バスカヴィル家の犬22

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シャーロックホームズシリーズ
アーサーコナンドイルの作品です。句読点以外の記号は省いています。

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問題文

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(こうやはすばらしいばしょです かれはこういうと、ぎざぎざしたかこうがんのいただきが)

「荒野は素晴らしい場所です」彼はこう言うと、ぎざぎざした花崗岩の頂きが

(きみょうなかたちでそびえたち、どこまでもうねってつづくみどりのきゅうりょうちたいをぐるっと)

奇妙な形でそびえたち、どこまでもうねって続く緑の丘陵地帯をぐるっと

(みまわした。こうやではたいくつすることはけっしてありません。ここにひめられた)

見回した。「荒野では退屈する事は決してありません。ここに秘められた

(すばらしいひみつのことをかんがえずにはおられません。それはひじょうにこうだいで、)

素晴らしい秘密の事を考えずにはおられません。それは非常に広大で、

(あれはて、なぞめいています では、あなたはこうやをよくごぞんじなのですか?)

荒れ果て、謎めいています」「では、あなたは荒野を良くご存知なのですか?」

(わたしがここにきてまだにねんです。ここのじゅうみんにいわせれば、わたしはしんざんもの)

「私がここに来てまだ二年です。ここの住民に言わせれば、私は新参者

(でしょうね。わたしたちはさーちゃーるずがここにきょをかまえたすぐあとくらいに)

でしょうね。私達はサー・チャールズがここに居を構えたすぐ後くらいに

(きました。しかしわたしはしゅみのかんけいでこうきしんがおうせいですから、このあたりはすべて)

来ました。しかし私は趣味の関係で好奇心が旺盛ですから、このあたりは全て

(たんさくしました。わたしよりもこうやをよくしっているにんげんはほとんどいないと)

探索しました。私よりも荒野をよく知っている人間はほとんどいないと

(おもいますね そうなるのはむずかしいのですか?ひじょうにむずかしいです。たとえば、)

思いますね」「そうなるのは難しいのですか?」「非常に難しいです。例えば、

(このこうだいなへいげんのきたがわにきみょうなおかがつきでているでしょう。なにかかわったてんが)

この広大な平原の北側に奇妙な丘が突き出ているでしょう。何か変わった点が

(ありますか?うまでかけるのにはぜっこうのばしょのようですね ごくしぜんにそう)

ありますか?」「馬で駆けるのには絶好の場所のようですね」「ごく自然にそう

(かんがえるのですが、そのおかげでこれまでいくつものいのちがうばわれてきました。ぜんめんに)

考えるのですが、そのおかげでこれまで幾つもの命が奪われてきました。全面に

(あかるいみどりのばしょがてんざいしているのにきがつくでしょう?ええ、ほかよりこえた)

明るい緑の場所が点在しているのに気がつくでしょう?」「ええ、他より肥えた

(ばしょみたいですね すていぷるとんはわらった。あれはぐりんぺんのそこなしぬま)

場所みたいですね」ステイプルトンは笑った。「あれはグリンペンの底無し沼

(です かれはいった。ひとであれけものであれ、まちがってあそこにふみこむのはしを)

です」彼は言った。「人であれ獣であれ、間違ってあそこに踏み込むのは死を

(いみします。いっぴきのやせいばがあそこにまよいこんだのをみたのは、ついきのうです。)

意味します。一匹の野生馬があそこに迷い込んだのを見たのは、つい昨日です。

(にどとでてこれませんでした。ずいぶんながいあいだどろのあなからあたまがでているのが)

二度と出て来れませんでした。ずいぶん長い間泥の穴から頭が出ているのが

(みえましたが、さいごにはすいこまれました。かんきでもあそこをよこぎるのは)

見えましたが、最後には吸い込まれました。乾季でもあそこを横切るのは

(きけんですが、このあきさめのあとではあそこはおそるべきばしょです。それでも、わたしは)

危険ですが、この秋雨の後ではあそこは恐るべき場所です。それでも、私は

など

(あれのどまんなかまでいって、いきてもどってくることができます。おやおや、)

あれのど真ん中まで行って、生きて戻ってくる事が出来ます。おやおや、

(もういっとうかわいそうなこうまがいますよ!ちゃいろいものがみどりのすげのあいだで)

もう一頭可哀想な小馬がいますよ!」茶色いものが緑のスゲの間で

(のたうちまわっていた。そのあと、ながい、くるしそうにふるえるくびがつきでると、)

のた打ち回っていた。その後、長い、苦しそうに震える首が突き出ると、

(おそろしいなきごえがあれちぜんたいにこだました。わたしはそれをきいてきょうふにぞっとした。)

恐ろしい鳴き声が荒地全体にこだました。私はそれを聞いて恐怖にぞっとした。

(すていぷるとんはわたしよりもしんけいがふといようだった。いっかんのおわりです!)

ステイプルトンは私よりも神経が太いようだった。「一巻の終わりです!」

(かれはいった。あのそこなしぬまがのみこんだのは、ふつかににとう、いや、おそらく)

彼は言った。「あの底無し沼が飲み込んだのは、二日に二頭、いや、おそらく

(それいじょうでしょうね。うまはかんきのときにあそこにいくしゅうかんがついて、そこなしぬまに)

それ以上でしょうね。馬は乾季のときにあそこに行く習慣がついて、底無し沼に

(つかまるまで、ちがいがわからないんです。あそこのきょだいなぐりんぺんのそこなしぬまは)

捕まるまで、違いが分からないんです。あそこの巨大なグリンペンの底無し沼は

(まさにじごくですね それでもあなたなら、あそこをとおりぬけられると)

まさに地獄ですね」「それでもあなたなら、あそこを通り抜けられると

(おっしゃいましたね?ええ、ひじょうにみがるなおとこならとおれるみちがいち、にほん)

おっしゃいましたね?」「ええ、非常に身軽な男なら通れる道が一、二本

(あります。わたしがみつけました しかしなぜそんなおそろしいばしょにいきたいと)

あります。私が見つけました」「しかしなぜそんな恐ろしい場所に行きたいと

(おもうんですか?うしろのおかがみえるでしょう?あのまわりはとおることができない)

思うんですか?」「後ろの丘が見えるでしょう?あの周りは通る事が出来ない

(そこなしぬまです。ぬまはねんげつをかけてあそこをゆっくりととりかこみ、おかはかんぜんに)

底なし沼です。沼は年月をかけてあそこをゆっくりと取り囲み、丘は完全に

(こりつしました。あのおかにとうたつできさえすれば、めずらしいしょくぶつやちょうがいます)

孤立しました。あの丘に到達できさえすれば、珍しい植物や蝶がいます」

(いつかわたしもうんだめしをしてみましょう かれはおどろいたかおでわたしをみた。)

「いつか私も運試しをして見ましょう」彼は驚いた顔で私を見た。

(おねがいですからそんなかんがえはわすれてください かれはいった。あなたになにか)

「お願いですからそんな考えは忘れてください」彼は言った。「あなたに何か

(あれば、わたしのせきにんになります。ほしょうしてもいいですが、あなたがいきてもどって)

あれば、私の責任になります。保証してもいいですが、あなたが生きて戻って

(これるちゃんすはぜったいにありません。わたしがとおれるのは、ふくざつなめじるしをきおくして)

これるチャンスは絶対にありません。私が通れるのは、複雑な目印を記憶して

(いるからです おや!わたしはさけんだ。あれはなんだ?いいようもなく)

いるからです」「おや!」私は叫んだ。「あれは何だ?」言いようもなく

(かなしげな、ながくひくいうめきごえが、こうやのうえをふきあれた。それはたいきぜんたいに)

悲しげな、長く低いうめき声が、荒野の上を吹き荒れた。それは大気全体に

(なりわたったにもかかわらず、どこからくるのかわからなかった。そのこえは、)

鳴り渡ったにも拘わらず、どこから来るのか分からなかった。その声は、

(にぶいつぶやきから、ひくくおおきなさけびごえへとたかまり、そのあと、ゆううつにうずくような)

にぶい呟きから、低く大きな叫び声へと高まり、その後、憂鬱にうずくような

(つぶやきへと、もういちどしずまった。すていぷるとんはかおにきょうみぶかげなひょうじょうをうかべて)

呟きへと、もう一度静まった。ステイプルトンは顔に興味深げな表情を浮かべて

(わたしをみた。きみょうなばしょですね。このこうやは!かれはいった。しかしあれは)

私を見た。「奇妙な場所ですね。この荒野は!」彼は言った。「しかしあれは

(なんですか?のうふたちはあれはばすかヴぃるのいぬがえものをもとめているこえだと)

何ですか?」「農夫達はあれはバスカヴィルの犬が獲物を求めている声だと

(いっていますね。わたしもいち、にどきいたことがありますが、あれほどおおきくは)

言っていますね。私も一、二度聞いたことがありますが、あれほど大きくは

(ありませんでした わたしはきょうふにふるえるこころで、いぐさのみどりのくかくでまだらもように)

ありませんでした」私は恐怖に震える心で、イグサの緑の区画でまだら模様に

(なっただいちのりゅうきをみまわした。こうだいなふうけいはしずまりかえっており、うしろのいわでなく)

なった大地の隆起を見回した。広大な風景は静まり返っており、後ろの岩で鳴く

(にわのからすのこえがやけにうるさくきこえた。あなたはきょういくをうけた)

二羽のカラスの声がやけにうるさく聞こえた。「あなたは教育を受けた

(にんげんです。そんなばかげたことをしんじてはいないでしょう?わたしはいった。)

人間です。そんな馬鹿げたことを信じてはいないでしょう?」私は言った。

(あのきみょうなおとのげんいんはなんだとおもいますか?ぬまちはときどききみょうなおとを)

「あの奇妙な音の原因は何だと思いますか?」「沼地は時々奇妙な音を

(たてます。あれはどろのしずみ、それか、みずがふきだすおと、そんなものでしょう)

たてます。あれは泥の沈み、それか、水が噴き出す音、そんなものでしょう」

(いや、いや、あれはいきもののこえでした そうかもしれませんね。)

「いや、いや、あれは生き物の声でした」「そうかもしれませんね。

(さんかのごいのなきごえをきいたことがありますか?いえ、ありません)

サンカノゴイの鳴き声を聞いた事がありますか?」「いえ、ありません」

(ひじょうにめずらしいとりでして、いぎりすではもうじっしつじょうぜつめつしています。しかし、)

「非常に珍しい鳥でして、イギリスではもう実質上絶滅しています。しかし、

(こうやにはなにがいるかわかりませんからね。そう。われわれがきいたこえが)

荒野には何がいるか分かりませんからね。そう。我々が聞いた声が

(さんかのごいのさいごのさけびだとしてもわたしはふしぎではないとおもいます)

サンカノゴイの最後の叫びだとしても私は不思議ではないと思います」

(あれはわたしがこれまできいたなかでもっともふうがわりで、きみょうなこえでした ええ、)

「あれは私がこれまで聞いた中で最も風変わりで、奇妙な声でした」「ええ、

(ぜんたいとしてかなりしんぴてきなばしょです。あそこのおかのしゃめんをみてください。あれを)

全体としてかなり神秘的な場所です。あそこの丘の斜面を見てください。あれを

(をどうおもいます?きゅうなしゃめんぜんたいがすくなくとも20こはあるはいいろのいしのわで)

をどう思います?」急な斜面全体が少なくとも20個はある灰色の石の環で

(おおわれていた。あれはなんですか?ひつじのかこいですか?いいえ、あれは)

覆われていた。「あれは何ですか?羊の囲いですか?」「いいえ、あれは

(そんけいすべきそせんたちのいえです。せんしじだいのにんげんはこうやのうえであつまって)

尊敬すべき祖先たちの家です。先史時代の人間は荒野の上で集まって

(くらしていました。それいこう、あのばしょにすむひとはとくにいなかったので、ぜんぶの)

暮らしていました。それ以降、あの場所に住む人は特にいなかったので、全部の

(いしぐみをそのままのじょうたいでかくにんすることができます。あれはこやのやねが)

石組みをそのままの状態で確認することが出来ます。あれは小屋の屋根が

(なくなったものです。もしなかにはいってみるきがあれば、だんろやながいすさえ)

なくなったものです。もし中に入ってみる気があれば、暖炉や長椅子さえ

(みることができますよ しかしけっこうなしゅうらくですね。いつごろひとがすんで)

見る事が出来ますよ」「しかし結構な集落ですね。いつ頃人が住んで

(いたんですか?しんせっきじだいのにんげんです、 ねんだいはわかりません)

いたんですか?」「新石器時代の人間です、 ―― 年代は分かりません」

(なにをしていたんでしょう?あのしゃめんでうしにくさをたべさせていたんです。)

「何をしていたんでしょう?」「あの斜面で牛に草を食べさせていたんです。

(そしてせいどうのけんがいしおのにとってかわったころ、すずをほることをおぼえました。)

そして青銅の剣が石斧にとって変わった頃、錫を掘る事を覚えました。

(おかのはんたいがわにあるおおきなみぞをみてください。あれがそのこんせきです。まあ、)

丘の反対側にある大きな溝を見てください。あれがその痕跡です。まあ、

(こうやではいろいろとひじょうにかわったばしょがみられますよ、わとそんはかせ。ああ、)

荒野では色々と非常に変わった場所が見られますよ、ワトソン博士。ああ、

(ちょっとしつれい!あれはまちがいなくしくろぴですだ ちいさなはえかがが)

ちょっと失礼!あれは間違いなくシクロピデスだ」小さなハエか蛾が

(はばたきながら、みちをよこぎっていた。つぎのしゅんかん、すていぷるとんはそれを)

羽ばたきながら、道を横切っていた。次の瞬間、ステイプルトンはそれを

(おいかけて、ものすごいいきおいでかけだしていた。)

追いかけて、ものすごい勢いで駆け出していた。

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