怪人二十面相54 江戸川乱歩

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少年探偵団シリーズ1作目

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問題文

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(かちほこったように、こういって、ましょうめんからぞくをにらみつけました。)

勝ち誇ったように、こう言って、真正面から賊を睨みつけました。

(「ところが、ちがうんですよ。こいつあ、こまったことになったな。わしは、あいつが)

「ところが、違うんですよ。こいつあ、困った事になったな。儂は、あいつが

(ゆうめいなにじゅうめんそうだなんて、すこしもしらなかったのですよ」 しんしにばけたぞくは)

有名な二十面相だなんて、少しも知らなかったのですよ」  紳士に化けた賊は

(あくまでそらとぼけるつもりらしく、へんなことをいいだすのです。 「なんだって?)

あくまで空惚けるつもりらしく、変な事を言い出すのです。 「なんだって?

(きみのいうことは、ちっともわけがわからないじゃないか」 「わしもわけが)

君の言う事は、ちっとも訳が分からないじゃないか」 「儂も訳が

(わからんのです。すると、あいつがわしにばけてわしをかえだまにつかったんだな」)

分からんのです。すると、あいつが儂に化けて儂を替え玉に使ったんだな」

(「おいおい、いいかげんにしたまえ。いくらそらとぼけたって、もうそのてにはのらんよ」)

「おいおい、いい加減にし給え。幾ら空惚けたって、もうその手には乗らんよ」

(「いやいや、そうじゃないんです。まあ、おちついて、わしのせつめいをきいてください)

「いやいや、そうじゃないんです。まあ、落ちついて、儂の説明を聞いて下さい

(わしは、こういうものです。けっして、にじゅうめんそうなんかじゃありません」)

儂は、こういう者です。決して、二十面相なんかじゃありません」

(しんしはそういいながら、いまさらおもいだしたようにぽけっとからめいしいれをだして)

紳士はそう言いながら、今更思い出したようにポケットから名刺入れを出して

(いちまいのめいしをさしだしました。それには「まつしたしょうべえ」とあって、すぎなみくの)

一枚の名刺を差し出しました。それには『松下庄兵衛』とあって、杉並区の

(あるあぱーとのじゅうしょも、いんさつしてあるのです。 「わしは、このとおり)

あるアパートの住所も、印刷してあるのです。 「儂は、この通り

(まつしたというもので、すこししょうばいにしっぱいしまして、いまはまあしつぎょうしゃというみのうえ、)

松下という者で、少し商売に失敗しまして、今はまあ失業者という身の上、

(あぱーとずまいのひとりものですがね。きのうのことでした。ひびやこうえんをぶらぶらして)

アパート住まいの独り者ですがね。昨日の事でした。日比谷公園をブラブラして

(ひとりのかいしゃいんふうのおとことしりあいになったのです。そのおとこが、みょうなかねもうけが)

ひとりの会社員風の男と知り合いになったのです。その男が、妙な金儲けが

(あるといって、おしえてくれたのですよ。 つまり、きょう1にち、じどうしゃにのって)

あると言って、教えてくれたのですよ。  つまり、今日一日、自動車に乗って

(そのおとこのいうままに、とうきょうじゅうをのりまわしてくれれば、じどうしゃだいはただのうえに)

その男の言うままに、東京中を乗りまわしてくれれば、自動車代はただの上に

(5せんえんのてあてをだすというのです。うまいはなしじゃありませんか。わしはこんな)

五千円の手当を出すと言うのです。うまい話じゃありませんか。儂はこんな

(みなりはしていますけれど、しつぎょうしゃなんですからね、5せんえんのてあてが)

身なりはしていますけれど、失業者なんですからね、五千円の手当が

(ほしかったですよ。 そのおとこは、これにはすこしじじょうがあるのだといって、)

欲しかったですよ。  その男は、これには少し事情があるのだと言って、

など

(なにかくどくどとはなしかけましたが、わしはそれをおしとどめて、じじょうなんか)

何かクドクドと話し掛けましたが、儂はそれを押しとどめて、事情なんか

(きかなくてもいいからといって、さっそくしょうちしてしまったのです。)

聞かなくてもいいからと言って、早速承知してしまったのです。

(そこで、きょうはあさからじどうしゃでほうぼうのりまわしましてな。おひるはてつどうほてるで)

そこで、今日は朝から自動車で方々乗り回しましてな。お昼は鉄道ホテルで

(しょくじをしろという、ありがたいいいつけなんです。たらふくごちそうになって、)

食事をしろという、有り難い言い付けなんです。たらふく御馳走になって、

(ここでしばらくまっていてくれというものだから、ほてるのまえにじどうしゃをとめて、)

ここで暫く待っていてくれというものだから、ホテルの前に自動車を停めて、

(そのなかにこしかけてまっていたのですが、30ふんもしたかとおもうころ、ひとりのおとこが)

その中に腰掛けて待っていたのですが、三十分もしたかと思う頃、一人の男が

(てつどうほてるからでてきて、わしのくるまをあけて、なかへはいってくるのです。)

鉄道ホテルから出てきて、儂の車を開けて、中へ入って来るのです。

(わしはそのおとこをひとめみて、びっくりしました。きがちがったのじゃないかと)

儂はその男を一目見て、吃驚しました。気が違ったのじゃないかと

(おもったくらいです。なぜといって、そのわしのくるまへはいってきたおとこは、かおから、)

思ったくらいです。何故と言って、その儂の車へ入って来た男は、顔から、

(せびろから、がいとうからすてっきまで、このわしといちぶいちりんもちがわないほど、)

背広から、外套からステッキまで、この儂と一分一厘も違わない程、

(そっくりそのままだったからです。まるでわしがかがみにうつっているような、)

そっくりそのままだったからです。まるで儂が鏡に映っているような、

(へんてこなきもちでした。 あっけにとられてみていますとね、)

へんてこな気持でした。  呆気に取られて見ていますとね、

(ますますみょうじゃありませんか。そのおとこは、わしのくるまへはいってきたかとおもうと、)

ますます妙じゃありませんか。その男は、儂の車へ入って来たかと思うと、

(こんどははんたいがわのどあをあけて、そとへでていってしまったのです。)

今度は反対側のドアを開けて、外へ出て行ってしまったのです。

(つまり、そのわしとそっくりのしんしは、じどうしゃのきゃくせきをとおりすぎただけなんです)

つまり、その儂とそっくりの紳士は、自動車の客席を通り過ぎただけなんです

(そのとき、そのおとこは、わしのまえをとおりすぎながら、みょうなことをいいました。)

その時、その男は、儂の前を通り過ぎながら、妙な事を言いました。

(「さあ、すぐにしゅっぱつしてください。どこでもかまいません。ぜんそくりょくではしるのですよ」)

『さあ、すぐに出発して下さい。何処でも構いません。全速力で走るのですよ』

(こんなことをいいのこして、そのまま、ごぞんじでしょう、あのてつどうほてるの)

こんな事を言い残して、そのまま、ご存じでしょう、あの鉄道ホテルの

(まえにある、ちかしつのりはつてんのいりぐちへ、すっとすがたをかくしてしまいました。)

前にある、地下室の理髪店の入り口へ、スッと姿を隠してしまいました。

(わしのじどうしゃは、ちょうどそのちかしつのいりぐちのまえにとまっていたのですよ。)

儂の自動車は、ちょうどその地下室の入り口の前に停まっていたのですよ。

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