怪人二十面相45 江戸川乱歩

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プレイ回数2230難易度(5.0) 2858打 長文
少年探偵団シリーズ1作目

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問題文

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(「ああ、つじのさん、そうですか。おなまえはよくぞんじています。じつは、ぼくも)

「ああ、辻野さん、そうですか。お名前はよく存知ています。実は、僕も

(いちどきたくしてきがえをしてから、すぐにがいむしょうのほうへまいるつもりだったのですが)

一度帰宅して着替えをしてから、すぐに外務省の方へ参るつもりだったのですが

(わざわざ、おでむかえをうけてきょうしゅくでした」 「おつかれのところをなんですが、)

わざわざ、お出迎えを受けて恐縮でした」 「お疲れのところを何ですが、

(もしおさしつかえなければ、ここのてつどうほてるで、おちゃをのみながら)

もしお差し支えなければ、ここの鉄道ホテルで、お茶を飲みながら

(おはなししたいのですが、けっしておてまはとらせません」 「てつどうほてるですか。)

お話したいのですが、決してお手間は取らせません」 「鉄道ホテルですか。

(ほう、てつどうほてるでね」 あけちはつじのしのかおをじっとみつめながら、)

ホウ、鉄道ホテルでね」  明智は辻野氏の顔をじっと見つめながら、

(なにかかんしんしたようにつぶやきましたが 「ええ、ぼくはちっともさしつかえありません。)

何か感心したように呟きましたが 「ええ、僕はちっとも差し支えありません。

(ではおともしましょう」 それから、すこしはなれたところにまっていたこばやししょうねんに)

ではお供しましょう」  それから、少し離れた所に待っていた小林少年に

(ちかづいて、なにかこごえにささやいてから、 「こばやしくん、ちょっとこのかたとほてるへ)

近付いて、何か小声に囁いてから、 「小林君、ちょっとこの方とホテルへ

(よることにしたからね、きみはにもつをたくしーにのせてひとあしさきにかえってくれたまえ」)

寄る事にしたからね、君は荷物をタクシーに乗せて一足先に帰ってくれたまえ」

(「ええ、では、ぼく、さきへまいります」 こばやしくんはあかぼうのあとをおって、)

「ええ、では、僕、先へ参ります」  小林君は赤帽の後を追って、

(かけだしていくのをみおくりますと、めいたんていとつじのしとはかたをならべ、さもしたしげに)

駈け出して行くのを見送りますと、名探偵と辻野氏とは肩を並べ、さも親し気に

(はなしあいながら、ちかどうをぬけて、とうきょうえきの2かいにあるてつどうほてるへ)

話し合いながら、地下道を抜けて、東京駅の二階にある鉄道ホテルへ

(のぼっていきました。 あらかじめめいじてあったものとみえ、ほてるのさいじょうとうのいっしつに)

上って行きました。  予め命じてあったものとみえ、ホテルの最上等の一室に

(きゃくをむかえるよういができていて、かっぷくのよいぼーいちょうが、うやうやしくひかえています。)

客を迎える用意が出来ていて、恰幅の良いボーイ長が、恭しく控えています。

(ふたりがりっぱなおりものでおおわれたまるてーぶるをはさんで、あんらくいすにこしを)

二人が立派な織り物で覆われた丸テーブルを挟んで、安楽イスに腰を

(おろしますと、まちかまえていたように、べつのぼーいがさかをはこんできました。)

下ろしますと、待ち構えていたように、別のボーイが茶菓を運んで来ました。

(「きみ、すこしみつだんがあるから、せきをはずしてくれたまえ。べるをおすまで、)

「きみ、少し密談があるから、席を外してくれ給え。ベルを押すまで、

(だれもはいってこないように」 つじのしがめいじますと、ぼーいちょうはいちれいして)

誰も入って来ないように」  辻野氏が命じますと、ボーイ長は一礼して

(たちさりました。しめきったへやのなかに、ふたりきりのさしむかいです。)

立ち去りました。締め切った部屋の中に、二人きりの差し向かいです。

など

(「あけちさん、ぼくはどんなにかきみにあいたかったでしょう。いちにちせんしゅうのおもいで)

「明智さん、僕はどんなにか君に会いたかったでしょう。一日千秋の思いで

(まちかねていたのですよ」 つじのしは、いかにもなつかしげにほほえみながら、)

待ちかねていたのですよ」  辻野氏は、如何にも懐かしげに微笑みながら、

(しかしめだけはするどくあいてをみつめて、こんなふうにはなしはじめました。 )

しかし目だけは鋭く相手を見つめて、こんな風に話し始めました。

(あけちは、あんらくいすのくっしょんにふかぶかとみをしずめ、つじのしにおとらぬ、)

明智は、安楽イスのクッションに深々と身を沈め、辻野氏に劣らぬ、

(にこやかなかおでこたえました。 「ぼくこそ、きみにあいたくてしかたがなかったのです)

にこやかな顔で答えました。 「僕こそ、君に会いたくて仕方がなかったのです

(きしゃのなかで、ちょうどこんなことをかんがえていたところでしたよ。ひょっとしたら)

汽車の中で、ちょうどこんな事を考えていたところでしたよ。ひょっとしたら

(きみがえきへむかえにきていてくれるんじゃないかとね」 「さすがですねえ。)

君が駅へ迎えに来ていてくれるんじゃないかとね」 「さすがですねえ。

(すると、きみは、ぼくのほんとうのなまえもごぞんじでしょうねえ」 つじのしのなにげない)

すると、君は、僕の本当の名前もご存知でしょうねえ」  辻野氏の何気ない

(ことばには、おそろしいちからがこもっていました。こうふんのために、いすのひじかけにのせた)

言葉には、恐ろしい力が篭っていました。興奮の為に、イスの肘掛けに乗せた

(ひだりてのさきがかすかにふるえていました。 「すくなくとも、がいむしょうのつじのしでないことは)

左手の先が微かに震えていました。 「少なくとも、外務省の辻野氏でない事は

(あの、まことしやかなめいしをみたときから、わかっていましたよ。ほんみょうといわれると、)

あの、実しやかな名刺を見た時から、分かっていましたよ。本名と言われると、

(ぼくもすこしこまるのですが、しんぶんなんかでは、きみのことをかいじんにじゅうめんそうとよんで)

僕も少し困るのですが、新聞なんかでは、君の事を怪人二十面相と呼んで

(いるようですね」 あけちはへいぜんとして、このおどろくべきことばをかたりました。)

いるようですね」  明智は平然として、この驚くべき言葉を語りました。

(ああ、どくしゃしょくん、これがいったいほんとうのことでしょうか。とうぞくがたんていをでむかえるなんて)

ああ、読者諸君、これが一体本当の事でしょうか。盗賊が探偵を出迎えるなんて

(たんていのほうでも、とっくにそれとしりながら、ぞくのさそいにのり、ぞくのおちゃを)

探偵の方でも、とっくにそれと知りながら、賊の誘いにのり、賊のお茶を

(よばれるなんて、そんなばかばかしいことがおこりうるものでしょうか。)

呼ばれるなんて、そんな馬鹿馬鹿しい事が起こり得るものでしょうか。

(「あけちくん、きみは、ぼくがそうぞうしていたとおりのかたでしたよ。さいしょぼくをみたときから)

「明智君、君は、僕が想像していた通りの方でしたよ。最初僕を見た時から

(きづいていて、きづいていながらぼくのしょうたいにおうじるなんて、)

気付いていて、気付いていながら僕の招待に応じるなんて、

(しゃーろっくほーむずにだってできないげいとうです。ぼくはじつにゆかいですよ。)

シャーロック・ホームズにだって出来ない芸当です。僕は実に愉快ですよ。

(なんていきがいのあるじんせいでしょう。ああ、このこうふんのいっときのために、ぼくは)

何て生き甲斐のある人生でしょう。ああ、この興奮の一時の為に、僕は

(いきていてよかったとおもうくらいですよ」)

生きていて良かったと思うくらいですよ」

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