怪人二十面相51 江戸川乱歩

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少年探偵団シリーズ1作目

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(はっとふりむいて、あけちのすがたをみとめたつじのしのかおといったらありませんでした)

ハッと振り向いて、明智の姿を認めた辻野氏の顔といったらありませんでした

(ぞくはえれべーたーのけいりゃくが、てっきりせいこうするものとしんじきっていたのですから)

賊はエレベーターの計略が、てっきり成功するものと信じきっていたのですから

(かおいろをかえるほどおどろいたのも、けっしてむりではありません。 「ははは・・・・・・、)

顔色を変えるほど驚いたのも、決して無理ではありません。 「ハハハ……、

(どうかなすったのですか、つじのさん、すこしおかおいろがよくないようですね。)

どうかなすったのですか、辻野さん、少しお顔色が良くないようですね。

(ああ、それから、これをね、あのえれべーたーぼーいから、あなたに)

ああ、それから、これをね、あのエレベーター・ボーイから、貴方に

(わたしてくれってたのまれてきました。ぼーいがいってましたよ、あいてがわるくて)

渡してくれって頼まれてきました。ボーイが言ってましたよ、相手が悪くて

(えれべーたーのうごかしかたをしっていたので、どうもごめいれいどおりに)

エレベーターの動かし方を知っていたので、どうもご命令通りに

(ながくとめておくわけにはいきませんでした。あしからずってね。ははは・・・・・・」)

長く停めておく訳にはいきませんでした。悪しからずってね。ハハハ……」

(あけちはさもゆかいそうに、おおわらいをしながら、れいのせんえんさつを、にじゅうめんそうのめんぜんで)

明智はさも愉快そうに、大笑いをしながら、例の千円札を、二十面相の面前で

(2、3どひらひらさせてから、それをあいてのてににぎらせますと、)

二、三度ヒラヒラさせてから、それを相手の手に握らせますと、

(「ではさようなら。いずれちかいうちに」 といったかとおもうと、くるっとむきを)

「ではさようなら。いずれ近い内に」 と言ったかと思うと、クルッと向きを

(かえて、なんのみれんもなく、あとをもみずにたちさってしまいました。)

かえて、何の未練もなく、後をも見ずに立ち去ってしまいました。

(つじのしはせんえんさつをにぎったまま、あっけにとられて、めいたんていのうしろすがたを)

辻野氏は千円札を握ったまま、呆気に取られて、名探偵の後ろ姿を

(みおくっていましたが、 「ちぇっ」)

見送っていましたが、 「チェッ」

(と、いまいましそうにしたうちすると、そこにまたせてあったじどうしゃをよぶのでした。)

と、忌々しそうに舌打ちすると、そこに待たせてあった自動車を呼ぶのでした。

(このようにしてめいたんていとだいとうぞくのしょたいめんのこてしらべは、みごとに)

このようにして名探偵と大盗賊の初対面の小手調べは、見事に

(たんていのしょうりにきしました。ぞくにしてみれば、いつでもとらえようとおもえば)

探偵の勝利に帰しました。賊にしてみれば、いつでも捕えようと思えば

(とらえられるのを、そのままみのがしてもらったわけですから、にじゅうめんそうのなにかけて)

捕えられるのを、そのまま見逃してもらった訳ですから、二十面相の名にかけて

(これほどのちじょくはないわけです。 「このしかえしは、きっとしてやるぞ」)

これほどの恥辱はない訳です。 「この仕返しは、きっとしてやるぞ」

(かれはあけちのうしろすがたに、にぎりこぶしをふるって、おもわずのろいのことばを)

彼は明智の後姿に、握り拳を振るって、思わず呪いの言葉を

など

(つぶやかないではいられませんでした。)

呟かないではいられませんでした。

(にじゅうめんそうのたいほ 「あ、あけちさん、いま、あなたをおたずねするところでした。)

【二十面相の逮捕】 「あ、明智さん、今、貴方をお訪ねするところでした。

(あいつは、どこにいますか」 あけちたんていは、てつどうほてるから50めーとるも)

あいつは、何処にいますか」  明智探偵は、鉄道ホテルから五十メートルも

(あるいたかあるかぬかにとつぜんよびとめられて、たちどまらなければなりませんでした)

歩いたか歩かぬかに突然呼び止められて、立ち止まらなければなりませんでした

(「ああ、いまにしくん」 それはけいしちょうそうさかきんむのいまにしけいじでした。)

「ああ、今西君」  それは警視庁捜査課勤務の今西刑事でした。

(「ごあいさつはあとにして、つじのとじしょうするおとこはどうしました。まさかにがして)

「ご挨拶は後にして、辻野と自称する男はどうしました。まさか逃がして

(おしまいになったのじゃありますまいね」 「きみは、どうしてそれを)

おしまいになったのじゃありますまいね」 「君は、どうしてそれを

(しっているんです」 「こばやしくんがぷらっとほーむでへんなことをしているのを)

知っているんです」 「小林君がプラットホームで変な事をしているのを

(みつけたのです。あのこどもは、じつにごうじょうですねえ。いくらたずねても)

見付けたのです。あの子どもは、実に強情ですねえ。幾ら尋ねても

(なかなかいわないのです。しかし、てをかえしなをかえて、とうとうはくじょう)

中々言わないのです。しかし、手を替え品を替えて、とうとう白状

(させてしまいましたよ。あなたががいむしょうのつじのというおとこといっしょに、てつどうほてるへ)

させてしまいましたよ。貴方が外務省の辻野という男と一緒に、鉄道ホテルへ

(はいられたこと、そのつじのがどうやらにじゅうめんそうのへんそうらしいことなどをね。)

入られた事、その辻野がどうやら二十面相の変装らしい事などをね。

(さっそくがいむしょうへでんわをかけてみましたが、つじのさんはちゃんとしょうにいるんです)

さっそく外務省へ電話を掛けてみましたが、辻野さんはちゃんと省にいるんです

(そいつはにせものにちがいありません。そこで、あなたにおうえんするために、)

そいつは偽物に違いありません。そこで、貴方に応援する為に、

(かけつけてきたというわけですよ」 「それはごくろうさま、だが、あのおとこはもう)

駆け付けて来たという訳ですよ」 「それはご苦労様、だが、あの男はもう

(かえってしまいましたよ」 「えっ、かえってしまった?それじゃ、そいつは)

帰ってしまいましたよ」 「エッ、帰ってしまった? それじゃ、そいつは

(にじゅうめんそうではなかったのですか?」 「にじゅうめんそうでした。)

二十面相ではなかったのですか?」 「二十面相でした。

(なかなかおもしろいおとこですねえ」 「あけちさん、あけちさん、あなたなにをじょうだんいって)

中々面白い男ですねえ」 「明智さん、明智さん、貴方何を冗談言って

(いるんです。にじゅうめんそうとわかっていながら、けいさつへしらせもしないで、)

いるんです。二十面相と分かっていながら、警察へ知らせもしないで、

(にがしてやったとおっしゃるのですか」 )

逃がしてやったと仰るのですか」

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