怪人二十面相44 江戸川乱歩
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問題文
(れいによって12がつ10かというぬすみだしのひづけまで、ちゃんとめいきして)
例によって十二月十日という盗み出しの日付けまで、ちゃんと明記して
(あるではありませんか。12がつ10かといえば、あますところ、もうここのかかんしか)
あるではありませんか。十二月十日といえば、余すところ、もう九日間しか
(ないのです。 かいじんにじゅうめんそうのおそるべきやしんは、ちょうじょうにたっしたようにおもわれます)
ないのです。 怪人二十面相の恐るべき野心は、頂上に達したように思われます
(あろうことか、あるまいことか、こっかをあいてにしてたたかおうというのです。)
あろうことか、あるまいことか、国家を相手にして戦おうというのです。
(いままでおそったのはみなこじんのざいほうで、にくむべきしわざにはちがいありませんが、)
今まで襲ったのは皆個人の財宝で、憎むべき仕業には違いありませんが、
(よにれいのないことではありません。しかし、はくぶつかんをおそうというのは、こっかの)
世に例のない事ではありません。しかし、博物館を襲うというのは、国家の
(しょゆうぶつをぬすむことになるのです。むかしから、こんなだいそれたどろぼうをもくろんだものが、)
所有物を盗む事になるのです。昔から、こんな大それた泥棒を目論んだ者が、
(ひとりだってあったでしょうか。だいたんともむぼうともいいようのない)
一人だってあったでしょうか。大胆とも無謀とも言いようのない
(おそろしいとうぞくです。 しかしかんがえてみますと、そんなむちゃなことが、)
恐ろしい盗賊です。 しかし考えてみますと、そんな無茶な事が、
(いったいできることでしょうか。はくぶつかんといえば、なんじゅうにんというおやくにんが)
一体出来る事でしょうか。博物館といえば、何十人というお役人が
(つめているのです。しゅえいもいます。おまわりさんもいます。そのうえ、こんなよこくを)
詰めているのです。守衛もいます。お巡りさんもいます。その上、こんな予告を
(したんでは、どれだけけいかいがげんじゅうになるかもしれません。はくぶつかんぜんたいを)
したんでは、どれだけ警戒が厳重になるかもしれません。博物館全体を
(おまわりさんのひとがきでとりかこんでしまうようなことも、おこらないとはいえません。)
お巡りさんの人垣で取り囲んでしまうような事も、起こらないとは言えません。
(ああ、にじゅうめんそうはきでもくるったのではありますまいか。それとも、あいつには)
ああ、二十面相は気でも狂ったのではありますまいか。それとも、あいつには
(このまるでふかのうとしかかんがえられないことをやってのけるじしんがあるのでしょうか)
このまるで不可能としか考えられない事をやってのける自信があるのでしょうか
(にんげんのちえではそうぞうもできないような、あくまのはかりごとがあるとでもいうのでしょうか)
人間の知恵では想像も出来ないような、悪魔の謀があるとでも言うのでしょうか
(さて、にじゅうめんそうのことはこのくらいにとどめ、わたしたちはあけちめいたんていを)
さて、二十面相の事はこの位に止め、私達は明智名探偵を
(むかえなければなりません。 「ああ、れっしゃがきたようだ」)
迎えなければなりません。 「ああ、列車が来たようだ」
(つじのしがちゅういするまでもなく、こばやししょうねんはぷらっとほーむのはしへ)
辻野氏が注意するまでもなく、小林少年はプラットホームの端へ
(とんでいきました。 でむかえのひとがきのぜんれつにたってひだりのほうをながめますと、)
飛んで行きました。 出迎えの人垣の前列に立って左の方を眺めますと、
(あけちたんていをのせたきゅうこうれっしゃは、こくいっこく、そのかたちをおおきくしながらちかづいてきます)
明智探偵を乗せた急行列車は、刻一刻、その形を大きくしながら近付いてきます
(さーっとくうきがしんどうして、くろいこうてつのはこがめのまえをかすめました。ちろちろと)
サーッと空気が震動して、黒い鋼鉄の箱が目の前を掠めました。チロチロと
(すぎていくきゃくしゃのまどのかお、ぶれーきのきしりとともに、やがてれっしゃがていししますと)
過ぎて行く客車の窓の顔、ブレーキのきしりと共に、やがて列車が停止しますと
(いっとうしゃのしょうこうぐちに、なつかしいなつかしいあけちせんせいのすがたがみえました。くろいせびろに、)
一等車の昇降口に、懐かしい懐かしい明智先生の姿が見えました。黒い背広に、
(くろいがいとう、くろいそふとぼうという、くろずくめのいでたちで、はやくもこばやししょうねんに)
黒い外套、黒いソフト帽という、黒ずくめの出で立ちで、早くも小林少年に
(きづいて、にこにこしながらてまねきをしているのです 「せんせい、おかえりなさい」)
気付いて、にこにこしながら手招きをしているのです 「先生、お帰りなさい」
(こばやしくんはうれしさに、もうむがむちゅうになって、せんせいのそばへかけよりました。)
小林君は嬉しさに、もう無我夢中になって、先生の傍へ駆け寄りました。
(あけちたんていはあかぼうにいくつかのとらんくをわたすと、ぷらっとほーむへおりたち、)
明智探偵は赤帽に幾つかのトランクを渡すと、プラットホームへ降り立ち、
(こばやしくんのほうへよってきました。 「こばやしくん、いろいろくろうをしたそうだね。)
小林君の方へ寄って来ました。 「小林くん、色々苦労をしたそうだね。
(しんぶんですっかりしっているよ。でも、ぶじでよかった」)
新聞ですっかり知っているよ。でも、無事で良かった」
(ああ、みつきぶりできくせんせいのこえです。こばやしくんはじょうきしたかおでめいたんていをじっと)
ああ、三月振りで聞く先生の声です。小林君は上気した顔で名探偵をじっと
(みながら、いっそうそのそばへよりそいました。そして、どちらからともなく)
見ながら、一層その傍へ寄り添いました。そして、どちらからともなく
(てがのびて、していのかたいあくしゅがかわされたのでした。 そのとき、がいむしょうの)
手が伸びて、師弟の固い握手が交わされたのでした。 そのとき、外務省の
(つじのしが、あけちのほうへあゆみよって、かたがきつきのめいしをさしだしながら、)
辻野氏が、明智の方へ歩み寄って、肩書き付きの名刺を差し出しながら、
(こえをかけました。 「あけちさんですか、かけちがっておめにかかっていませんが、)
声をかけました。 「明智さんですか、掛け違ってお目に掛かっていませんが、
(わたしはこういうものです。じつは、このれっしゃでおかえりのことを、あるすじからみみに)
私はこういう者です。実は、この列車でお帰りの事を、ある筋から耳に
(したものですから、きゅうにないみつでおはなししたいことがあってでむいてきたのです」)
したものですから、急に内密でお話したい事があって出向いて来たのです」
(あけちはめいしをうけとると、なぜかかんがえごとでもするように、しばらくそれをながめて)
明智は名刺を受け取ると、何故か考え事でもするように、暫くそれを眺めて
(いましたが、やがて、ふときをかえたように、かいかつにこたえました。)
いましたが、やがて、ふと気を変えたように、快活に答えました。