怪人二十面相50 江戸川乱歩
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問題文
(「これでいいかね。ほら、あいつらがかいだんをおりていくあしおとがきこえるだろう」)
「これでいいかね。ほら、あいつらが階段を下りていく足音が聞こえるだろう」
(あけちはやっとまどぎわをはなれ、はんかちをぽけっとにおさめました。)
明智はやっと窓際を離れ、ハンカチをポケットに収めました。
(まさかてつどうほてるぜんたいがぞくのためにせんりょうされているはずはありませんから、)
まさか鉄道ホテル全体が賊の為に占領されている筈はありませんから、
(ろうかへでてしまえば、もうだいじょうぶです。すこしはなれたへやにはきゃくもいるようすですし)
廊下へ出てしまえば、もう大丈夫です。少し離れた部屋には客もいる様子ですし
(そのへんのろうかには、ぞくのぶかでない、ほんとうのぼーいもあるいているのですから。)
その辺の廊下には、賊の部下でない、本当のボーイも歩いているのですから。
(ふたりは、まるでしたしいともだちのように、かたをならべて、えれべーたーのまえまで)
二人は、まるで親しい友だちのように、肩を並べて、エレベーターの前まで
(あるいていきました。えれべーたーのいりぐちはあいたままで、はたちぐらいの)
歩いて行きました。エレベーターの入り口は開いたままで、二十歳ぐらいの
(せいふくのえれべーたーぼーいが、ひとまちがおにたたずんでいます。 あけちはなにげなく)
制服のエレベーター・ボーイが、人待ち顔に佇んでいます。 明智は何気なく
(ひとあしさきにそのなかへはいりましたが、 「あ、ぼくはすてっきわすれた。)
一足先にその中へ入りましたが、 「あ、ぼくはステッキ忘れた。
(きみはさきへおりてください」 にじゅうめんそうのそういうこえがしたかとおもうと、)
きみは先へ下りてください」 二十面相のそういう声がしたかと思うと、
(いきなりてつのとびらががらがらとしまって、えれべーたーはかこうしはじめました。)
いきなり鉄の扉がガラガラとしまって、エレベーターは下降しはじめました。
(「へんだな」 あけちははやくもそれとさとりました。しかし、べつにあわてるようすもなく)
「へんだな」 明智は早くもそれと悟りました。しかし、別に慌てる様子もなく
(じっとえれべーたーぼーいのてもとをみつめています。 するとあんのじょう、)
じっとエレベーター・ボーイの手許を見詰めています。 すると案の定、
(えれべーたーが2かいと1かいとのちゅうかんの、しほうをかべでとりかこまれたかしょまで)
エレベーターが二階と一階との中間の、四方を壁で取り囲まれた個所まで
(くだると、とつぜんぱったりうんてんがとまってしまいました。 「どうしたんだ」)
下ると、突然パッタリ運転が停まってしまいました。 「どうしたんだ」
(「すみません。きかいにこしょうができたようです。すこしおまちください。)
「すみません。機械に故障が出来たようです。少しお待ち下さい。
(じきなおりましょうから」 ぼーいは、もうしわけなさそうにいいながら、しきりに)
じき直りましょうから」 ボーイは、申し訳なさそうに言いながら、頻りに
(うんてんきのはんどるのへんをいじくりまわしています。 「なにをしているんだ。)
運転機のハンドルの辺を弄繰り回しています。 「何をしているんだ。
(のきたまえ」 あけちはするどくいうと、ぼーいのくびすじをつかんで、ぐーっとうしろに)
のきたまえ」 明智は鋭くいうと、ボーイの首筋を掴んで、グーッと後ろに
(ひきました。それがあまりひどいちからだったものですから、ぼーいはおもわず)
引きました。それがあまり酷い力だったものですから、ボーイは思わず
(えれべーたーのすみにしりもちをついてしまいました。 「ごまかしたってだめだよ)
エレベーターの隅に尻もちをついてしまいました。 「誤魔化したって駄目だよ
(ぼくがえれべーたーのうんてんぐらいしらないとおもっているのか」 しかりつけておいて)
僕がエレベーターの運転ぐらい知らないと思っているのか」 叱りつけておいて
(はんどるをかちっとまわしますと、なんということでしょう。えれべーたーはくもなく)
ハンドルをカチッと回しますと、何という事でしょう。エレベーターは苦もなく
(かこうをはじめたではありませんか。 かいかにつくと、あけちはやはりはんどるを)
下降を始めたではありませんか。 階下に着くと、明智はやはりハンドルを
(にぎったまま、まだしりもちをついているぼーいのかおを、ぐっとするどくにらみつけました)
握ったまま、まだ尻もちをついているボーイの顔を、グッと鋭く睨みつけました
(そのがんこうのおそろしさ。としわかいぼーいはふるえあがって、おもわずみぎのぽけっとのうえを)
その眼光の恐ろしさ。年若いボーイは震え上がって、思わず右のポケットの上を
(なにかたいせつなものでもはいっているようにおさえるのでした。 きびんなたんていは、)
何か大切な物でも入っているように押さえるのでした。 機敏な探偵は、
(そのひょうじょうとてのうごきをみのがしませんでした。いきなりとびついていって、)
その表情と手の動きを見逃しませんでした。いきなり飛びついていって、
(おさえているぽけっとにてをいれ、いちまいのしへいをとりだしてしまいました。)
押さえているポケットに手を入れ、一枚の紙幣を取り出してしまいました。
(せんえんさつです。えれべーたーぼーいは、にじゅうめんそうのぶかのために、せんえんさつで)
千円札です。エレベーター・ボーイは、二十面相の部下の為に、千円札で
(ばいしゅうされていたのでした。 ぞくはそうして、5ふんか10ぷんのあいだ、)
買収されていたのでした。 賊はそうして、五分か十分のあいだ、
(たんていをえれべーたーのなかにとじこめておいて、そのひまにかいだんのほうから)
探偵をエレベーターの中に閉じ込めておいて、その暇に階段の方から
(こっそりにげさろうとしたのです。いくらだいたんふてきのにじゅうめんそうでも、もうしょうたいが)
コッソリ逃げ去ろうとしたのです。幾ら大胆不敵の二十面相でも、もう正体が
(わかってしまったいま、たんていとかたをならべて、ほてるのひとたちやとまりきゃくの)
分かってしまった今、探偵と肩を並べて、ホテルの人達や泊まり客の
(むらがっているげんかんを、とおりぬけるゆうきはなかったのです。あけちはけっして)
群がっている玄関を、通り抜ける勇気はなかったのです。明智は決して
(とらえないといっていますけれど、ぞくのみにしては、それをことばどおり)
捕えないと言っていますけれど、賊の身にしては、それを言葉通り
(しんようするわけにはいきませんからね。 めいたんていはえれべーたーをとびだすと、)
信用する訳にはいきませんからね。 名探偵はエレベーターを飛び出すと、
(ろうかをひととびに、げんかんへかけだしました。すると、ちょうどまにあって、)
廊下を一飛びに、玄関へ駆け出しました。すると、ちょうど間に合って、
(にじゅうめんそうのつじのしがおもてのいしだんを、ゆうぜんとおりていくところでした。)
二十面相の辻野氏が表の石段を、悠然と下りて行くところでした。
(「や、しっけい、しっけい、ちょっとえれべーたーにこしょうがあったものですからね。)
「や、失敬、失敬、ちょっとエレベーターに故障があったものですからね。
(ついおくれてしまいましたよ」 あけちは、やっぱりにこにこわらいながら、)
つい遅れてしまいましたよ」 明智は、やっぱりにこにこ笑いながら、
(うしろからつじのしのかたをぽんとたたきました。 )
後ろから辻野氏の肩をポンと叩きました。