バスカヴィル家の犬23

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プレイ回数1791難易度(4.2) 4499打 長文 かな 長文モード可
シャーロックホームズシリーズ
アーサーコナンドイルの作品です。句読点以外の記号は省いています。

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問題文

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(おどろいたことに、そのいきものはこうだいなぬまちにむかってまっすぐとんでいったのに、)

驚いた事に、その生き物は広大な沼地に向かって真っ直ぐ飛んで行ったのに、

(すていぷるとんはいっしゅんもたちどまらず、みどりのむしとりあみをくうちゅうにゆらしながら、)

ステイプルトンは一瞬も立ち止まらず、緑の虫取り網を空中に揺らしながら、

(くさちからくさちへととびはねてあとをおった。はいいろのふくと、ふきそくなじぐざぐの)

草地から草地へと飛び跳ねて後を追った。灰色の服と、不規則なジグザグの

(こーすをぎくしゃくとすすんでいくさまは、かれじしんがおおきながにみえなくも)

コースをギクシャクと進んでいくさまは、彼自身が大きな蛾に見えなくも

(なかった。わたしは、かれのとてつもないこうどうりょくをしょうさんするきもちと、きけんなぬまのなかに)

なかった。私は、彼のとてつもない行動力を賞賛する気持ちと、危険な沼の中に

(あしをとられないかというしんぱいがいりまじったきもちで、このついせきげきをみながら)

足をとられないかという心配が入り混じった気持ちで、この追跡劇を見ながら

(たっていた。そのときあしおとがきこえたので、ふりむくと、すぐそばのみちにひとりの)

立っていた。その時足音が聞こえたので、振り向くと、すぐ側の道に一人の

(じょせいがたっていた。かのじょはけむりがあがっているほうこう、つまりめりぴっとはうすの)

女性が立っていた。彼女は煙が上がっている方向、つまりメリピット・ハウスの

(ほうからきていた。しかしこうやのみちはくぼちをとおっており、ほんとうにちかくにくるまで)

方から来ていた。しかし荒野の道は窪地を通っており、本当に近くに来るまで

(かのじょのすがたがみえなかったのだ。わたしはまちがいなくこのじょせいがはなしにきいていた)

彼女の姿が見えなかったのだ。私は間違いなくこの女性が話に聞いていた

(みすすていぷるとんだとかくしんした。こうやではこのようなふんいきのじょせいは)

ミス・ステイプルトンだと確信した。荒野ではこのような雰囲気の女性は

(それほどみかけないはずだし、わたしはだれかがかのじょをうつくしいじょせいだとひょうげんしていた)

それほど見かけないはずだし、私は誰かが彼女を美しい女性だと表現していた

(おぼえがあった。ちかづいてきたじょせいはほんとうにびじんだった。このいもうとはあにとはにても)

覚えがあった。近づいてきた女性は本当に美人だった。この妹は兄とは似ても

(につかなかった。すていぷるとんはいろじろで、あかるいかみ、はいいろのめをしていた。)

似つかなかった。ステイプルトンは色白で、明るい髪、灰色の目をしていた。

(いっぽう、かのじょはわたしがいぎりすでみかけたどんなくろかみのじょせいよりもなおくろいかみで、)

一方、彼女は私がイギリスで見かけたどんな黒髪の女性よりもなお黒い髪で、

(ゆうがなほそみで、せのたかいじょせいだった。かおはみごとなまでにほりがふかく、あまりに)

優雅な細身で、背の高い女性だった。顔は見事なまでに彫りが深く、あまりに

(ととのいすぎていたので、もしせんさいそうなくちもととかんじょうゆたかなうつくしいくろいひとみが)

整い過ぎていたので、もし繊細そうな口元と感情豊かな美しい黒い瞳が

(なかったら、むひょうじょうにみられかねないところだった。かんぺきなしたいとゆうがな)

なかったら、無表情に見られかねないところだった。完璧な肢体と優雅な

(どれすは、まるでさびしいこうやのみちにあらわれたきみょうなげんえいのようだった。わたしが)

ドレスは、まるでさびしい荒野の道に現れた奇妙な幻影のようだった。私が

(ふりかえったとき、かのじょはあにのほうをみていた。そのあと、かのじょはあしをはやめてわたしに)

振り返った時、彼女は兄の方を見ていた。その後、彼女は足を速めて私に

など

(ちかづいてきた。ぼうしをあげ、じじょうをせつめいしようとしたそのしゅんかん、わたしはかのじょの)

近づいてきた。帽子を上げ、事情を説明しようとしたその瞬間、私は彼女の

(ことばに、ふいをつかれた。かえって!かのじょはいった。ろんどんにまっすぐ)

言葉に、不意をつかれた。「帰って!」彼女は言った。「ロンドンに真っ直ぐ

(かえって。いますぐ わたしはただぼうぜんとしてかのじょをみつめることしかできなかった。)

帰って。今すぐ」私はただ呆然として彼女を見つめる事しかできなかった。

(かのじょはもえるようにわたしをにらみつけると、いらだちのあまりあしをふみならした。)

彼女は燃えるように私を睨みつけると、苛立ちのあまり足を踏み鳴らした。

(なぜかえらないといけないのですか?わたしはたずねた。わけはいえません かのじょは)

「なぜ帰らないといけないのですか?」私は尋ねた。「訳は言えません」彼女は

(きみょうにしたたらずなくちょうだったが、ちいさくせかすようなこえでいった。しかし)

奇妙に舌足らずな口調だったが、小さく急かすような声で言った。「しかし

(おねがいですからわたしのいうとおりにしてください。ろんどんにかえって、にどと)

お願いですから私の言うとおりにしてください。ロンドンに帰って、二度と

(こうやにあしをふみいれないでください しかし、きたばかりなのですが)

荒野に足を踏み入れないでください」「しかし、来たばかりなのですが」

(いうことをききなさい!かのじょはさけんだ。あなたのためにちゅういしているのが)

「言う事を聞きなさい!」彼女は叫んだ。「あなたのために注意しているのが

(わからないの?ろんどんにかえって!こんばんたちなさい!なにがあってもこのちから)

分からないの?ロンドンに帰って!今晩発ちなさい!何があってもこの地から

(でていって!しっ、あにがくる。わたしがはなしたことはだまっていて。そこのすぎなもの)

出て行って!シッ、兄が来る。私が話した事は黙っていて。そこのスギナモの

(あいだのあのらんをわたしにとってくださいな。こうやにはらんがいっぱいさいているはず)

間のあのランを私にとって下さいな。荒野にはランがいっぱい咲いているはず

(なんですが、みごとなけしきはごらんになれませんでしたね すていぷるとんはついせきを)

なんですが、見事な景色はご覧になれませんでしたね」ステイプルトンは追跡を

(あきらめ、あらあらしいいきをしながら、はげしいうんどうにかおをまっかにしてわたしたちの)

諦め、荒々しい息をしながら、激しい運動に顔を真っ赤にして私たちの

(たっているところまでもどってきた。やあ、べりる!かれはいった。しかし、)

立っているところまで戻ってきた。「やあ、ベリル!」彼は言った。しかし、

(そのくちょうにはどこかとげとげしいものがあるようにかんじられた。じゃっく、ねつが)

その口調にはどこか刺々しいものがあるように感じられた。「ジャック、熱が

(はいってるわね ああ、しくろぴですをおいかけていたところだ。まれなしゅるいだし)

入ってるわね」「ああ、シクロピデスを追いかけていたところだ。稀な種類だし

(あきのおわりにはほとんどみかけない。にがしたのはじつにざんねんだ!かれはなにげない)

秋の終わりにはほとんど見かけない。逃がしたのは実に残念だ!」彼は何気ない

(くちょうでこういったが、ちいさなひかるめがひっきりなしにじょせいとわたしをみまわしていた。)

口調でこう言ったが、小さな光る目がひっきりなしに女性と私を見回していた。

(どうやらじこしょうかいはすんだようだな ええ。わたしはさーへんりーに、こうやの)

「どうやら自己紹介はすんだようだな」「ええ。私はサー・ヘンリーに、荒野の

(ほんとうのうつくしさをみるにはちょっとおそすぎたとはなしてたところです おやおや、)

本当の美しさを見るにはちょっと遅すぎたと話してたところです」「おやおや、

(このひとをだれだとおもっているんだ?さーへんりーばすかヴぃるじゃ)

この人を誰だと思っているんだ?」「サー・ヘンリー・バスカヴィルじゃ

(ないんですか いえ、いえ わたしはいった。わたしはかれのゆうじんですが、ただの)

ないんですか」「いえ、いえ」私は言った。「私は彼の友人ですが、ただの

(へいみんです。わたしのなまえは、わとそんです  かのじょのひょうじょうゆたかなかおが、ばつのわるそうに)

平民です。私の名前は、ワトソンです」彼女の表情豊かな顔が、ばつの悪そうに

(あかくそまった。あいてをまちがえてはなしていましたね かのじょはいった。なんだ。)

赤く染まった。「相手を間違えて話していましたね」彼女は言った。「なんだ。

(そんなにはなすじかんはなかったじゃないか あにはといただすようなめをかえずに)

そんなに話す時間はなかったじゃないか」兄は問いただすような目を変えずに

(いった。わとそんはかせがおきゃくさまではなく、こちらにうつりすまれたかたのように)

言った。「ワトソン博士がお客様ではなく、こちらに移り住まれた方のように

(おはなしていました かのじょはいった。らんのきせつにはやくてもおそくてもたいした)

お話していました」彼女は言った。「ランの季節に早くても遅くてもたいした

(ことではないですね。しかし、めりぴっとはうすにおこしになられます)

ことではないですね。しかし、メリピット・ハウスにお越しになられます

(よね?すこしあるくとさびしいこうやのいえについた。このいえは、かつてのこうけいきじだい)

よね?」少し歩くと寂しい荒野の家に着いた。この家は、かつての好景気時代

(にはぼくちくぎょうしゃののうかだったが、いまはりふぉーむしてあたらしいじゅうきょにかわっていた。)

には牧畜業者の農家だったが、今はリフォームして新しい住居に変わっていた。

(いえをとりかこむようにかじゅえんがあった。しかしそのきぎは、こうやのほかのきと)

家を取り囲むように果樹園があった。しかしその木々は、荒野の他の木と

(おなじようにはついくがわるくねじまがっていた。そして、そのばしょぜんたいのいんしょうは)

同じように発育が悪く捻じ曲がっていた。そして、その場所全体の印象は

(みすぼらしくいんきだった。きみょうなしわだらけのいろあせたふくをきたおとこのしようにんが)

みすぼらしく陰気だった。奇妙なしわだらけの色あせた服を着た男の使用人が

(とびらをあけた。おとこは、このいえにぴったりだとおもった。しかしいえのなかは、ひじょうに)

扉を開けた。男は、この家にぴったりだと思った。しかし家の中は、非常に

(ゆうがなちょうどひんでかざられていて、じょせいのひんのよさがうかがえるようだった。まどから)

優雅な調度品で飾られていて、女性の品の良さがうかがえるようだった。窓から

(そとをながめると、かこうがんまじりのはてしのないこうやが、はるかかなたのすいへいせんまで)

外を眺めると、花崗岩交じりの果てしの無い荒野が、はるか彼方の水平線まで

(とぎれることなくうねっていた。わたしはこのたかいきょういくをうけたおとことうつくしいじょせいが)

途切れることなくうねっていた。私はこの高い教育を受けた男と美しい女性が

(なぜこのようなばしょにすむことになったのかとおもうと、おどろきをかくし)

なぜこのような場所に住むことになったのかと思うと、驚きを隠し

(きれなかった。かわったばしょをえらんだものでしょう?かれはわたしのこころを)

切れなかった。「変わった場所を選んだものでしょう?」彼は私の心を

(みぬいたかのように、こうこたえた。しかしわたしたちはほんとうにたのしくくらして)

見抜いたかのように、こう答えた。「しかし私達は本当に楽しく暮らして

(います。そうだよね、べりる?ほんとうにたのしいわ かのじょはいった。しかしこの)

います。そうだよね、ベリル?」「本当に楽しいわ」彼女は言った。しかしこの

(ことばにはまったくせっとくりょくがなかった。)

言葉には全く説得力がなかった。

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