「二十面相といえば、修善寺では明智さんの

(なまえをかたったりして、ずいぶんおもいきったまねをするね。それに、けさのしんぶんでは、)

名前を語ったりして、随分思い切った真似をするね。それに、今朝の新聞では、

(いよいよこくりつはくぶつかんをおそうのだっていうじゃないか。じつにけいさつをばかに)

いよいよ国立博物館を襲うのだっていうじゃないか。実に警察を馬鹿に

(しきった、あきれたたいどだ。けっしてうっちゃってはおけませんよ。あいつを)

しきった、呆れた態度だ。決してうっちゃってはおけませんよ。あいつを

(たたきつぶすためだけでも、あけちさんがかえってこられるのをぼくはまちかねていたんだ」)

叩き潰す為だけでも、明智さんが帰って来られるのを僕は待ちかねていたんだ」

(「ええ、ぼくもそうなんです。ぼく、いっしょうけんめいやってみましたけれど、)

「ええ、僕もそうなんです。僕、一生懸命やってみましたけれど、

(とても、ぼくのちからにはおよばないのです。せんせいにかたきうちをしてほしいとおもって、)

とても、僕の力には及ばないのです。先生に敵討ちをして欲しいと思って、

(まちかねていたんです」 「きみがもっているしんぶんは、けさの?」)

待ちかねていたんです」 「君が持っている新聞は、今朝の?」

(「ええ、そうです。はくぶつかんをおそうっていうよこくじょうののっているしんぶんです」)

「ええ、そうです。博物館を襲うっていう予告状の載っている新聞です」

(こばやしくんはそういいながら、そのきじののっているかしょをひろげてみせました。)

小林君はそう言いながら、その記事の載っている個所を広げて見せました。

(しゃかいめんのはんぶんほどがにじゅうめんそうのきじでうまっているのです。そのいみをかいつまんで)

社会面の半分程が二十面相の記事で埋まっているのです。その意味を掻い摘んで

(しるしますと、きのうにじゅうめんそうからこくりつはくぶつかんちょうにあててそくたつびんがとどいたのですが、)

記しますと、昨日二十面相から国立博物館長に宛てて速達便が届いたのですが、

(それには、はくぶつかんしょぞうのびじゅつひんを1てんものこらずちょうだいするというじつにおどろくべき)

それには、博物館所蔵の美術品を一点も残らず頂戴するという実に驚くべき

(せんこくぶんがしたためてあったのです。)

宣告文がしたためてあったのです。

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