吸血鬼6
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | kuma | 4928 | B | 5.3 | 93.0% | 1116.2 | 5948 | 447 | 82 | 2024/10/26 |
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問題文
(みたにとしずこが、やどのものをよびにはしったのはもうすまでもない。それからおこった、)
三谷と倭文子が、宿の者を呼びに走ったのは申すまでもない。それから起った、
(どざえもんさわぎのしょうさいをしるすひつようはない。けいさつはもちろんさいばんしょからもひとがきた。)
土左衛門騒ぎの詳細を記す必要はない。警察は勿論裁判所からも人が来た。
(さわぎはしおのゆばかりでなく、しおばらぜんたいにひろがり、にさんにちというもの、)
騒ぎは鹽の湯ばかりでなく、鹽原全体に拡がり、二三日というもの、
(よるとさわるとそのうわさであった。すいしにんは、かおはくずれていても、ねんぱい、たいかく、)
よると触るとその噂であった。水死人は、顔はくずれていても、年配、体格、
(ちゃくい、もちものなどから、おかだみちひこにそういないことがたしかめられた。とりしらべのけっか)
着衣、持物等から、岡田道彦に相違ないことが確かめられた。取調べの結果
(にゅうすいじさつであることもはんめいした。かわかみにはいくつもなだかいたきがある。おかだは)
入水自殺であることも判明した。川上には幾つも名高い滝がある。岡田は
(そのどれかのたきつぼへとびこんで、じさつをとげたのだ。いしのすいていでは、)
そのどれかの滝壺へ飛込んで、自殺をとげたのだ。医師の推定では、
(しごとおかいじょうというのだから、おそらく、かれがとうきょうへいくといってやどをでた)
死語十日以上というのだから、恐らく、彼が東京へ行くといって宿を出た
(そのひに、みなげをしたのが、たきつぼにしずんでいて、あめつづきのぞうすいのために、)
その日に、見投げをしたのが、滝壺に沈んでいて、雨続きの増水の為に、
(やっとそのひ、やどのうらまでながれついたものであろう。じさつのげんいんについては、)
やっとその日、宿の裏まで流れついたものであろう。自殺の原因については、
(けっきょくはっきりしたことはわからぬままにすんでしまった。しつれんらしいといううわさは)
結局ハッキリしたことは分らぬままに済んでしまった。失恋らしいという噂は
(たった。そのあいてはやなぎしずこであろうというものもあった。だが、だれも)
立った。その相手は柳倭文子であろうという者もあった。だが、誰も
(ほんとうのことはしらなかった。しっているのはとうのしずことみたにせいねんばかりだ。)
本当のことは知らなかった。知っているのは当の倭文子と三谷青年ばかりだ。
(おかだはしおばらへきてはじめてしずこをしったのではないらしい。かれのこいは)
岡田は鹽原へ来て初めて倭文子を知ったのではないらしい。彼の恋は
(もっともっとねづよくふかいものであった。おんせんへきたのも、とうじではなくて、)
もっともっと根強く深いものであった。温泉へ来たのも、湯治ではなくて、
(ただしずこにせっきんしたさであったかもしれない。かれがどんなになやんでいたかは、)
ただ倭文子に接近したさであったかも知れない。彼がどんなに悩んでいたかは、
(あのきづかいめいたどくやくけっとうをていあんしたのでもわかるのだ。おもいがふかく、)
あの気遣いめいた毒薬決闘を提案したのでも分るのだ。思いが深く、
(なやみがひどかっただけに、ぜつぼうがかれをはんきょうらんにしたのはむりではない。)
悩みがひどかった丈けに、絶望が彼を半狂乱にしたのは無理ではない。
(だが、かれはたんとうをふところにしながら、それをしようするゆうきはなかった。)
だが、彼は短刀をふところにしながら、それを使用する勇気はなかった。
(けっきょくじゃくしゃのみちをえらんで、じぶんじしんをほろぼすほかに、なんのてだてもなかったのだ。)
結局弱者の道を選んで、自分自身を亡ぼす外に、何の手だてもなかったのだ。
(すいしにんさわぎのよくじつ、みたにせいねんとやなぎしずことは、このいまわしいとちをあとにして)
水死人騒ぎの翌日、三谷青年と柳倭文子とは、このいまわしい土地をあとにして
(とうきょうへときしゃにのった。かれらはすこしもしらなかったけれど、おなじれっしゃのべつのはこに)
東京へと汽車に乗った。彼等は少しも知らなかったけれど、同じ列車の別の箱に
(あいとんびのえりをたて、とりうちぼうをまぶかに、くろめがねとますくでかおをかくしたろうじんが)
合トンビの襟を立て、鳥打帽をまぶかに、黒眼鏡とマスクで顔を隠した老人が
(のりあわせていた。くちびるのないおとこ!ひるたれいぞうだ。ああこのかいじんぶつは、みたにとしずこに)
乗合わせていた。唇のない男!蛭田嶺蔵だ。アアこの怪人物は、三谷と倭文子に
(たいして、そもそもいかなるいんねんをもっていたのであろうか。さてどくしゃしょくん、いじょうは)
対して、抑そも如何なる因縁を持っていたのであろうか。さて読者諸君、以上は
(ものがたりのいわばぷろろーぐである。これからぶたいはとうきょうにうつる。そしてほかにも)
物語の謂わばプロローグである。これから舞台は東京に移る。そして他にも
(きかいなるはんざいじけんのまくが、いよいよひらかれることになるのだ。)
奇怪なる犯罪事件の幕が、愈々開かれることになるのだ。
(しげるしょうねん)
茂少年
(みたにとしずこは、とうきょうへかえってからも、みっかにいちどは、ばしょをうちあわせておいて)
三谷と倭文子は、東京へ帰ってからも、三日に一度は、場所を打合わせて置いて
(たのしいおうせをつづけていた。みたにのほうは、がっこうをでてまだつとめぐちもきまらず、)
楽しい逢う瀬を続けていた。三谷の方は、学校を出てまだ勤め口も極まらず、
(おやのしおくりでくらしているげしゅくずまいであったし、しずこのほうはなにかうちあけにくい)
親の仕送りで暮している下宿住まいであったし、倭文子の方は何か打あけにくい
(じじょうがあるらしく、じゅうしょさえあいまいにしているので、おたがいにたずねあうことは)
事情があるらしく、住所さえ曖昧にしているので、お互に訪ね合うことは
(さしひかえた。だが、ふたりのじょうねつは、ときがたつにしたがって、おとろえるところか、いよいよ)
さし控えた。だが、二人の情熱は、時がたつに従って、衰えるところか、愈々
(こまやかになっていったので、そうしたあいまいなじょうたいを、いつまでもつづけることは)
濃かになって行ったので、そうした曖昧な状態を、いつまでも続けることは
(できなかった。しずこさん、ぼくはもうつみびとのようなみっかいにたえられなくなった。)
出来なかった。「倭文子さん、僕はもう罪人の様な密会に堪えられなくなった。
(きみのきょうぐうをはっきりさせてください。れいのはたやなぎみぼうじんというのは、いったい)
君の境遇をハッキリさせて下さい。例の畑柳未亡人というのは、一体
(なんのことです みたにはあるひ、しおばらいらいいくどもくりかえしたしつもんを、)
何のことです」三谷はある日、鹽原以来幾度も繰返した質問を、
(きょうこそはといういきごみでもちだした。はたやなぎみぼうじん というのは、しんだ)
今日こそはという意気込みで持出した。「畑柳未亡人」というのは、死んだ
(おかだみちひこが、ふとくちをすべらした、しずこのもうひとつのなまえなのだ。あたし、)
岡田道彦が、ふと口を辷らした、倭文子のもう一つの名前なのだ。「あたし、
(どうしてこんなにおくびょうなのでしょう。きっと、あなたにみすてられるのが、)
どうしてこんなに臆病なのでしょう。きっと、あなたに見捨てられるのが、
(こわいからだわ しずこはじょうだんらしくわらってみせたが、どこかなみだぐんでいるような)
怖いからだわ」倭文子は冗談らしく笑って見せたが、どこか涙ぐんでいる様な
(ちょうしであった。きみのぜんしんがなにであろうと、そんなことで、ぼくのきもちは)
調子であった。「君の前身が何であろうと、そんなことで、僕の気持は
(かわりやしない。それよりも、いまのじょうたいでは、ぼくはきみのおもちゃにされているような)
変りやしない。それよりも、今の状態では、僕は君のおもちゃにされている様な
(きがするのだ まあ しずこはかなしいためいきをついて、しばらくおしだまっていたが、)
気がするのだ」「マア」倭文子は哀しい溜息をついて、暫く押し黙っていたが、
(とつぜん、みょうなやけくそみたいなちょうしになって、ぶっきらぼうにいった。あたし、)
突然、妙なやけくそみたいな調子になって、ぶっきら棒にいった。「あたし、
(みぼうじんなのよ そんなことは、とっくにそうぞうしている それから)
未亡人なのよ」「そんなことは、とっくに想像している」「それから
(ひゃくまんちょうじゃなのよ ・・・・・・ それから、むっつになるこどもがあるのよ)
百万長者なのよ」「・・・・・・」「それから、六つになる子供があるのよ」
(・・・・・・ ほらね、いやあなきもちになったでしょう みたにせいねんは、)
「・・・・・・」「ホラね、いやあな気持になったでしょう」三谷青年は、
(なにをいっていいのかわからないようすで、だまりこんでいた。あたし、みんな)
何をいっていいのかわからない様子で、黙り込んでいた。「あたし、みんな
(いってしまいますわ。きいてくださる。ああ、いっそのこと、いまからすぐ、)
いってしまいますわ。聞いてくださる。アア、いっそのこと、今からすぐ、
(あたしのうちへいらっしゃらない?それがいいわ、それがいいわ しずこは、)
あたしのうちへいらっしゃらない?それがいいわ、それがいいわ」倭文子は、
(いようなこうふんにじょうきしたほおを、ながれるなみだもいしきしないで、ふらふらとたちあがると、)
異様な昴奮に上気した頬を、流れる涙も意識しないで、フラフラと立上がると、
(せいねんのいこうをたしかめもせず、いきなりはしらのべるをおした。まもなく、ふたりは)
青年の意向を確かめもせず、いきなり柱の呼鈴を押した。間もなく、二人は
(なにがなんだかわからない、きづかいめいたきもちで、じどうしゃのくっしょんにひざを)
何が何だか分らない、気遣いめいた気持で、自動車のクッションに膝を
(ならべていた。みたには そんなことで、ぼくのこころがかわるもんですか と)
並べていた。三谷は「そんなことで、僕の心が変るもんですか」と
(いわぬばかりに、じっとしずこのてをにぎりしめていた。ふたりともひとこともくちを)
いわぬばかりに、じっと倭文子の手を握りしめていた。二人とも一言も口を
(きかなかった。だが、あたまのなかでは、さくざつしたそうねんのあらべすくが、かざぐるまのように)
効かなかった。だが、頭の中では、錯雑した想念のアラベスクが、風車の様に
(かいてんしていた。さんじゅっぷんていどで、くるまはもくてきちにとうちゃくした。おりたったふたりのまえに、)
廻転していた。三十分程度で、車は目的地に到着した。降り立った二人の前に、
(ひろいいしだたみと、みかげいしのもんばしらと、しめきったすかしもようのてつとびらと、うちつづく)
広い石畳と、御影石の門柱と、締め切った透かし模様の鉄扉と、打続く
(こんくりーとべいがあった。もんばしらのひょうさつには、あんのじょう はたやなぎ としるされていた。)
コンクリート塀があった。門柱の表札には、案の定「畑柳」と記されていた。
(とおされたのは、おちついた、しかしひじょうにぜいたくなかざりつけの、ひろいようふうきゃくま)
通されたのは、落ついた、併し非常に贅沢な飾りつけの、広い洋風客間
(であった。おおきなひじかけいすのかけごこちはわるくなかった。みたにのいすのまむこうに、)
であった。大きな肘掛椅子の掛け心地は悪くなかった。三谷の椅子の真向うに、
(ふかぶかとしたながいすがあって、はでなもようのびろーどくっしょんをせに、まるいひじかけへ)
深々とした長椅子があって、派手な模様の天鵞絨クッションを背に、丸い肘掛へ
(ぐったりともたれかかったしずこの、におわしきすがたがあった。しずこのひざに)
グッタリと凭れかかった倭文子の、匂わしき姿があった。倭文子の膝に
(ひじをついて、ながいすのうえにあしをなげだしている、かわいらしいようそうのしょうねんは、)
肘をついて、長椅子の上に足をなげ出している、可愛らしい洋装の少年は、
(はたやなぎしのわすれがたみ、しずこのじっしのしげるちゃんだ。くすんだかわのながいすのもたれを)
畑柳氏の忘れ形見、倭文子の実子の茂ちゃんだ。くすんだ皮の長椅子の凭れを
(ばっくにして、しずこのしろいかお、はでなくっしょん、しげるしょうねんのりんごのように)
バックにして、倭文子の白い顔、派手なクッション、茂少年の林檎の様に
(あかいほお。ははとこ とだいする、うつくしいえのようにながめられた。みたにはふたりからめを)
赤い頬。「母と子」と題する、美しい絵の様に眺められた。三谷は二人から目を
(あげて、かれらのずじょうのかべにかかっている、ひきのばししゃしんのがくをみた。なんとなく)
上げて、彼等の頭上の壁に懸っている、引伸ばし写真の額を見た。何となく
(にんそうのわるいしじゅうかっこうのおとこだ。しんだはたやなぎですの。こんなものかけておいて、)
人相の悪い四十格好の男だ。「死んだ畑柳ですの。こんなもの懸けて置いて、
(いけませんでしたわね しずこはしんみょうにわびごとをした。それから、しげるちゃんも。)
いけませんでしたわね」倭文子は神妙に詫言をした。「それから、茂ちゃんも。
(このこもはたやなぎとおなじように、あなたには、おめざわりでしょうか いいえ、)
この子も畑柳と同じ様に、あなたには、お目ざわりでしょうか」「イイエ、
(けっして。こんなかわいいしげるちゃんをだれがきらうものですか。それにあなたに)
決して。こんな可愛い茂ちゃんを誰が嫌うものですか。それにあなたに
(いきうつしなんだもの。しげるちゃんのほうでも、おじさんすきでしょう。)
生写しなんだもの。茂ちゃんの方でも、小父さん好きでしょう。
(ね、そうでしょう そういって、みたにがしょうねんのてをとると、しげるはにっこりわらって)
ね、そうでしょう」そういって、三谷が少年の手を取ると、茂はニッコリ笑って
(うなずいてみせた。まどのそとには、ここのにわにもこうようはいろづいていたし、ときわぎの)
肯いて見せた。窓の外には、ここの庭にも紅葉は色づいていたし、常磐木の
(しげみに、うらうらとあたたかいひざしがてりはえて、ほのじろく、うらがなしく、)
茂みに、うらうらと暖かい日ざしが照りはえて、ほの白く、うら悲しく、
(ゆめみごこちのひとときであった。しずこは、しげるしょうねんのほおをあいぶしながら、とつぜん、)
夢見心地の一ときであった。倭文子は、茂少年の頬を愛撫しながら、突然、
(かのじょのみのうえばなしをしはじめたが、しゅういのじょうけいがそんなふうであったから、それさえも)
彼女の身の上話をし始めたが、周囲の情景がそんな風であったから、それさえも
(なにかしら、あやしきものがたりめいてきこえたのである。だが、かのじょのみのうえばなしを、)
何かしら、妖しき物語めいて聞こえたのである。だが、彼女の身の上話を、
(そのままここにうつすのは、あまりにたいくつなことだから、このものがたりに)
そのままここに写すのは、余りに退屈なことだから、この物語に
(かんけいあるぶぶんだけを、ごくかいつまんで、しるしておくにとどめよう。)
関係ある部分丈けを、極かいつまんで、記して置くに止めよう。